-サラミッド-
-伝説の神殿-
乾いた風が、
気球船の帆を大きく揺らしていた。
見渡す限り砂漠。
どこまでも続く黄金色の大地を、
静かに気球船は進んでいく。
甲板へ出ていたブリトーが、
ゆっくりと前方を見つめた。
その瞳が僅かに揺れる。
「……見えた。」
その一言に、仲間たちが次々と甲板へ集まる。
砂煙の向こう。
巨大な影が、少しずつその姿を現した。
それは山ではなかった。
空へ向かってそびえ立つ、巨大な石造りの神殿。
幾重にも積み重ねられた石段。
長い年月を物語る外壁。
砂漠の中で圧倒的な存在感を放つその姿は、
まるで世界を見下ろしているようだった。
ケンが目を丸くする。
「……でっか。」
「なんだよあれ!」
ユリも思わず息を呑む。
「想像していたより……何倍も大きい。」
レイカは腕を組んだまま静かに見上げた。
「これが……サラミッドか。」
ダイフクーは懐かしそうに笑う。
「相変わらずデケェな。」
ドロップも静かに頷いた。
「昔と全然変わってない。」
ウインナーは遠くの神殿を見つめながら言う。
「大量の禁貨が眠る伝説の神殿。」
「バンカーなら、一度は耳にする場所。」
シャーベットがレイカ達へ視線を向ける。
「俺たちは一度攻略したことがある。」
「最深部までな。」
ケンは驚いて振り返る。
「えぇ!?最後まで!?」
ダイフクーが笑う。
「死ぬほど大変だったけどな!」
「各階層のゴーストバンカーがまた強いんだよ。」
ドロップが苦笑する。
「ブリトーもその一人だったの。」
ウインナーも小さく笑う。
「もう二度と来ることはないと思ってた。」
ブリトーだけは静かだった。
その視線はずっと神殿から離れない。
「…………。」
レイカがその横へ並ぶ。
「緊張してるのか。」
ブリトーは小さく頷いた。
「故郷だから。」
「でも……。」
「少し怖い。」
レイカは短く答える。
「帰る場所があるだけ幸せだ。」
ブリトーは少しだけ笑った。
「……そうだね。」
気球船はゆっくりと高度を下げていく。
誰も言葉を発さなかった。
全員が、
それぞれの想いを胸に巨大な神殿を見つめていた。
-違和感-
神殿の近くへ着陸すると、
一行は荷物を整え歩き始めた。
砂を踏み締めながら巨大な神殿へ近付いていく。
その途中だった。
ブリトーが突然立ち止まる。
「……違う。」
全員が足を止める。
「どうした?」
ダイフクーが尋ねる。
ブリトーは正面を見つめたまま答えた。
「入口が違う。」
「昔は、もっと普通の入口だった。」
一同が視線を向ける。
そこには巨大な黒い石門が築かれていた。
古代の石壁とは明らかに異なる材質。
中央には巨大な石版。
無数の古代文字が刻まれている。
シャーベットは石版へ近付く。
指先でなぞるように文字を読む。
「古代文字……。」
「いや。」
「これは後から造られている。」
「元の入口を塞ぎ、新しく門を作った跡だ。」
ユリが驚く。
「そんなこと出来るの?」
レイカは石門を見上げる。
「出来る奴がいるってことだ。」
「大方、スパムかメザンだろうな。」
ブリトーも静かに頷いた。
「あいつが僕たちを待っている。」
神殿そのものは変わっていない。
変えられていたのは――
神殿へ挑むための入口だった。
-導きの門-
ブリトーは紋章のある石門の前へ立った。
左腕の腕輪を静かに見つめる。
「腕輪の紋章も同じものだ。」
「……ここに合わせればいいのか。」
ゆっくりと石版へ腕輪を近付けた。
カチッ――。
小さな音。
腕輪が淡い緑色に輝き始める。
その光が石版へ流れ込む。
刻まれた古代文字が一文字ずつ光を放った。
ゴゴゴゴゴ……
大地が揺れる。
巨大な石門が左右へゆっくりと開いていく。
乾いた風が神殿の奥から吹き抜けた。
ケンは目を輝かせる。
「開いた!」
しかしブリトーは首を横へ振る。
「違う。」
「ここは入口じゃない。」
その瞬間だった。
ゴゴゴゴゴ……
門の内側の床が大きく揺れ始める。
中央が左右へ割れる。
深い暗闇。
その底から巨大な石階段が、
ゆっくりと姿を現した。
青白い結晶が順番に灯り、
階段の先を照らしていく。
シャーベットが静かに呟く。
「試練へ導く道……か。」
レイカは階段の先を見据えた。
「なるほど。」
「ここから始まるみたいだな。」
ブリトーは静かに頷く。
「昔には無かった。」
「きっと、メザンが造ったんだ。」
ウインナーは仲間を見渡す。
「みんな。」
「ここから先は、本当に何が起きるか分からない。」
「気を引き締めて行こう。」
全員が静かに頷いた。
ブリトーを先頭に、
一行は石階段を登り始める。
一段。
また一段。
静かな足音だけが神殿へ響く。
長い階段を登り切ると、
その先には巨大な円形の石扉が待ち受けていた。
扉の中央に古代文字が浮かび上がる。
『第一階層』
ゆっくりと石扉が左右へ開いた。
-第一階層-
広大な空間だった。
見上げても天井は見えない。
巨大な石柱が何本も立ち並び、
壁一面には古代文字が刻まれている。
静寂。
誰一人、言葉を発さない。
ブリトーがゆっくりと歩き出す。
その後を全員が続く。
数十歩ほど進んだ、その時だった。
ゴンッ――。
背後の石扉が重く閉ざされる。
同時に、広間の中央から黒い霧が噴き上がった。
闇はゆっくりと一つの人影を形作る。
見覚えのある姿。
ブリトーの表情が変わる。
「……ハラペーニョ。」
しかし、その影は何も答えない。
黒い闇を纏い、静かに立つだけ。
壁一面の古代文字が淡く輝いた。
『第一階層』
『守護者 ハラペーニョの影』
『挑戦者 一名』
その文字が浮かんだ瞬間。
一筋の青い光が、
シャーベットの足元を照らした。
シャーベットは静かに前へ歩み出る。
「……俺か。」
シャーベットは拳を握る。
ハラペーニョの影も静かに構えた。
サラミッド最初の試練。
その幕が、静かに上がろうとしていた。