-雪の記憶-
-新しい家族-
穏やかな朝。
花畑の風が窓から吹き込み、
木の家を優しく揺らしていた。
「お兄ちゃん!!」
「朝だぞ!!」
勢いよく飛び起きたケンが、
寝起きのレイカへ飛びつく。
「……暑い。」
「離れろ。」
「やだ!」
「朝飯だって!」
「うるさい。」
「お兄ちゃん!」
「離れろ。」
「やだ!」
「お兄ちゃん!」
「騒がしい。」
ドロップが吹き出した。
「もう完全に弟じゃない!」
ダイフクーも大笑いする。
「がははは!レイカ、懐かれてんな!」
ユリも微笑む。
「ふふっ。」
「弟が出来たわね。」
「……誰が兄だ。」
「お兄ちゃんは俺を助けてくれた。」
「暗くて怖かったんだ。」
「そんな時にもう大丈夫って!」
「ヒーローであり、お兄ちゃんなんだ!」
「……勝手に決めるな。」
ブリトーが呆れながら笑う。
「もう諦めた方がいいんじゃないか?」
「……はぁ。」
「面倒なガキを拾った。」
「やったー!」
「お兄ちゃんに面倒って言われた!」
「……意味分かってるか?」
「分かんない!」
「はぁ。」
朝食を食べながら、ウインナーが口を開く。
「ねえ。」
「もう一度、遺跡を調べてみない?」
シャーベットも頷く。
「崩壊しているとはいえ、まだ調べる価値はある。」
「賛成。」
こうして、一行は再び遺跡へ向かった。
-壊れた深淵-
崩れた研究施設。
かつて激戦が繰り広げられた場所。
ケンは目を輝かせていた。
「すげぇ……。」
「お兄ちゃん、ここで戦ったのか!?」
「……そうだ。」
「かっけぇ!」
「騒ぐな。」
「ごめんなさい!」
シャーベットは古代文字を調べる。
ウインナーは壁を見上げる。
ブリトーは風を使いながら瓦礫をどけていく。
その時だった。
「……ん?」
石壁の裏。
隠されていた石板。
そこには巨大な地図が描かれていた。
古代文字。
そして中央に刻まれていた文字。
『サラミッド』
ブリトーの目が見開かれる。
「サラミッド……!」
「見つけた……!」
ウインナーも笑顔になる。
「本当にあったんだ。」
シャーベットが古代文字を読み上げる。
「時を越えし民の眠る島。」
「時満ちし時、その地再び現れん。」
「なるほど。」
「目的地は決まったな。」
一同は顔を見合わせる。
ついに。
サラミッドへ辿り着く道が見つかった。
-雪の記憶-
その頃。
ユリは一人、
雪の紋章の研究室へ戻っていた。
静かな部屋。
焼け焦げた資料。
古びた記録。
『雪女族と人間との混血』
『老化は極めて遅い』
『完全なる不老不死に非ず』
『寿命は存在する』
「……そう。」
「永遠じゃないのね。」
ページをめくる。
そこには、
『炎の加護暴走実験』
ユリは目を閉じた。
幼い頃。
雪の村。
優しい父。
料理上手な母。
笑顔。
暖かい食卓。
平和な日々。
そして。
山から帰ったあの日。
「ただいまー!」
返事はない。
焦げ臭い匂い。
「……え?」
燃え尽きた村。
「お母さん!」
「お父さん!」
そこには。
母を覆うように倒れた父。
駆け寄る。
しかし。
二人の身体は灰になっていた。
「……いや。」
「嫌。」
「嫌ぁぁぁ……!」
静寂。
ユリは小さく息を吐く。
「本当は犯人を探す旅をしてた。」
「復讐したかった。」
「でも。」
「レイカと出会って。」
「恨んで生きるのをやめようと思った。」
「終わったこと。」
「そう思ってる。」
「納得もしてる。」
「でも。」
「納得出来ない自分もいる。」
「……考えても仕方ない。」
窓から風が吹く。
雪の結晶が舞った。
「時間が。」
「きっと解決してくれる。」
そう呟きながら。
ユリは静かに研究室を後にした。
-最後の夜-
その日の夜。
ガレットの家には賑やかな声が響いていた。
「おりゃあ!」
「避けてみろ、ダイフクー兄!」
ケンが避雷伸を振り回しながら飛び回る。
「はっ!そんな単調な攻撃当たるかよ!」
