-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第四十一章

 

 

 

-氷狐の夜-

 

 

 

-助けを求める少年-

 

 

 

大会を終えた一行は宿へ戻っていた。

 

ダイフクーは大きく伸びをする。

 

「いやぁー!」

 

「今日はよく寝れそうだ!」

 

ブリトーが笑う。

 

「予選で戦ってないのに?」

 

「いじってくんな!」

 

その時だった。

 

 

ドンドンッ!!

 

 

宿の扉が激しく叩かれる。

 

「誰だろう?」

 

ウインナーが扉を開ける。

 

そこには――

 

以前助けた食堂の男の子が立っていた。

 

服は泥だらけ。

 

頬には殴られた跡。

 

息も絶え絶えだった。

 

 

「お願い……!」

 

「助けて!!」

 

 

全員の空気が変わる。

 

「お母さんが……!」

 

「ギャングに捕まった!」

 

「店も全部取られちゃった!」

 

「今……!」

 

「あいつらのたまり場になってる!」

 

ダイフクーは勢いよく立ち上がる。

 

「なんだと!?」

 

「今すぐ行くぞ!!」

 

しかし、

 

ドロップが腕を掴んだ。

 

「待って!」

 

「大会中よ!」

 

「ここで騒ぎになったら失格になるかもしれない!」

 

ダイフクーは歯を食いしばる。

 

「じゃあ見捨てろって言うのか!」

 

部屋が静まり返る。

 

その時。

 

ユリが静かに立ち上がった。

 

「……方法はある。」

 

 

 

-氷狐-

 

 

 

ユリはレイカを見る。

 

「昔。」

 

「賞金首だった頃。」

 

「私たちがよく使ってた方法。」

 

レイカは頭を抱えた。

 

「……おい。」

 

「やめろ。」

 

ユリは笑う。

 

「悠長なこと言ってる暇はないでしょ。」

 

シャーベットが興味深そうに聞く。

 

「何をする?」

 

ユリは言った。

 

「変装。」

 

「向こうがギャングなら。」

 

「こっちはマフィア。」

 

レイカ以外はきょとんとした顔になる。

 

「どういうこと……?」

 

レイカは深いため息。

 

「……仕方ない。」

 

「着替えたらわかる。」

 

「ほら。」

 

「男ども。」

 

「服を持っていけ。」

 

「早く。」

 

 

 

十分後。

 

部屋から出てきた一同は、

 

まるで別人だった。

 

黒いスーツ。

 

黒いシャツ。

 

青いネクタイ。

 

ユリは全員へ氷で狐のお面を作る。

 

純白の真っ白な狐。

 

見る者を威圧するほど美しい。

 

 

「完成。」

 

 

ユリが満足そうに頷く。

 

「ユリさんもおちゃめなところあるのね。」

 

ケンは鏡を見て大喜び。

 

「かっけぇぇぇ!!」

 

「俺悪役じゃん!」

 

レイカは即答する。

 

「いや。」

 

「ただのガキだ。」

 

「えーー!?」

 

ブリトーは袖が指先まで隠れていた。

 

「ぶかぶかなんだけど。」

 

「仕方ない。」

 

レイカは淡々と言う。

 

「お前が小さいんだ。」

 

ダイフクーは自分を見る。

 

ネクタイ。

 

狐面。

 

以上。

 

「…………。」

 

「俺だけ服ねぇ!!」

 

レイカは真顔だった。

 

「規格外だからな。」

 

「服を着たいんだったら。」

 

「手足縮めろ。」

 

「そんな理由あるか!!」

 

部屋中が笑いに包まれた。

 

ドロップもユリの黒い服へ着替えていた。

 

普段とは違う大人びた雰囲気。

 

ウインナーが少し見惚れる。

 

「……似合ってる。」

 

「ありがとう。」

 

ドロップが少し照れる。

 

ユリは帽子を深く被る。

 

「行きましょう。」

 

レイカが煙草へ火をつけた。

 

「……さっさと終わらせる。」

 

 

 

-マフィア襲来-

 

 

 

夜。

 

食堂。

 

酒瓶。

 

笑い声。

 

怒号。

 

完全に無法地帯だった。

 

カラン。

 

扉が開く。

 

全員が無言で入る。

 

店内が静まり返る。

 

ギャングが笑う。

 

「今日は貸切なんだけど?」

 

「帰んな。」

 

誰も返事をしない。

 

レイカだけが一歩前へ。

 

