-戦乱の街-
-治安の悪い街-
気球船は、乾いた風を受けながら、
大陸の上空を進んでいた。
眼下には荒れた大地。
遠くには山脈。
その先に、サラミッドがあるはずだった。
操縦席で地図を広げていたウインナーが、
少し困ったように眉を寄せる。
「……まだ結構あるね。」
シャーベットが隣から地図を覗き込む。
「距離だけで見れば、しばらくは空の旅だな。」
「問題は食料と燃料。」
ダイフクーが腹を押さえた。
「後、問題は俺の腹だ。」
「……さっき食べただろ。」
ブリトーが呆れる。
「食べたけど減るんだよ!」
ケンも元気よく手を挙げる。
「俺も腹減った!」
レイカは煙草を咥えながら、二人を横目で見る。
「燃費が悪い奴らだな。」
ケンはにこっと笑った。
「お兄ちゃんも食べろよ!」
「俺は兄じゃない。」
「でもお兄ちゃん!」
「……はぁ。」
そのやり取りに、ドロップが笑う。
「ケンが来てから、レイカのため息増えたわね。」
ユリも微笑む。
「でも、少し楽しそう。」
「どこがだ。」
レイカは面倒そうに答えたが、
ケンが隣で嬉しそうにしているため、
誰も本気にはしなかった。
その時、シャーベットが前方を指差した。
「街が見える。」
雲の切れ間から見えたのは、
大きな城壁に囲まれた街だった。
だが、近づくにつれて雰囲気の悪さが分かってくる。
城壁はあちこち壊れ、
門の周りには武器を持った男たち。
市場の通りでは怒号が飛び交い、
路地裏では何人かが喧嘩をしていた。
ドロップが顔を引きつらせる。
「……治安悪。」
ユリは静かに街を見下ろした。
「久しぶりにこういう場所へ来たわね。」
レイカは煙草を指で挟み、
懐かしむように目を細める。
「昔を思い出すな。」
「それ、あまり良い意味じゃないよね?」
ウインナーが苦笑する。
「良い思い出ではないな。」
気球船を降ろし、一行は街へ入った。
門をくぐった瞬間、喧騒が押し寄せる。
武器屋。
闇市。
酒場。
賭博場。
あちこちの壁に貼られた賞金首の紙。
そして中央広場には、巨大な掲示板があった。
ダイフクーが真っ先に駆け寄る。
「お、なんだこれ!」
掲示板には大きく書かれている。
『賞金争奪バトルロワイヤル開催』
『予選勝ち抜き者のみ本戦出場』
『男子の部・女子の部、それぞれ優勝賞金あり』
『腕に自信のある者求む』
ダイフクーの目が輝いた。
「これだ!!」
シャーベットは淡々と読む。
「賞金はかなり高額だ。」
ブリトーも頷く。
「サラミッドまでの旅費には困らなくなる。」
ケンは拳を突き上げた。
「俺出る!」
「優勝する!」
レイカは呆れた顔で見下ろす。
「お前はまず落ち着け。」
「えー!?」
「意地悪!」
「事実だ。」
ウインナーは少し考えてから微笑んだ。
「じゃあ、出ようか。」
「みんなで。」
ドロップもやる気を見せる。
「女子の部もあるなら、私も出るわ!」
ユリも穏やかに頷いた。
「腕試しにはちょうどいいわね。」
レイカは掲示板を眺めながら、煙草を咥えた。
「……面倒だ。」
「ん?受付今日までらしいぞ。」
ダイフクーが慌てる。
「なんだと!?急ぐぞお前ら!!」
こうして一行は、賞金大会へ出場することになった。
-予選開始-
会場は街の中央にある円形闘技場だった。
観客席はすでに満員。
粗野な笑い声。
怒号。
賭け金を叫ぶ声。
まさにこの街らしい熱気が渦巻いている。
受付で組み分けを確認した一行は、
それぞれのブロックへ向かった。
予選は集団リーグ戦。
各ブロック1名が本戦へ進める。
本戦は数日後。
男子の部と女子の部に分かれた、
一対一のトーナメント戦。
