-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

57 / 90
第五十二章

 

 

 

-水鏡-

 

 

 

-第二階層-

 

 

 

石階段を降りるたび、神殿の空気が変わっていく。

 

やがて一行は巨大な石扉の前へ辿り着いた。

 

ブリトーが静かに息を吐く。

 

「……行こう。」

 

石扉が重々しく開く。

 

広がっていたのは、巨大な円形の闘技場。

 

床一面を浅い水が覆い、

 

天井から絶え間なく雫が落ちている。

 

静かな水音だけが空間に響いていた。

 

ケンが辺りを見回す。

 

「全部、水か……。」

 

シャーベットも周囲を観察する。

 

「戦うには厄介な地形だ。」

 

その時だった。

 

壁一面の古代文字が淡く光を放つ。

 

 

 

第二階層

 

守護者 ラビィオリの影

 

挑戦者 一名

 

第三者の介入を禁ずる

 

 

 

黒い霧がゆっくり集まり、

 

一人の女性の姿を形作る。

 

見覚えのある衣装。

 

全身を覆う漆黒の闇。

 

ブリトーが小さく呟く。

 

「……ラビィオリ。」

 

返事はない。

 

影は静かに構えた。

 

同時に、一筋の光がドロップの足元を照らす。

 

「……私?」

 

透明な壁が仲間たちの前へ現れる。

 

ユリは静かに頷く。

 

「……気をつけてね。」

 

ドロップは拳を握る。

 

「うん。」

 

静かに歩み出た。

 

 

 

-水の舞-

 

 

 

試合開始。

 

その瞬間だった。

 

ラビィオリの影が片手を上げる。

 

闘技場中の水が浮かび上がった。

 

「!」

 

無数の水弾。

 

一斉にドロップへ襲い掛かる。

 

「速い!」

 

横へ飛ぶ。

 

着地。

 

その足元から再び水柱。

 

跳ぶ。

 

避ける。

 

着地した瞬間。

 

今度は水刃。

 

「くっ!」

 

身体を捻り紙一重で回避。

 

ダイフクーが叫ぶ。

 

「近付けねぇ!」

 

ウインナーは静かに見つめる。

 

「距離を詰められないようにしてる……。」

 

ラビィオリの影は水の中心から一歩も動かない。

 

それでも攻撃は止まらない。

 

床。

 

天井。

 

左右。

 

あらゆる方向から水が襲う。

 

ドロップは避け続けた。

 

 

「……まだ。」

 

「届かない。」

 

 

 

-修行の成果-

 

 

 

ラビィオリの影が静かに前へ出る。

 

初めて肉弾戦へ移る。

 

水を纏った蹴り。

 

「!」

 

重い。

 

腕で受けた衝撃だけで数歩後退する。

 

続く拳。

 

蹴り。

 

肘。

 

水流を纏う一撃一撃が鋭い。

 

ドロップも応戦する。

 

拳と拳がぶつかる。

 

蹴りと蹴りが交差する。

 

水飛沫が大きく舞い上がる。

 

互角。

 

しかし。

 

「……本人と違うわね。」

 

ラビィオリの影の攻撃には、水流が加わる。

 

一撃ごとの威力が違う。

 

その時だった。

 

ドロップの脳裏に、修行の日々が蘇る。

 

ユリの声。

 

 

『受け止めようとしちゃ駄目。』

 

『流すの。』

 

『相手の力を利用する。』

 

『崩れた一瞬が、一番大きな隙になる。』

 

 

ドロップは静かに目を閉じた。

 

「……そうだった。」

 

再びラビィオリの影が踏み込む。

 

今度は違う。

 

真正面から受けない。

 

半歩引く。

 

身体を捻る。

 

水流を受け流す。

 

ラビィオリの影の重心が一瞬だけ前へ流れた。

 

「今!」

 

踏み込む。

 

肩。

 

肘。

 

拳。

 

蹴り。

 

一気に距離を詰める。

 

ラビィオリの影も初めて大きく後退した。

 

レイカが静かに笑う。

 

「……流せるようになったか。」

 

ユリも優しく微笑む。

 

「あの子、ちゃんと自分のものにした。」

 

レイカは小さく頷いた。

 

「教え方が良かったんだな。」

 

ユリは少し照れながら笑う。

 

「ふふっ。」

 

 

 

-勝利-

 

 

 

ラビィオリの影が両腕を広げる。

 

闘技場中の水が渦を巻いた。

 

巨大な水流。

 

一直線にドロップへ襲い掛かる。

 

逃げない。

 

ドロップは深く息を吸う。

 

 

「私は……。」

 

 

「みんなの背中を追い掛けるだけじゃ終わらない!」

 

 

水流へ飛び込む。

 

身体を回転。

 

水の勢いを利用し、そのまま跳躍。

 

空中。

 

身体を大きく捻る。

 

右脚が大きな弧を描いた。

 

「はあぁぁぁぁっ!!」

 

渾身の回し蹴り。

 

轟音。

 

ラビィオリの影を真正面から捉える。

 

影の身体へ無数の亀裂が走る。

 

静かに光へ変わり始めた。

 

黒い闇が消え、白い粒子となって舞い上がる。

 

その最後の瞬間。

 

ラビィオリの影の表情が、

 

ほんの一瞬だけ穏やかに微笑んだように見えた。

 

誰も何も言わない。

 

ブリトーだけが静かに目を閉じる。

 

「……ラヴィオリ。」

 

影は静かに光となって消えていった。

 

その瞬間。

 

神殿が大きく揺れる。

 

 

ゴゴゴゴゴ……。

 

 

透明な壁が消え去る。

 

闘技場中央の床が左右へ開き、

 

第三階層へ続く石階段が姿を現した。

 

古代文字が静かに輝く。

 

 

 

第二階層 攻略完了

 

第三階層 解放

 

 

 

ドロップが戻ると、ユリが優しく頭を撫でた。

 

「よく頑張ったね。」

 

ドロップは少し照れ臭そうに笑う。

 

「ありがとう。」

 

レイカも短く頷く。

 

「良かったぞ。」

 

ダイフクーは豪快に笑う。

 

「次も頼もしいな!」

 

ケンは目を輝かせる。

 

「俺も負けねぇ!」

 

ブリトーは静かに第三階層へ続く階段を見つめる。

 

「……行こう。」

 

誰が待ち受けているのか。

 

それは誰にも分からない。

 

一行は静かに石階段へ足を踏み出した。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。