-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第四十三章

 

 

 

-雪華の剣舞-

 

 

 

-準決勝開幕-

 

 

 

翌日。

 

闘技場は朝から満員だった。

 

昨日の男子準決勝が大きな話題となり、

 

観客席は熱気に包まれている。

 

司会者が高らかに声を上げた。

 

 

「皆様、お待たせいたしました!」

 

「本日は女子トーナメント準決勝!」

 

 

巨大な掲示板に組み合わせが映し出される。

 

 

第一試合

 

ドロップ VS シュリンプ

 

第二試合

 

ユリ VS クロワ

 

 

司会はさらに続ける。

 

 

「なお、明日の決勝戦では男子決勝も行われます!」

 

「男子決勝カードは――」

 

 

レイカ VS ウインナー

 

 

会場が一気にどよめく。

 

「仲間同士だ!」

 

「どっちが勝つんだ!」

 

「昨日のレイカも化け物だったぞ!」

 

「ウインナーも風が速すぎる!」

 

「おい!どっちにかける!?」

 

ダイフクーは豪快に笑った。

 

「あいつら、もう決勝の話かよ!」

 

ケンはレイカを見上げる。

 

「お兄ちゃん勝つよね!」

 

レイカは煙草を咥えながら淡々と答えた。

 

「……まだ先だ。」

 

「まずはあいつらだ。」

 

視線は静かにドロップとユリへ向く。

 

二人は静かに頷いた。

 

 

 

-ドロップ VS シュリンプ-

 

 

 

控室。

 

ドロップは深呼吸を繰り返していた。

 

両手を握ったり開いたりする。

 

ユリが横へ座る。

 

「……緊張?」

 

ドロップは苦笑した。

 

「少しだけ。」

 

「負けたくないなって。」

 

ユリは優しく笑う。

 

「それでいい。」

 

「緊張は悪いものじゃない。」

 

「身体が本気だって教えてくれるものだから。」

 

そこへレイカが現れる。

 

「……負けても死なん。」

 

ドロップは笑う。

 

「それ慰め?」

 

「応援だ。」

 

「分かりにくい!」

 

皆が笑った。

 

その空気だけで肩の力が抜ける。

 

「ありがとう。」

 

ドロップは大きく息を吸った。

 

 

「行ってきます!」

 

 

闘技場。

 

シュリンプは静かに礼をした。

 

「よろしく。」

 

「よろしく!」

 

開始の鐘が鳴る。

 

ドロップが一直線に飛び出す。

 

拳。

 

蹴り。

 

肘。

 

昨日までとは違う。

 

ユリから教わった体術が、

 

自然と身体へ溶け込んでいる。

 

しかし。

 

シュリンプは一歩も動かない。

 

「流れる。」

 

触れた瞬間。

 

拳の軌道が逸れる。

 

「えっ!」

 

体勢が崩れる。

 

だがドロップも学んでいた。

 

その勢いを逆に利用し、

 

回転蹴りへ繋ぐ。

 

シュリンプは笑う。

 

「反応がいい。」

 

「ありがとう!」

 

二人は笑いながら激突する。

 

ドンッ!!

 

ドドドドッ!!

 

拳が交差する。

 

蹴りが交差する。

 

どちらも決定打にならない。

 

観客席は静まり返っていた。

 

まるで二人の舞を見ているようだった。

 

レイカが小さく呟く。

 

「……ほう。」

 

ユリも頷く。

 

「昨日より確実に強い。」

 

二人の攻防は二十分近く続いた。

 

汗が地面へ落ちる。

 

呼吸も荒い。

 

シュリンプが構え直す。

 

「最後。」

 

「いくよ。」

 

ドロップも笑った。

 

「私も!」

 

同時に踏み込む。

 

互いに拳を放つ。

 

その瞬間。

 

シュリンプが半歩だけ身体を回した。

 

「流転。」

 

ドロップの力をそのまま返す。

 

「あっ!」

 

身体が大きく流される。

 

勢いのまま場外へ。

 

ドサッ。

 

 

「テン!」

 

「勝者!」

 

「シュリンプ選手!」

 

 

歓声が響く。

 

ドロップは悔しそうに空を見上げた。

 

「負けたぁ……。」

 

シュリンプが手を差し伸べる。

 

