-風と炎の決勝戦-
-届かなかった背中-
バキッ――。
乾いた音が闘技場に響く。
透明だった風の球体に、一筋の亀裂が走る。
「……!」
ウインナーが息を呑む。
その亀裂は一本では終わらなかった。
二本。
三本。
無数の亀裂が球体全体へ広がっていく。
風が悲鳴を上げるように震えた。
そして――
ドォォォォン!!
球体は内側から弾け飛んだ。
猛烈な突風が闘技場全体を飲み込む。
観客席まで風が吹き抜け、旗が大きくはためく。
煙が晴れていく。
その中心には――
レイカが立っていた。
服は裂け、腕や頬には、
細かな切り傷が無数に走っている。
だが、その両足は微動だにしていない。
静かに、真っ直ぐ。
ウインナーを見据えていた。
「……むちゃくちゃすぎる。」
思わず漏れた言葉。
レイカは肩を軽く回した。
「……悪くない技だった。」
「命と引き換えに放つ技、だったか。」
「俺じゃなかったら。」
「やられていたかもな。」
「……強くなったな。本当に。」
その一言が、ウインナーの胸へ深く刺さる。
認められた。
憧れ続けた人に。
「……ありがとう。」
ウインナーは静かに拳を握る。
まだ終わっていない。
ここからだ。
レイカは一歩踏み出した。
「次は俺だ。」
その瞬間。
姿が消える。
「っ!」
ウインナーの風が叫ぶ。
右。
違う。
左。
違う。
上。
「後ろ!」
風が知らせた瞬間。
レイカの拳がもう目の前にあった。
ウインナーは咄嗟に腕で受ける。
ドゴッ!!
衝撃。
身体が数メートル吹き飛ぶ。
しかし、倒れない。
「まだ反応出来るのか。」
風が背中を支えた。
「まだ……!」
風を纏い、一気に踏み込む。
拳。
蹴り。
肘。
膝。
ありったけの体術を叩き込む。
レイカはそれを真正面から受け止める。
拳と拳がぶつかるたび、
乾いた音が闘技場へ響く。
ドドドドドドッ!!
観客席が総立ちになる。
「すげぇ!」
「どっちも人間じゃねぇ!」
ダイフクーが叫ぶ。
「行けぇぇぇ!!」
ケンも拳を振り上げる。
「ウインナー兄!!」
「お兄ちゃん!!」
どちらを応援しているのか、自分でも分からない。
ただ、二人とも勝ってほしい。
そんな気持ちだった。
ドロップは胸の前で両手を組んでいた。
「お願い……。」
「怪我だけは……。」
ユリも珍しく肩へ力が入っている。
「二人とも。」
「無茶だけはしないで……。」
ブリトーは静かに呟く。
「これが。」
「本当の強さ。」
シャーベットも頷いた。
「技だけでは辿り着けない領域だ。」
-決着-
ウインナーの呼吸が荒くなる。
風はまだ応えてくれる。
だが、身体が追いつかない。
レイカは分かっていた。
限界が近いことを。
「……終わりだ。」
静かな声だった。
レイカは大きく踏み込む。
ウインナーも迎え撃つ。
互いに拳を振り抜く。
その刹那。
レイカは身体を半歩だけ沈めた。
ウインナーの拳が肩を掠める。
そして。
「っ……!」
レイカの右拳が。
一直線に。
ウインナーの腹部へ突き刺さった。
ドゴォォォォン!!
ウインナーの身体が一直線に吹き飛ぶ。
壁へ激突。
土煙が舞う。
静寂。
誰も声を出せない。
煙が晴れる。
ウインナーは、
壁にもたれながら座り込んでいた。
何度も立とうとする。
膝が震える。
立てない。
司会が叫ぶ。
「テン!」
「勝者!」
「レイカ選手!!」
闘技場が揺れるほどの歓声。
拍手。
歓声。
口笛。
誰もが立ち上がっていた。
しかし。
レイカは歓声には応えなかった。
静かにウインナーの元へ歩いていく。
煙草も吸わない。
何も言わない。
そして。
右手を差し出した。
「……立てるか。」
その一言だけだった。
ウインナーは少しだけ笑う。
悔しい。
届かなかった。
でも。
楽しかった。
嬉しかった。
ゆっくりその手を掴む。
「……っ。」
「まだまだ届かなかったね。」
レイカはそのまま引き上げる。
「もっと。」
「追いかけてこい。」
「次も。」
「簡単には勝たせん。」
ウインナーは笑った。
「もちろん。」
「次は勝つ。」
二人が握手した瞬間――
闘技場を一陣の風が吹き抜けた。
その風は、二人を祝福するように優しく包み込む。
観客席は自然と総立ちになっていた。
誰一人として拍手を止めない。
ダイフクーは大笑いしていた。
「最高じゃねぇか!!」
ケンは目を輝かせる。
「俺も!」
「絶対あそこまで行く!!」
シャーベットは静かに微笑む。
「……素晴らしい試合だった。」
ブリトーは拳を握る。
「負けていられない。」
ドロップは涙ぐみながら拍手を続けていた。
「お疲れ様。」
「本当に。」
「かっこよかった。」
ユリも穏やかに微笑む。
「ええ。」
「二人とも。」
「誇らしいわ。」
司会者の声が、歓声の中で響く。
「これにて男子決勝終了!」
「優勝者――レイカ選手!!」
「準優勝――ウインナー選手!!」
レイカは静かに優勝杯を受け取る。
そのまま隣に立つウインナーへ視線を向ける。
「……半分持つか?」
ウインナーは吹き出した。
「そんな優勝杯ある?」
レイカは小さく笑う。
「ないな。」
その何気ないやり取りに、
観客席からも笑いが起こる。
笑顔と拍手に包まれながら、
二人は並んで表彰台へ立つ。
その姿は、勝者と敗者ではなかった。
互いを高め合い、認め合う――
最高のライバルだった。
そして誰も知らない。
この大会で得た強さが、
この先待ち受けるサラミッドとの戦いで、
仲間たちを救う大きな力になることを。