-旅立ち-
翌朝。
気球船の前。
街中の人々が集まっていた。
母親が深く頭を下げる。
「皆さんのおかげで。」
「この街は救われました。」
職人たちも笑う。
「また来いよ!」
「今度は客として!」
ダイフクー。
「もちろん!」
「食いまくる!」
「ほどほどにな!」
笑い声。
ケンが子供たちへ手を振る。
「また遊ぼうな!」
「約束ー!」
ブリトーも笑顔。
「元気で。」
子供たちが泣いている。
ドロップも少し目を潤ませた。
「短かったけど。」
「いい街だったね。」
ウインナーも頷く。
「うん。」
「帰ってきたい場所がまた一つ増えた。」
気球船がゆっくり浮き始める。
街が小さくなっていく。
全員が手を振る。
街中の人々も。
「「ありがとうーーー!!」」
その声は。
空の上まで届いていた。
昼。
気球船は雲海を進む。
風は穏やか。
静かな時間。
ウインナーは地図を広げる。
「あと二日で到着出来るよ。」
ブリトーがその地図を見つめる。
震える手。
「……近い。」
レイカも横から覗く。
「怖いか。」
「……少し。」
「でも。」
「……まずはパルに会いたい。」
「俺たちも行く。」
「一人じゃねぇ。」
ケンもよく分かっていないが便乗する。
「俺も!」
「……僕もそこに行けば会えるはず。」
「……スパム先生。」
「……ウインナー。」
「俺も一発ぐらい殴らせてもらわんとな。」
「レイカ。物騒。」
「……はい。」
「でも。」
ユリが一瞬、冷徹な顔になる。
「レイカを傷つけた分はやり返す。」
「お前も物騒だ。」
「俺からしたら二人とも物騒だぞ!」
「とりあえず、着くまで時間が掛かる。」
「今のうちに身体を休めておこう。」
ブリトーが周りを見渡す。
自分は一人じゃない。
こんなにあたたかい仲間がいる。
それだけで、恐怖感が消えていく。
「……ありがとう。みんな。」
-夜空に満点の星空-
みんなが寝静まっている中、
操縦席には、
レイカとウインナーがいた。
「操縦も慣れてしまったな。」
くわえタバコをしながらレイカが操縦する。
「覚えるのが早すぎるよ。さすがだね。」
「……お前、大丈夫か?」
「少なからず、スパムに恩義はあるだろ?」
「……記憶の中のスパム先生は。」
「優しくて、ずっと僕に微笑んでくれて。」
「抱きしめてくれて、愛してると言ってくれて。」
「正直、まだ色々迷ってる。」
「俺は最初からスパムのことを知っていた。」
「だからこそ遠慮なくいける。」
「……戦えるのか?」
「戦うしかない。」
「戦って、本当のことを聞くんだ。」
「……希望は失ってないってことなんだな。」
「何か理由があるって信じたいのかもね。」
しばらくの沈黙が続く。
口を開き直したのはレイカだった。
「……さて、そろそろ代わってもらおう。」
「お客さんも来てたみたいだしな。」
後ろを振り向くと、ドアの後ろに
ドロップが後ろ向きで立っていた。
「……ドロップ。」
「もう、なんでバレるかな。」
「気配消せてないんだよ。」
「……バトンタッチだ。」
ウインナーには聞こえない声で、
ドロップに頼み事をする。
「……頼んだぞ。」
「任せて。そのために来たんだから。」
「ユリさんが外で涼んでる。」
「行ってあげて。」
「わかった。」
レイカは振り返ることなくその場を去る。
「ドロップ、起きていたの?」
「ええ。」
「きっと、夜通し操縦しながら。」
「考え事をして一人で背負う気の誰かさんが。」
「心配だったからね。」
ウインナーは図星を食らう。
「うっ……。誰かさんは誰だろうね?」
と誤魔化しては見るが、
「……ウインナー?」
ドロップは欺けない。
「本当に、敵わないな。」
「怖いんでしょ?」
「うん、怖い。」
ウインナーの瞼に涙が浮かび上がる。