「あなた。」

 

「強くなる。」

 

「まだ伸びる。」

 

ドロップはその手を握る。

 

「ありがとう。」

 

「次は負けないから。」

 

シュリンプは笑った。

 

「楽しみにしてる。」

 

観客席。

 

ユリは静かに拍手していた。

 

ドロップが戻る。

 

「ごめんなさい。」

 

ユリは頭を撫でる。

 

「謝らない。」

 

「いい試合だった。」

 

「本当に成長した。」

 

ドロップは少し涙ぐむ。

 

「もっと。」

 

「もっと強くなる。」

 

「ええ。」

 

「一緒にね。」

 

 

 

-氷華の剣舞-

 

 

 

「第二試合!」

 

「ユリ選手!」

 

「対!」

 

「クロワ選手!」

 

 

会場が静まり返る。

 

クロワは細身の女性剣士。

 

腰の剣へ手を添える。

 

 

「……剣には剣を。」

 

「そうよね?レイカ。」

 

 

ユリは右手を前へ出した。

 

冷気が集まる。

 

氷が形を変える。

 

透き通る一振りの剣。

 

「綺麗……。」

 

観客席から自然と声が漏れた。

 

 

開始。

 

 

「参る。」

 

 

キィン!!

 

 

澄んだ音が会場へ響く。

 

剣と剣。

 

一切無駄がない。

 

クロワは速い。

 

鋭い。

 

しかしユリはさらに滑らかだった。

 

舞うように。

 

踊るように。

 

一歩。

 

また一歩。

 

雪が舞う。

 

霜が床を覆う。

 

二人が歩いた軌跡には、

 

白い花が咲いたようだった。

 

誰も声を出せない。

 

ただ見惚れている。

 

クロワが笑う。

 

「……お強いですね。」

 

「久しぶりにこんな強い方と戦いました。」

 

ユリも穏やかに微笑んだ。

 

 

「……私の剣の師匠は。」

 

「もっと強いもの。」

 

 

観客席。

 

ダイフクーがレイカを見る。

 

「褒められてるぞ。」

 

レイカは煙草を咥え直す。

 

「……誰だろうな。」

 

ユリは聞こえていたらしく笑う。

 

「相変わらず素直じゃない。」

 

レイカは目を逸らした。

 

「口数が増えたな。」

 

「あなたのおかげ。」

 

そのやり取りに仲間たちも笑う。

 

 

「……お話はそろそろいいですか。」

 

 

試合は最終局面。

 

クロワが剣を静かに構えた。

 

 

「次で終わりにします。」

 

「終型――残穢。」

 

 

空気が張り詰める。

 

刀を収める。

 

ユリも静かに目を閉じる。

 

 

「氷華流。」

 

「如月。」

 

 

二人が同時に駆けた。

 

一閃。

 

交差。

 

静寂。

 

その瞬間。

 

ユリの斬撃が空へ舞い、

 

雪の花が無数に咲き誇った。

 

まるで冬の夜空へ、

 

花火が咲いたような幻想的な景色。

 

クロワの剣がゆっくり砕ける。

 

「……綺麗だ。」

 

その一言を残し、

 

静かに倒れた。

 

 

「……テン!」

 

 

司会が叫ぶ。

 

 

「勝者!」

 

「ユリ選手!!」

 

 

今大会一番と言ってもいいほどの拍手が巻き起こる。

 

戦いではなく、

 

一つの芸術を見届けたような拍手だった。

 

 

 

-決勝へ-

 

夕暮れ。

 

宿へ戻る道。

 

ドロップは少し悔しそうに笑う。

 

「ユリさん。」

 

「次は絶対勝つから。」

 

ユリは微笑んだ。

 

「ええ。」

 

「あなたなら勝てる。」

 

ウインナーも笑う。

 

「今日は二人とも格好良かった。」

 

レイカは静かに前を歩きながら言う。

 

「……明日。」

 

「男子も女子も決勝だ。」

 

「全力で来い。」

 

ウインナーは隣へ並ぶ。

 

「もちろん。」

 

「手加減はなし。」

 

「最初からそのつもりだ。」

 

二人は笑う。

 

風が静かに吹き抜ける。

 

それは決勝戦を待ち望むように、

 

優しく仲間たちの背中を押していた――。

 

 

 

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