-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第三十六章

 

 

 

-花畑の休息-

 

 

 

-帰ってきた場所-

 

 

 

花畑を優しい風が揺らしていた。

 

ガレットの家。

 

窓から差し込む朝日。

 

部屋の中では、

 

ブリトーが椅子に座ったまま眠っていた。

 

腕輪はまだ淡く光り、

 

水がゆっくりとユリの身体を包んでいる。

 

ガレットも机に突っ伏したまま眠っていた。

 

その傍ら。

 

 

レイカは壁にもたれたまま、

 

ずっとユリを見守っていた。

 

「……。」

 

一睡もしていない。

 

そんな時だった。

 

ぴくっ。

 

小さく指先が動く。

 

レイカの目が見開かれた。

 

「……ユリ?」

 

ゆっくり。

 

青い瞳が開く。

 

ぼんやりとした視線が、レイカを捉える。

 

水が静かに消えていく。

 

「あれ…?レイカ…?」

 

「……心配、かけたね。」

 

その瞬間。

 

「……っ。」

 

レイカの肩から力が抜けた。

 

「……よかった。」

 

それだけだった。

 

その声に反応して、ブリトーが飛び起きる。

 

「ユリ!?」

 

ガレットも椅子から落ちそうになりながら目を覚ました。

 

「えっ!?」

 

「目覚めたの!?」

 

ユリは少し困ったように笑う。

 

「一応、傷口を凍らせてたから。」

 

「血はそんなに出てないと思ってた。」

 

「伝える間もなく気を失っちゃったけど。」

 

「ごめんね。」

 

そこへ。

 

ウインナー達も慌てて部屋へ入ってくる。

 

「ユリさん!」

 

「よかったー!!」

 

「心配したぞ!」

 

「無事で何よりだ。」

 

みんなの顔を見回しながら、ユリは優しく微笑んだ。

 

「一瞬、とても綺麗な光景が見えたの。」

 

「それを見て、起きなきゃって思った。」

 

「そうしたら、みんないて。」

 

「安心した。」

 

レイカは小さく俯く。

 

「……ユリ。」

 

「本当にすまない。」

 

ユリは苦笑する。

 

「もう。」

 

「あなたもボロボロなんだから。」

 

「まずは休みましょう?」

 

「ね?」

 

レイカは静かに頷いた。

 

「……ああ。」

 

その返事に、全員が笑顔になった。

 

長い戦いは終わった。

 

みんな、生きて帰ってきた。

 

それだけで十分だった。

 

 

 

-ネモフィラの風-

 

 

 

数日後。

 

ダイフクーとブリトーは、

 

療養中のレイカとユリの部屋を、

 

何度も覗きに行っていた。

 

「まだ寝てるか。」

 

「いつもは険しい顔しているレイカも。」

 

「寝顔は平和だな。」

 

「そうだな。」

 

ブリトーは少し安心したように笑った。

 

「やっと安心できる。」

 

 

シャーベットは遺跡から持ち帰った資料を広げていた。

 

「……面白い。」

 

「まだ解析できていない文字がある。」

 

「古代文明は奥が深いな。」

 

「……加護の神は複数いた?」

 

「謎が深まるばかりだ。」

 

「俺にも氷の加護の声が。」

 

「聞こえるのだろうか……。」

 

 

そして。

 

ウインナーとドロップは、

 

ネモフィラ畑をゆっくり歩いていた。

 

青い花が風に揺れる。

 

「やーっと、少しのんびり出来るわね。」

 

ドロップが伸びをする。

 

「ずっとバタバタしてたからね。」

 

ウインナーも微笑む。

 

「……みんな無事で良かった。」

 

「うん。」

 

「本当に。」

 

少し沈黙。

 

ウインナーが空を見上げる。

 

「……レイカに早く辿り着きたい。」

 

「そうしたら、僕が守ってあげれるから。」

 

ドロップは優しく笑った。

 

「そうね。」

 

「ユリさんも、私が守りたいもの。」

 

「二人とも、余計なお世話だって言いそうだけど。」

 

「不老不死だからって、傷は痛くないわけじゃない。」

 

