-雪華の剣舞-
-準決勝開幕-
翌日。
闘技場は朝から満員だった。
昨日の男子準決勝が大きな話題となり、
観客席は熱気に包まれている。
司会者が高らかに声を上げた。
「皆様、お待たせいたしました!」
「本日は女子トーナメント準決勝!」
巨大な掲示板に組み合わせが映し出される。
第一試合
ドロップ VS シュリンプ
第二試合
ユリ VS クロワ
司会はさらに続ける。
「なお、明日の決勝戦では男子決勝も行われます!」
「男子決勝カードは――」
レイカ VS ウインナー
会場が一気にどよめく。
「仲間同士だ!」
「どっちが勝つんだ!」
「昨日のレイカも化け物だったぞ!」
「ウインナーも風が速すぎる!」
「おい!どっちにかける!?」
ダイフクーは豪快に笑った。
「あいつら、もう決勝の話かよ!」
ケンはレイカを見上げる。
「お兄ちゃん勝つよね!」
レイカは煙草を咥えながら淡々と答えた。
「……まだ先だ。」
「まずはあいつらだ。」
視線は静かにドロップとユリへ向く。
二人は静かに頷いた。
-ドロップ VS シュリンプ-
控室。
ドロップは深呼吸を繰り返していた。
両手を握ったり開いたりする。
ユリが横へ座る。
「……緊張?」
ドロップは苦笑した。
「少しだけ。」
「負けたくないなって。」
ユリは優しく笑う。
「それでいい。」
「緊張は悪いものじゃない。」
「身体が本気だって教えてくれるものだから。」
そこへレイカが現れる。
「……負けても死なん。」
ドロップは笑う。
「それ慰め?」
「応援だ。」
「分かりにくい!」
皆が笑った。
その空気だけで肩の力が抜ける。
「ありがとう。」
ドロップは大きく息を吸った。
「行ってきます!」
闘技場。
シュリンプは静かに礼をした。
「よろしく。」
「よろしく!」
開始の鐘が鳴る。
ドロップが一直線に飛び出す。
拳。
蹴り。
肘。
昨日までとは違う。
ユリから教わった体術が、
自然と身体へ溶け込んでいる。
しかし。
シュリンプは一歩も動かない。
「流れる。」
触れた瞬間。
拳の軌道が逸れる。
「えっ!」
体勢が崩れる。
だがドロップも学んでいた。
その勢いを逆に利用し、
回転蹴りへ繋ぐ。
シュリンプは笑う。
「反応がいい。」
「ありがとう!」
二人は笑いながら激突する。
ドンッ!!
ドドドドッ!!
拳が交差する。
蹴りが交差する。
どちらも決定打にならない。
観客席は静まり返っていた。
まるで二人の舞を見ているようだった。
レイカが小さく呟く。
「……ほう。」
ユリも頷く。
「昨日より確実に強い。」
二人の攻防は二十分近く続いた。
汗が地面へ落ちる。
呼吸も荒い。
シュリンプが構え直す。
「最後。」
「いくよ。」
ドロップも笑った。
「私も!」
同時に踏み込む。
互いに拳を放つ。
その瞬間。
シュリンプが半歩だけ身体を回した。
「流転。」
ドロップの力をそのまま返す。
「あっ!」
身体が大きく流される。
勢いのまま場外へ。
ドサッ。
「テン!」
「勝者!」
「シュリンプ選手!」
歓声が響く。
ドロップは悔しそうに空を見上げた。
「負けたぁ……。」
シュリンプが手を差し伸べる。
「あなた。」
「強くなる。」
「まだ伸びる。」
ドロップはその手を握る。
「ありがとう。」
「次は負けないから。」
シュリンプは笑った。
「楽しみにしてる。」
観客席。
ユリは静かに拍手していた。
ドロップが戻る。
「ごめんなさい。」
ユリは頭を撫でる。
「謝らない。」
「いい試合だった。」
「本当に成長した。」
ドロップは少し涙ぐむ。
「もっと。」
「もっと強くなる。」
「ええ。」
「一緒にね。」
-氷華の剣舞-
「第二試合!」
「ユリ選手!」
「対!」
「クロワ選手!」
会場が静まり返る。
クロワは細身の女性剣士。
腰の剣へ手を添える。
「……剣には剣を。」
「そうよね?レイカ。」
ユリは右手を前へ出した。
冷気が集まる。
氷が形を変える。
透き通る一振りの剣。
「綺麗……。」
観客席から自然と声が漏れた。
開始。
「参る。」
キィン!!
澄んだ音が会場へ響く。
剣と剣。
一切無駄がない。
クロワは速い。
鋭い。
しかしユリはさらに滑らかだった。
舞うように。
踊るように。
一歩。
また一歩。
雪が舞う。
霜が床を覆う。
二人が歩いた軌跡には、
白い花が咲いたようだった。
誰も声を出せない。
ただ見惚れている。
クロワが笑う。
「……お強いですね。」
「久しぶりにこんな強い方と戦いました。」
ユリも穏やかに微笑んだ。
「……私の剣の師匠は。」
「もっと強いもの。」
観客席。
ダイフクーがレイカを見る。
「褒められてるぞ。」
レイカは煙草を咥え直す。
「……誰だろうな。」
ユリは聞こえていたらしく笑う。
「相変わらず素直じゃない。」
レイカは目を逸らした。
「口数が増えたな。」
「あなたのおかげ。」
そのやり取りに仲間たちも笑う。
「……お話はそろそろいいですか。」
試合は最終局面。
クロワが剣を静かに構えた。
「次で終わりにします。」
「終型――残穢。」
空気が張り詰める。
刀を収める。
ユリも静かに目を閉じる。
「氷華流。」
「如月。」
二人が同時に駆けた。
一閃。
交差。
静寂。
その瞬間。
ユリの斬撃が空へ舞い、
雪の花が無数に咲き誇った。
まるで冬の夜空へ、
花火が咲いたような幻想的な景色。
クロワの剣がゆっくり砕ける。
「……綺麗だ。」
その一言を残し、
静かに倒れた。
「……テン!」
司会が叫ぶ。
「勝者!」
「ユリ選手!!」
今大会一番と言ってもいいほどの拍手が巻き起こる。
戦いではなく、
一つの芸術を見届けたような拍手だった。
-決勝へ-
夕暮れ。
宿へ戻る道。
ドロップは少し悔しそうに笑う。
「ユリさん。」
「次は絶対勝つから。」
ユリは微笑んだ。
「ええ。」
「あなたなら勝てる。」
ウインナーも笑う。
「今日は二人とも格好良かった。」
レイカは静かに前を歩きながら言う。
「……明日。」
「男子も女子も決勝だ。」
「全力で来い。」
ウインナーは隣へ並ぶ。
「もちろん。」
「手加減はなし。」
「最初からそのつもりだ。」
二人は笑う。
風が静かに吹き抜ける。
それは決勝戦を待ち望むように、
優しく仲間たちの背中を押していた――。