-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

5 / 90
第四章

 

 

 

ー仲間という名の風ー

 

 

 

朝の風は、どこか心地よかった。

 

気球船の甲板では、

 

ウインナーが一人で風を感じている。

 

目を閉じ、ゆっくりと息を吸う。

 

風が頬を撫で、背中を押す。

 

レイカから教わった感覚。

 

 

“ここだ”

 

 

感覚に任せ、風に乗る。

 

それを何度も繰り返していた。

 

「朝から熱心だな。」

 

後ろから声が聞こえる。

 

振り返ると、ブリトーが腕を組んで立っていた。

 

「修行でもしているのか。」

 

「うん。」

 

ウインナーは笑う。

 

「僕には守るものがあるからね。」

 

ブリトーはその言葉を聞きながら、

 

自分の左腕を見つめた。

 

そこには、外れることのない腕輪が光っている。

 

 

 

ー朝食を終えた後ー

 

 

 

気球船の広間の机に集まる。

 

一冊の古い本と、

 

ブリトーの腕と腕輪が並べられていた。

 

シャーベットが近づきながら腕輪を観察する。

 

「やっぱり不思議な作りだ。」

 

「継ぎ目もない。」

 

「無理やり外すこともできそうにないね。」

 

ダイフクーが腕を組む。

 

「結局これ、何なんだ?」

 

ブリトーは腕輪を見つめたまま首を振った。

 

「分からない。」

 

「気づいた時には付いてた。」

 

ウインナーは腕輪に刻まれた穴を指でなぞる。

 

禁貨が入りそうな形。

 

しかし今は空っぽだ。

 

通常の禁貨は入らない。

 

「特別な禁貨と関係してるのかな……。」

 

誰も答えられない。

 

静かな時間だけが流れた。

 

 

ー昼過ぎー

 

 

 

気球船は再び空へ舞い上がった。

 

次の目的地は、新たな遺跡。

 

ブリトーは窓から景色を眺めながら尋ねる。

 

 

「ウインナー。」

 

「どうしてそこまでしてくれるんだ?」

 

「僕は敵だった。」

 

「放っておけばいいのに何故だ。」

 

「……やっと名前で読んでくれたね。」

 

「……っ。質問に答えてくれ。」

 

 

問いに答えたのはダイフクーだった。

 

「困ってる奴を放っとく訳にはいかないだろ。」

 

「仲間探してるなら、一緒に探す。」

 

「それだけだ。」

 

ドロップも笑顔で頷く。

 

「そうそう!」

 

「一人よりみんなの方が楽しいもん!」

 

ブリトーは静かに俯いた。

 

 

「……これが仲間か。)」

 

 

今まで知らなかった感情だった。

 

胸の奥が少しだけ温かくなる。

 

 

ー夕方ー

 

 

 

遺跡近くの草原で休憩を取ることになった。

 

レイカは木陰に座り、煙草に火をつける。

 

その前へ、ブリトーが歩み出た。

 

 

「レイカ。」

 

 

「お願いがある。」

 

 

レイカは煙を吐きながら視線だけ向けた。

 

 

「ブリトーか。」

 

「手合わせしてほしい。」

 

「きっと君はすごく強い。」

 

「見てれば分かる。」

 

 

レイカは少しだけ空を見上げる。

 

「時間の無駄だ。」

 

その一言にブリトーは肩を落とす。

 

しかし。

 

 

「……はあ。一回だけだぞ。」

 

 

その返事に、ブリトーは表情を明るくした。

 

 

二人は向かい合う。

 

風が止む。

 

ブリトーは風を纏い、一気に飛び込んだ。

 

速い。

 

だが。

 

レイカは動かない。

 

拳が届く寸前。

 

姿が消えた。

 

 

「えっ!?」

 

 

背後。

 

 

「遅い。」

 

 

軽く足を払われる。

 

ブリトーは地面へ転がった。

 

「えっ……。」

 

レイカは煙草を灰に変え、風へ飛ばす。

 

「終わり。」

 

ブリトーは呆気にとられている。

 

「早すぎる……。」

 

レイカはウインナーへ目を向けた。

 

「ウインナー。」

 

「前出ろ。」

 

「え?」

 

レイカは静かに言う。

 

「ブリトー。」

 

「ウインナーに勝てないなら。」

 

「俺には絶対勝てない。」

 

ブリトーは目を見開いた。

 

 

「……君の風より、僕の風の方が強いはずだ!!」

 

 

「前へ出ろ!勝負だ。」

 

 

ウインナーは少し困ったように笑う。

 

「分かった。」

 

 

 

二人は向かい合った。

 

風が吹く。

 

ブリトーが腕を構える。

 

「ウィンディ――」

 

言い終わる前。

 

風が一瞬だけ舞った。

 

ウインナーの姿が消える。

 

「え?」

 

背後から声が聞こえた。

 

「ここだよ。」

 

振り向く暇もない。

 

体勢を崩され、そのまま地面へ転がった。

 

「うわっ!」

 

ブリトーは何が起きたか分からない。

 

風の技ではない。

 

体術だけだった。

 

ウインナーは静かに手を差し伸べる。

 

「大丈夫?」

 

ブリトーは呆然とその手を見る。

 

レイカは煙を吐きながら言った。

 

 

「自分を過剰評価するな。」

 

「相手を見ろ。」

 

「それじゃ勝てない。」

 

 

ブリトーはゆっくり立ち上がった。

 

また負けた。

 

悔しい。

 

それでも、不思議と嫌な気持ちはしなかった。

 

 

 

ー数日後ー

 

 

 

一行は新たな街へ到着した。

 

市場は多くの人で賑わい、笑い声が響いている。

 

ドロップは屋台へ走り、

 

ダイフクーは食べ歩きを始め、

 

シャーベットは古本屋へ吸い込まれていく。

 

レイカは煙草をくわえ、のんびり歩いていた。

 

その隣にはユリ。

 

穏やかな時間だった。

 

 

 

すると。

 

一人の黒髪の派手な女性がレイカの前へ立つ。

 

「ねぇ、お兄さん。」

 

「すごく格好いいね。」

 

「ちょっと一緒に遊ばない?」

 

レイカは煙草をくわえたまま答える。

 

 

「悪い。」

 

「興味ない。」

 

 

女性は笑いながら距離を詰めた。

 

「そんなこと言わずにさ。」

 

「ちょっとそこでお茶しようよ。」

 

そう言ってレイカの肩へ手を伸ばす。

 

 

その瞬間。

 

 

 

――パキン。

 

 

 

空気が凍った。

 

女性は、首から下が氷像になって固まっていた。

 

ユリは静かに手を下ろし、

 

いつもの柔らかな笑顔へ戻る。

 

 

「…行きましょう?」

 

 

レイカは額に手を当てた。

 

「やりすぎだ……。」

 

ダイフクーも苦笑する。

 

「女って怖いぜ……。」

 

その時だった。

 

 

後ろから大きな声が響く。

 

 

「……ラビィオリ!?」

 

 

ブリトーだった。

 

目を大きく見開き、

 

凍った女性を見つめている。

 

すると。

 

氷漬けのまま、女性は目だけを動かした。

 

そして驚いたように叫ぶ。

 

 

「……ブリトー!?」

 

 

その声に、ブリトーの表情が一変する。

 

 

「ラビィオリ!!」

 

 

街の喧騒の中。

 

まさかの再会。

 

止まっていた運命の歯車が、

 

静かに、再び動き始めようとしていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。