-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第五十一章

 

 

 

-守護者-

 

 

 

-試練の始まり-

 

 

 

重厚な石扉が轟音とともに閉ざされた。

 

ゴゴゴゴゴ……。

 

神殿全体が低く唸る。

 

静寂。

 

誰一人として口を開かない。

 

広大な第一階層の中央には、

 

漆黒の闇を纏ったハラペーニョの影が静かに立っていた。

 

その姿は、生前と寸分違わぬ姿。

 

しかし、その瞳には光がなく、

 

全身から禍々しい闇が静かに立ち昇っている。

 

ブリトーは思わず息を呑んだ。

 

「……ハラペーニョ。」

 

返事はない。

 

影はただ、侵入者を見つめているだけだった。

 

その時。

 

壁一面に刻まれた古代文字が、青白い光を放ち始める。

 

やがて文字が浮かび上がった。

 

 

⸻

 

第一階層

 

守護者 ハラペーニョの影

 

試練開始

 

挑戦者 一名

 

第三者の介入を禁ずる

 

勝者のみ、次なる階層への道を得る

 

⸻

 

 

文字が消えた瞬間。

 

シャーベットの足元だけが淡く輝いた。

 

「……俺か。」

 

その直後。

 

仲間たちの前へ透明な壁が現れる。

 

ダイフクーが拳で叩く。

 

ドンッ!!

 

「くっ……!」

 

全く動かない。

 

ケンも負けじと殴る。

 

「なんだこれ!」

 

「びくともしねぇ!」

 

ユリがそっと手を添える。

 

「透明な壁……。」

 

「シャーベットだけは通れる。」

 

ブリトーが静かに頷く。

 

「一対一の試練。」

 

「昔のサラミッドには無かった仕組みだ。」

 

「メザンが、この神殿を書き換えたんだ……。」

 

レイカは刀へ伸ばしかけた手を止めた。

 

「助けることも出来ないって訳か。」

 

シャーベットは静かに仲間を振り返る。

 

「任せろ。」

 

レイカは短く頷いた。

 

「……頼んだ。」

 

シャーベットはゆっくりと前へ歩く。

 

ハラペーニョの影も静かに構えた。

 

神殿の第一階層。

 

最初の試練が、静かに幕を開ける。

 

 

 

-闇に染まった拳-

 

 

 

静寂。

 

次の瞬間だった。

 

ハラペーニョの影が消える。

 

「……!」

 

シャーベットが反応した時には、

 

影は真横まで迫っていた。

 

 

ドォン!!

 

 

重い拳が腕を捉える。

 

受け止めたはずの衝撃で、

 

そのまま数メートル吹き飛ばされた。

 

石床を滑りながらも体勢を立て直す。

 

「速い……。」

 

影は追撃を止めない。

 

一歩。

 

二歩。

 

まるで地面を滑るような踏み込み。

 

間髪入れず拳が降り注ぐ。

 

シャーベットは最小限の動きで避け続ける。

 

観戦するダイフクーが思わず叫ぶ。

 

「本人と戦い方が全然違うぞ!!」

 

ブリトーも険しい表情を浮かべる。

 

「闇で強化されてるのか……。」

 

「こんなの、ハラペーニョじゃない。」

 

ウインナーは冷静に目を細めた。

 

「真正面からじゃ厳しいね……。」

 

しかし、シャーベットの表情は変わらない。

 

焦りはない。

 

影の動きを静かに見続ける。

 

 

「右足。」

 

「重心。」

 

「踏み込み。」

 

「呼吸。」

 

「……なるほどな。」

 

 

一つ一つ、戦いの情報を頭の中で組み立てていく。

 

 

 

-分析-

 

 

 

再び影が迫る。

 

拳。

 

蹴り。

 

肘。

 

息つく暇もない連撃。

 

だが。

 

シャーベットは避けることだけに集中していた。

 

「……見える。」

 

影は踏み込む瞬間、僅かに右肩が下がる。

 

攻撃へ移る合図だった。

 

「そこだ。」

 

シャーベットが床へ手を触れる。

 

冷気がゆっくりと広がる。

 

白い霜が石床を覆い始めた。

 

ケンが目を丸くする。

 

「床が凍ってる!」

 

シャーベットは静かに呟く。

 

 

「氷の加護。」

 

「力を貸してくれ。」

 

 

ハラペーニョの影が再び突進する。

 

その足が霜を踏んだ瞬間。

 

わずかに滑る。

 

ほんの一瞬。

 

だが、その一瞬をシャーベットは逃さない。

 

「そこだ!」

 

冷気が一気に収束する。

 

影の両脚を氷が包み込んだ。

 

完全には凍らない。

 

しかし、動きは止まる。

 

「十分だ。」

 

シャーベットは深く腰を落とし、右拳を握り締める。

 

「アイスブレイク。」

 

静かな一言。

 

拳が一直線に突き出された。

 

 

ドォォォン!!

 

 

凍り付いた氷を砕きながら拳が腹部へめり込む。

 

衝撃が神殿中へ響いた。

 

影は大きく後退する。

 

身体中へ黒い亀裂が走る。

 

闇が溢れ出した。

 

 

 

-突破-

 

 

 

ハラペーニョの影は静かに立っていた。

 

やがて。

 

全身が白い光へ変わり始める。

 

黒い闇が消え去り、

 

無数の光の粒となって天井へ舞い上がった。

 

ブリトーは静かに目を閉じる。

 

「……すまない。」

 

誰へ向けた言葉なのか。

 

それは誰にも分からない。

 

神殿が再び揺れる。

 

 

ゴゴゴゴゴ……。

 

 

透明な壁が音もなく消えた。

 

中央の床がゆっくりと左右へ開く。

 

暗闇の底から、第二階層へ続く石階段が姿を現す。

 

壁の古代文字が再び輝く。

 

 

⸻

 

第一階層 攻略完了

 

第二階層 解放

 

⸻

 

 

シャーベットが静かに仲間の元へ戻る。

 

ダイフクーが大きく笑う。

 

「よくやったぞ!」

 

ケンは目を輝かせた。

 

「かっけぇ!」

 

レイカはシャーベットの肩を軽く叩く。

 

「お疲れ。」

 

シャーベットは小さく息を吐く。

 

「……力だけなら勝てなかった。」

 

ブリトーは第二階層へ続く階段を静かに見つめる。

 

「次は…誰なんだろう。」

 

その言葉に、一同の表情が引き締まる。

 

誰も足を止めない。

 

サラミッドの試練は、まだ始まったばかりだった。

 

 

 

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