ウインナーも頷く。

 

「二人とも、ずっと無理してきた。」

 

「想像以上の時間を過ごして。」

 

「考えられないくらい傷ついてきた。」

 

「だから。」

 

「今度は僕たちが支える番だ。」

 

ドロップは嬉しそうに笑う。

 

「……私たちも。」

 

「二人の支えの一つにならないとね。」

 

「うん。」

 

「…お花摘んでいこうか。」

 

「二人のいる部屋へ飾ってあげよう。」

 

「賛成!」

 

優しい風が吹く。

 

ネモフィラが静かに揺れていた。

 

 

 

-木の上の詩人-

 

 

 

夜。

 

木の上。

 

月明かり。

 

「目が覚めたんだね。」

 

レイカが振り返る。

 

「おかげさまで休めた。」

 

「恩に着る。」

 

そこにはガレット。

 

「ふふ。」

 

「元気そうで良かった。」

 

「身体はまだ傷だらけだけどね。」

 

「精神面は回復したのかな?」

 

「お前には。」

 

「なんでも読まれてそうだ。」

 

「……最初の君はもっと怖かったよ。」

 

「今は優しい顔してる。」

 

レイカは煙草を咥える。

 

「そうか?」

 

「うん。」

 

「そばに居る理由を見つけたのかな?」

 

「……詩人らしいな。」

 

ガレットは笑った。

 

「褒め言葉?」

 

「好きに取れ。」

 

「ふふ。」

 

静かな夜風が吹く。

 

「生きてるって不思議だ。」

 

「また会える。」

 

「そう思えるだけで嬉しい。」

 

レイカは空を見上げた。

 

「……そうだな。」

 

 

 

-月明かり-

 

 

 

夜更け。

 

花畑の中。

 

「寒いね。」

 

「……ああ。」

 

レイカとユリが並んで座る。

 

「……ユリの故郷のこと。」

 

「本当にすまない。」

 

立ち止まり、頭を下げる。

 

ユリは首を横に振る。

 

「過去は過去。」

 

「私が好きになったのは今のレイカ。」

 

「昔じゃない。」

 

「だから。」

 

「これから一緒に生きること。」

 

「それが償い。」

 

「……。」

 

「本当に強いな。」

 

「誰の恋人だと思ってるの?」

 

「……俺の。」

 

「正解。」

 

二人は優しく口づけを交わす。

 

 

「帰るか。」

 

「うん。」

 

 

静かな風が2人の背中を見送る。

 

先に歩くレイカの後ろ姿を見て、

 

ユリは聞こえないように囁く。

 

 

「……強がりな私を許してね。」

 

 

(……この気持ちは鍵をかける。)

 

(そうしたら、彼のそばにずっと居れるから。)

 

(……私の本当の旅の理由はーー。)

 

 

 

-お兄ちゃん-

 

 

 

翌朝。

 

「……ん。」

 

小さな声。

 

全員が振り向く。

 

ベッドの上。

 

あの少年が目を覚ましていた。

 

「お。目が覚めたか?」

 

「大丈夫?」

 

黒髪のポニーテール。

 

まだ眠そうな瞳。

 

不思議そうに周囲を見回す。

 

そして。

 

一人の人物を見つけた。

 

「……?」

 

藍色の瞳。

 

黒髪。

 

どこか自分と似た顔。

 

レイカ。

 

少年は嬉しそうに微笑んだ。

 

「お兄ちゃん?」

 

全員が固まる。

 

「……は?」

 

珍しく目を丸くするレイカ。

 

思わず、吸う前の煙草を落とす。

 

ダイフクーは吹き出す。

 

「ぶはっ!」

 

ウインナーも笑いを堪える。

 

ドロップは頬を押さえる。

 

「可愛い……!」

 

ユリもクスッと笑う。

 

そして。

 

当のレイカだけが。

 

「……俺が?」

 

と、本気で困っていた。

 

穏やかな笑い声が花畑に広がる。

 

長い戦いの後。

 

ようやく訪れた平和。

 

しかし。

 

新しい家族のような存在と共に、

 

また新たな物語が始まろうとしていた──。

 

 

 

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