ダイフクーも大笑いしながら拳を振るう。
「うおっ!?」
「危ねえ!」
「へへー!」
「俺、もっと強くなるからな!」
「お兄ちゃんみたいに!」
レイカは煙草を咥えながら呆れ顔。
「……元気なガキだ。」
「お兄ちゃん!」
「だから兄じゃない。」
「お兄ちゃん!」
「うるさい。」
ドロップは笑いを堪えきれない。
「ふふっ。」
「もう諦めなさいよ。」
ユリも微笑む。
「レイカ、嬉しそう。」
「……どこがだ。」
「顔。」
「……はあ。」
一方。
ブリトーとガレットは木の上で夜空を眺めていた。
「サラミッドか。」
「不思議だな。」
「元の時代に戻れるかもしれない。」
ガレットが優しく笑う。
「戻れなくても。」
「また会えればいい。」
「君達と過ごせて、僕は楽しかったよ。」
ブリトーも笑う。
「ああ。」
「また来る。」
「今度はみんなで。」
「約束だ。」
「うん。」
その頃。
シャーベットは一人、資料を整理していた。
「……。」
「まだ分からないことだらけだ。」
「古代文明。」
「興味深い。」
そこへダイフクーがやってくる。
「まだやってんのか。」
「たまには休めよ。」
「そういうお前こそ。」
「ケンと遊んで疲れてないのか?」
「へっ!」
「俺は疲れねぇ!」
「馬鹿だからな。」
「誰が馬鹿だ!」
二人は笑い合う。
そして。
ネモフィラ畑。
月明かりの下。
ウインナーとドロップ。
「綺麗ね。」
「うん。」
「本当に。」
「やっと落ち着いた。」
ドロップがウインナーの肩へ寄りかかる。
「ねぇ。」
「これからも大変かな?」
「うん。」
「きっと。」
「でも。」
「一人じゃない。」
「そうね。」
「みんなもいる。」
「レイカもユリさんも。」
「ケンも。」
「ブリトーも。」
「うん。」
「だから大丈夫。」
優しい風が吹き抜けた。
そして。
木の上。
レイカとユリ。
「明日、出発か。」
「そうね。」
「また忙しくなるわ。」
「……ああ。」
「もう、あんな痛い思いしたくない。」
「……させん。」
「私も強くならないとね。」
「…一人くらい守れないとな。」
「俺もまだまだだ。」
「お互いね。」
「時間はまだまだある。己を磨くのみだ。」
「…………そうね。」
(いつまで続くか分からないこの命。)
(後悔しないようにしたい。)
-出発-
翌朝。
気球船の前。
ガレットが見送りに来ていた。
「もう行っちゃうのか。」
「寂しくなるね。」
「また来るよ。」
ウインナーが笑う。
「今度はゆっくり会いに来る。」
「うん。」
「約束。」
ブリトーも手を差し出す。
「またね。」
ガレットは笑顔で握り返した。
「うん。」
「また会おう。」
ケンは大きく手を振る。
「ガレット兄!」
「またな!」
「避雷伸完成したら見せてやる!」
「楽しみにしてるよ。」
ダイフクーも笑う。
「世話になった!」
シャーベットは軽く頭を下げる。
「感謝する。」
ドロップも笑顔で手を振る。
「またお花見に来るから!」
ユリも優しく微笑む。
「身体に気をつけてね。」
レイカは煙草を咥えたまま、
「……世話になった。」
ガレットは嬉しそうに笑った。
「うん。」
「また会おう。」
全員が気球船へ乗り込む。
風が吹く。
ウインナーが操縦席に立った。
「行こう。」
「サラミッドへ。」
ブリトーの瞳に力が宿る。
「待ってろ。」
「パル。」
ドロップは伸びをする。
「次は平和な旅がいいわね。」
「……無理だな!」
ダイフクーが笑う。
「諦めろ。」
シャーベットが返す。
「俺も行くぞ!」
ケンが元気よく叫ぶ。
「お兄ちゃん!」
「サラミッドってすげーとこなんだろ!?」
「……知らん。」
「へへっ!」
「楽しみだ!」
ユリが小さく笑う。
「賑やかになったわね。」
「……だな。」
レイカも小さく呟く。
青空。
優しい風。
そして。
気球船はゆっくりと空へ舞い上がる。
その先にあるのは。
時を越えた王国。
サラミッド――。