-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第四十八章

 

 

 

-「ネモフィラ」完成-

 

 

 

数日後──。

 

木槌の音が止む。

 

最後の看板が掲げられた。

 

 

「よし!」

 

「完成だ!」

 

 

職人たちの歓声が街へ響く。

 

新しく生まれ変わった店。

 

真新しい木の香り。

 

磨き上げられた窓。

 

以前の面影を残しながらも、

 

どこか温かさを感じる店へ、

 

生まれ変わっていた。

 

母親はしばらく店を見つめる。

 

涙が溢れる。

 

 

「……本当に。」

 

「ありがとうございます。」

 

 

レイカは照れ臭そうに頭を掻く。

 

「……礼なら。」

 

「ここへ来る客に言え。」

 

「街が賑わえば。」

 

「それで十分だ。」

 

ダイフクーが笑う。

 

「素直じゃねぇなぁ。」

 

「……素直になったほうだ。」

 

「どこがだよ!」

 

「……確かに素直になった、かな?」

 

「ユリさんが言うなら間違いないね。」

 

「いや、分かりにくいだろ!」

 

全員笑う。

 

そこへ子供たちが走ってくる。

 

「お兄ちゃん!」

 

「ありがとう!」

 

「……どういたしまして。」

 

「見て!」

 

 

新しい看板。

 

 

 

“食堂 ネモフィラ”

 

 

 

ドロップが驚く。

 

「名前変えたの?」

 

母親は微笑んだ。

 

「この街へ笑顔を運んできてくれた皆さんを忘れないように。」

 

「一番綺麗だった花の名前をいただきました。」

 

ウインナーとドロップは顔を見合わせる。

 

ネモフィラ。

 

あの日。

 

四人で歩いた花畑。

 

自然と笑みがこぼれた。

 

「これも何かの巡り合わせかしら。」

 

「お店はいつからオープンですか?」

 

「もう今日から新装オープンしようかと。」

 

「……まだ身体は辛いだろ。」

 

「何人か手伝いに回すからこき使ってくれ。」

 

「え!そんな……。」

 

「いいってことよ!」

 

「本当に……、感謝し切れません……。」

 

「その分、美味いもの食わせてくれ。」

 

「はい!」

 

 

 

 

-夕暮れ-

 

 

 

その日の夕方。

 

店は久しぶりに満席だった。

 

街の人たちが笑いながら食事をしている。

 

子供たちも元気に走り回る。

 

ケンは料理を運びながら叫ぶ。

 

「熱いぞーー!」

 

「走るな!」

 

母親が慌てる。

 

ブリトーは笑いながら皿を運ぶ。

 

「手伝うよ。」

 

「ありがとう!」

 

ダイフクーは厨房。

 

「おばちゃん!」

 

「このスープ最高!」

 

「もっと食べる?」

 

「もちろん!」

 

シャーベットは黙々と皿洗い。

 

ユリは子供たちに食べさせるのを手伝う。

 

ドロップは笑顔で接客。

 

ウインナーは困っている老人の荷物を持ってあげる。

 

そして。

 

店の入口。

 

壁にもたれたレイカ。

 

煙草は咥えている。

 

だが火は付けていない。

 

子供が近寄る。

 

 

「お兄ちゃん。」

 

「ありがとう。」

 

「お母さん、元気になったの。」

 

「ずっと僕たちのために、頑張ってて。」

 

「とてもしんどいの分かってた。」

 

「けど何も出来なかった。」

 

「お母さんを助けてくれて。」

 

「本当にありがとう。」

 

 

レイカは少しだけ笑う。

 

「……ちゃんとお前はお母さんを守った。」

 

「出来なかったことなんてない。」

 

「きっと……自慢の子どもだと思う。」

 

「また、会いに来る。」

 

「……元気でな。」

 

「うん!」

 

走っていく。

 

ユリが隣へ来る。

 

「吸わないの?」

 

レイカ。

 

煙草を見る。

 

「……今日は。」

 

「この匂いの方がいい。」

 

店から漂う料理の香り。

 

子供たちの笑い声。

 

「平和ね。」

 

「ああ。」

 

二人は夕焼けを見つめた。

 

 

 

-星空の約束-

 

 

その夜――。

 

夕食を終えた一行は、

 

思い思いに気球船へ集まっていた。

 

誰からともなく夜空を見上げ、

 

穏やかな時間が流れていた。

 

そんな静けさを破ったのは、

 

やはりダイフクーだった。

 

「なあ。」

 

「旅が終わったら、お前ら何したい?」

 

全員が顔を上げる。

 

ダイフクーはニヤリと笑った。

 

「もっと言えばよ。」

 

「結婚とか考えたことあるか?」

 

一瞬、時間が止まる。

 

 

「「「…………。」」」

 

 

