-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第三十五章

 

 

 

-天照-

 

 

 

-風の輪廻-

 

 

 

「……興味深い。」

 

ユリとブリトーが消えた空間を見つめながら、

 

マゼンタは小さく呟いた。

 

「…他のことを考えている場合?」

 

ウインナーの声だった。

 

「ん?」

 

マゼンタが振り返る。

 

その瞬間。

 

周囲を優しい風が包み込んだ。

 

 

「風のシンフォニー・第三番。」

 

「風の輪廻。」

 

 

「何っ──」

 

 

マゼンタの身体が強制的に回転する。

 

同時に、無数の風の刃が全身を刻み始めた。

 

「ぐっ……!」

 

視界が回る。

 

平衡感覚が狂う。

 

切り傷が全身に増えていく。

 

「これは……再生が手間だな。」

 

ウインナーは静かに息を整える。

 

「風は怒ってる。」

 

「君みたいな人を!!」

 

その隙にダイフクーが飛び込んだ。

 

「伸伸弾!!」

 

伸びた拳が研究施設の装置を叩き壊す。

 

バキバキと音を立て、

 

怪しげなセンサーが砕け散った。

 

シャーベットも結晶へ向かう。

 

「これがお前の力の正体だな。」

 

「壊させてもらう。」

 

拳で叩き割る。

 

 

パリン。

 

 

青白い結晶が砕けた。

 

しかし。

 

マゼンタは笑っていた。

 

「だからどうした?」

 

「頼みの綱は抜け殻だぞ。」

 

その視線の先。

 

戦意を失い、膝をつくレイカ。

 

ドロップは歯を食いしばる。

 

「レイカ!!!」

 

声が届かない。

 

「っ……!」

 

「さっさと目を覚ましなさいよ!!」

 

 

パシッ!!

 

 

乾いた音が響いた。

 

レイカの顔が横を向く。

 

「……つっ。」

 

ドロップの瞳から涙が溢れていた。

 

「ユリさんはブリトーが治療してくれてるはず!!」

 

「守ってもらったものを無駄にしないで!!」

 

「いつまで下向いてるのよ!!」

 

「みんながいるでしょう!?」

 

「……。」

 

レイカは目を閉じる。

 

震える右手で煙草を取り出す。

 

火をつける。

 

「……。」

 

煙を吐く。

 

 

「…すまん。」

 

「…目が覚めた。」

 

「ずっと同じことの繰り返しだな。」

 

「俺は。」

 

 

ゆっくり立ち上がる。

 

 

「……後は、任せてくれ。」

 

 

マゼンタが笑う。

 

「口だけは立派だ──」

 

「ぁ?」

 

一瞬。

 

右腕が消えた。

 

遅れて、無数の斬撃が走る。

 

血が噴き出す。

 

「ぐぁあああ!?」

 

レイカは既に背後にいた。

 

「甘く見すぎだ。」

 

「お前のせいで強くなりすぎた。」

 

「むしろ抑えて生きないといけなかった。」

 

「そんな経験の賜物だ。」

 

 

「……後悔するなよ。」

 

 

「こんなの未来予測と違──」

 

さらに左脚が細切れになる。

 

「ぐっ……!?」

 

レイカは静かに言った。

 

「お前の面も。」

 

「声も二度と聞きたくない。」

 

「飲み込まれる前に……。」

 

「終わらせる。」

 

 

最後のピアスを外した。

 

 

 

 

 

 

-奥義-

 

 

 

深呼吸。

 

静寂。

 

刀を鞘へ収める。

 

 

「我流・炎飛流。」

 

 

「奥義。」

 

 

その瞬間。

 

青い炎が変わる。

 

白。

 

まるで月明かりのような優しい炎。

 

誰も息を呑んだ。

 

ウインナー。

 

ドロップ。

 

ダイフクー。

 

シャーベット。

 

全員がその光に見惚れる。

 

 

 

「天照。」

 

 

 

抜刀。

 

誰も見えなかった。

 

白い円。

 

ただ、それだけだった。

 

「……綺麗。」

 

その言葉を口にしたのは。

 

遠く離れた花畑で意識が薄れるユリだった。

 

刹那。

 

マゼンタの身体が灰へ変わる。

 

炎が燃え上がるより早く。

 

未来予測。

 

研究。

 

数百年。

 

全て。

 

灰になっていく。

 

 

「馬鹿な……。」

 

「こんなの……。」

 

「未来予測と……違──」

 

 

言葉は最後まで続かなかった。

 

 

 

マゼンタは塵となって消えた。

 

白い炎だけが静かに揺れている。

 

レイカは刀を納める。

 

「……終わった。」

 

「ユリの……ところへ……。」

 

膝から崩れ落ちた。

 

 

 

-外の光-

 

 

 

「レイカ!!」

 

ウインナーが駆け寄る。

 

「起きて!」

 

ドロップが脈を確かめる。

 

「生きてる!」

 

「呼吸もある!」

 

ダイフクーが辺りを見回す。

 

「出口を探すぞ!」

 

「こんなところ潰れる前に出る!」

 

シャーベットが壁を調べる。

 

「ここだ。」

 

「空気が流れている。」

 

ダイフクーが拳を握る。

 

「どけ!」

 

「うおおおお!!」

 

岩壁を砕く。

 

光。

 

外の光が差し込んだ。

 

「出口だ!!」

 

全員で外へ飛び出す。

 

青空。

 

風。

 

花畑。

 

新鮮な空気。

 

その光で、レイカが目を開いた。

 

 

「……外か。」

 

 

「ユリは!?」

 

 

ウインナーは苦しそうな顔をした。

 

「分からない。」

 

「急ごう。」

 

「風よ、お願い。」

 

優しい風が全員を包み込む。

 

 

 

花畑を越え。

 

ガレットの家へ。

 

そこには。

 

ベッドの上で眠るユリ。

 

必死に治療を続けるブリトー。

 

自然の力を使うガレット。

 

二人の姿があった。

 

「間に合え……!」

 

「頼む……!」

 

「死ぬな!!」

 

レイカはふらつきながら近づく。

 

「……ユリ。」

 

返事はない。

 

小さな手を握る。

 

冷たい。

 

「おい。」

 

「起きろ。」

 

「帰ってこい。」

 

「まだ、一緒に見る景色がある。」

 

「約束しただろ。」

 

「お前を置いてはいかないって。」

 

「俺は……。」

 

「まだ何も返してない。」

 

震える声。

 

「ユリ……。」

 

 

 

月明かりが差し込む花畑の家。

 

静かな風が吹き抜ける。

 

長い戦いは終わった。

 

しかし。

 

まだ。

 

大切な人の戦いは終わっていなかった──。

 

 

 

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