-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第三十七章

 

 

 

-雪の記憶-

 

 

 

-新しい家族-

 

 

 

穏やかな朝。

 

花畑の風が窓から吹き込み、

 

木の家を優しく揺らしていた。

 

 

「お兄ちゃん!!」

 

「朝だぞ!!」

 

 

勢いよく飛び起きたケンが、

 

寝起きのレイカへ飛びつく。

 

「……暑い。」

 

「離れろ。」

 

「やだ!」

 

「朝飯だって!」

 

「うるさい。」

 

「お兄ちゃん!」

 

「離れろ。」

 

「やだ!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「騒がしい。」

 

ドロップが吹き出した。

 

「もう完全に弟じゃない!」

 

ダイフクーも大笑いする。

 

「がははは!レイカ、懐かれてんな!」

 

ユリも微笑む。

 

「ふふっ。」

 

「弟が出来たわね。」

 

「……誰が兄だ。」

 

「お兄ちゃんは俺を助けてくれた。」

 

「暗くて怖かったんだ。」

 

「そんな時にもう大丈夫って!」

 

「ヒーローであり、お兄ちゃんなんだ!」

 

「……勝手に決めるな。」

 

ブリトーが呆れながら笑う。

 

「もう諦めた方がいいんじゃないか?」

 

「……はぁ。」

 

「面倒なガキを拾った。」

 

「やったー!」

 

「お兄ちゃんに面倒って言われた!」

 

「……意味分かってるか?」

 

「分かんない!」

 

「はぁ。」

 

朝食を食べながら、ウインナーが口を開く。

 

「ねえ。」

 

「もう一度、遺跡を調べてみない?」

 

シャーベットも頷く。

 

「崩壊しているとはいえ、まだ調べる価値はある。」

 

「賛成。」

 

こうして、一行は再び遺跡へ向かった。

 

 

 

-壊れた深淵-

 

 

 

崩れた研究施設。

 

かつて激戦が繰り広げられた場所。

 

ケンは目を輝かせていた。

 

「すげぇ……。」

 

「お兄ちゃん、ここで戦ったのか!?」

 

「……そうだ。」

 

「かっけぇ!」

 

「騒ぐな。」

 

「ごめんなさい!」

 

シャーベットは古代文字を調べる。

 

ウインナーは壁を見上げる。

 

ブリトーは風を使いながら瓦礫をどけていく。

 

その時だった。

 

「……ん?」

 

石壁の裏。

 

隠されていた石板。

 

そこには巨大な地図が描かれていた。

 

古代文字。

 

そして中央に刻まれていた文字。

 

 

『サラミッド』

 

 

ブリトーの目が見開かれる。

 

「サラミッド……!」

 

「見つけた……!」

 

ウインナーも笑顔になる。

 

「本当にあったんだ。」

 

シャーベットが古代文字を読み上げる。

 

 

「時を越えし民の眠る島。」

 

「時満ちし時、その地再び現れん。」

 

 

「なるほど。」

 

「目的地は決まったな。」

 

一同は顔を見合わせる。

 

ついに。

 

サラミッドへ辿り着く道が見つかった。

 

 

 

-雪の記憶-

 

 

 

その頃。

 

ユリは一人、

 

雪の紋章の研究室へ戻っていた。

 

静かな部屋。

 

焼け焦げた資料。

 

古びた記録。

 

 

『雪女族と人間との混血』

 

『老化は極めて遅い』

 

『完全なる不老不死に非ず』

 

『寿命は存在する』

 

 

「……そう。」

 

「永遠じゃないのね。」

 

ページをめくる。

 

そこには、

 

 

『炎の加護暴走実験』

 

 

ユリは目を閉じた。

 

幼い頃。

 

雪の村。

 

優しい父。

 

料理上手な母。

 

笑顔。

 

暖かい食卓。

 

平和な日々。

 

そして。

 

山から帰ったあの日。

 

「ただいまー!」

 

返事はない。

 

焦げ臭い匂い。

 

「……え?」

 

燃え尽きた村。

 

「お母さん!」

 

「お父さん!」

 

そこには。

 

母を覆うように倒れた父。

 

駆け寄る。

 

しかし。

 

二人の身体は灰になっていた。

 

「……いや。」

 

「嫌。」

 

「嫌ぁぁぁ……!」

 

 

静寂。

 

ユリは小さく息を吐く。

 

 

「本当は犯人を探す旅をしてた。」

 

「復讐したかった。」

 

「でも。」

 

「レイカと出会って。」

 

「恨んで生きるのをやめようと思った。」

 

「終わったこと。」

 

「そう思ってる。」

 

「納得もしてる。」

 

「でも。」

 

「納得出来ない自分もいる。」

 

「……考えても仕方ない。」

 

 

窓から風が吹く。

 

雪の結晶が舞った。

 

 

「時間が。」

 

「きっと解決してくれる。」

 

 

そう呟きながら。

 

ユリは静かに研究室を後にした。

 

 

 

-最後の夜-

 

 

 

その日の夜。

 

ガレットの家には賑やかな声が響いていた。

 

「おりゃあ!」

 

「避けてみろ、ダイフクー兄!」

 

ケンが避雷伸を振り回しながら飛び回る。

 