最初に口を開いたのはレイカだった。

 

「……さあな。」

 

あまりにも即答だった。

 

ダイフクーが思わず吹き出す。

 

「早っ!!」

 

ブリトーも肩を震わせる。

 

「聞く前から否定したね。」

 

レイカは腕を組んだまま答える。

 

「……否定はしていない。」

 

ユリが横目でレイカを見る。

 

「私は少しだけ考えたことあるけど。」

 

レイカがちらりと視線を向ける。

 

ダイフクーが身を乗り出した。

 

「おっ!聞こうじゃねぇか!」

 

ユリは少し照れくさそうに笑った。

 

「毎日二人でご飯を食べて。」

 

「たまには喧嘩して。」

 

「笑って。」

 

「そんな毎日なら、幸せかなって。」

 

「当たり前の毎日を。」

 

「一日を大切に過ごしたい。」

 

レイカは何も言わない。

 

煙草を取り出そうとする。

 

ユリがじっと見つめる。

 

「……。」

 

レイカは小さくため息をつき、煙草をしまった。

 

ダイフクーが腹を抱える。

 

「もう完全に尻に敷かれてるじゃねぇか!」

 

「違う。」

 

「何が違うんだよ!」

 

笑い声が夜空へ響く。

 

今度はダイフクーがウインナーへ向いた。

 

「ウインナー。」

 

「お前は?」

 

「えっ!?」

 

突然話を振られたウインナーは肩を震わせる。

 

その隣ではドロップも顔を真っ赤にしていた。

 

「ほら。」

 

「ドロップと付き合えたことだし。」

 

「考えたことくらいあるだろ?」

 

ウインナーは少しだけ考えたあと、照れながら笑う。

 

「……あるよ。」

 

ドロップが目を丸くした。

 

「え?」

 

ウインナーは少しだけドロップの方を見る。

 

 

「ドロップとなら。」

 

「毎日笑って暮らせると思う。」

 

 

静まり返る気球船の木々たち。

 

次の瞬間。

 

 

 

「「うおおおお!」」

 

 

 

ダイフクーが頭を抱えた。

 

「言った!」

 

ブリトーも思わず苦笑いする。

 

「聞いてるこっちが恥ずかしいよ。」

 

シャーベットも小さく微笑んだ。

 

「らしいな。」

 

ドロップは耳まで真っ赤だった。

 

「もう……。」

 

「そういうこと普通に言うの反則。」

 

ウインナーは困ったように笑う。

 

「……そう思うから。」

 

ドロップは照れ隠しに肩を軽く叩いた。

 

「……ずるい。」

 

自然と二人の手が重なる。

 

誰も茶化さなかった。

 

その光景があまりにも自然で、温かかったからだ。

 

その空気を壊したのはケンだった。

 

 

「結婚って何?」

 

 

全員が固まる。

 

ブリトーが笑いを堪えながら答える。

 

「好きな人と家族になること。」

 

ケンは「ふーん」と頷き、少し考え込む。

 

そして満面の笑みで言った。

 

「じゃあ俺、お兄ちゃんと結婚する!」

 

「出来ない。」

 

「出来てもお断りだ。」

 

レイカが即答する。

 

「えぇーーーっ!!」

 

ケンが大げさに肩を落とした。

 

ダイフクーは腹を抱えて笑い転げる。

 

「振られた!」

 

ブリトーも笑いながら肩を叩く。

 

「残念だったね。」

 

レイカはケンの頭を軽く撫でた。

 

「兄弟でいいだろ。」

 

「もっと静かになればいい子だけどな。」

 

ケンは少し考えてから、にっこり笑った。

 

「そっか!」

 

「じゃあそれでいい!」

 

その無邪気な返事に、

 

一同は再び笑いに包まれる。

 

笑い声が落ち着く頃。

 

静かな風が吹き抜けた。

 

ダイフクーが星空を見上げる。

 

「こういう時間。」

 

「ずっと続けばいいのにな。」

 

誰も返事をしなかった。

 

皆、同じことを思っていたからだ。

 

ウインナーは静かに夜空を見上げる。

 

満天の星。

 

隣には大切な仲間たち。

 

守りたい人たち。

 

ゆっくりと息を吸い込み、小さく微笑んだ。

 

「……終わらせよう。」

 

皆がウインナーを見る。

 

「全部。」

 

その一言に、誰も異論はなかった。

 

レイカは静かに頷く。

 

ユリは穏やかに微笑む。

 

ドロップはそっとウインナーの手を握る。

 

ダイフクーは力強く拳を握り締めた。

 

ブリトー、シャーベット、ケンも、

 

それぞれ決意を胸に夜空を見上げる。

 

気球船は星空の下をゆっくりと進んでいく。

 

その先に待つ、

 

失われた地――サラミッドへ向かって。

 

 

 

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