味方同士が当たる可能性もある。
「本戦で仲間同士の戦いもあるってことか。」
ウインナーが確認する。
シャーベットが頷く。
「そういう形式らしい。」
ダイフクーは笑う。
「面白ぇじゃねぇか!」
ケンも隣で飛び跳ねる。
「お兄ちゃんと戦えるかも!」
レイカは心底嫌そうに顔をしかめた。
「勘弁してくれ。」
「なんでだよ!」
「相手にならん。」
-Aブロック-
出場者はレイカ、ダイフクー、ケン、その他多数。
ケンは嬉しそうに拳を握る。
「お兄ちゃんと同じ組だ!」
「よし、一緒に勝ち抜こうぜ!」
ダイフクーは、
嫌な予感しかしないという顔をしていた。
「レイカ。」
「頼むから巻き込むなよ?」
レイカは一切目を合わせない。
「……。」
「おい、今の沈黙なんだよ。」
「……諦めてくれ。」
「え?なんて―――」
開始の鐘が鳴る。
「予選Aブロック、開始!!」
選手たちが一斉に動く。
ケンも雷を纏い、勢いよく飛び出そうとした。
「行くぜ!」
だが。
その前にレイカが一歩踏み込んでいた。
刀へ手を添える。
「我流・炎飛流。」
「五月雨。」
次の瞬間。
闘技場全体を、
無数の炎の太刀筋が駆け抜けた。
凄まじい速さの剣戟。
炎を帯びた斬撃が、
雨のように多方面へ飛んでいく。
観客の目では追えない。
選手たちは次々と場外へ吹き飛ばされた。
「うわあああ!?」
「なんだ今の!?」
「見えねぇ!!」
そして。
「うおおおおお!?」
「お兄ちゃーーーん!?」
ダイフクーとケンも、
敵選手たちと一緒に場外へ転がった。
怪我はない。
ただ勢いよく吹き飛ばされただけだった。
実況が一瞬沈黙し、次いで絶叫する。
「Aブロック決着!!」
「レイカ選手ぅぅぅ!!」
レイカは刀を納める。
「……すまん。」
場外でダイフクーが起き上がる。
「だから言っただろ!!」
「味方だぞ俺ら!!」
ケンは目を回しながらも笑っていた。
「すげぇ!」
「俺もあんなのやりたい!」
レイカは深いため息をついた。
「……お前はまず落ち着くところからだ。」
「えー!?」
「意地悪!」
「……はぁ。」
「たまには静かに出来んのか。」
-Bブロック-
シャーベットは冷静に相手を捌いていた。
修行で身につけた体術は、
確実に成果を出している。
無駄な動きは少ない。
相手の間合いを読み、確実に崩す。
だが、一人だけ異質な男がいた。
黒い外套。
無表情。
自らを「X」と名乗った男。
シャーベットの拳が男へ向かう。
男は避けた。
次の瞬間。
同じ軌道の拳を、より速く、より正確に返してきた。
「……。」
シャーベットの目が細くなる。
「真似たのか?」
Xは静かに答える。
「見た。」
「覚えた。」
「上回る。」
次の攻防。
シャーベットが蹴りを放つ。
Xはまたもそれを再現し、
わずかに上の速度で打ち返した。
体勢が崩れる。
「……なるほど。」
「これは厄介だな。」
数手後。
シャーベットは場外へ弾き出された。
実況が叫ぶ。
「Bブロック勝者、X選手!!」
シャーベットは立ち上がりながら、
淡々と呟いた。
「完敗だな。」
「謎めいている人物だった……。」
-Cブロック-
ウインナーは風を纏い、
無駄なく相手を制していった。
優しい風。
だが、戦いでは鋭い。
一人を押し出し、二人目の動きを止め、
三人目を背後から吹き飛ばす。
「Cブロック勝者、ウインナー選手!」
ドロップが観客席から手を振る。
「ウインナー、すごい!」
ウインナーは少し照れながら笑った。
-女子ブロック-
「女子ブロックは出場者が少ないため!」
「各ブロックから2名本戦にいけるぞ!!」
