-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第四十二章

 

 

 

-強者の証明-

 

 

 

-賑やかな朝-

 

 

 

朝日が宿の窓から差し込む。

 

昨日まで静かだった宿は、

 

子供たちの笑い声で満ちていた。

 

「お兄ちゃーん!」

 

「朝ご飯できたよ!」

 

「ケン!早く起きろー!」

 

「起きてるー!」

 

ドタドタと廊下を走る足音。

 

ダイフクーは苦笑する。

 

「昨日まで静かだったのによ。」

 

ブリトーも笑った。

 

「賑やかな方が落ち着くよ。」

 

食堂では母親が忙しそうに料理を運んでいる。

 

「皆さん、本当にありがとうございます。」

 

「おかげで子供たちも安心して眠れました。」

 

レイカはコーヒーを飲みながら小さく頷く。

 

「……気にするな。」

 

そこへ子供が駆け寄る。

 

「レイカお兄ちゃん!」

 

「遊ぼ!」

 

「……今は無理だ。」

 

「大会。」

 

「終わったらな。」

 

「約束だ。」

 

子供は満面の笑み。

 

「うん!」

 

ユリが微笑む。

 

「ちゃんと約束するのね。」

 

レイカは目を逸らす。

 

「……からかうな。」

 

ドロップが笑う。

 

「もう完全にお兄ちゃんじゃない。」

 

ウインナーも笑みを浮かべた。

 

「ふふっ。」

 

「レイカらしいね。」

 

その穏やかな時間は、

 

闘技場へ向かう鐘の音で終わりを告げた。

 

 

 

-レイカ VS コリー-

 

 

 

 

「男子トーナメント準決勝!」

 

「第一試合!」

 

「レイカ選手!」

 

「対!」

 

「コリー選手!」

 

 

歓声が闘技場を揺らす。

 

コリーは細身の青年。

 

両手には何も持っていない。

 

しかし、

 

無数の短剣が宙に浮かんでいた。

 

「念動力だったな。」

 

レイカは静かに笑う。

 

「面白い。」

 

コリーも笑みを返す。

 

「君の炎も気になるな。」

 

「どういう仕組みで使ってるんだい?」

 

レイカは煙草を外し、

 

静かに構えた。

 

「俺も聞きたい。」

 

「お前はどうやって動かしている?」

 

コリーは肩をすくめる。

 

「勝ったら教えてあげる。」

 

レイカは小さく笑った。

 

「……ほう。」

 

「じゃあ。」

 

「教えてもらうぞ。」

 

「え?」

 

 

試合開始。

 

 

コリーが短剣を放とうとした瞬間――

 

レイカの姿が消えた。

 

観客席がざわめく。

 

「どこだ!?」

 

次の瞬間。

 

レイカは既にコリーの背後に立っていた。

 

刀は抜いていない。

 

そのまま歩き始める。

 

コリーは首を傾げた。

 

「……?」

 

「何もしてな……」

 

ドゴッ!

 

腹部が突然凹む。

 

一撃。

 

二撃。

 

三撃。

 

四撃。

 

五撃。

 

遅れて全ての衝撃が一気に襲う。

 

「がはっ!!」

 

コリーは膝をつく。

 

さらに衝撃が身体を貫く。

 

そのまま倒れ込んだ。

 

 

「テン!」

 

「勝者!」

 

「レイカ選手!」

 

 

観客席は静まり返る。

 

「あれ……。」

 

「何した?」

 

「見えなかった……。」

 

ダイフクーが笑う。

 

「相変わらず意味わかんねぇ。」

 

ウインナーは真剣な表情だった。

 

「拳だけ。」

 

「しかも急所を避けている。」

 

「恐ろしいなレイカは。」

 

「いやいや、見えてるお前もすごいぞ!」

 

レイカは倒れたコリーの横へしゃがむ。

 

「目を覚ましたら。」

 

「ゆっくり聞かせてもらおう。」

 

「その力のこと。」

 

コリーは気を失いながらも、

 

少しだけ笑っていた。

 

 

 

-ウインナー VS X-

 

 

 

「第二試合!」

 

「ウインナー選手!」

 

「対!」

 

「X選手!」

 

 

静かな空気が流れる。

 

Xは微笑んだ。

 

以前とは雰囲気がかなり違う。

 

「やあやあ。」

 

「君は風を操る子だったね。」

 

ウインナーは首を傾げる。

 

「……そんな話し方だった?」

 

「『人間』を覚えてみたんだ。」

 

「変かな?」

 

「いや。」

 

「不思議だ。」

 

「何が?」

 

ウインナーは真っ直ぐ見つめる。

 

 

「君。」

 

「空っぽみたい。」

 

 

その一言で、

 

観客席まで静まり返る。

 

Xは少し考え込む。

 

「空っぽ。」

 

「なるほど。」

 

「記録。」

 

「むしろパンパンなはずだが……。」

 

「……まあいい。」

 

「始めよう。」

 

 

開始。

 

 

Xが一気に踏み込む。

 

拳。

 

蹴り。

 

肘。

 

関節技。

 

昨日見せたあらゆる武術。

 

まるで達人が次々と入れ替わるようだった。

 

しかし。

 

当たらない。

 

風が先に動く。

 

ウインナーの身体は自然に避け続ける。

 

「速い……。」

 

「見えない!」

 

観客席から声が漏れる。

 

Xは静かに呟いた。

 

「相性。」

 

「悪い。」

 

「なら。」

 

「これはどうだろう。」

 

「アイスブレイク。」

 

氷柱が地面を裂く。

 

「!?」

 

ウインナーが驚く。

 

「シャーベットの技!」

 

わずかに体勢を崩す。

 

Xは即座に踏み込む。

 

「適正。」

 

「追撃。」

 

しかし、

 

風が先に反応した。

 

ウインナーが笑う。

 

「……させない!」

 

「風のエチュード!」

 

暴風がXを吹き飛ばす。

 

Xは空中で体勢を整え着地する。

 

「なるほど。」

 

「学習。」

 

「次は。」

 

「君と同じ風を……。」

 

しかし。

 

そのまま止まった。

 

「……?」

 

「何故。」

 

「出来ない。」

 

「風。」

 

「再現不可能。」

 

「学習不可能。」

 

ウインナーは困惑する。

 

「どういうこと?」

 

Xは目を閉じる。

 

「解析。」

 

「開始。」

 

数秒。

 

静寂。

 

そして目を開く。

 

 

「解析終了。」

 

 

「降参。」

 

 

司会も観客も固まる。

 

「え?」

 

「なぜ?」

 

Xは真剣な顔で答えた。

 

「君の風は。」

 

「何故か分析出来ない。」

 

「模範出来ない。」

 

「今。」

 

「この謎を解く方が。」

 

「大会より重要。」

 

そう言うと、

 

Xは一人ぶつぶつと呟きながら退場していく。

 

 

「風。」

 

「意思。」

 

「生命。」

 

「加護。」

 

「学習しなければ……。」

 

 

静まり返る闘技場。

 

ウインナーはその背中を見つめながら、

 

小さく呟いた。

 

「……君は、一体何者なんだ。」

 

その答えを知る者は、

 

まだ誰もいなかった――。

 

 

 

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