-氷狐の夜-
-助けを求める少年-
大会を終えた一行は宿へ戻っていた。
ダイフクーは大きく伸びをする。
「いやぁー!」
「今日はよく寝れそうだ!」
ブリトーが笑う。
「予選で戦ってないのに?」
「いじってくんな!」
その時だった。
ドンドンッ!!
宿の扉が激しく叩かれる。
「誰だろう?」
ウインナーが扉を開ける。
そこには――
以前助けた食堂の男の子が立っていた。
服は泥だらけ。
頬には殴られた跡。
息も絶え絶えだった。
「お願い……!」
「助けて!!」
全員の空気が変わる。
「お母さんが……!」
「ギャングに捕まった!」
「店も全部取られちゃった!」
「今……!」
「あいつらのたまり場になってる!」
ダイフクーは勢いよく立ち上がる。
「なんだと!?」
「今すぐ行くぞ!!」
しかし、
ドロップが腕を掴んだ。
「待って!」
「大会中よ!」
「ここで騒ぎになったら失格になるかもしれない!」
ダイフクーは歯を食いしばる。
「じゃあ見捨てろって言うのか!」
部屋が静まり返る。
その時。
ユリが静かに立ち上がった。
「……方法はある。」
-氷狐-
ユリはレイカを見る。
「昔。」
「賞金首だった頃。」
「私たちがよく使ってた方法。」
レイカは頭を抱えた。
「……おい。」
「やめろ。」
ユリは笑う。
「悠長なこと言ってる暇はないでしょ。」
シャーベットが興味深そうに聞く。
「何をする?」
ユリは言った。
「変装。」
「向こうがギャングなら。」
「こっちはマフィア。」
レイカ以外はきょとんとした顔になる。
「どういうこと……?」
レイカは深いため息。
「……仕方ない。」
「着替えたらわかる。」
「ほら。」
「男ども。」
「服を持っていけ。」
「早く。」
十分後。
部屋から出てきた一同は、
まるで別人だった。
黒いスーツ。
黒いシャツ。
青いネクタイ。
ユリは全員へ氷で狐のお面を作る。
純白の真っ白な狐。
見る者を威圧するほど美しい。
「完成。」
ユリが満足そうに頷く。
「ユリさんもおちゃめなところあるのね。」
ケンは鏡を見て大喜び。
「かっけぇぇぇ!!」
「俺悪役じゃん!」
レイカは即答する。
「いや。」
「ただのガキだ。」
「えーー!?」
ブリトーは袖が指先まで隠れていた。
「ぶかぶかなんだけど。」
「仕方ない。」
レイカは淡々と言う。
「お前が小さいんだ。」
ダイフクーは自分を見る。
ネクタイ。
狐面。
以上。
「…………。」
「俺だけ服ねぇ!!」
レイカは真顔だった。
「規格外だからな。」
「服を着たいんだったら。」
「手足縮めろ。」
「そんな理由あるか!!」
部屋中が笑いに包まれた。
ドロップもユリの黒い服へ着替えていた。
普段とは違う大人びた雰囲気。
ウインナーが少し見惚れる。
「……似合ってる。」
「ありがとう。」
ドロップが少し照れる。
ユリは帽子を深く被る。
「行きましょう。」
レイカが煙草へ火をつけた。
「……さっさと終わらせる。」
-マフィア襲来-
夜。
食堂。
酒瓶。
笑い声。
怒号。
完全に無法地帯だった。
カラン。
扉が開く。
全員が無言で入る。
店内が静まり返る。
ギャングが笑う。
「今日は貸切なんだけど?」
「帰んな。」
誰も返事をしない。
レイカだけが一歩前へ。
営業許可証を机へ置く。
「……今日から。」
「ここは俺たちの店だ。」
ギャング達は吹き出した。
「誰が決めた!」
レイカが静かに答える。
「俺だ。」
「退場してもらうぞ。」
空気が凍る。
ユリが前へ出る。
右手を上げる。
「氷華流。」
「奥義。」
「絶対零度。」
一瞬。
ボスの周り以外。
全員。
氷像になった。
酒を飲んだ姿勢のまま。
笑った顔のまま。
完全停止。
「な……。」
「何者だ!」
レイカは煙草を使われていた灰皿へ押し付ける。
「……その辺のマフィアだ。」
その一言だった。
残っていた数人が襲いかかる。
風。
雷。
拳。
蹴り。
刀。
五秒。
それだけだった。
全員床に転がる。
「ひぃ!」
「逃げろ!」
一斉に逃げ出した。
残ったのはボスだけ。
-女を甘く見るな-
「使えねぇぇなああ!!」
ボスは母親を引きずり出す。
首へ刃物。
「近付いたら殺す!」
「女なんざ人質にしときゃ十分だ!」
「少し脅せばお金も払う。」
「お金が払えねえなら身体で払わせーー!」
その瞬間だった。
母親が消える。
「え?」
気付けば。
ユリが支えていた。
「女だからって。」
「舐めないことね。」
ボスが驚く暇もない。
ドロップが目前へ。
「あと。」
「女を馬鹿にしたわね。」
「あんたみたいなゴミ男。」
「再起不能にして。」
「ペシャンコにして捨ててあげる!」
バキッ!!ドゴォォッ!!
金的部分に、全力で上段蹴り。
からの回し蹴り。
ボスは天井近くまで吹き飛ぶ。
そのまま泡を吹いて失神。
ダイフクーがヒュッとした顔で呟いた。
「ありゃ……。」
「ご愁傷さま。」
シャーベットも頷く。
「女性を怒らせた。」
「当然の結果だ。」
レイカは煙草を咥え直し、
ウインナーを見る。
「……お前。」
「怒らせるなよ。」
ウインナーは苦笑した。
「うん。……善処する。」
ドロップが振り返る。
「なんか言った?」
「いや。」
「何でもない。」
ケンがぽつり。
「女って怖ぇ。」
その一言で、
全員吹き出した。
-帰る場所-
宿へ戻る。
子どもにギャングは追い払ったことを告げる。
母親は何度も頭を下げていた。
「ありがとうございます。」
「本当に……。」
レイカは視線を逸らしたまま言う。
「礼はいらん。」
「店は明日から改装に入る。」
「営業許可証も取った。」
「事務手続きも終わってる。」
「……改装が終われば返す。」
母親は驚いていた。
「そんな……。」
ダイフクーが目を丸くする。
「いつの間に!?」
「昨日。」
「お前らが飯食ってる間。」
ブリトーが笑う。
「さすが。」
「抜かりないね。」
レイカは肩をすくめる。
「改装が終わるまで。」
「宿はここを使え。」
「飯もある。」
「子供たちも安心して眠れるだろ。」
「金は気にするな。」
母親は涙を流しながら頷いた。
「はい……!」
子供たちも笑顔になる。
ケンは胸を張る。
「お兄ちゃんすげぇ!」
レイカは即答する。
「うるさい。」
ユリが笑う。
「照れてる。」
「うるさい。」
ドロップも笑う。
「今日は負けね。」
「うるさい。」
その光景を見たウインナーは、
小さく微笑んだ。
「やっぱり。」
「レイカは優しいね。」
夜風が宿を包む。
静かな夜。
親子は久しぶりに穏やかに眠った。