-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第四十六章

 

 

 

-笑顔が戻った街-

 

 

 

大会が終わって数日。

 

レイカたちは、もうしばらく街へ滞在していた。

 

ギャングに荒らされた店は改装工事が始まり、

 

街には久しぶりに活気が戻っている。

 

木材を運ぶ者。

 

壁を塗り直す者。

 

看板を作り直す者。

 

子どもたちは、

 

その周りを元気いっぱいに走り回っていた。

 

「しかし、不思議な話だよな。」

 

作業をしていた職人の一人が呟く。

 

「あれだけ好き放題してたギャングどもが。」

 

「一晩で街から消えちまうなんて。」

 

別の男も頷く。

 

「俺も聞いたぞ。」

 

「黒いスーツに、狐のお面。」

 

「……謎のマフィア集団が現れたらしい。」

 

「ギャングの根城を片っ端から潰していったって話だ。」

 

「街じゃ”幻のマフィア”なんて呼ばれてるぞ。」

 

その話を聞いていたダイフクーは、

 

肩を震わせながら笑いを堪えていた。

 

「ぶっ……!」

 

「マフィアねぇ……。」

 

レイカは大きな木材を肩に担ぎながら、

 

興味なさそうに答える。

 

「へえ…。」

 

「……知らんな。」

 

ユリも平然と頷いた。

 

「ええ。」

 

「聞いたこともないかな。」

 

ドロップも口元を押さえながら笑う。

 

「一体、誰なんでしょうね?」

 

ウインナーは純粋に首を傾げる。

 

「本当に不思議だね。」

 

ケンがレイカを指差す。

 

「お兄ちゃん!」

 

「絶対怪しい!」

 

レイカは即座に返した。

 

「証拠は。」

 

「……ない。」

 

「ないのかよ!」

 

ダイフクーが思わず突っ込む。

 

ブリトーも吹き出した。

 

「ふふっ……もう少し演技した方がいいよ。」

 

シャーベットは静かにため息をつく。

 

「……全員、芝居が下手だ。」

 

その一言で、皆が笑い出した。

 

職人たちは事情など知る由もない。

 

「ははは!仲の良い旅人さんたちだ!」

 

笑い声が街中へ広がっていく。

 

その光景を見つめる母親は、

 

穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「本当に……街が明るくなりました。」

 

 

 

改装作業は順調に進んでいく。

 

一方その頃。

 

店の裏では、

 

ケンが工具を床いっぱいに広げていた。

 

「よし!」

 

「避雷伸、改良開始!」

 

鉄パイプのような武器を分解し、

 

歯車や導線を器用に並べていく。

 

その様子を見つけたブリトーが興味深そうに近寄った。

 

「……すごい。」

 

「武器を自分で改造するのか?」

 

ケンは得意げに胸を張る。

 

「当たり前!」

 

「もっと強くなるためだからな!」

 

ブリトーは腕輪へ視線を落とした。

 

「じゃあ。」

 

「これも見れるか?」

 

そう言って左腕の腕輪を差し出す。

 

ケンの目が輝いた。

 

「いいの!?」

 

「任せろ!」

 

工具を手に取り、

 

腕輪を様々な角度から観察する。

 

叩き。

 

覗き込み。

 

耳を当て。

 

小さな機械まで取り出して調べ続ける。

 

数時間後――。

 

ケンは机へ突っ伏した。

 

「……無理。」

 

ブリトーが苦笑する。

 

「わからないか。」

 

「うん。」

 

「意味分かんない。」

 

「構造がおかしい。」

 

「これ作ったやつ、頭良すぎる。」

 

ブリトーは思わず笑った。

 

「そうだろうね。」

 

ケンは腕輪をじっと見つめる。

 

「でも。」

 

「これ、普通の機械じゃない。」

 

「生きてるみたい。」

 

その言葉に、ブリトーの表情が少しだけ変わる。

 

「生きてる……?」

 

「うん。」

 

「動いてるっていうか。」

 

「考えてるっていうか。」

 

「説明できない。」

 

ブリトーは静かに腕輪を見つめ直した。

 

「……ありがとう。」

 

「少しだけ。」

 

「希望が見えた気がする。」

 

ケンは照れくさそうに鼻をこすった。

 

「いつか絶対解析してやる!」

 

「その時は教えてくれ。」

 

「任せろ!」

 

その声を聞きつけたレイカが店の裏へやってくる。

 

「……終わったか。」

 

ケンは満面の笑みで立ち上がった。

 

「お兄ちゃん!」

 

「あと百回くらい研究したら分かるかも!」

 

レイカは少し考えて答える。

 

「……長いな。」

 

ブリトーが肩をすくめる。

 

「気長に待つよ。」

 

三人は顔を見合わせ、小さく笑った。

 

その笑顔の向こうでは、

 

新しく塗り替えられた店の看板が、

 

青空の下でゆっくりと掲げられていた。

 

失われかけていた街の笑顔は、

 

確かに戻り始めていた。

 

 

 

-恋人-

 

 

 

街の市場。

 

大会が終わり、改装作業も一段落した昼下がり。

 

久しぶりにゆっくりとした時間が流れていた。

 

露店から漂う焼きたてのパンの香り。

 

八百屋の元気な呼び込み。

 

子どもたちの笑い声。

 

 

 

ウインナーとドロップは並んで歩いていた。

 