営業許可証を机へ置く。

 

「……今日から。」

 

「ここは俺たちの店だ。」

 

ギャング達は吹き出した。

 

「誰が決めた!」

 

レイカが静かに答える。

 

「俺だ。」

 

「退場してもらうぞ。」

 

空気が凍る。

 

ユリが前へ出る。

 

右手を上げる。

 

 

「氷華流。」

 

「奥義。」

 

「絶対零度。」

 

 

一瞬。

 

ボスの周り以外。

 

全員。

 

氷像になった。

 

酒を飲んだ姿勢のまま。

 

笑った顔のまま。

 

完全停止。

 

「な……。」

 

「何者だ!」

 

レイカは煙草を使われていた灰皿へ押し付ける。

 

「……その辺のマフィアだ。」

 

その一言だった。

 

残っていた数人が襲いかかる。

 

風。

 

雷。

 

拳。

 

蹴り。

 

刀。

 

五秒。

 

それだけだった。

 

全員床に転がる。

 

 

「ひぃ!」

 

「逃げろ!」

 

 

一斉に逃げ出した。

 

残ったのはボスだけ。

 

 

 

-女を甘く見るな-

 

 

 

「使えねぇぇなああ!!」

 

 

ボスは母親を引きずり出す。

 

首へ刃物。

 

 

「近付いたら殺す!」

 

「女なんざ人質にしときゃ十分だ!」

 

「少し脅せばお金も払う。」

 

「お金が払えねえなら身体で払わせーー!」

 

 

その瞬間だった。

 

母親が消える。

 

「え?」

 

気付けば。

 

ユリが支えていた。

 

「女だからって。」

 

「舐めないことね。」

 

ボスが驚く暇もない。

 

ドロップが目前へ。

 

「あと。」

 

「女を馬鹿にしたわね。」

 

「あんたみたいなゴミ男。」

 

「再起不能にして。」

 

「ペシャンコにして捨ててあげる!」

 

 

バキッ!!ドゴォォッ!!

 

 

金的部分に、全力で上段蹴り。

 

からの回し蹴り。

 

ボスは天井近くまで吹き飛ぶ。

 

そのまま泡を吹いて失神。

 

ダイフクーがヒュッとした顔で呟いた。

 

「ありゃ……。」

 

「ご愁傷さま。」

 

シャーベットも頷く。

 

「女性を怒らせた。」

 

「当然の結果だ。」

 

レイカは煙草を咥え直し、

 

ウインナーを見る。

 

「……お前。」

 

「怒らせるなよ。」

 

ウインナーは苦笑した。

 

「うん。……善処する。」

 

ドロップが振り返る。

 

「なんか言った?」

 

「いや。」

 

「何でもない。」

 

ケンがぽつり。

 

「女って怖ぇ。」

 

その一言で、

 

全員吹き出した。

 

 

 

-帰る場所-

 

 

 

宿へ戻る。

 

子どもにギャングは追い払ったことを告げる。

 

母親は何度も頭を下げていた。

 

「ありがとうございます。」

 

「本当に……。」

 

レイカは視線を逸らしたまま言う。

 

「礼はいらん。」

 

「店は明日から改装に入る。」

 

「営業許可証も取った。」

 

「事務手続きも終わってる。」

 

「……改装が終われば返す。」

 

母親は驚いていた。

 

「そんな……。」

 

ダイフクーが目を丸くする。

 

「いつの間に!?」

 

「昨日。」

 

「お前らが飯食ってる間。」

 

ブリトーが笑う。

 

「さすが。」

 

「抜かりないね。」

 

レイカは肩をすくめる。

 

「改装が終わるまで。」

 

「宿はここを使え。」

 

「飯もある。」

 

「子供たちも安心して眠れるだろ。」

 

「金は気にするな。」

 

母親は涙を流しながら頷いた。

 

「はい……!」

 

子供たちも笑顔になる。

 

ケンは胸を張る。

 

「お兄ちゃんすげぇ!」

 

レイカは即答する。

 

「うるさい。」

 

ユリが笑う。

 

「照れてる。」

 

「うるさい。」

 

ドロップも笑う。

 

「今日は負けね。」

 

「うるさい。」

 

その光景を見たウインナーは、

 

小さく微笑んだ。

 

「やっぱり。」

 

「レイカは優しいね。」

 

夜風が宿を包む。

 

静かな夜。

 

親子は久しぶりに穏やかに眠った。

 

 

 

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