-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第五十七章

 

 

 

-最深部-

 

 

 

―再会―

 

 

 

第六階層を突破した一行は、

 

最後に現れた巨大な石門の前へ立っていた。

 

誰一人として口を開かない。

 

この先に、すべての元凶が待っている。

 

ブリトーがゆっくりと石門へ手を触れた。

 

重々しい音が神殿中へ響く。

 

 

ゴゴゴゴゴ……。

 

 

巨大な門が左右へ開いていく。

 

その先に広がっていたのは、

 

想像を遥かに超える巨大な空間だった。

 

壁一面には、数え切れないほどの古代文字。

 

床にも。

 

天井にも。

 

まるで神殿そのものが、

 

巨大な術式となっているようだった。

 

シャーベットは思わず息を呑む。

 

「……これは。」

 

「全部、術式なのか。」

 

ユリも辺りを見回す。

 

「これほどの数……。」

 

「一人で維持できるものじゃない。」

 

レイカは煙草を取り出そうとした手を止め、小さく呟く。

 

「……嫌な空気だ。」

 

その時だった。

 

静かな拍手が広間へ響く。

 

 

パチ……パチ……。

 

 

「まさかここまで来るとは。」

 

 

「立派になったね。」

 

 

暗闇の奥から、

 

一人の男がゆっくり歩いてくる。

 

茶色いローブ。

 

丸い眼鏡にハット帽子。

 

穏やかな笑顔。

 

昔と何一つ変わらない姿。

 

ウインナーの身体が固まる。

 

 

「…………先生。」

 

 

スパムは優しく微笑んだ。

 

 

「久しぶりだね。」

 

「ウインナー。」

 

 

 

その笑顔は、あの日と同じだった。

 

スパムはまるで、

 

孤児院で再会したかのように話し始める。

 

「ランドの子ども達も元気だった。」

 

「キウイも。」

 

「パインも。」

 

「みんな笑顔だったね。」

 

「安心したよ。」

 

ダイフクーが眉をひそめる。

 

「てめぇ……。」

 

「どの口で言ってやがる。」

 

「お前が子供たちを怖がらせたんだろうが!!」

 

スパムは穏やかな笑みを崩さない。

 

「私は嘘は言っていない。」

 

「本当に安心したんだ。」

 

「子ども達は元気に育っていたからね。」

 

「ラクガンたちが頑張ってくれてるんだね。」

 

レイカが一歩前へ出る。

 

「……口数が多いぞ。」

 

スパムはレイカを見て微笑んだ。

 

「……相変わらずだね。」

 

「レイカ。」

 

「何か感じているのかい?」

 

「何もないよ。」

 

「時間稼ぎでもない。」

 

「ただ、話したいだけだよ。」

 

レイカは鼻で笑う。

 

「……お前は。」

 

「最初から気に食わなかった。」

 

その言葉にもスパムは怒らない。

 

「それでも。」

 

「私は先生だよ?」

 

「君達を育ててきたんだ。」

 

「文字を教え。」

 

「礼儀を教え。」

 

「食事を与え。」

 

「眠る場所を与えた。」

 

「親代わりだった。」

 

ウインナーは静かに俯いた。

 

「…………。」

 

スパムは続ける。

 

「もちろん。」

 

「……商品としても。」

 

広間が静まり返る。

 

ケンが目を見開いた。

 

「商品……?」

 

スパムは首を傾げる。

 

 

「おかしいかい?」

 

「私は最初から子を売るために。」

 

「孤児院を経営していたんだ。」

 

「育てる。」

 

「教育する。」

 

「そして必要とする者へ渡す。」

 

「何も変わらない。」

 

「そのお金で、また子ども達を育てる。」

 

「素晴らしい循環だろう?」

 

「…まあ、その後は買い手次第だけどね。」

 

「私はお客様を選ばないから。」

 

 

ウインナーは拳を握り締める。

 

 

「……。」

 

「……理解できない。」

 

 

スパムは静かに笑う。

 

 

「君は優しすぎる。」

 

「だから理解出来ないだけだよ。」

 

 

 

―術式―

 

 

 

