-笑顔が戻った街-
大会が終わって数日。
レイカたちは、もうしばらく街へ滞在していた。
ギャングに荒らされた店は改装工事が始まり、
街には久しぶりに活気が戻っている。
木材を運ぶ者。
壁を塗り直す者。
看板を作り直す者。
子どもたちは、
その周りを元気いっぱいに走り回っていた。
「しかし、不思議な話だよな。」
作業をしていた職人の一人が呟く。
「あれだけ好き放題してたギャングどもが。」
「一晩で街から消えちまうなんて。」
別の男も頷く。
「俺も聞いたぞ。」
「黒いスーツに、狐のお面。」
「……謎のマフィア集団が現れたらしい。」
「ギャングの根城を片っ端から潰していったって話だ。」
「街じゃ”幻のマフィア”なんて呼ばれてるぞ。」
その話を聞いていたダイフクーは、
肩を震わせながら笑いを堪えていた。
「ぶっ……!」
「マフィアねぇ……。」
レイカは大きな木材を肩に担ぎながら、
興味なさそうに答える。
「へえ…。」
「……知らんな。」
ユリも平然と頷いた。
「ええ。」
「聞いたこともないかな。」
ドロップも口元を押さえながら笑う。
「一体、誰なんでしょうね?」
ウインナーは純粋に首を傾げる。
「本当に不思議だね。」
ケンがレイカを指差す。
「お兄ちゃん!」
「絶対怪しい!」
レイカは即座に返した。
「証拠は。」
「……ない。」
「ないのかよ!」
ダイフクーが思わず突っ込む。
ブリトーも吹き出した。
「ふふっ……もう少し演技した方がいいよ。」
シャーベットは静かにため息をつく。
「……全員、芝居が下手だ。」
その一言で、皆が笑い出した。
職人たちは事情など知る由もない。
「ははは!仲の良い旅人さんたちだ!」
笑い声が街中へ広がっていく。
その光景を見つめる母親は、
穏やかな笑みを浮かべていた。
「本当に……街が明るくなりました。」
改装作業は順調に進んでいく。
一方その頃。
店の裏では、
ケンが工具を床いっぱいに広げていた。
「よし!」
「避雷伸、改良開始!」
鉄パイプのような武器を分解し、
歯車や導線を器用に並べていく。
その様子を見つけたブリトーが興味深そうに近寄った。
「……すごい。」
「武器を自分で改造するのか?」
ケンは得意げに胸を張る。
「当たり前!」
「もっと強くなるためだからな!」
ブリトーは腕輪へ視線を落とした。
「じゃあ。」
「これも見れるか?」
そう言って左腕の腕輪を差し出す。
ケンの目が輝いた。
「いいの!?」
「任せろ!」
工具を手に取り、
腕輪を様々な角度から観察する。
叩き。
覗き込み。
耳を当て。
小さな機械まで取り出して調べ続ける。
数時間後――。
ケンは机へ突っ伏した。
「……無理。」
ブリトーが苦笑する。
「わからないか。」
「うん。」
「意味分かんない。」
「構造がおかしい。」
「これ作ったやつ、頭良すぎる。」
ブリトーは思わず笑った。
「そうだろうね。」
ケンは腕輪をじっと見つめる。
「でも。」
「これ、普通の機械じゃない。」
「生きてるみたい。」
その言葉に、ブリトーの表情が少しだけ変わる。
「生きてる……?」
「うん。」
「動いてるっていうか。」
「考えてるっていうか。」
「説明できない。」
ブリトーは静かに腕輪を見つめ直した。
「……ありがとう。」
「少しだけ。」
「希望が見えた気がする。」
ケンは照れくさそうに鼻をこすった。
「いつか絶対解析してやる!」
「その時は教えてくれ。」
「任せろ!」
その声を聞きつけたレイカが店の裏へやってくる。
「……終わったか。」
ケンは満面の笑みで立ち上がった。
「お兄ちゃん!」
「あと百回くらい研究したら分かるかも!」
レイカは少し考えて答える。
「……長いな。」
ブリトーが肩をすくめる。
「気長に待つよ。」
三人は顔を見合わせ、小さく笑った。
その笑顔の向こうでは、
新しく塗り替えられた店の看板が、
青空の下でゆっくりと掲げられていた。
失われかけていた街の笑顔は、
確かに戻り始めていた。
-恋人-
街の市場。
大会が終わり、改装作業も一段落した昼下がり。
久しぶりにゆっくりとした時間が流れていた。
露店から漂う焼きたてのパンの香り。
八百屋の元気な呼び込み。
子どもたちの笑い声。
ウインナーとドロップは並んで歩いていた。
