-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第五章

 

 

 

― 黒炎の痕跡 ―

 

 

 

朝日が森の木々を照らし始める頃、

 

四人は旅支度を整えていた。

 

昨夜聞いた話が、誰の頭からも離れない。

 

黒いローブの青年。

 

村を救い、そして燃やした男。

 

その人物が、本当にレイカなのか――。

 

確かめなければならなかった。

 

「昨日の旅人さんに、村までの道を聞いてこよう。」

 

ウインナーの言葉に三人は頷く。

 

旅人は焚き火の後始末をしながら地図を広げた。

 

「ここから北へ半日ほど進め。」

 

指先が森の奥を指す。

 

「焼け焦げた木が見えてきたら、その先が村だ。」

 

「ありがとう。」

 

ウインナーは深く頭を下げた。

 

「気を付けろよ。」

 

旅人は真剣な表情で言う。

 

「昼間でも妙に静かな場所だ。」

 

「……分かりました。」

 

四人は荷物をまとめ、

 

北へ向かって気球船を向かわせた。

 

 

 

森の中は静かだった。

 

鳥のさえずりさえ少ない。

 

風が木々を揺らす音だけが耳に届く。

 

誰も口を開かなかった。

 

それぞれが同じことを考えている。

 

レイカ。

 

本当に君なのか。

 

しばらく歩いた頃だった。

 

ユリが小さく胸を押さえる。

 

「……どうしたの?」

 

ドロップが声を掛ける。

 

「ううん。」

 

ユリは首を横に振る。

 

「なんでもない。」

 

そう答えながらも、

 

胸の奥に小さな痛みが残っていた。

 

理由は分からない。

 

けれど、

 

この先へ進むことを心が急かしているようだった。

 

 

 

やがて景色が変わる。

 

青々としていた木々が、次第に黒く焼け焦げ始めた。

 

焦げた匂いが風に乗って漂う。

 

「ここか……。」

 

ケンが小さく呟く。

 

さらに進むと、一つの村が姿を現した。

 

そこに広がっていたのは、静寂だった。

 

家々は焼け落ち、柱だけが虚しく立っている。

 

畑は灰に覆われ、井戸も崩れていた。

 

生活の跡だけが残り、人の姿は一人もない。

 

「誰も……いない。」

 

ドロップが辺りを見回す。

 

ウインナーはゆっくりと歩きながら周囲を確認する。

 

争った形跡はある。

 

しかし、遺体は見当たらない。

 

「みんな逃げられたのかな。」

 

ユリが呟く。

 

「そうだといいけど。」

 

 

その時だった。

 

 

遠くから煙が立ち上っているのが見えた。

 

「煙?」

 

ケンが指差す。

 

「行ってみよう。」

 

四人は煙の上がる方向へ走り出した。

 

 

 

森を抜けると、小さな広場があった。

 

簡易的なテント。

 

焚き火。

 

身を寄せ合う子どもたち。

 

疲れ切った表情の大人たち。

 

村人たちは、森の中で避難生活を送っていた。

 

「よかった……。」

 

ドロップが安堵の息を漏らす。

 

その声に気付いた村人たちが、

 

一斉にこちらを見る。

 

警戒した表情。

 

ウインナーはゆっくりと両手を上げた。

 

「安心してください。」

 

「僕たちは旅人です。」

 

「少し、お話を聞かせていただけませんか。」

 

年配の男性が前へ出る。

 

「……私は、この村の村長だ。」

 

「何を聞きたい。」

 

ウインナーは一呼吸置いて口を開いた。

 

「黒いローブを着た青年についてです。」

 

その言葉に、村長の表情が曇る。

 

「……あの青年か。」

 

しばらく沈黙が流れた。

 

やがて村長は静かに語り始める。

 

「数日前。」

 

「村が盗賊に襲われた。」

 

「私たちは必死に逃げ回っていた。」

 

「そこへ、一人の青年が現れたんだ。」

 

四人は息を呑む。

 

「あの青年は強かった。」

 

「盗賊たちは、あっという間に倒された。」

 

「まるで相手にならなかった。」

 

ドロップが小さく笑う。

 

「やっぱりレイカだ……。」

 

ウインナーも少しだけ表情を緩める。

 

「助けてくれたんですね。」

 

村長は静かに頷いた。

 

「ああ。」

 

「私たちもそう思った。」

 

「命の恩人だと。」

 

しかし。

 

その表情は再び曇る。

 

「盗賊を倒えした後だった。」

 

「あの青年は、その場で立ち止まった。」

 

「何かを考えているようだった。」

 

「私たちは礼を言おうと近付いた。」

 

村長の声が震える。

 

「あの青年が……笑ったんだ。」

 

「笑った……?」

 

ケンが信じられないという表情を浮かべる。

 

「ええ。」

 

「嬉しそうでもない。」

 

「悲しそうでもない。」

 

「今まで見たことのない笑みだった。」

 

その場に重い空気が流れる。

 

「そして。」

 

「黒い炎が現れた。」

 

「村中が、一瞬で炎に包まれた。」

 

子どもたちが俯く。

 

女性たちも顔を伏せる。

 

「あまりの熱さに近付くこともできなかった。」

 

「私たちは夢中で森まで逃げた。」

 

ウインナーは拳を握り締めた。

 

「レイカ……。」

 

村長は続ける。

 

「しばらくして炎は消えた。」

 

「恐る恐る村を見ると。」

 

「あの青年は、まだそこに立っていた。」

 

「私たちは声も出せなかった。」

 

「あの姿は……。」

 

「まるで別人だった。」

 

風が静かに吹き抜ける。

 

「そして青年は。」

 

「何も言わず。」

 

「無表情のまま、この村を去って行った。」

 

沈黙。

 

誰も言葉を発せない。

 

ユリは胸を押さえた。

 

 

まただ。

 

 

この話を聞くたびに胸が締め付けられる。

 

なぜなのかは分からない。

 

それでも、その青年を思うと胸が苦しくなる。

 

ドロップは唇を噛み締める。

 

「あれは……本当にレイカなのかな。」

 

ケンは俯いたまま拳を握る。

 

「兄ちゃん……。」

 

ウインナーは焼け落ちた村へ目を向けた。

 

レイカは確かに生きている。

 

けれど、今のレイカは、

 

自分たちの知るレイカとは違うのかもしれない。

 

それでも――。

 

「僕たちは探そう。」

 

静かな声だった。

 

しかし、その瞳には迷いはない。

 

「どんな姿になっていても。」

 

「レイカは、僕たちの大切な仲間だから。」

 

その言葉に、三人は静かに頷いた。

 

焼け跡を吹き抜ける風だけが、

 

四人の決意を静かに見届けていた。

 

 

 

 

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