― ベーグル王国 ―
数日後――。
四人を乗せた気球船は、
ベーグル王国へ到着した。
王国へ足を踏み入れると、
焼きたてのパンの香ばしい匂いが辺りに広がる。
大通りには露店が立ち並び、
多くの人で賑わっていた。
「すごい人だね。」
ユリが辺りを見渡しながら呟く。
「旅を始めた頃は……。」
「こんな町を見るだけでも緊張してたのに。」
ドロップが笑う。
「今じゃ慣れっこだね。」
「うん。」
ユリも自然と笑みを浮かべた。
ウインナーは町並みを見回しながら口を開く。
「今日は食料の補給と情報収集をしよう。」
「日が暮れる前に集合ね。」
「了解!」
四人は二手に分かれ、市場へ歩き出した。
「この果物、美味しそう!」
「こっちは安いよ!」
ドロップとユリは、
露店を見て回りながら楽しそうに話している。
旅に必要な保存食や野菜を手際よく選び、
荷物へ詰めていく。
その様子は、
長い旅で身についた慣れそのものだった。
一方、ケンは店先で干し肉を眺めていた。
「おっちゃん、少しまけてくれよ。」
店主は苦笑する。
「毎回値切るな。」
「旅人は金欠なんだよ。」
そんなやり取りを見ていたウインナーも、
思わず笑ってしまう。
穏やかな時間だった。
その時だった。
「泥棒ーっ!!」
少女の叫び声が市場中へ響き渡る。
一人の男が袋を抱え、
人混みをかき分けながら逃げていた。
「行くよ!」
ドロップが真っ先に駆け出す。
「ケン!」
「分かってる!」
ケンは素早く路地へ回り込む。
逃げ道を塞がれた男が振り返った瞬間、
目の前へドロップが立った。
「返して。」
男は舌打ちし、無理やり突破しようとする。
その瞬間。
突風が男の身体を横へ押し戻した。
「逃げられないよ。」
ウインナーだった。
男は体勢を崩す。
その隙にドロップが素早く懐へ入り込み、
男を地面へ押さえ込んだ。
「終わり。」
盗まれた袋を受け取ったユリは、
泣いていた少女へ駆け寄る。
「はい。」
「もう大丈夫。」
少女は涙を拭きながら何度も頭を下げた。
「ありがとう!」
市場には自然と拍手が起こる。
「さすが旅人さんだ!」
「助かったよ!」
四人は少し照れくさそうに顔を見合わせた。
夕方。
町外れの広場。
焚き火の上では鍋が湯気を立てていた。
「いい匂い。」
ケンが鍋を覗き込む。
「まだ駄目。」
ドロップが木べらで軽く頭を叩く。
「味見は禁止。」
「ちぇ。」
その様子にユリが笑う。
「少しくらいならいいんじゃない?」
「ユリまで!」
笑い声が夜空へ溶けていく。
やがて料理が完成し、
四人は焚き火を囲んで食事を始めた。
「美味しい!」
「やっぱりみんなで食べると違うね。」
ウインナーも静かに頷く。
「うん。」
「こういう時間は大切にしたい。」
一瞬だけ沈黙が流れる。
レイカも昔、この輪の中にいた。
誰も口にはしなかった。
それでも、全員が同じことを思い浮かべていた。
食後。
近くでは旅人たちが焚き火を囲み、
旅の話に花を咲かせていた。
ウインナーは立ち上がる。
「少し聞いてくる。」
「あ、俺も行く。」
ケンも後を追った。
「すみません。」
「少し、お聞きしたいことがあるんです。」
旅人の一人が顔を上げる。
「何だい?」
ウインナーは懐から一枚の紙を取り出した。
そこには、
黒いローブを羽織った人物の、
簡単な似顔絵が描かれている。
「この人を見かけませんでしたか?」
旅人たちは顔を見合わせる。
「知らないな。」
「見たことない。」
その時だった。
少し離れた場所で酒を飲んでいた男が、
ゆっくり口を開く。
「……黒いローブ?」
ウインナーの表情が変わる。
「ご存じなんですか!」
男は焚き火を見つめたまま頷く。
「ああ。」
「数日前、この国の北にある小さな村で見た。」
四人は息を呑む。
「その人は……?」
男は少しだけ言葉を選ぶように沈黙した。
「村人を助けていた。」
その一言に、四人の表情が明るくなる。
しかし――。
「その後だった。」
男は静かに続けた。
「黒い炎が村を包んだ。」
「誰にも止められなかった。」
「村は……燃え尽きたよ。」
焚き火が、パチリと音を立てる。
誰も言葉を発せない。
ユリは無意識に胸へ手を当てた。
まただ。
理由も分からない。
胸の奥が締め付けられる。
遠い記憶が、
今にも手の届きそうなところで揺れている。
「……レイカ。」
ウインナーは小さくその名を呟いた。
焚き火の炎だけが、静かに揺れていた。