「今までの記憶が、偽物だったら。」
「あの愛情が偽物だったら。」
「色んな責任ものしかかってくる。」
「責任は大丈夫よ。」
「私も背負うもの。」
「ドロップ……。」
「考えすぎ。」
「とりあえず会って。」
「思うことぶつけなさい。」
「一発ぐらい殴っても大丈夫よ。」
「ふふ……ドロップも、物騒だね。」
「大切な人が傷ついてるんだもん。」
「私がしてやりたいぐらいよ。」
「でも、それはウインナーの役割でしょ?」
「……うん、そうだね。」
「ぶつかる気持ちでいるよ。」
「うん、なら大丈夫。」
「あなたには、みんながいるから。」
「……ありがとう。」
ウインナーの瞳から涙が零れる。
「っもう。普段はしっかり者なのに。」
「本当は、泣き虫さんなのね。」
ドロップがウインナーの頭を撫でる。
「……ドロップの前だけだよ、こんなの。」
「私の前だけでいいから。」
「我慢しないでね。」
「心を許してくれて、ありがとう。」
「愛してるわ、ウインナー。」
「僕もだよ。」
「終わらせましょうね。」
「……うん、終わらせよう。」
星空が広がっているのを
ユリは甲板で腰掛けて眺めていた。
「風邪ひくぞ。」
レイカが静かに現れ、隣へ寄り添う。
「もう、そんなに弱くないよ。」
「氷の加護を上手く使えなくて。」
「風邪引きっぱなしだったのにな。」
「その度あなたは、不安そうな顔をして。」
「ずっと横にいてくれた。」
「……タバコも吸わずにね。」
手に取ろうとしていたタバコを、
静かにポケットに戻す。
「病人の前では、さすがに吸わん。」
「ずっと風邪を引こうかな。」
「……勘弁してくれ。」
涼しくて心地よい風が、
二人の後ろを吹き抜けていく。
「……俺のことを、許せないのか。」
「えっ……。」
「直感だ。」
「頭の中では分かってるんだけどね。」
「簡単に踏ん切りがつくもんじゃない。」
「迷って苦しくて仕方なくなったら。」
レイカは、真剣な眼差しで伝えた。
「俺を殺しに来い。」
「……何を言っているの?」
「……ユリが苦しい方が俺は……。」
「まあ、例え話だ。」
「忘れてくれてもいい。」
ユリの声が震える。
「……二度と言わないで。」
珍しく、ユリの目から涙が溢れている。
「……お、おい。」
かなり焦っているレイカ。
「すまなかった。二度と言わない。」
「嫌い。大嫌い。」
「すまない……。」
「こっちの気も知らないで。嫌い。」
「……本当に悪かった。すまない。」
「…………好きって言うまで許さない。」
「………………。」
「許さない。」
ユリの目から出る涙を拭いながら、
レイカはユリの目を見つめた。
「……愛してる。だから、泣くな。」
「抱きしめて。」
レイカは少し屈んで、
ユリを包み込む。
「……安心するか?」
「……タバコ臭い。やっぱり嫌い。」
「何しても嫌われるのか。」
「…………!」
不意に、レイカの口がユリの口を塞ぐ。
「……俺は、大好き……だ。」
「……満足。」
「あー……。あー……はあ。」
「やられた。」
「……憎い以上に愛してる。」
「……そうか。」
その後、お互い口を開くことなく、
ただただ静かな夜空を眺めていた。
今朝。
雲がゆっくり割れた。
遠く。
水平線の彼方。
黒い山脈。
巨大な古代建造物。
空へ突き刺さるような塔。
ブリトーの瞳が揺れる。
「…………。」
誰も言葉を発さない。
しばらくして。
ブリトーは震える声で呟いた。
「……サラミッド。」
その一言だけで十分だった。
誰もが、その場所から目を離せなかった。
失われた王国。
数々の因縁が眠る場所。
仲間との旅が、ついにその地へ辿り着こうとしていた。
気球船は静かに進む。
夕日に照らされながら。
新たな物語の幕が、静かに上がろうとしていた。