-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第二章

 

 

 

― 旅立ち ―

 

 

 

朝日が王国を優しく照らしていた。

 

澄み渡る青空。

 

吹き抜ける風。

 

城下町には人々の笑い声が響き、

 

平和な時間が流れている。

 

そんな中、気球船の前には四人の姿があった。

 

ウインナー。

 

ドロップ。

 

ケン。

 

そして――ユリ。

 

旅支度を終えた四人は、

 

それぞれ荷物を背負い、

 

静かに気球船を見上げる。

 

ウインナーは小さく息を吸い込んだ。

 

「……行こう。」

 

誰も異論はない。

 

四人はゆっくりと気球船へ乗り込んだ。

 

 

 

「わぁ……!」

 

船がゆっくりと浮かび上がる。

 

ユリは船の縁に手を添え、目を輝かせていた。

 

眼下には小さくなっていく町並み。

 

どこまでも続く青い空。

 

頬を撫でる心地よい風。

 

「すごい……!」

 

「空って、本当に飛べるんだ……!」

 

その無邪気な姿に、

 

ドロップは思わず笑みをこぼした。

 

「ふふっ。」

 

「そんなに珍しい?」

 

「はい!」

 

ユリは嬉しそうに何度も頷く。

 

「こんな景色、初めて見ました!」

 

「ふふっ。」

 

「……そんなにはしゃぐとは思わなかった。」

 

「ちょっと安心した。」

 

そのやり取りに、

 

船の上は少しだけ明るい空気に包まれた。

 

 

 

しばらくして。

 

ユリは船内を歩き回っていた。

 

荷物置き場の前で足を止める。

 

旅人たちの荷物。

 

毛布。

 

水筒。

 

背負い袋。

 

何気ない光景だった。

 

だが――。

 

「……っ。」

 

突然、胸が締め付けられる。

 

息が詰まり、その場に手をついた。

 

「ユリさん!」

 

ドロップが慌てて駆け寄る。

 

「大丈夫!?」

 

「は、はい……。」

 

胸を押さえながら、小さく笑う。

 

「急に苦しくなっただけです。」

 

「でも……。」

 

ユリは荷物を見つめたまま呟く。

 

「何だろう。」

 

「この景色……。」

 

「見たことがある気がする。」

 

ウインナーたちは顔を見合わせた。

 

「本当に?」

 

ウインナーが静かに尋ねる。

 

ユリは目を閉じる。

 

記憶を探るように。

 

「誰かと……。」

 

「旅をしていたような……。」

 

そこまで言うと、首を横に振った。

 

「……駄目。」

 

「思い出せない。」

 

「胸が苦しくなるだけ。」

 

ドロップはそっとユリの肩に手を置く。

 

「無理しなくていいよ。」

 

「焦らなくても大丈夫。」

 

「きっと、いつか思い出せるから。」

 

ユリは小さく頷いた。

 

「……ありがとうございます。」

 

 

 

昼過ぎ。

 

四人は船の甲板で昼食をとっていた。

 

穏やかな風が吹き抜ける。

 

ユリは何度も、

 

口を開いては閉じてを繰り返していた。

 

「……あの。」

 

「ドロップさん。」

 

ドロップは首を傾げる。

 

「ん?」

 

「その”さん”って、やめない?」

 

「え?」

 

ユリは驚いたように目を丸くした。

 

「でも……。」

 

「まだ会って間もないし。」

 

「敬語じゃないと失礼かなって。」

 

ドロップは優しく笑う。

 

「そんなに気を遣わなくていいよ。」

 

「せっかく一緒に旅をする仲間なんだから。」

 

「もっと気楽に話してほしいな。」

 

ケンも頷く。

 

「俺も敬語は苦手。」

 

「普通でいい。」

 

ウインナーも穏やかに微笑んだ。

 

「僕も、その方が嬉しい。」

 

「無理に変えなくてもいいけど。」

 

「少しずつでいいから。」

 

ユリは少しだけ困ったように笑う。

 

「……難しいな。」

 

「今までずっと敬語だったから。」

 

「じゃあ、ゆっくりで!」

 

ドロップが笑顔で言う。

 

「失敗しても誰も気にしないよ。」

 

少しの沈黙。

 

やがてユリは意を決したように口を開いた。

 

「……ドロップ。」

 

「ん?」

 

「これで……いい?」

 

一瞬だけ静まり返る。

 

そして。

 

「うん!」

 

ドロップは満面の笑みを浮かべた。

 

「その方がユリらしい!」

 

ユリも照れくさそうに笑う。

 

「……ありがとう。」

 

その笑顔を見て、

 

ウインナーもケンも自然と笑みをこぼした。

 

 

 

夕暮れ。

 

気球船はゆっくりと目的地へ向かって進んでいた。

 

空は茜色に染まり、

 

雲が黄金色に輝いている。

 

ユリは船の縁に寄りかかり、

 

広がる景色を静かに眺めていた。

 

「……綺麗。」

 

その言葉には、もう堅苦しさはなかった。

 

ドロップは隣へ並び、優しく笑う。

 

「でしょ?」

 

「うん。」

 

「こんな景色……。」

 

「初めて見るはずなのに。」

 

「どこか懐かしい。」

 

胸へそっと手を当てる。

 

理由は分からない。

 

それでも、この空を見ていると胸が少し痛んだ。

 

遠い昔。

 

誰かと同じ景色を見たような気がする。

 

その”誰か”だけが、どうしても思い出せない。

 

ウインナーは静かに空を見上げる。

 

(待ってて、レイカ。)

 

(僕たちが必ず見つける。)

 

四人を乗せた気球船は、

 

夕焼けの空をゆっくりと進んでいく。

 

それぞれの想いを胸に。

 

それぞれの答えを探すために。

 

──旅が始まった。

 

 

 

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