第六十四章
―最後の願い―
―静寂―
静かだった。
先ほどまで激しく揺れていた神殿は、
まるで全てを終えたかのように静まり返っていた。
黒炎も消えた。
闇も消えた。
残っているのは、
崩れた神殿だけ。
レイカはゆっくりと歩く。
身体はもう限界だった。
炎飛を杖代わりに、
一歩。
また一歩。
傷は増え続け、
血が床へ落ちていく。
それでも歩みは止まらない。
ふと、
崩れた壁の奥から一筋の光が漏れていることに気付く。
「……。」
静かに瓦礫をどける。
そこには、
小さな石造りの部屋があった。
⸻
―禁貨の間―
部屋の中央。
無数の禁貨。
禁貨が山のように積まれていた。
レイカは静かに笑う。
「俺は……。」
「……運がいいな。」
ゆっくりしゃがみ込む。
一枚。
禁貨を手に取る。
そして。
自身ののバンクへ入れる。
カチッ。
また一枚。
カチッ。
また一枚。
何も喋らない。
ただ黙々と集めていく。
神殿には、
禁貨が入る小さな音だけが響いていた。
今にも倒れそうな身体。
しかし、レイカの目は諦めていない。
「……もう少し待ってろ。」
再び禁貨を入れる。
一枚。
また一枚。
どれほど時間が経ったのか。
バンクが光る。
残り、あと一枚。
レイカは最後の禁貨を見つめる。
「……長かったな。」
小さく笑う。
そして、
最後の一枚を静かにバンクへ入れた。
⸻
―願い―
その瞬間。
バンクが割れる。
眩い光を放った後、
ピンクの精霊が登場する。
「バンキ〜ング!」
「あれ?会ったことある顔だなあ!」
「……願いを叶えてくれ。」
レイカは迷わなかった。
「みんなを生き返らせてくれ。」
静寂。
柔らかな光がさらに強く輝く。
「わかった!」
その光景を見ても、
レイカの表情は変わらない。
少しだけ考える。
そして、
小さく笑った。
「……今回は。」
「おまけも出来るか?」
「……おまけって?」
レイカは空を見上げた。
「ユリを。」
「普通の人間にしてくれ。」
「不老不死じゃなく。」
「普通に歳を重ねて。」
「普通に笑って。」
「普通に生きてほしい。」
「それだけでいい。」
少しの沈黙。
「今回だけ!特別だ!」
レイカはゆっくり目を閉じる。
最後の願いを口にする。
「あと一つ。」
静かな声だった。
「まだあるの〜?」
「ユリの記憶を消してくれ。」
バンキングが表情を固くする。
「いいの?」
「ぜーんぶ忘れちゃうよ?」
「……ああ。」
「俺との思い出を。」
「全部。」
神殿が静まり返る。
レイカは続ける。
「俺がいたら。」
「ずっとユリは辛いだけだ。」
「だから。」
「俺だけ忘れてくれ。」
「それでいい。」
長い沈黙。
バンキングは考え、答える。
「本当に今回だけ!」
「おまけのおまけだからね!」
その瞬間。
神殿を包む優しい光が、
仲間達へ降り注いだ。
ブリトー。
ドロップ。
シャーベット。
ダイフクー。
ケン。
ウインナー。
そして。
ユリ。
全員の身体が優しい光に包まれていく。
レイカはその光景を見届ける。
「……これでいい。」
小さく笑う。
その横顔は、
どこか穏やかだった。
神殿の外では、
長い夜が終わり、
朝日がゆっくりと昇り始めていた。
――最終章へ続く。