-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第四十四章~後半~

 

 

 

-風と炎の決勝戦-

 

 

 

-届かなかった背中-

 

 

 

バキッ――。

 

 

 

乾いた音が闘技場に響く。

 

透明だった風の球体に、一筋の亀裂が走る。

 

「……!」

 

ウインナーが息を呑む。

 

その亀裂は一本では終わらなかった。

 

二本。

 

三本。

 

無数の亀裂が球体全体へ広がっていく。

 

風が悲鳴を上げるように震えた。

 

そして――

 

 

ドォォォォン!!

 

 

球体は内側から弾け飛んだ。

 

猛烈な突風が闘技場全体を飲み込む。

 

観客席まで風が吹き抜け、旗が大きくはためく。

 

煙が晴れていく。

 

その中心には――

 

 

 

レイカが立っていた。

 

 

 

服は裂け、腕や頬には、

 

細かな切り傷が無数に走っている。

 

だが、その両足は微動だにしていない。

 

静かに、真っ直ぐ。

 

ウインナーを見据えていた。

 

「……むちゃくちゃすぎる。」

 

思わず漏れた言葉。

 

レイカは肩を軽く回した。

 

 

「……悪くない技だった。」

 

「命と引き換えに放つ技、だったか。」

 

「俺じゃなかったら。」

 

「やられていたかもな。」

 

「……強くなったな。本当に。」

 

 

その一言が、ウインナーの胸へ深く刺さる。

 

認められた。

 

憧れ続けた人に。

 

 

「……ありがとう。」

 

 

ウインナーは静かに拳を握る。

 

まだ終わっていない。

 

ここからだ。

 

レイカは一歩踏み出した。

 

「次は俺だ。」

 

 

その瞬間。

 

姿が消える。

 

「っ!」

 

ウインナーの風が叫ぶ。

 

右。

 

違う。

 

左。

 

違う。

 

上。

 

 

「後ろ!」

 

 

風が知らせた瞬間。

 

レイカの拳がもう目の前にあった。

 

ウインナーは咄嗟に腕で受ける。

 

 

ドゴッ!!

 

 

衝撃。

 

身体が数メートル吹き飛ぶ。

 

しかし、倒れない。

 

「まだ反応出来るのか。」

 

風が背中を支えた。

 

「まだ……!」

 

風を纏い、一気に踏み込む。

 

拳。

 

蹴り。

 

肘。

 

膝。

 

ありったけの体術を叩き込む。

 

レイカはそれを真正面から受け止める。

 

拳と拳がぶつかるたび、

 

乾いた音が闘技場へ響く。

 

 

ドドドドドドッ!!

 

 

観客席が総立ちになる。

 

 

「すげぇ!」

 

「どっちも人間じゃねぇ!」

 

 

ダイフクーが叫ぶ。

 

「行けぇぇぇ!!」

 

ケンも拳を振り上げる。

 

「ウインナー兄!!」

 

「お兄ちゃん!!」

 

どちらを応援しているのか、自分でも分からない。

 

ただ、二人とも勝ってほしい。

 

そんな気持ちだった。

 

ドロップは胸の前で両手を組んでいた。

 

 

「お願い……。」

 

「怪我だけは……。」

 

 

ユリも珍しく肩へ力が入っている。

 

 

「二人とも。」

 

「無茶だけはしないで……。」

 

 

ブリトーは静かに呟く。

 

 

「これが。」

 

「本当の強さ。」

 

 

シャーベットも頷いた。

 

 

「技だけでは辿り着けない領域だ。」

 

 

 

-決着-

 

 

 

ウインナーの呼吸が荒くなる。

 

風はまだ応えてくれる。

 

だが、身体が追いつかない。

 

レイカは分かっていた。

 

限界が近いことを。

 

 

「……終わりだ。」

 

 

静かな声だった。

 

レイカは大きく踏み込む。

 

ウインナーも迎え撃つ。

 

互いに拳を振り抜く。

 

その刹那。

 

レイカは身体を半歩だけ沈めた。

 

ウインナーの拳が肩を掠める。

 

そして。

 

「っ……!」

 

レイカの右拳が。

 

一直線に。

 

ウインナーの腹部へ突き刺さった。

 

 

 

ドゴォォォォン!!

 

 

 

ウインナーの身体が一直線に吹き飛ぶ。

 

壁へ激突。

 

土煙が舞う。

 

静寂。

 

誰も声を出せない。

 

煙が晴れる。

 

ウインナーは、

 

壁にもたれながら座り込んでいた。

 

何度も立とうとする。

 

膝が震える。

 

立てない。

 

司会が叫ぶ。

 

 

「テン!」

 

「勝者!」

 

「レイカ選手!!」

 

 

闘技場が揺れるほどの歓声。

 

拍手。

 

歓声。

 

口笛。

 

誰もが立ち上がっていた。

 

 

しかし。

 

レイカは歓声には応えなかった。

 

静かにウインナーの元へ歩いていく。

 

煙草も吸わない。

 

何も言わない。

 

そして。

 

右手を差し出した。

 

 

「……立てるか。」

 

 

その一言だけだった。

 

ウインナーは少しだけ笑う。

 

悔しい。

 

届かなかった。

 

でも。

 

楽しかった。

 

嬉しかった。

 

ゆっくりその手を掴む。

 

「……っ。」

 

「まだまだ届かなかったね。」

 

レイカはそのまま引き上げる。

 

「もっと。」

 

「追いかけてこい。」

 

「次も。」

 

「簡単には勝たせん。」

 

ウインナーは笑った。

 

「もちろん。」

 

「次は勝つ。」

 

 

二人が握手した瞬間――

 

闘技場を一陣の風が吹き抜けた。

 

 

その風は、二人を祝福するように優しく包み込む。

 

観客席は自然と総立ちになっていた。

 

誰一人として拍手を止めない。

 

ダイフクーは大笑いしていた。

 

「最高じゃねぇか!!」

 

ケンは目を輝かせる。

 

「俺も!」

 

「絶対あそこまで行く!!」

 

シャーベットは静かに微笑む。

 

「……素晴らしい試合だった。」

 

ブリトーは拳を握る。

 

「負けていられない。」

 

ドロップは涙ぐみながら拍手を続けていた。

 

「お疲れ様。」

 

「本当に。」

 

「かっこよかった。」

 

ユリも穏やかに微笑む。

 

「ええ。」

 

「二人とも。」

 

「誇らしいわ。」

 

 

司会者の声が、歓声の中で響く。

 

 

「これにて男子決勝終了!」

 

 

 

「優勝者――レイカ選手!!」

 

「準優勝――ウインナー選手!!」

 

 

 

レイカは静かに優勝杯を受け取る。

 

そのまま隣に立つウインナーへ視線を向ける。

 

 

「……半分持つか?」

 

ウインナーは吹き出した。

 

「そんな優勝杯ある?」

 

レイカは小さく笑う。

 

「ないな。」

 

その何気ないやり取りに、

 

観客席からも笑いが起こる。

 

笑顔と拍手に包まれながら、

 

二人は並んで表彰台へ立つ。

 

その姿は、勝者と敗者ではなかった。

 

互いを高め合い、認め合う――

 

最高のライバルだった。

 

そして誰も知らない。

 

この大会で得た強さが、

 

この先待ち受けるサラミッドとの戦いで、

 

仲間たちを救う大きな力になることを。

 

 

 

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