-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第五十章

 

 

 

-サラミッド-

 

 

 

-伝説の神殿-

 

 

 

乾いた風が、

 

気球船の帆を大きく揺らしていた。

 

見渡す限り砂漠。

 

どこまでも続く黄金色の大地を、

 

静かに気球船は進んでいく。

 

甲板へ出ていたブリトーが、

 

ゆっくりと前方を見つめた。

 

その瞳が僅かに揺れる。

 

 

「……見えた。」

 

 

その一言に、仲間たちが次々と甲板へ集まる。

 

砂煙の向こう。

 

巨大な影が、少しずつその姿を現した。

 

それは山ではなかった。

 

空へ向かってそびえ立つ、巨大な石造りの神殿。

 

幾重にも積み重ねられた石段。

 

長い年月を物語る外壁。

 

砂漠の中で圧倒的な存在感を放つその姿は、

 

まるで世界を見下ろしているようだった。

 

ケンが目を丸くする。

 

「……でっか。」

 

「なんだよあれ!」

 

ユリも思わず息を呑む。

 

「想像していたより……何倍も大きい。」

 

レイカは腕を組んだまま静かに見上げた。

 

「これが……サラミッドか。」

 

ダイフクーは懐かしそうに笑う。

 

「相変わらずデケェな。」

 

ドロップも静かに頷いた。

 

「昔と全然変わってない。」

 

ウインナーは遠くの神殿を見つめながら言う。

 

「大量の禁貨が眠る伝説の神殿。」

 

「バンカーなら、一度は耳にする場所。」

 

シャーベットがレイカ達へ視線を向ける。

 

「俺たちは一度攻略したことがある。」

 

「最深部までな。」

 

ケンは驚いて振り返る。

 

「えぇ!?最後まで!?」

 

ダイフクーが笑う。

 

「死ぬほど大変だったけどな!」

 

「各階層のゴーストバンカーがまた強いんだよ。」

 

ドロップが苦笑する。

 

「ブリトーもその一人だったの。」

 

ウインナーも小さく笑う。

 

「もう二度と来ることはないと思ってた。」

 

ブリトーだけは静かだった。

 

その視線はずっと神殿から離れない。

 

「…………。」

 

レイカがその横へ並ぶ。

 

「緊張してるのか。」

 

ブリトーは小さく頷いた。

 

「故郷だから。」

 

「でも……。」

 

「少し怖い。」

 

レイカは短く答える。

 

「帰る場所があるだけ幸せだ。」

 

ブリトーは少しだけ笑った。

 

「……そうだね。」

 

気球船はゆっくりと高度を下げていく。

 

誰も言葉を発さなかった。

 

全員が、

 

それぞれの想いを胸に巨大な神殿を見つめていた。

 

 

 

-違和感-

 

 

 

神殿の近くへ着陸すると、

 

一行は荷物を整え歩き始めた。

 

砂を踏み締めながら巨大な神殿へ近付いていく。

 

その途中だった。

 

ブリトーが突然立ち止まる。

 

 

「……違う。」

 

 

全員が足を止める。

 

「どうした?」

 

ダイフクーが尋ねる。

 

ブリトーは正面を見つめたまま答えた。

 

「入口が違う。」

 

「昔は、もっと普通の入口だった。」

 

一同が視線を向ける。

 

そこには巨大な黒い石門が築かれていた。

 

古代の石壁とは明らかに異なる材質。

 

中央には巨大な石版。

 

無数の古代文字が刻まれている。

 

シャーベットは石版へ近付く。

 

指先でなぞるように文字を読む。

 

「古代文字……。」

 

「いや。」

 

「これは後から造られている。」

 

「元の入口を塞ぎ、新しく門を作った跡だ。」

 

ユリが驚く。

 

「そんなこと出来るの?」

 

レイカは石門を見上げる。

 

「出来る奴がいるってことだ。」

 

「大方、スパムかメザンだろうな。」

 

ブリトーも静かに頷いた。

 

「あいつが僕たちを待っている。」

 

神殿そのものは変わっていない。

 

変えられていたのは――

 

神殿へ挑むための入口だった。

 

 

 

-導きの門-

 

 

 

ブリトーは紋章のある石門の前へ立った。

 

左腕の腕輪を静かに見つめる。

 

「腕輪の紋章も同じものだ。」

 

「……ここに合わせればいいのか。」

 

ゆっくりと石版へ腕輪を近付けた。

 

 

カチッ――。

 

 

小さな音。

 

腕輪が淡い緑色に輝き始める。

 

その光が石版へ流れ込む。

 

刻まれた古代文字が一文字ずつ光を放った。

 

ゴゴゴゴゴ……

 

大地が揺れる。

 

巨大な石門が左右へゆっくりと開いていく。

 

乾いた風が神殿の奥から吹き抜けた。

 

ケンは目を輝かせる。

 

「開いた!」

 

しかしブリトーは首を横へ振る。

 

「違う。」

 

「ここは入口じゃない。」

 

その瞬間だった。

 

 

 

ゴゴゴゴゴ……

 

 

 

門の内側の床が大きく揺れ始める。

 

中央が左右へ割れる。

 

深い暗闇。

 

その底から巨大な石階段が、

 

ゆっくりと姿を現した。

 

青白い結晶が順番に灯り、

 

階段の先を照らしていく。

 

シャーベットが静かに呟く。

 

「試練へ導く道……か。」

 

レイカは階段の先を見据えた。

 

「なるほど。」

 

「ここから始まるみたいだな。」

 

ブリトーは静かに頷く。

 

「昔には無かった。」

 

「きっと、メザンが造ったんだ。」

 

ウインナーは仲間を見渡す。

 

「みんな。」

 

「ここから先は、本当に何が起きるか分からない。」

 

「気を引き締めて行こう。」

 

全員が静かに頷いた。

 

ブリトーを先頭に、

 

一行は石階段を登り始める。

 

一段。

 

また一段。

 

静かな足音だけが神殿へ響く。

 

長い階段を登り切ると、

 

その先には巨大な円形の石扉が待ち受けていた。

 

扉の中央に古代文字が浮かび上がる。

 

 

 

『第一階層』

 

 

 

ゆっくりと石扉が左右へ開いた。

 

 

 

-第一階層-

 

 

 

広大な空間だった。

 

見上げても天井は見えない。

 

巨大な石柱が何本も立ち並び、

 

壁一面には古代文字が刻まれている。

 

静寂。

 

誰一人、言葉を発さない。

 

ブリトーがゆっくりと歩き出す。

 

その後を全員が続く。

 

数十歩ほど進んだ、その時だった。

 

 

ゴンッ――。

 

 

背後の石扉が重く閉ざされる。

 

同時に、広間の中央から黒い霧が噴き上がった。

 

闇はゆっくりと一つの人影を形作る。

 

見覚えのある姿。

 

ブリトーの表情が変わる。

 

 

「……ハラペーニョ。」

 

 

しかし、その影は何も答えない。

 

黒い闇を纏い、静かに立つだけ。

 

壁一面の古代文字が淡く輝いた。

 

 

 

『第一階層』

 

『守護者 ハラペーニョの影』

 

『挑戦者 一名』

 

 

 

その文字が浮かんだ瞬間。

 

一筋の青い光が、

 

シャーベットの足元を照らした。

 

シャーベットは静かに前へ歩み出る。

 

 

「……俺か。」

 

 

シャーベットは拳を握る。

 

ハラペーニョの影も静かに構えた。

 

サラミッド最初の試練。

 

その幕が、静かに上がろうとしていた。

 

 

 

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