-花畑の休息-
-帰ってきた場所-
花畑を優しい風が揺らしていた。
ガレットの家。
窓から差し込む朝日。
部屋の中では、
ブリトーが椅子に座ったまま眠っていた。
腕輪はまだ淡く光り、
水がゆっくりとユリの身体を包んでいる。
ガレットも机に突っ伏したまま眠っていた。
その傍ら。
レイカは壁にもたれたまま、
ずっとユリを見守っていた。
「……。」
一睡もしていない。
そんな時だった。
ぴくっ。
小さく指先が動く。
レイカの目が見開かれた。
「……ユリ?」
ゆっくり。
青い瞳が開く。
ぼんやりとした視線が、レイカを捉える。
水が静かに消えていく。
「あれ…?レイカ…?」
「……心配、かけたね。」
その瞬間。
「……っ。」
レイカの肩から力が抜けた。
「……よかった。」
それだけだった。
その声に反応して、ブリトーが飛び起きる。
「ユリ!?」
ガレットも椅子から落ちそうになりながら目を覚ました。
「えっ!?」
「目覚めたの!?」
ユリは少し困ったように笑う。
「一応、傷口を凍らせてたから。」
「血はそんなに出てないと思ってた。」
「伝える間もなく気を失っちゃったけど。」
「ごめんね。」
そこへ。
ウインナー達も慌てて部屋へ入ってくる。
「ユリさん!」
「よかったー!!」
「心配したぞ!」
「無事で何よりだ。」
みんなの顔を見回しながら、ユリは優しく微笑んだ。
「一瞬、とても綺麗な光景が見えたの。」
「それを見て、起きなきゃって思った。」
「そうしたら、みんないて。」
「安心した。」
レイカは小さく俯く。
「……ユリ。」
「本当にすまない。」
ユリは苦笑する。
「もう。」
「あなたもボロボロなんだから。」
「まずは休みましょう?」
「ね?」
レイカは静かに頷いた。
「……ああ。」
その返事に、全員が笑顔になった。
長い戦いは終わった。
みんな、生きて帰ってきた。
それだけで十分だった。
-ネモフィラの風-
数日後。
ダイフクーとブリトーは、
療養中のレイカとユリの部屋を、
何度も覗きに行っていた。
「まだ寝てるか。」
「いつもは険しい顔しているレイカも。」
「寝顔は平和だな。」
「そうだな。」
ブリトーは少し安心したように笑った。
「やっと安心できる。」
シャーベットは遺跡から持ち帰った資料を広げていた。
「……面白い。」
「まだ解析できていない文字がある。」
「古代文明は奥が深いな。」
「……加護の神は複数いた?」
「謎が深まるばかりだ。」
「俺にも氷の加護の声が。」
「聞こえるのだろうか……。」
そして。
ウインナーとドロップは、
ネモフィラ畑をゆっくり歩いていた。
青い花が風に揺れる。
「やーっと、少しのんびり出来るわね。」
ドロップが伸びをする。
「ずっとバタバタしてたからね。」
ウインナーも微笑む。
「……みんな無事で良かった。」
「うん。」
「本当に。」
少し沈黙。
ウインナーが空を見上げる。
「……レイカに早く辿り着きたい。」
「そうしたら、僕が守ってあげれるから。」
ドロップは優しく笑った。
「そうね。」
「ユリさんも、私が守りたいもの。」
「二人とも、余計なお世話だって言いそうだけど。」
「不老不死だからって、傷は痛くないわけじゃない。」
ウインナーも頷く。
「二人とも、ずっと無理してきた。」
「想像以上の時間を過ごして。」
「考えられないくらい傷ついてきた。」
「だから。」
「今度は僕たちが支える番だ。」
ドロップは嬉しそうに笑う。
「……私たちも。」
「二人の支えの一つにならないとね。」
「うん。」
「…お花摘んでいこうか。」
「二人のいる部屋へ飾ってあげよう。」
「賛成!」
優しい風が吹く。
ネモフィラが静かに揺れていた。
-木の上の詩人-
夜。
木の上。
月明かり。
「目が覚めたんだね。」
レイカが振り返る。
「おかげさまで休めた。」
「恩に着る。」
そこにはガレット。
「ふふ。」
「元気そうで良かった。」
「身体はまだ傷だらけだけどね。」
「精神面は回復したのかな?」
「お前には。」
「なんでも読まれてそうだ。」
「……最初の君はもっと怖かったよ。」
「今は優しい顔してる。」
レイカは煙草を咥える。
「そうか?」
「うん。」
「そばに居る理由を見つけたのかな?」
「……詩人らしいな。」
ガレットは笑った。
「褒め言葉?」
「好きに取れ。」
「ふふ。」
静かな夜風が吹く。
「生きてるって不思議だ。」
「また会える。」
「そう思えるだけで嬉しい。」
レイカは空を見上げた。
「……そうだな。」
-月明かり-
夜更け。
花畑の中。
「寒いね。」
「……ああ。」
レイカとユリが並んで座る。
「……ユリの故郷のこと。」
「本当にすまない。」
立ち止まり、頭を下げる。
ユリは首を横に振る。
「過去は過去。」
「私が好きになったのは今のレイカ。」
「昔じゃない。」
「だから。」
「これから一緒に生きること。」
「それが償い。」
「……。」
「本当に強いな。」
「誰の恋人だと思ってるの?」
「……俺の。」
「正解。」
二人は優しく口づけを交わす。
「帰るか。」
「うん。」
静かな風が2人の背中を見送る。
先に歩くレイカの後ろ姿を見て、
ユリは聞こえないように囁く。
「……強がりな私を許してね。」
(……この気持ちは鍵をかける。)
(そうしたら、彼のそばにずっと居れるから。)
(……私の本当の旅の理由はーー。)
-お兄ちゃん-
翌朝。
「……ん。」
小さな声。
全員が振り向く。
ベッドの上。
あの少年が目を覚ましていた。
「お。目が覚めたか?」
「大丈夫?」
黒髪のポニーテール。
まだ眠そうな瞳。
不思議そうに周囲を見回す。
そして。
一人の人物を見つけた。
「……?」
藍色の瞳。
黒髪。
どこか自分と似た顔。
レイカ。
少年は嬉しそうに微笑んだ。
「お兄ちゃん?」
全員が固まる。
「……は?」
珍しく目を丸くするレイカ。
思わず、吸う前の煙草を落とす。
ダイフクーは吹き出す。
「ぶはっ!」
ウインナーも笑いを堪える。
ドロップは頬を押さえる。
「可愛い……!」
ユリもクスッと笑う。
そして。
当のレイカだけが。
「……俺が?」
と、本気で困っていた。
穏やかな笑い声が花畑に広がる。
長い戦いの後。
ようやく訪れた平和。
しかし。
新しい家族のような存在と共に、
また新たな物語が始まろうとしていた──。