-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第五十八章

 

 

 

―影に堕ちた先生―

 

 

 

―儀式―

 

 

 

最深部。

 

巨大な古代文字が刻まれた神殿。

 

静寂の中、

 

メザンだけは一度も振り返らない。

 

巨大な石板へ両手を添え、

 

静かに闇を流し込み続けていた。

 

黒い瘴気が術式を巡り、

 

神殿全体へ広がっていく。

 

ブリトーの視線が、その奥へ向いた。

 

「……!」

 

巨大な祭壇。

 

その中央。

 

無数の管に繋がれた一人の青年。

 

 

「パル……!!」

 

 

胸。

 

両腕。

 

背中。

 

全身へ伸びた管から、

 

眩い光が古代石板へ吸い上げられていく。

 

しかしパルは目を閉じたまま動かない。

 

ブリトーは拳を握る。

 

「待ってろ……。」

 

「絶対に助ける。」

 

メザンは小さく笑うだけだった。

 

「ふっ。」

 

「儀式は、もう止まらん。」

 

 

 

―影の軍勢―

 

 

 

スパムが静かに前へ出る。

 

 

「メザン様。」

 

「儀式に集中してくださいね。」

 

 

静かに指を鳴らした。

 

 

パチン。

 

 

床の古代文字が赤黒く輝く。

 

神殿全体から闇が溢れ始めた。

 

その闇は次第に形を持つ。

 

「……あれは。」

 

ケンが息を呑む。

 

闇は六人の姿へ変わった。

 

ダイフクー。

 

ユリ。

 

ドロップ。

 

シャーベット。

 

ケン。

 

ブリトー。

 

全員の影だった。

 

ウインナーが驚く。

 

「みんな……。」

 

スパムは穏やかに微笑む。

 

「便利なものだよ。」

 

「記憶。」

 

「戦闘技術。」

 

「癖。」

 

「全て再現できる。」

 

「もちろん。」

 

「本人以上に。」

 

 

 

―躊躇―

 

 

 

影が一斉に襲い掛かる。

 

「来るぞ!」

 

レイカが炎飛を抜く。

 

一閃。

 

ユリの影が吹き飛ぶ。

 

「っ…!!」

 

本体のユリへダメージが行く。

 

「……!!」

 

レイカの動きが止まった。

 

「本体にもいくのか。」

 

スパムは笑う。

 

「ただの影では面白くないでしょう?」

 

「さあ、どうするんだい?」

 

ウインナーも風を纏う。

 

しかし目の前にはドロップの影。

 

拳が止まる。

 

 

「出来ない……。」

 

 

スパムは静かに笑った。

 

「優しいね。」

 

「戦略通りだよ。」

 

影達は容赦なく攻撃を繰り返す。

 

ブリトーの影がレイカへ拳を叩き込む。

 

ケンの影が雷を放つ。

 

ダイフクーの影が首を大きくしならせる。

 

 

 

「ネックインパクト!」

 

 

轟音。

 

 

レイカは受け流すが、肩へ傷が刻まれる。

 

傷は塞がらない。

 

ユリが気付く。

 

 

「レイカ!」

 

 

「なんで…回復しないの。」

 

 

シャーベットも分析する。

 

「恐らく、術式だ。」

 

「この空間では再生が封じられている。」

 

レイカは静かに舌打ちした。

 

 

「ちっ…。」

 

「厄介だ。」

 

 

一方的な攻防戦の中、

 

ダイフクーが叫ぶ。

 

 

「レイカ、ウインナー!」

 

「迷うな!!」

 

 

ブリトーも拳を叩きつける。

 

 

「影を倒して!」

 

「僕達なら大丈夫だ!」

 

 

ユリも静かに叫ぶ。

 

 

「信じて…!」

 

 

ドロップは涙を流しながら笑った。

 

 

「私は平気!」

 

「だから!」

 

「やって!!」

 

 

ケンも叫ぶ。

 

 

「兄ちゃん!」

 

「俺達を信じろ!」

 

 

ウインナーは拳を握る。

 

レイカを見る。

 

レイカも静かに頷いた。

 

そして、ひと息つく。

 

 

「……聞こえたか。」

 

「うん。」

 

「……決めるぞ。」

 

 

二人は同時に構える。

 

 

 

―覚悟―

 

 

 

レイカが踏み込む。

 

炎飛が舞う。

 

ユリの影。

 

シャーベットの影。

 

ダイフクーの影。

 

次々と斬り伏せていく。

 

同時に。

 

ウインナーは風を纏った。

 

「風のエチュード!」

 

暴風が神殿を駆け抜ける。

 

ブリトー。

 

ケン。

 

ドロップ。

 

三人の影を包み込み、一気に吹き飛ばした。

 

六体の影が同時に崩れる。

 

 

 

その瞬間。

 

闇の球体の中で仲間達が一斉に意識を失う。

 

ブリトーが倒れる。

 

ユリも静かに膝をついた。

 

ドロップもその場へ崩れ落ちる。

 

ウインナーが歯を食いしばる。

 

 

「みんな……!!!」

 

 

レイカが肩へ手を置いた。

 

 

「……大丈夫だ。」

 

「信じるぞ。」

 

「そうだね……。」

 

「……先生を止める。」

 

 

 

静寂。

 

 

 

スパムだけが立っていた。

 

ゆっくり眼鏡を押し上げる。

 

「仲間を犠牲にするんだね。」

 

「二人とも。」

 

「まさかだったよ。」

 

そして。

 

静かに両腕を広げた。

 

 

「……ふふふ。」

 

「私も本気を出そうか。」

 

 

闇が足元から噴き上がる。

 

そのまま全身を包み込んでいく。

 

黒い影が身体と融合する。

 

しかし。

 

瞳だけは変わらない。

 

「この影は。」

 

「私自身の意思で制御出来るんだ。」

 

「すごいだろう?」

 

レイカが刀を構える。

 

「……術式の核。」

 

「お前だな。」

 

スパムは穏やかに微笑んだ。

 

「ええ。」

 

「私を倒さない限り。」

 

「仲間たちは目覚めないよ。」

 

「そして、レイカ。」

 

「君も一旦退場だ。」

 

古代文字が不規則に並べられた影が、

 

レイカへ襲い掛かる。

 

「遅い!!!」

 

一閃。

 

しかし、炎飛に術式が絡みつき、

 

刀を伝ってレイカへ術式の影がまとわりつく。

 

「古代の封印術式だよ。」

 

「……君の父親に感謝だ。」

 

「っ…!!!」

 

(動けん…。声も出せん……。力が抜けていく…。)

 

 

レイカはその場に倒れこむ。

 

 

「レイカ!!!」

 

スパムはウインナーを真っ直ぐ見る。

 

「さあ、最初で最後の喧嘩を始めようか。」

 

「おいで、ウインナー。」

 

 

 

 

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