「はっ!そんな単調な攻撃当たるかよ!」

 

ダイフクーも大笑いしながら拳を振るう。

 

「うおっ!?」

 

「危ねえ!」

 

「へへー!」

 

「俺、もっと強くなるからな!」

 

「お兄ちゃんみたいに!」

 

レイカは煙草を咥えながら呆れ顔。

 

「……元気なガキだ。」

 

「お兄ちゃん!」

 

「だから兄じゃない。」

 

「お兄ちゃん!」

 

「うるさい。」

 

ドロップは笑いを堪えきれない。

 

「ふふっ。」

 

「もう諦めなさいよ。」

 

ユリも微笑む。

 

「レイカ、嬉しそう。」

 

「……どこがだ。」

 

「顔。」

 

「……はあ。」

 

 

一方。

 

ブリトーとガレットは木の上で夜空を眺めていた。

 

「サラミッドか。」

 

「不思議だな。」

 

「元の時代に戻れるかもしれない。」

 

ガレットが優しく笑う。

 

「戻れなくても。」

 

「また会えればいい。」

 

「君達と過ごせて、僕は楽しかったよ。」

 

ブリトーも笑う。

 

「ああ。」

 

「また来る。」

 

「今度はみんなで。」

 

「約束だ。」

 

「うん。」

 

 

その頃。

 

シャーベットは一人、資料を整理していた。

 

「……。」

 

「まだ分からないことだらけだ。」

 

「古代文明。」

 

「興味深い。」

 

そこへダイフクーがやってくる。

 

「まだやってんのか。」

 

「たまには休めよ。」

 

「そういうお前こそ。」

 

「ケンと遊んで疲れてないのか?」

 

「へっ!」

 

「俺は疲れねぇ!」

 

「馬鹿だからな。」

 

「誰が馬鹿だ!」

 

二人は笑い合う。

 

 

 

そして。

 

ネモフィラ畑。

 

月明かりの下。

 

ウインナーとドロップ。

 

「綺麗ね。」

 

「うん。」

 

「本当に。」

 

「やっと落ち着いた。」

 

ドロップがウインナーの肩へ寄りかかる。

 

「ねぇ。」

 

「これからも大変かな?」

 

「うん。」

 

「きっと。」

 

「でも。」

 

「一人じゃない。」

 

「そうね。」

 

「みんなもいる。」

 

「レイカもユリさんも。」

 

「ケンも。」

 

「ブリトーも。」

 

「うん。」

 

「だから大丈夫。」

 

優しい風が吹き抜けた。

 

そして。

 

木の上。

 

レイカとユリ。

 

「明日、出発か。」

 

「そうね。」

 

「また忙しくなるわ。」

 

「……ああ。」

 

「もう、あんな痛い思いしたくない。」

 

「……させん。」

 

「私も強くならないとね。」

 

「…一人くらい守れないとな。」

 

「俺もまだまだだ。」

 

「お互いね。」

 

「時間はまだまだある。己を磨くのみだ。」

 

「…………そうね。」

 

 

 

(いつまで続くか分からないこの命。)

 

(後悔しないようにしたい。)

 

 

 

-出発-

 

 

 

翌朝。

 

気球船の前。

 

ガレットが見送りに来ていた。

 

「もう行っちゃうのか。」

 

「寂しくなるね。」

 

「また来るよ。」

 

ウインナーが笑う。

 

「今度はゆっくり会いに来る。」

 

「うん。」

 

「約束。」

 

ブリトーも手を差し出す。

 

「またね。」

 

ガレットは笑顔で握り返した。

 

「うん。」

 

「また会おう。」

 

ケンは大きく手を振る。

 

「ガレット兄!」

 

「またな!」

 

「避雷伸完成したら見せてやる!」

 

「楽しみにしてるよ。」

 

ダイフクーも笑う。

 

「世話になった!」

 

シャーベットは軽く頭を下げる。

 

「感謝する。」

 

ドロップも笑顔で手を振る。

 

「またお花見に来るから!」

 

ユリも優しく微笑む。

 

「身体に気をつけてね。」

 

レイカは煙草を咥えたまま、

 

「……世話になった。」

 

ガレットは嬉しそうに笑った。

 

「うん。」

 

「また会おう。」

 

 

全員が気球船へ乗り込む。

 

風が吹く。

 

ウインナーが操縦席に立った。

 

「行こう。」

 

「サラミッドへ。」

 

ブリトーの瞳に力が宿る。

 

「待ってろ。」

 

「パル。」

 

ドロップは伸びをする。

 

「次は平和な旅がいいわね。」

 

「……無理だな!」

 

ダイフクーが笑う。

 

「諦めろ。」

 

シャーベットが返す。

 

「俺も行くぞ!」

 

ケンが元気よく叫ぶ。

 

「お兄ちゃん!」

 

「サラミッドってすげーとこなんだろ!?」

 

「……知らん。」

 

「へへっ!」

 

「楽しみだ!」

 

ユリが小さく笑う。

 

「賑やかになったわね。」

 

「……だな。」

 

レイカも小さく呟く。

 

青空。

 

優しい風。

 

そして。

 

気球船はゆっくりと空へ舞い上がる。

 

その先にあるのは。

 

時を越えた王国。

 

サラミッド――。

 

 

 

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