― 旅立ち ―
朝日が王国を優しく照らしていた。
澄み渡る青空。
吹き抜ける風。
城下町には人々の笑い声が響き、
平和な時間が流れている。
そんな中、気球船の前には四人の姿があった。
ウインナー。
ドロップ。
ケン。
そして――ユリ。
旅支度を終えた四人は、
それぞれ荷物を背負い、
静かに気球船を見上げる。
ウインナーは小さく息を吸い込んだ。
「……行こう。」
誰も異論はない。
四人はゆっくりと気球船へ乗り込んだ。
「わぁ……!」
船がゆっくりと浮かび上がる。
ユリは船の縁に手を添え、目を輝かせていた。
眼下には小さくなっていく町並み。
どこまでも続く青い空。
頬を撫でる心地よい風。
「すごい……!」
「空って、本当に飛べるんだ……!」
その無邪気な姿に、
ドロップは思わず笑みをこぼした。
「ふふっ。」
「そんなに珍しい?」
「はい!」
ユリは嬉しそうに何度も頷く。
「こんな景色、初めて見ました!」
「ふふっ。」
「……そんなにはしゃぐとは思わなかった。」
「ちょっと安心した。」
そのやり取りに、
船の上は少しだけ明るい空気に包まれた。
しばらくして。
ユリは船内を歩き回っていた。
荷物置き場の前で足を止める。
旅人たちの荷物。
毛布。
水筒。
背負い袋。
何気ない光景だった。
だが――。
「……っ。」
突然、胸が締め付けられる。
息が詰まり、その場に手をついた。
「ユリさん!」
ドロップが慌てて駆け寄る。
「大丈夫!?」
「は、はい……。」
胸を押さえながら、小さく笑う。
「急に苦しくなっただけです。」
「でも……。」
ユリは荷物を見つめたまま呟く。
「何だろう。」
「この景色……。」
「見たことがある気がする。」
ウインナーたちは顔を見合わせた。
「本当に?」
ウインナーが静かに尋ねる。
ユリは目を閉じる。
記憶を探るように。
「誰かと……。」
「旅をしていたような……。」
そこまで言うと、首を横に振った。
「……駄目。」
「思い出せない。」
「胸が苦しくなるだけ。」
ドロップはそっとユリの肩に手を置く。
「無理しなくていいよ。」
「焦らなくても大丈夫。」
「きっと、いつか思い出せるから。」
ユリは小さく頷いた。
「……ありがとうございます。」
昼過ぎ。
四人は船の甲板で昼食をとっていた。
穏やかな風が吹き抜ける。
ユリは何度も、
口を開いては閉じてを繰り返していた。
「……あの。」
「ドロップさん。」
ドロップは首を傾げる。
「ん?」
「その”さん”って、やめない?」
「え?」
ユリは驚いたように目を丸くした。
「でも……。」
「まだ会って間もないし。」
「敬語じゃないと失礼かなって。」
ドロップは優しく笑う。
「そんなに気を遣わなくていいよ。」
「せっかく一緒に旅をする仲間なんだから。」
「もっと気楽に話してほしいな。」
ケンも頷く。
「俺も敬語は苦手。」
「普通でいい。」
ウインナーも穏やかに微笑んだ。
「僕も、その方が嬉しい。」
「無理に変えなくてもいいけど。」
「少しずつでいいから。」
ユリは少しだけ困ったように笑う。
「……難しいな。」
「今までずっと敬語だったから。」
「じゃあ、ゆっくりで!」
ドロップが笑顔で言う。
「失敗しても誰も気にしないよ。」
少しの沈黙。
やがてユリは意を決したように口を開いた。
「……ドロップ。」
「ん?」
「これで……いい?」
一瞬だけ静まり返る。
そして。
「うん!」
ドロップは満面の笑みを浮かべた。
「その方がユリらしい!」
ユリも照れくさそうに笑う。
「……ありがとう。」
その笑顔を見て、
ウインナーもケンも自然と笑みをこぼした。
夕暮れ。
気球船はゆっくりと目的地へ向かって進んでいた。
空は茜色に染まり、
雲が黄金色に輝いている。
ユリは船の縁に寄りかかり、
広がる景色を静かに眺めていた。
「……綺麗。」
その言葉には、もう堅苦しさはなかった。
ドロップは隣へ並び、優しく笑う。
「でしょ?」
「うん。」
「こんな景色……。」
「初めて見るはずなのに。」
「どこか懐かしい。」
胸へそっと手を当てる。
理由は分からない。
それでも、この空を見ていると胸が少し痛んだ。
遠い昔。
誰かと同じ景色を見たような気がする。
その”誰か”だけが、どうしても思い出せない。
ウインナーは静かに空を見上げる。
(待ってて、レイカ。)
(僕たちが必ず見つける。)
四人を乗せた気球船は、
夕焼けの空をゆっくりと進んでいく。
それぞれの想いを胸に。
それぞれの答えを探すために。
──旅が始まった。