ユリとドロップは同じ組だった。
「良かった、2人まで行けるのね!」
「共闘でいく?」
ドロップが尋ねる。
ユリは微笑む。
「もちろん。」
開始と同時に、二人は背中合わせに立つ。
ドロップが相手の攻撃を受け流し、
重力の流れで体勢を崩す。
そこへユリが体術で隙を突く。
氷は必要最小限。
二人の動きは、修行の成果を感じさせるものだった。
「右!」
「任せて!」
「後ろ!」
「分かってる!」
最後の相手を同時に場外へ押し出す。
実況が声を上げる。
「ユリ選手、ドロップ選手!」
「二名そろって本戦進出!!」
ドロップは嬉しそうに飛び跳ねた。
「やったぁ!」
ユリも静かに笑う。
「良い連携だったわ。」
-Fブロック-
ブリトーは静かに立っていた。
腕輪が淡く光る。
「ウィンディ・カフェラテ。」
岩の力で相手の足場を崩す。
「ウィンディ・ハラペーニョ。」
武器の一部を金へ変え、重くして動きを止める。
「ウィンディ・ガレット」
木のツタが地面から生え、身体へ絡みつく。
そして風で背後へ回り込み、体術で制圧する。
圧勝だった。
観客は騒然となる。
「なんだあいつ!」
「風だけじゃねぇのか!」
「何種類能力あるんだよ!」
ブリトーは自分の手を見つめる。
「……僕。」
「こんなに強くなってたんだ。」
ウインナーが近づき、笑う。
「ずっと頑張ってたからね。」
ブリトーは少しだけ、
照れたように視線を逸らした。
「……まだまだだよ。」
「でも。」
「悪くないね。」
予選が終わる。
本戦に進むのは、
男子の部。
レイカ。
ウインナー。
ブリトー。
女子の部。
ユリ。
ドロップ。
本戦は数日後。
一対一のトーナメント。
男子一名、女子一名の優勝者が出る。
味方同士の戦いもあり得る。
その説明を聞き、ドロップは拳を握った。
「よし。」
「女子優勝、狙うわよ!」
ユリは微笑む。
「私も負けないわ。」
ウインナーはレイカとブリトーを見る。
「男子も大変そうだね。」
ブリトーは頷く。
「ああ。」
レイカは遠くの観客席にいるXを一瞥した。
「……面倒そうなのがいるな。」
-弱いものいじめ-
予選を終えた一行は、食事へ向かうことにした。
「腹減った!」
ダイフクーが堂々と言う。
「お前は予選で何もしてないだろ。」
シャーベットが突っ込む。
「あのレイカに勝てるわけないだろ!?」
「吹き飛ばされて一苦労だったぜ…。」
「それは戦闘ではない。」
ケンも元気に手を挙げる。
「俺も腹減った!」
レイカは眉を寄せる。
「騒がしい奴らだな。」
「お兄ちゃんも食べようぜ!」
「だから兄じゃない。」
店を探して歩く。
しかし、街の雰囲気はやはり悪い。
路地裏には酔っ払い。
武器を持った男。
壁には脅し文句の落書き。
ドロップが小さく呟く。
「本当に治安悪いわね……。」
その時だった。
「やめてください!」
女性の声。
一同が振り返る。
路地の奥で、
数人のギャングが母親と幼い子供を囲んでいた。
「家賃が払えねぇなら、店を寄越せ。」
「待ってください!」
「もう少しだけ……!」
子供が母親の前に立つ。
「お母さんにひどいことするな!」
ギャングの一人が刃物を抜いた。
「ガキが。」
「邪魔だ。」
「やめてえええ!!!」
刃物が振り下ろされる。
その瞬間。
ガキン。
刃は止まっていた。
レイカの手の中で。
ギャングの顔が引きつる。
「なっ……。」
レイカは低い声で尋ねた。
「弱いものいじめは楽しいか?」
ギャングたちは答えられない。
「楽しいなら。」
「俺もさせてもらうぞ。」
次の瞬間。
レイカの拳が男の顔面へ叩き込まれた。
ドゴォッ!!
