―遺跡で眠る風―
朝日が森を照らす。
森の中、二人の修行が始まっていた。
「もう一回だ!」
レイカの声が飛ぶ。
ウインナーは風を纏い、一気に踏み込む。
昨日教わった感覚。
“ここだ”
という瞬間だけ風を背中に乗せる。
その一歩は、昨日よりも明らかに速かった。
レイカは腕を組み、小さく頷く。
「悪くない。が、」
「もっと身体能力を生かせ。」
「お前は身体能力が高い。」
「風はあくまで支えだ。」
ウインナーは息を整えながら笑う。
「…少し分かってきたかも。」
その様子を見ていたドロップが拍手を送る。
「すごい!」
ダイフクーも笑った。
「師匠、厳しいけどちゃんと教えてくれるんだな!」
レイカは煙草をくわえる。
「…ただの気まぐれだ。」
吐き捨てるレイカと裏腹に、
ユリはみんなに伝えた。
「なんだかんだ、面倒見がいいのよ。」
ー昼前ー
気球船は新たな遺跡の近くへ降りた。
崩れた石柱。
苔むした壁。
古代文字が刻まれた巨大な入口。
ウインナーの目が輝く。
「行こう!」
ドロップが苦笑する。
「また遺跡?」
さすがにダイフク―も苦笑する。
「これがまた長いんだよな。」
一行は遺跡へ足を踏み入れた。
薄暗い通路を進み、
やがて巨大な広間へ辿り着く。
その中央。
誰かが倒れていた。
「……人?」
ウインナーが駆け寄る。
淡い水色の髪。
見覚えのある服装。
左手首には、
不思議な腕輪がはめられていた。
ユリが静かに頷く。
「気を失ってるだけ。」
その瞬間。
少年はゆっくり目を開いた。
ぼやけた視界。
天井を見上げ、
突然飛び起きる。
「パル!!」
辺りを見回す。
誰もいない。
焦った表情で立ち上がった。
「みんなは!?」
「パルは!?」
「サラミッドは!?」
「どこだ!!」
パニックになる少年を見て、
ウインナーが前へ出る。
「落ち着いて!」
「…っ!君は!」
その顔を見た少年は固まった。
「……何故君が。」
「何故ここに君がいる?」
次の瞬間。
表情が険しくなる。
「まさか……!」
「お前達がみんなを消したのか!?」
両手で風を集め、
中央に風が渦を巻き始める。
「ウィンディターミ──」
言い終わる前だった。
ゴツン。
レイカの指が、少年のおでこを軽く弾いた。
「痛っ!」
風は一瞬で消える。
少年は涙目になりながらレイカを見る。
「な、何するんだ!」
レイカは煙草をくわえたまま答えた。
「騒ぐな。」
「落ち着け。」
それだけだった。
不思議と、その場の空気が静まる。
事情を説明し終える頃には、
夕日が差し込んでいた。
少年――
ブリトーは膝を抱えて座っている。
「みんながいない……。」
「どこへ行ったんだ。」
「まず、ここは何処なんだ……」
その姿を見て、ウインナーは静かに言った。
「サラミッドの戦いが関係しているのかもしれない。」
「そうなると、僕たちに責任がないとは言いきれない。」
一同が静かに頷く。
「だから、ブリトー。」
「僕たちも仲間を探すの、手伝わせてほしい。」
ブリトーは顔を上げる。
「いらない。」
「僕一人で探す。」
その時。
ダイフクーが笑った。
「土地も分からない場所で一人は骨が折れるぞ。」
「……。」
「一緒に探そうぜ。」
「これも何かの縁だ。」
ブリトーは黙る。
しばらくして、小さくため息をついた。
「……勝手にしてくれ。」
ー夜ー
気球の上。
ブリトーはウインナーの隣へ座った。
星空を見上げながら、ぽつりと呟く。
「…寝れないかい?」
「…。」
「未だに分からない。」
「あの時……なんで君の風に負けたんだ。」
「僕の風は最強のはずだった。」
ウインナーは夜空を見上げたまま答える。
「風は道具じゃないからね。」
ブリトーは首を傾げる。
「え?」
「風は友達なんだ。」
「道具なんかじゃない。」
「一緒に成長する。」
静かな声だった。
ブリトーはその意味を理解できなかった。
けれど。
心のどこかに、その言葉が残った。
ー夜更けー
みんなが眠った後。
ウインナーだけが自室に残っていた。
机の上には古びた地図。
積み上げられた本。
遺跡の資料。
サラミッドに関する記録。
ページをめくりながら、小さく呟く。
「どこへ行ったんだろう。」
サラミッドが消えたあの日。
パルも。
仲間たちも。
みんな姿を消した。
あの出来事を、
“最初から存在しなかった”
そんな風には絶対にしたくなかった。
だから遺跡を巡る。
古い文献を読む。
いつか手掛かりが見つかると信じて。
そしてもう一度会えたなら。
今度こそ。
敵じゃなく、
友達として笑い合いたい。
窓の外から夜風が吹き込む。
ページが一枚だけめくれた。
ウインナーは静かに本を閉じる。
「きっと会える。」
その言葉を風がさらい、
夜空の彼方へ運んでいった。