-最深部-
―再会―
第六階層を突破した一行は、
最後に現れた巨大な石門の前へ立っていた。
誰一人として口を開かない。
この先に、すべての元凶が待っている。
ブリトーがゆっくりと石門へ手を触れた。
重々しい音が神殿中へ響く。
ゴゴゴゴゴ……。
巨大な門が左右へ開いていく。
その先に広がっていたのは、
想像を遥かに超える巨大な空間だった。
壁一面には、数え切れないほどの古代文字。
床にも。
天井にも。
まるで神殿そのものが、
巨大な術式となっているようだった。
シャーベットは思わず息を呑む。
「……これは。」
「全部、術式なのか。」
ユリも辺りを見回す。
「これほどの数……。」
「一人で維持できるものじゃない。」
レイカは煙草を取り出そうとした手を止め、小さく呟く。
「……嫌な空気だ。」
その時だった。
静かな拍手が広間へ響く。
パチ……パチ……。
「まさかここまで来るとは。」
「立派になったね。」
暗闇の奥から、
一人の男がゆっくり歩いてくる。
茶色いローブ。
丸い眼鏡にハット帽子。
穏やかな笑顔。
昔と何一つ変わらない姿。
ウインナーの身体が固まる。
「…………先生。」
スパムは優しく微笑んだ。
「久しぶりだね。」
「ウインナー。」
その笑顔は、あの日と同じだった。
スパムはまるで、
孤児院で再会したかのように話し始める。
「ランドの子ども達も元気だった。」
「キウイも。」
「パインも。」
「みんな笑顔だったね。」
「安心したよ。」
ダイフクーが眉をひそめる。
「てめぇ……。」
「どの口で言ってやがる。」
「お前が子供たちを怖がらせたんだろうが!!」
スパムは穏やかな笑みを崩さない。
「私は嘘は言っていない。」
「本当に安心したんだ。」
「子ども達は元気に育っていたからね。」
「ラクガンたちが頑張ってくれてるんだね。」
レイカが一歩前へ出る。
「……口数が多いぞ。」
スパムはレイカを見て微笑んだ。
「……相変わらずだね。」
「レイカ。」
「何か感じているのかい?」
「何もないよ。」
「時間稼ぎでもない。」
「ただ、話したいだけだよ。」
レイカは鼻で笑う。
「……お前は。」
「最初から気に食わなかった。」
その言葉にもスパムは怒らない。
「それでも。」
「私は先生だよ?」
「君達を育ててきたんだ。」
「文字を教え。」
「礼儀を教え。」
「食事を与え。」
「眠る場所を与えた。」
「親代わりだった。」
ウインナーは静かに俯いた。
「…………。」
スパムは続ける。
「もちろん。」
「……商品としても。」
広間が静まり返る。
ケンが目を見開いた。
「商品……?」
スパムは首を傾げる。
「おかしいかい?」
「私は最初から子を売るために。」
「孤児院を経営していたんだ。」
「育てる。」
「教育する。」
「そして必要とする者へ渡す。」
「何も変わらない。」
「そのお金で、また子ども達を育てる。」
「素晴らしい循環だろう?」
「…まあ、その後は買い手次第だけどね。」
「私はお客様を選ばないから。」
ウインナーは拳を握り締める。
「……。」
「……理解できない。」
スパムは静かに笑う。
「君は優しすぎる。」
「だから理解出来ないだけだよ。」
―術式―
スパムはゆっくりと壁へ触れた。
古代文字が一斉に淡く光り始める。
「さて。」
「そろそろ本題に入ろうか。」
シャーベットが前へ出る。
「目的は何だ。」
スパムは振り返る。
「古代の使い魔。」
「彼らを蘇らせること。」
「そのために、この神殿を作ったんだ。。」
ブリトーが目を見開く。
「この神殿を……?」
「そう。」
「正確には。」
「私が術式を構築し。」
「メザン様が形に変えた。」
レイカは壁一面を見渡す。
「影も。」
「お前の仕業か。」
スパムは嬉しそうに頷いた。
「そうだよ。」
「影達は過去の戦士達の記録。」
「術式。」
「闇。」
「全部組み合わせたものだった。」
シャーベットが静かに分析する。
「だから本人より強かった。」
「ええ。」
「失敗作ではあるけどね。」
「十分役目は果たしてくれた。」
「現に君たちは疲労している。」
ケンが叫ぶ。
「っ…!」
「そんなことして何になる!」
スパムは即答する。
「お金だよ。」
「莫大な富。」
「そして世界。」
「腐った上層部へ立つ。」
「私にはお金が必要なんだ。」
「だから。」
「メザン様へ協力している。」
その言葉と同時に、スパムが静かに指を鳴らした。
パチン。
床一面の古代文字が眩く輝く。
黒い影が無数に這い出した。
「!!」
ブリトー。
ダイフクー。
ユリ。
ドロップ。
シャーベット。
ケン。
六人の身体へ一斉に絡みつく。
「なっ!」
「離せ!」
次の瞬間。
黒い球体が六人を飲み込んだ。
ドロップが必死に拳を叩きつける。
「出しなさい!!」
ユリが氷を放つ。
「氷華流──紬!」
鋭い氷が闇を貫く。
しかし。
傷一つ付かない。
ブリトーも拳を叩き込む。
「くそっ!」
「割れろ!!」
しかし誰一人、外へ出られない。
その中で。
レイカとウインナーだけが立っていた。
レイカはゆっくり刀を抜く。
「……邪魔だ。」
一閃。
影は真っ二つになる。
しかし。
一瞬で再生した。
もう一度斬る。
再生。
また斬る。
また再生。
レイカは小さく舌打ちする。
「……面倒だ。」
スパムは穏やかに微笑む。
「無駄だよ。」
「その術式は。」
「昔、君が受けた改造。」
「その再生理論を参考にしたんだ。」
レイカの瞳が鋭くなる。
「…………。」
「君のお父様は。」
「本当に優秀な研究者だったよ。」
レイカは刀を握る力を強めた。
「……黙れ。」
炎が静かに揺らめく。
しかし影は、なおも際限なく湧き続ける。
スパムはその様子を満足そうに眺めると、
静かに振り返った。
「これで準備は整った。」
「生贄も揃ったよ。」
そして、深く一礼する。
「お待たせしました。」
「メザン様。」
広間最奥。
巨大な古代文字が一斉に輝きを放つ。
低い振動が神殿全体を揺らした。
ゴゴゴゴゴ……。
石壁が左右へ開いていく。
その奥の闇から、
一人の男がゆっくりと姿を現した。
レイカは静かに刀を構える。
「……来たか。」
男はゆっくりと口元を吊り上げた。
「待っていたぞ。」
「愚民ども。」
その笑みだけで、空気が凍り付く。
メザン――。