男は壁へ吹き飛び、そのまま気絶する。
取り巻きたちは青ざめる。
「ひっ……!」
「逃げろ!」
蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
ケンは目を輝かせる。
「お兄ちゃんすげぇ!!」
「俺も今のやりたい!」
レイカは心底うんざりしたように言う。
「……お前は犬より騒がしいな。」
「えー!?」
「犬よりかしこいもん!」
「……はぁ。」
「言葉も通じない。」
そのやり取りに、助けられた子供が少し笑った。
張り詰めていた空気が、ようやく緩む。
母親は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。」
「本当に、ありがとうございます……!」
その後、
母親は一行を自分の食堂へ案内した。
「お礼になるかわかりませんが……。」
「ぜひ食べていってください。」
店は小さく、古い。
壁も机もあちこち傷んでいた。
けれど料理の匂いは温かかった。
奥から、小さな子供たちが何人も顔を出す。
「お母さん!」
「大丈夫だった?」
「怖かったよぉ……。」
母親は子供たちを抱きしめる。
「大丈夫。」
「この人たちが助けてくれたの。」
料理が並ぶ。
一口食べた瞬間。
ダイフクーが立ち上がる。
「うっめぇぇぇ!!」
ケンも夢中で頬張る。
「これ毎日食べたい!」
ドロップも感動していた。
「すごく美味しい……。」
ユリも微笑む。
「優しい味ね。」
しかし、店内は明らかに荒れていた。
壊れた椅子。
割れた窓。
傷ついた壁。
シャーベットが静かに尋ねる。
「あいつらにやられたのか?」
母親は困ったように笑う。
「はい……。」
「お金を払わずに食べていくことも多くて。」
「お客さんも怖がって来なくなってしまって。」
「子供も多いので。」
「どうにか稼がないといけないんですが……。」
「他の仕事をしても、追いつかなくて。」
「今日は家賃の取り立てに来られて……。」
言葉が途切れる。
子供たちは黙って母親の服を掴んでいた。
ダイフクーは拳を握る。
そして、急に立ち上がった。
「決めた。」
「男子も女子も優勝したら。」
「賞金、全部ここに置いてく。」
母親が驚く。
「えっ……?」
ウインナーはすぐに頷いた。
「僕も賛成。」
ドロップも笑う。
「もちろん。」
ユリも穏やかに言った。
「困っている人を助けるためなら。」
シャーベットも眼鏡を押し上げる。
「それがいいな。」
ブリトーは少しだけ笑う。
「僕も賛成だ。」
「昔の僕なら、見て見ぬ振りだったかもしれない。」
「でも今は違う。」
「助けられるなら、助けたい。」
そして、わざと少し意地悪く続ける。
「まあ、ダイフクーは戦わないけどね。」
「おい!!」
店内に笑いが広がった。
レイカは静かに立ち上がる。
「とりあえず。」
「子供と母親の服を買いに行くぞ。」
「俺が出す。」
ダイフクーが目を丸くする。
「お金あるのかよ!」
レイカは平然と答える。
「昔の貯えがあるからな。」
「聞いてこないから、スルーしていたが。」
「今後、困ったら言ってくれていい。」
ウインナーが驚く。
「レイカ……。」
ドロップは小さく笑う。
「本当に不器用ね。」
「……うるさい。」
レイカは全員を見渡した。
「……大会は腕試しと思って挑めばいいさ。」
「勝つ理由は、できただろ。」
ダイフクーが笑う。
「ああ!」
「俺は出ねぇけどな!」
ブリト―が意地悪な顔で言う。
「吹き飛ばされたからね。」
「そこは忘れろ!」
ケンが元気よく拳を突き上げる。
「俺も応援する!」
「お兄ちゃん優勝しろよ!」
「うるさい。」
ウインナーは母親と子供たちへ向き直る。
「必ず戻ってきます。」
「待っていてください。」
母親は涙をこらえながら頭を下げた。
「ありがとうございます……。」
「ユリ、ドロップ。」
「買い物連れてってやれ。」
「はーい!任せて!」
「喜んで。」
その夜。
宿へ戻る道。
街の空は暗く、遠くでまた怒号が聞こえていた。
だが、一行の足取りには迷いがなかった。
ドロップが拳を握る。
「女子の部、絶対勝つわ。」
ユリも微笑む。
「負けられないわね。」
ブリトーは腕輪に触れる。
「男子もだ。」
ウインナーは静かに頷く。
「うん。」
「勝とう。」
レイカは煙草を咥え、夜空を見上げた。
「……何も無ければいいがな。」
その言葉が、冷たい夜風に溶けていく。
誰もまだ知らない。
この街の闇は、
ただのギャングだけでは終わらないことを。