戦いのない時間。
それだけで、どこか新鮮だった。
ドロップが両手を後ろで組み、
隣を歩くウインナーを見上げる。
「ねぇ。」
「ん?」
「一つ聞いてもいい?」
「もちろん。」
少しだけ間を置いて、ドロップが口を開いた。
「昔……恋人っていた?」
ウインナーはきょとんとした。
「恋人?」
「うん。」
少し考えてから、首を横に振る。
「前も話したけど、いないよ。」
「一度も?」
「うん。」
「そっか。」
ドロップはどこか安心したように笑った。
「ドロップは?」
今度はウインナーが聞き返す。
「私もいない。」
「好きになった人は何人かいたけど。」
「付き合ったことはないかな。」
「そうなんだ。」
穏やかな沈黙が流れる。
市場を吹き抜ける風が、
二人の髪を優しく揺らした。
ドロップはいたずらっぽく笑う。
「じゃあさ。」
「告白されたことは?」
「え?」
「あるでしょ?」
ウインナーは困ったように頬を掻く。
「えっと……。」
「……何回か。」
「えっ?」
ドロップが思わず立ち止まる。
「何回?」
「覚えてないけど……。」
「何回か想いを伝えられたことはあるかな。」
「へぇ~。」
ドロップは頬を膨らませた。
「ウインナー優しいもんね。」
「前から人気者だったんだ。」
「色んな女の子から告白されたんだ。」
「いや!」
「えっと……。」
「全部断ってるよ?」
「え?」
「どうして?」
ウインナーは少し照れながら笑う。
「その頃は旅ばっかりだったし。」
「誰かが特別に見える感覚はなかった。」
「それに。」
少しだけ照れ臭そうに視線を逸らす。
「特別に見えたのは。」
「ドロップが初めてだったよ。」
ドロップは少し黙る。
そして、嬉しそうに笑った。
「……そっか。」
「でも。」
「ちょっと妬けちゃうな。」
「えっ!?」
ウインナーは慌てて両手を振る。
「ち、違うよ!」
「本当に何もないから!」
「僕は!」
「その……。」
あまりにも必死な姿に、
ドロップは吹き出してしまう。
「ふふっ。」
「冗談。」
「そんなに慌てなくても。」
ウインナーは胸を撫で下ろす。
「びっくりした……。」
ドロップは少し照れながら前を向いた。
「でも。」
「今は私だけでしょ?」
その問いに、ウインナーは迷わず答えた。
「もちろん。」
「これから先も。」
「ドロップだけを見てるよ。」
その真っ直ぐな言葉に、
ドロップは顔を真っ赤にして俯いた。
「……そういうとこ。」
「普通に言うの反則。」
「思ったことだから。」
「もう……。」
照れ隠しに軽く肩を叩く。
二人は顔を見合わせて笑った。
歩きながら、自然と手を繋ぐ。
初めて繋いだ時のような緊張は、もうない。
温もりが当たり前になっていた。
しばらく歩いたあと、
ドロップがぽつりと呟く。
「旅が終わったらさ。」
「うん?」
「二人で旅行してみたい。」
「旅行?」
「うん。」
「戦いもなくて。」
「誰にも追われなくて。」
「朝はゆっくり起きて。」
「美味しいもの食べて。」
「綺麗な景色を見て。」
「そんな旅。」
ウインナーは優しく笑った。
「いいね。」
「ネモフィラも見に行きたい。」
「海も。」
「山も。」
「……水族館も行ってみたい。」
「え?行ったことないの?」
「行ったことないんだ。」
「水族館って家族が多いからね。」
「胸が苦しくなりそうで行けなかった。」
「……そっか。」
「じゃあ。」
「私と行きましょ!」
「楽しいで胸いっぱいにしてあげる!」
「……ありがとう。」
「楽しみがいっぱいだ。」
二人は顔を見合わせて笑った。
ドロップは小指を差し出す。
「じゃあ約束。」
ウインナーも静かに小指を絡める。
「約束。」
指切りを終えたあとも、
二人の手は離れなかった。
夕暮れの光が二人を優しく照らしている。
ドロップは小さく呟く。
「こういう時間。」
「ずっと続けばいいのに。」
ウインナーは繋いだ手を少しだけ握り返した。
「続けよう。」
「そのために。」
「僕たちは旅をしてるんだから。」
ドロップは微笑む。
「うん。」
「サラミッドも。」
「一緒に乗り越えようね。」
「もちろん。」
二人はゆっくりと歩き出す。
その後ろ姿は、もう旅の仲間ではなく――
互いの未来を歩む、恋人そのものだった。