-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第五十二章

 

 

 

-水鏡-

 

 

 

-第二階層-

 

 

 

石階段を降りるたび、神殿の空気が変わっていく。

 

やがて一行は巨大な石扉の前へ辿り着いた。

 

ブリトーが静かに息を吐く。

 

「……行こう。」

 

石扉が重々しく開く。

 

広がっていたのは、巨大な円形の闘技場。

 

床一面を浅い水が覆い、

 

天井から絶え間なく雫が落ちている。

 

静かな水音だけが空間に響いていた。

 

ケンが辺りを見回す。

 

「全部、水か……。」

 

シャーベットも周囲を観察する。

 

「戦うには厄介な地形だ。」

 

その時だった。

 

壁一面の古代文字が淡く光を放つ。

 

 

⸻

 

第二階層

 

守護者 ラビィオリの影

 

挑戦者 一名

 

第三者の介入を禁ずる

 

⸻

 

 

黒い霧がゆっくり集まり、

 

一人の女性の姿を形作る。

 

見覚えのある衣装。

 

全身を覆う漆黒の闇。

 

ブリトーが小さく呟く。

 

「……ラビィオリ。」

 

返事はない。

 

影は静かに構えた。

 

同時に、一筋の光がドロップの足元を照らす。

 

「……私?」

 

透明な壁が仲間たちの前へ現れる。

 

ユリは静かに頷く。

 

「……気をつけてね。」

 

ドロップは拳を握る。

 

「うん。」

 

静かに歩み出た。

 

 

 

-水の舞-

 

 

 

試合開始。

 

その瞬間だった。

 

ラビィオリの影が片手を上げる。

 

闘技場中の水が浮かび上がった。

 

「!」

 

無数の水弾。

 

一斉にドロップへ襲い掛かる。

 

「速い!」

 

横へ飛ぶ。

 

着地。

 

その足元から再び水柱。

 

跳ぶ。

 

避ける。

 

着地した瞬間。

 

今度は水刃。

 

「くっ!」

 

身体を捻り紙一重で回避。

 

ダイフクーが叫ぶ。

 

「近付けねぇ!」

 

ウインナーは静かに見つめる。

 

「距離を詰められないようにしてる……。」

 

ラビィオリの影は水の中心から一歩も動かない。

 

それでも攻撃は止まらない。

 

床。

 

天井。

 

左右。

 

あらゆる方向から水が襲う。

 

ドロップは避け続けた。

 

 

「……まだ。」

 

「届かない。」

 

 

 

-修行の成果-

 

 

 

ラビィオリの影が静かに前へ出る。

 

初めて肉弾戦へ移る。

 

水を纏った蹴り。

 

「!」

 

重い。

 

腕で受けた衝撃だけで数歩後退する。

 

続く拳。

 

蹴り。

 

肘。

 

水流を纏う一撃一撃が鋭い。

 

ドロップも応戦する。

 

拳と拳がぶつかる。

 

蹴りと蹴りが交差する。

 

水飛沫が大きく舞い上がる。

 

互角。

 

しかし。

 

「……本人と違うわね。」

 

ラビィオリの影の攻撃には、水流が加わる。

 

一撃ごとの威力が違う。

 

その時だった。

 

ドロップの脳裏に、修行の日々が蘇る。

 

ユリの声。

 

 

『受け止めようとしちゃ駄目。』

 

『流すの。』

 

『相手の力を利用する。』

 

『崩れた一瞬が、一番大きな隙になる。』

 

 

ドロップは静かに目を閉じた。

 

「……そうだった。」

 

再びラビィオリの影が踏み込む。

 

今度は違う。

 

真正面から受けない。

 

半歩引く。

 

身体を捻る。

 

水流を受け流す。

 

ラビィオリの影の重心が一瞬だけ前へ流れた。

 

「今!」

 

踏み込む。

 

肩。

 

肘。

 

拳。

 

蹴り。

 

一気に距離を詰める。

 

ラビィオリの影も初めて大きく後退した。

 

レイカが静かに笑う。

 

「……流せるようになったか。」

 

ユリも優しく微笑む。

 

「あの子、ちゃんと自分のものにした。」

 

レイカは小さく頷いた。

 

「教え方が良かったんだな。」

 

ユリは少し照れながら笑う。

 

「ふふっ。」

 

 

 

-勝利-

 

 

 

ラビィオリの影が両腕を広げる。

 

闘技場中の水が渦を巻いた。

 

巨大な水流。

 

一直線にドロップへ襲い掛かる。

 

逃げない。

 

ドロップは深く息を吸う。

 

 

「私は……。」

 

 

「みんなの背中を追い掛けるだけじゃ終わらない!」

 

 

水流へ飛び込む。

 

身体を回転。

 

水の勢いを利用し、そのまま跳躍。

 

空中。

 

身体を大きく捻る。

 

右脚が大きな弧を描いた。

 

「はあぁぁぁぁっ!!」

 

渾身の回し蹴り。

 

轟音。

 

ラビィオリの影を真正面から捉える。

 

影の身体へ無数の亀裂が走る。

 

静かに光へ変わり始めた。

 

黒い闇が消え、白い粒子となって舞い上がる。

 

その最後の瞬間。

 

ラビィオリの影の表情が、

 

ほんの一瞬だけ穏やかに微笑んだように見えた。

 

誰も何も言わない。

 

ブリトーだけが静かに目を閉じる。

 

「……ラヴィオリ。」

 

影は静かに光となって消えていった。

 

その瞬間。

 

神殿が大きく揺れる。

 

 

ゴゴゴゴゴ……。

 

 

透明な壁が消え去る。

 

闘技場中央の床が左右へ開き、

 

第三階層へ続く石階段が姿を現した。

 

古代文字が静かに輝く。

 

 

⸻

 

第二階層 攻略完了

 

第三階層 解放

 

⸻

 

 

ドロップが戻ると、ユリが優しく頭を撫でた。

 

「よく頑張ったね。」

 

ドロップは少し照れ臭そうに笑う。

 

「ありがとう。」

 

レイカも短く頷く。

 

「良かったぞ。」

 

ダイフクーは豪快に笑う。

 

「次も頼もしいな!」

 

ケンは目を輝かせる。

 

「俺も負けねぇ!」

 

ブリトーは静かに第三階層へ続く階段を見つめる。

 

「……行こう。」

 

誰が待ち受けているのか。

 

それは誰にも分からない。

 

一行は静かに石階段へ足を踏み出した。

 

 

 

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