スパムはゆっくりと壁へ触れた。

 

古代文字が一斉に淡く光り始める。

 

「さて。」

 

「そろそろ本題に入ろうか。」

 

シャーベットが前へ出る。

 

「目的は何だ。」

 

スパムは振り返る。

 

「古代の使い魔。」

 

「彼らを蘇らせること。」

 

「そのために、この神殿を作ったんだ。。」

 

ブリトーが目を見開く。

 

「この神殿を……?」

 

「そう。」

 

「正確には。」

 

「私が術式を構築し。」

 

「メザン様が形に変えた。」

 

レイカは壁一面を見渡す。

 

「影も。」

 

「お前の仕業か。」

 

スパムは嬉しそうに頷いた。

 

「そうだよ。」

 

「影達は過去の戦士達の記録。」

 

「術式。」

 

「闇。」

 

「全部組み合わせたものだった。」

 

シャーベットが静かに分析する。

 

「だから本人より強かった。」

 

「ええ。」

 

「失敗作ではあるけどね。」

 

「十分役目は果たしてくれた。」

 

「現に君たちは疲労している。」

 

ケンが叫ぶ。

 

「っ…!」

 

「そんなことして何になる!」

 

スパムは即答する。

 

「お金だよ。」

 

「莫大な富。」

 

「そして世界。」

 

「腐った上層部へ立つ。」

 

「私にはお金が必要なんだ。」

 

「だから。」

 

「メザン様へ協力している。」

 

 

その言葉と同時に、スパムが静かに指を鳴らした。

 

 

 

パチン。

 

 

 

床一面の古代文字が眩く輝く。

 

黒い影が無数に這い出した。

 

 

「!!」

 

 

ブリトー。

 

ダイフクー。

 

ユリ。

 

ドロップ。

 

シャーベット。

 

ケン。

 

六人の身体へ一斉に絡みつく。

 

 

「なっ!」

 

「離せ!」

 

 

次の瞬間。

 

黒い球体が六人を飲み込んだ。

 

ドロップが必死に拳を叩きつける。

 

「出しなさい!!」

 

ユリが氷を放つ。

 

「氷華流──紬!」

 

鋭い氷が闇を貫く。

 

しかし。

 

傷一つ付かない。

 

ブリトーも拳を叩き込む。

 

「くそっ!」

 

「割れろ!!」

 

しかし誰一人、外へ出られない。

 

その中で。

 

レイカとウインナーだけが立っていた。

 

レイカはゆっくり刀を抜く。

 

「……邪魔だ。」

 

一閃。

 

影は真っ二つになる。

 

しかし。

 

一瞬で再生した。

 

もう一度斬る。

 

再生。

 

また斬る。

 

また再生。

 

レイカは小さく舌打ちする。

 

「……面倒だ。」

 

スパムは穏やかに微笑む。

 

「無駄だよ。」

 

「その術式は。」

 

「昔、君が受けた改造。」

 

「その再生理論を参考にしたんだ。」

 

レイカの瞳が鋭くなる。

 

「…………。」

 

「君のお父様は。」

 

「本当に優秀な研究者だったよ。」

 

レイカは刀を握る力を強めた。

 

「……黙れ。」

 

炎が静かに揺らめく。

 

しかし影は、なおも際限なく湧き続ける。

 

スパムはその様子を満足そうに眺めると、

 

静かに振り返った。

 

 

「これで準備は整った。」

 

「生贄も揃ったよ。」

 

 

そして、深く一礼する。

 

 

「お待たせしました。」

 

「メザン様。」

 

 

広間最奥。

 

巨大な古代文字が一斉に輝きを放つ。

 

低い振動が神殿全体を揺らした。

 

 

ゴゴゴゴゴ……。

 

 

石壁が左右へ開いていく。

 

その奥の闇から、

 

一人の男がゆっくりと姿を現した。

 

レイカは静かに刀を構える。

 

「……来たか。」

 

男はゆっくりと口元を吊り上げた。

 

 

「待っていたぞ。」

 

「愚民ども。」

 

 

その笑みだけで、空気が凍り付く。

 

メザン――。

 

 

 

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