-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第五十四章

 

 

 

-継ぐ者-

 

 

 

-第四階層-

 

 

 

第三階層を突破した一行は、

 

現れた石階段を静かに降りていく。

 

石壁には長い年月を感じさせる傷跡が刻まれ、

 

空気はさらに重くなっていた。

 

やがて第四階層へ続く巨大な石扉の前へ辿り着く。

 

ブリトーが静かに扉へ手を添えた。

 

「……行こう。」

 

重々しい音と共に石扉が開く。

 

そこは今までとは違い、

 

広く何もない円形の闘技場だった。

 

無機質な石床。

 

高い天井。

 

柱も障害物もない。

 

静寂だけが支配している。

 

ダイフクーが辺りを見回す。

 

「ずいぶんシンプルだな。」

 

その瞬間。

 

壁一面の古代文字が淡く輝き始めた。

 

 

⸻

 

第四階層

 

守護者 ガレットの影

 

挑戦者 一名

 

第三者の介入を禁ずる

 

⸻

 

 

闇が集まり、一人の男の姿を形作る。

 

大きな体。

 

揺るがぬ構え。

 

全身を包む黒い闇。

 

ガレットの影は静かに拳を握る。

 

その瞬間、一筋の光がケンの足元を照らした。

 

「……俺?」

 

「俺だ!!!」

 

透明な壁が仲間たちの前へ現れる。

 

レイカは静かにケンを見る。

 

「……行け。」

 

その一言だけだった。

 

ケンは大きく頷く。

 

「任せて!」

 

勢いよく前へ飛び出す。

 

しかし、その拳は僅かに震えていた。

 

 

 

-圧倒的な壁-

 

 

 

「行くぞ!」

 

避雷伸へ雷を纏わせ、一気に飛び込む。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

雷撃と共に突きを放つ。

 

しかし。

 

ガレットの影は片腕だけで受け止めた。

 

「なっ……!」

 

次の瞬間。

 

大樹の蔦がケンを突き飛ばす。

 

 

ドォォン!!

 

 

ケンは闘技場の端まで吹き飛ばされる。

 

石床を何度も転がり、ようやく立ち上がる。

 

「いてて……。」

 

ガレットの影は一歩ずつ歩いてくる。

 

焦る様子もない。

 

ケンは再び雷を放つ。

 

「喰らえ!」

 

雷撃。

 

蹴り。

 

突き。

 

連続攻撃。

 

しかし。

 

全て木々で防がれる。

 

「なんでだよ!」

 

また蔦が飛んでくる。

 

 

ドォン!!

 

 

再び吹き飛ばされる。

 

ダイフクーが思わず叫ぶ。

 

「ケン!」

 

立ち上がろうとしたその時。

 

レイカの声だけが響いた。

 

 

「立て。」

 

 

短い一言。

 

ケンは歯を食いしばる。

 

「……まだだっ!」

 

ゆっくり立ち上がる。

 

 

 

-考える力-

 

 

 

ケンは避雷伸を握り直した。

 

息を整える。

 

「強ぇ……。」

 

「でも。」

 

「……兄ちゃんならどうする?」

 

 

その時。

 

再びレイカの声。

 

 

「……考えろ。」

 

 

それだけだった。

 

ケンはガレットの影を見つめる。

 

拳。

 

踏み込み。

 

呼吸。

 

「……。」

 

「そうか。」

 

 

「全部最短で動いてる。」

 

「だから隙がないんだ。」

 

 

改造された身体が高速で思考を巡らせる。

 

避雷伸を見つめる。

 

「なら。」

 

「武器を変えればいい。」

 

 

カチッ。

 

 

避雷伸が三つに分解される。

 

 

仲間たちが驚く。

 

ブリトー。

 

「分解した!?」

 

シャーベットも目を見開く。

 

「戦闘中に武器を組み替えるのか……。」

 

ケンは笑った。

 

「これが俺の武器だ!」

 

 

 

-電光石火-

 

 

 

ガレットの影が踏み込む。

 

ケンは二本の避雷伸を、

 

改造している靴へ取り付ける。

 

踵からは電流が蓄積されていて、

 

溢れかえりそうになっている。

 

そして。

 

最後の一本を握り締める。

 

 

「これで終わりだ!」

 

 

ケンの靴から数多の稲妻が、

 

束になって走っていく。

 

 

ガレットの影まで刹那──

 

 

「必殺──」

 

 

最後の一本が槍になる。

 

 

 

「電光石火!!」

 

 

 

雷を一点へ集中させる。

 

最後の一本へ凄まじい電流が集まった。

 

ケンは一気に踏み込む。

 

雷を纏った突きが一直線に放たれる。

 

 

ズガァァァァン!!

 

 

雷鳴が神殿中へ轟いた。

 

避雷伸はガレットの影の胸部を正確に貫く。

 

影の身体が大きく震える。

 

全身へ無数の亀裂。

 

黒い闇が剥がれ落ちる。

 

静かに。

 

白い光へ変わっていく。

 

ケンは肩で息をしながら、

 

その場へ座り込んだ。

 

 

「……勝った。」

 

 

ガレットの影は静かに光の粒となり、

 

天井へ消えていった。

 

ブリトーが目を閉じ呟く。

 

「……ゆっくり休んで。」

 

神殿が大きく揺れる。

 

 

ゴゴゴゴゴ……。

 

 

透明な壁が消える。

 

中央の床が左右へ開き、

 

第五階層へ続く石階段が姿を現した。

 

壁の古代文字が静かに輝く。

 

 

⸻

 

第四階層 攻略完了

 

第五階層 解放

 

⸻

 

 

ケンが立ち上がると、真っ先にレイカの方を見る。

 

「兄ちゃん!」

 

「どうだった!?」

 

レイカは少しだけ間を置き、静かに口を開いた。

 

「……よくやった。」

 

その一言だった。

 

ケンの表情が一気に明るくなる。

 

「やったぁ!!」

 

ダイフクーが豪快に笑う。

 

「ははは!良かったな!」

 

ブリトーも笑みを浮かべる。

 

「ちゃんと一人で勝ったね。」

 

ユリは優しく微笑み、ウインナーも静かに頷く。

 

レイカは照れ隠しのように踵を返した。

 

「……次へ行くぞ。」

 

「へへっ!」

 

ケンは避雷伸を拾い上げ、

 

嬉しそうにレイカの後ろを追いかける。

 

その背中は、

 

サラミッドへ入る前よりも少しだけ大きく見えた。

 

そして一行は、

 

静かに第五階層への石階段へ足を踏み入れる。

 

 

 

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