― 黒炎の痕跡 ―
朝日が森の木々を照らし始める頃、
四人は旅支度を整えていた。
昨夜聞いた話が、誰の頭からも離れない。
黒いローブの青年。
村を救い、そして燃やした男。
その人物が、本当にレイカなのか――。
確かめなければならなかった。
「昨日の旅人さんに、村までの道を聞いてこよう。」
ウインナーの言葉に三人は頷く。
旅人は焚き火の後始末をしながら地図を広げた。
「ここから北へ半日ほど進め。」
指先が森の奥を指す。
「焼け焦げた木が見えてきたら、その先が村だ。」
「ありがとう。」
ウインナーは深く頭を下げた。
「気を付けろよ。」
旅人は真剣な表情で言う。
「昼間でも妙に静かな場所だ。」
「……分かりました。」
四人は荷物をまとめ、
北へ向かって気球船を向かわせた。
森の中は静かだった。
鳥のさえずりさえ少ない。
風が木々を揺らす音だけが耳に届く。
誰も口を開かなかった。
それぞれが同じことを考えている。
レイカ。
本当に君なのか。
しばらく歩いた頃だった。
ユリが小さく胸を押さえる。
「……どうしたの?」
ドロップが声を掛ける。
「ううん。」
ユリは首を横に振る。
「なんでもない。」
そう答えながらも、
胸の奥に小さな痛みが残っていた。
理由は分からない。
けれど、
この先へ進むことを心が急かしているようだった。
やがて景色が変わる。
青々としていた木々が、次第に黒く焼け焦げ始めた。
焦げた匂いが風に乗って漂う。
「ここか……。」
ケンが小さく呟く。
さらに進むと、一つの村が姿を現した。
そこに広がっていたのは、静寂だった。
家々は焼け落ち、柱だけが虚しく立っている。
畑は灰に覆われ、井戸も崩れていた。
生活の跡だけが残り、人の姿は一人もない。
「誰も……いない。」
ドロップが辺りを見回す。
ウインナーはゆっくりと歩きながら周囲を確認する。
争った形跡はある。
しかし、遺体は見当たらない。
「みんな逃げられたのかな。」
ユリが呟く。
「そうだといいけど。」
その時だった。
遠くから煙が立ち上っているのが見えた。
「煙?」
ケンが指差す。
「行ってみよう。」
四人は煙の上がる方向へ走り出した。
森を抜けると、小さな広場があった。
簡易的なテント。
焚き火。
身を寄せ合う子どもたち。
疲れ切った表情の大人たち。
村人たちは、森の中で避難生活を送っていた。
「よかった……。」
ドロップが安堵の息を漏らす。
その声に気付いた村人たちが、
一斉にこちらを見る。
警戒した表情。
ウインナーはゆっくりと両手を上げた。
「安心してください。」
「僕たちは旅人です。」
「少し、お話を聞かせていただけませんか。」
年配の男性が前へ出る。
「……私は、この村の村長だ。」
「何を聞きたい。」
ウインナーは一呼吸置いて口を開いた。
「黒いローブを着た青年についてです。」
その言葉に、村長の表情が曇る。
「……あの青年か。」
しばらく沈黙が流れた。
やがて村長は静かに語り始める。
「数日前。」
「村が盗賊に襲われた。」
「私たちは必死に逃げ回っていた。」
「そこへ、一人の青年が現れたんだ。」
四人は息を呑む。
「あの青年は強かった。」
「盗賊たちは、あっという間に倒された。」
「まるで相手にならなかった。」
ドロップが小さく笑う。
「やっぱりレイカだ……。」
ウインナーも少しだけ表情を緩める。
「助けてくれたんですね。」
村長は静かに頷いた。
「ああ。」
「私たちもそう思った。」
「命の恩人だと。」
しかし。
その表情は再び曇る。
「盗賊を倒えした後だった。」
「あの青年は、その場で立ち止まった。」
「何かを考えているようだった。」
「私たちは礼を言おうと近付いた。」
村長の声が震える。
「あの青年が……笑ったんだ。」
「笑った……?」
ケンが信じられないという表情を浮かべる。
「ええ。」
「嬉しそうでもない。」
「悲しそうでもない。」
「今まで見たことのない笑みだった。」
その場に重い空気が流れる。
「そして。」
「黒い炎が現れた。」
「村中が、一瞬で炎に包まれた。」
子どもたちが俯く。
女性たちも顔を伏せる。
「あまりの熱さに近付くこともできなかった。」
「私たちは夢中で森まで逃げた。」
ウインナーは拳を握り締めた。
「レイカ……。」
村長は続ける。
「しばらくして炎は消えた。」
「恐る恐る村を見ると。」
「あの青年は、まだそこに立っていた。」
「私たちは声も出せなかった。」
「あの姿は……。」
「まるで別人だった。」
風が静かに吹き抜ける。
「そして青年は。」
「何も言わず。」
「無表情のまま、この村を去って行った。」
沈黙。
誰も言葉を発せない。
ユリは胸を押さえた。
まただ。
この話を聞くたびに胸が締め付けられる。
なぜなのかは分からない。
それでも、その青年を思うと胸が苦しくなる。
ドロップは唇を噛み締める。
「あれは……本当にレイカなのかな。」
ケンは俯いたまま拳を握る。
「兄ちゃん……。」
ウインナーは焼け落ちた村へ目を向けた。
レイカは確かに生きている。
けれど、今のレイカは、
自分たちの知るレイカとは違うのかもしれない。
それでも――。
「僕たちは探そう。」
静かな声だった。
しかし、その瞳には迷いはない。
「どんな姿になっていても。」
「レイカは、僕たちの大切な仲間だから。」
その言葉に、三人は静かに頷いた。
焼け跡を吹き抜ける風だけが、
四人の決意を静かに見届けていた。