戦いのない時間。

 

それだけで、どこか新鮮だった。

 

ドロップが両手を後ろで組み、

 

隣を歩くウインナーを見上げる。

 

「ねぇ。」

 

「ん?」

 

「一つ聞いてもいい?」

 

「もちろん。」

 

少しだけ間を置いて、ドロップが口を開いた。

 

「昔……恋人っていた?」

 

ウインナーはきょとんとした。

 

「恋人?」

 

「うん。」

 

少し考えてから、首を横に振る。

 

「前も話したけど、いないよ。」

 

「一度も?」

 

「うん。」

 

「そっか。」

 

ドロップはどこか安心したように笑った。

 

「ドロップは?」

 

今度はウインナーが聞き返す。

 

「私もいない。」

 

「好きになった人は何人かいたけど。」

 

「付き合ったことはないかな。」

 

「そうなんだ。」

 

穏やかな沈黙が流れる。

 

市場を吹き抜ける風が、

 

二人の髪を優しく揺らした。

 

ドロップはいたずらっぽく笑う。

 

「じゃあさ。」

 

「告白されたことは?」

 

「え?」

 

「あるでしょ?」

 

ウインナーは困ったように頬を掻く。

 

「えっと……。」

 

「……何回か。」

 

「えっ?」

 

ドロップが思わず立ち止まる。

 

「何回?」

 

「覚えてないけど……。」

 

「何回か想いを伝えられたことはあるかな。」

 

「へぇ~。」

 

ドロップは頬を膨らませた。

 

「ウインナー優しいもんね。」

 

「前から人気者だったんだ。」

 

「色んな女の子から告白されたんだ。」

 

「いや!」

 

「えっと……。」

 

「全部断ってるよ?」

 

「え?」

 

「どうして?」

 

ウインナーは少し照れながら笑う。

 

「その頃は旅ばっかりだったし。」

 

「誰かが特別に見える感覚はなかった。」

 

「それに。」

 

少しだけ照れ臭そうに視線を逸らす。

 

「特別に見えたのは。」

 

「ドロップが初めてだったよ。」

 

ドロップは少し黙る。

 

そして、嬉しそうに笑った。

 

「……そっか。」

 

「でも。」

 

「ちょっと妬けちゃうな。」

 

「えっ!?」

 

ウインナーは慌てて両手を振る。

 

「ち、違うよ!」

 

「本当に何もないから!」

 

「僕は!」

 

「その……。」

 

あまりにも必死な姿に、

 

ドロップは吹き出してしまう。

 

「ふふっ。」

 

「冗談。」

 

「そんなに慌てなくても。」

 

ウインナーは胸を撫で下ろす。

 

「びっくりした……。」

 

ドロップは少し照れながら前を向いた。

 

「でも。」

 

「今は私だけでしょ?」

 

その問いに、ウインナーは迷わず答えた。

 

「もちろん。」

 

「これから先も。」

 

「ドロップだけを見てるよ。」

 

その真っ直ぐな言葉に、

 

ドロップは顔を真っ赤にして俯いた。

 

「……そういうとこ。」

 

「普通に言うの反則。」

 

「思ったことだから。」

 

「もう……。」

 

照れ隠しに軽く肩を叩く。

 

二人は顔を見合わせて笑った。

 

歩きながら、自然と手を繋ぐ。

 

初めて繋いだ時のような緊張は、もうない。

 

温もりが当たり前になっていた。

 

しばらく歩いたあと、

 

ドロップがぽつりと呟く。

 

「旅が終わったらさ。」

 

「うん?」

 

「二人で旅行してみたい。」

 

「旅行?」

 

「うん。」

 

「戦いもなくて。」

 

「誰にも追われなくて。」

 

「朝はゆっくり起きて。」

 

「美味しいもの食べて。」

 

「綺麗な景色を見て。」

 

「そんな旅。」

 

ウインナーは優しく笑った。

 

「いいね。」

 

「ネモフィラも見に行きたい。」

 

「海も。」

 

「山も。」

 

「……水族館も行ってみたい。」

 

「え?行ったことないの?」

 

「行ったことないんだ。」

 

「水族館って家族が多いからね。」

 

「胸が苦しくなりそうで行けなかった。」

 

「……そっか。」

 

「じゃあ。」

 

「私と行きましょ!」

 

「楽しいで胸いっぱいにしてあげる!」

 

「……ありがとう。」

 

「楽しみがいっぱいだ。」

 

二人は顔を見合わせて笑った。

 

ドロップは小指を差し出す。

 

 

「じゃあ約束。」

 

 

ウインナーも静かに小指を絡める。

 

 

「約束。」

 

 

指切りを終えたあとも、

 

二人の手は離れなかった。

 

夕暮れの光が二人を優しく照らしている。

 

ドロップは小さく呟く。

 

「こういう時間。」

 

「ずっと続けばいいのに。」

 

ウインナーは繋いだ手を少しだけ握り返した。

 

「続けよう。」

 

「そのために。」

 

「僕たちは旅をしてるんだから。」

 

ドロップは微笑む。

 

「うん。」

 

「サラミッドも。」

 

「一緒に乗り越えようね。」

 

「もちろん。」

 

二人はゆっくりと歩き出す。

 

その後ろ姿は、もう旅の仲間ではなく――

 

互いの未来を歩む、恋人そのものだった。

 

 

 

 

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