エピローグ
―それぞれの明日―
―目覚め―
柔らかな朝日が、崩れた神殿を静かに照らしていた。
「……ん。」
最初に瞼を開いたのは、ウインナーだった。
身体を起こし、ゆっくりと周囲を見渡す。
崩れた石柱。
砕けた祭壇。
そして、静かな朝。
長い戦いは終わっていた。
「……みんな!」
慌てて立ち上がる。
少し離れた場所では、ブリトーがゆっくりと身体を起こしていた。
「……ここは。」
ダイフクーも頭を押さえながら目を覚ます。
「いてぇ……。」
シャーベットは静かに辺りを見回した。
「終わった……のか。」
ケンも目を覚まし、大きく息を吐く。
「助かった……。」
ブリトーは慌てて祭壇へ駆け寄る。
「パル!」
祭壇の前には、静かに横たわるパルの姿があった。
「……。」
ゆっくりと瞳が開く。
「……ブリトー。」
「パル!」
二人は固く手を握り合った。
誰もが、生きていた。
⸻
―空白―
「……ん。」
静かな声が響く。
ユリだった。
ゆっくりと身体を起こし、辺りを見渡す。
「ここは……。」
「私は……。」
ドロップが駆け寄る。
「ユリさん!」
「大丈夫!?」
ユリは困ったように微笑んだ。
「……ごめんなさい。」
「あなた達は……誰ですか?」
その場の空気が止まる。
ウインナーもブリトーも言葉を失った。
ユリは胸へ手を当てる。
「故郷が襲われて……。」
「そこまでは覚えてる。」
「でも。」
「その後が……何も思い出せない。」
困ったように首を傾げる。
「私……。」
「どうしてここにいるの?」
誰も答えられなかった。
⸻
―いない人―
長い沈黙の後。
ケンが辺りを見回した。
「……あれ?」
「兄ちゃんは?」
その一言で、全員が我に返る。
「レイカ!」
ウインナーが叫ぶ。
返事はない。
ブリトーが神殿の奥へ走る。
「レイカ!」
ダイフクーも崩れた通路を探す。
「おい!」
「どこだ!」
シャーベットは瓦礫を退かし続ける。
しかし。
どこにもいなかった。
祭壇にも。
崩れた広間にも。
隠し部屋にも。
姿はない。
炎飛も。
煙草も。
何一つ残されていなかった。
まるで最初から、この場所に存在していなかったかのように。
ブリトーは静かに呟く。
「……いない。」
ケンは何度も叫ぶ。
「兄ちゃん!」
「返事してくれよ!」
神殿には、その声だけが虚しく響いた。
⸻
―旅立ち―
神殿はゆっくりと崩れ始めていた。
これ以上、中へ留まることは出来ない。
ウインナーは最後に一度だけ振り返る。
崩れゆく神殿。
朝日に照らされる遺跡。
そこに、レイカの姿はなかった。
「……絶対、見つけるから。」
誰も納得はしていない。
それでも歩き出すしかなかった。
仲間たちは静かに神殿を後にする。
ユリだけが一度だけ立ち止まり、崩れゆく遺跡を見つめた。
「……。」
胸が少しだけ痛む。
理由は分からない。
何か、とても大切なものを置いてきた気がした。
それでも思い出せない。
ユリは小さく首を振り、皆の後を追った。
⸻
―そして――
遠く。
どこまでも続く森。
一人の男が静かに歩いていた。
黒いコート。
長かった黒い髪は、
炎の加護の暴走によって、
結び目から下は燃えてしまった。
そして、
左耳には、二つだけ残った銀色のピアス。
腰には一本の刀。
男は一度も振り返らない。
立ち止まることもない。
ただ前だけを見つめ、静かに歩き続ける。
その先に何があるのか。
どこへ向かうのか。
それを知る者は誰もいなかった。
風が優しく吹き抜ける。
男の姿は少しずつ小さくなり、
やがて地平線の彼方へと消えていく。
その背中を見送る者は、誰一人いなかった。
第一部〜完〜