-天照-
-風の輪廻-
「……興味深い。」
ユリとブリトーが消えた空間を見つめながら、
マゼンタは小さく呟いた。
「…他のことを考えている場合?」
ウインナーの声だった。
「ん?」
マゼンタが振り返る。
その瞬間。
周囲を優しい風が包み込んだ。
「風のシンフォニー・第三番。」
「風の輪廻。」
「何っ──」
マゼンタの身体が強制的に回転する。
同時に、無数の風の刃が全身を刻み始めた。
「ぐっ……!」
視界が回る。
平衡感覚が狂う。
切り傷が全身に増えていく。
「これは……再生が手間だな。」
ウインナーは静かに息を整える。
「風は怒ってる。」
「君みたいな人を!!」
その隙にダイフクーが飛び込んだ。
「伸伸弾!!」
伸びた拳が研究施設の装置を叩き壊す。
バキバキと音を立て、
怪しげなセンサーが砕け散った。
シャーベットも結晶へ向かう。
「これがお前の力の正体だな。」
「壊させてもらう。」
拳で叩き割る。
パリン。
青白い結晶が砕けた。
しかし。
マゼンタは笑っていた。
「だからどうした?」
「頼みの綱は抜け殻だぞ。」
その視線の先。
戦意を失い、膝をつくレイカ。
ドロップは歯を食いしばる。
「レイカ!!!」
声が届かない。
「っ……!」
「さっさと目を覚ましなさいよ!!」
パシッ!!
乾いた音が響いた。
レイカの顔が横を向く。
「……つっ。」
ドロップの瞳から涙が溢れていた。
「ユリさんはブリトーが治療してくれてるはず!!」
「守ってもらったものを無駄にしないで!!」
「いつまで下向いてるのよ!!」
「みんながいるでしょう!?」
「……。」
レイカは目を閉じる。
震える右手で煙草を取り出す。
火をつける。
「……。」
煙を吐く。
「…すまん。」
「…目が覚めた。」
「ずっと同じことの繰り返しだな。」
「俺は。」
ゆっくり立ち上がる。
「……後は、任せてくれ。」
マゼンタが笑う。
「口だけは立派だ──」
「ぁ?」
一瞬。
右腕が消えた。
遅れて、無数の斬撃が走る。
血が噴き出す。
「ぐぁあああ!?」
レイカは既に背後にいた。
「甘く見すぎだ。」
「お前のせいで強くなりすぎた。」
「むしろ抑えて生きないといけなかった。」
「そんな経験の賜物だ。」
「……後悔するなよ。」
「こんなの未来予測と違──」
さらに左脚が細切れになる。
「ぐっ……!?」
レイカは静かに言った。
「お前の面も。」
「声も二度と聞きたくない。」
「飲み込まれる前に……。」
「終わらせる。」
最後のピアスを外した。
-奥義-
深呼吸。
静寂。
刀を鞘へ収める。
「我流・炎飛流。」
「奥義。」
その瞬間。
青い炎が変わる。
白。
まるで月明かりのような優しい炎。
誰も息を呑んだ。
ウインナー。
ドロップ。
ダイフクー。
シャーベット。
全員がその光に見惚れる。
「天照。」
抜刀。
誰も見えなかった。
白い円。
ただ、それだけだった。
「……綺麗。」
その言葉を口にしたのは。
遠く離れた花畑で意識が薄れるユリだった。
刹那。
マゼンタの身体が灰へ変わる。
炎が燃え上がるより早く。
未来予測。
研究。
数百年。
全て。
灰になっていく。
「馬鹿な……。」
「こんなの……。」
「未来予測と……違──」
言葉は最後まで続かなかった。
マゼンタは塵となって消えた。
白い炎だけが静かに揺れている。
レイカは刀を納める。
「……終わった。」
「ユリの……ところへ……。」
膝から崩れ落ちた。
-外の光-
「レイカ!!」
ウインナーが駆け寄る。
「起きて!」
ドロップが脈を確かめる。
「生きてる!」
「呼吸もある!」
ダイフクーが辺りを見回す。
「出口を探すぞ!」
「こんなところ潰れる前に出る!」
シャーベットが壁を調べる。
「ここだ。」
「空気が流れている。」
ダイフクーが拳を握る。
「どけ!」
「うおおおお!!」
岩壁を砕く。
光。
外の光が差し込んだ。
「出口だ!!」
全員で外へ飛び出す。
青空。
風。
花畑。
新鮮な空気。
その光で、レイカが目を開いた。
「……外か。」
「ユリは!?」
ウインナーは苦しそうな顔をした。
「分からない。」
「急ごう。」
「風よ、お願い。」
優しい風が全員を包み込む。
花畑を越え。
ガレットの家へ。
そこには。
ベッドの上で眠るユリ。
必死に治療を続けるブリトー。
自然の力を使うガレット。
二人の姿があった。
「間に合え……!」
「頼む……!」
「死ぬな!!」
レイカはふらつきながら近づく。
「……ユリ。」
返事はない。
小さな手を握る。
冷たい。
「おい。」
「起きろ。」
「帰ってこい。」
「まだ、一緒に見る景色がある。」
「約束しただろ。」
「お前を置いてはいかないって。」
「俺は……。」
「まだ何も返してない。」
震える声。
「ユリ……。」
月明かりが差し込む花畑の家。
静かな風が吹き抜ける。
長い戦いは終わった。
しかし。
まだ。
大切な人の戦いは終わっていなかった──。