-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第七章

 

 

 

― Z様のために ―

 

 

 

朝日が木々の隙間から差し込む。

 

昨夜の出来事を思い返しながら、

 

ユリは静かに焚き火を見つめていた。

 

「……それで、その人は行っちゃったんだ。」

 

ドロップが静かに尋ねる。

 

ユリは小さく頷いた。

 

「うん。」

 

「山賊を倒してくれた。」

 

「でも……その後、私まで攻撃しようとしてきた。」

 

ケンは腕を組み、難しい表情を浮かべる。

 

「兄ちゃんが……。」

 

「信じられねぇ。」

 

ユリは続けた。

 

「でもね。」

 

「顔を見た瞬間だけ。」

 

「攻撃をやめたの。」

 

その言葉に、ウインナーはゆっくり目を閉じる。

 

「……レイカだ。」

 

「急ごう。」

 

「きっと、この近くにいる。」

 

四人は荷物をまとめると、再び向かった。

 

 

 

近くの村。

 

宿場町。

 

行商人。

 

旅人。

 

見かける人全員に、

 

黒いローブの青年について尋ねた。

 

「見てないな。」

 

「聞いたことはある。」

 

「黒い炎の噂なら……。」

 

確かな情報は得られない。

 

夕方になっても成果はなかった。

 

「入れ違いになったのかな……。」

 

ユリが呟く。

 

その時だった。

 

 

「た、助けてくれぇーー!!」

 

 

遠くから悲鳴が響いた。

 

四人は顔を見合わせる。

 

「行こう!」

 

ウインナーが駆け出した。

 

 

 

辿り着いたのは小さな村だった。

 

家々から煙が上がっている。

 

村人たちは必死に逃げ惑っていた。

 

そして、その中心にいたのは二体の異形。

 

一体は、細長い身体に六本の足。

 

頭には長い触角。

 

まるで巨大な蟻。

 

額には赤く刻まれた”A”の文字。

 

もう一体は、黒と黄色の縞模様をした身体。

 

背中には透明な羽。

 

鋭い針のような尾。

 

巨大な蜂を思わせる姿だった。

 

額には”B”の文字。

 

「何だ……あいつら。」

 

ケンが息を呑む。

 

二体は同時にこちらを向いた。

 

そして。

 

「Z様のために。」

 

感情のない声。

 

全く同じ口調。

 

全く同じ抑揚。

 

「Z様のために。」

 

それだけを繰り返す。

 

「村人から離れなさい!」

 

ドロップが飛び出す。

 

拳が”A”へ叩き込まれる。

 

確かな手応え。

 

しかし。

 

身体が霧のように消えた。

 

「えっ!?」

 

次の瞬間。

 

別の場所に”A”が立っている。

 

「分身……!?」

 

今度は”B”が羽を震わせる。

 

その身体が一瞬で増え始めた。

 

一体。

 

二体。

 

五体。

 

十体。

 

あっという間に村中が”A”と”B”で埋め尽くされる。

 

「なんだよ、この数!」

 

ケンが雷を放つ。

 

数体は倒れる。

 

しかし、すぐ後ろから同じ姿が現れる。

 

「キリがない!」

 

ユリも体術で応戦する。

 

一体を倒す。

 

しかし、また一体。

 

倒しても倒しても減らない。

 

「Z様のために。」

 

「Z様のために。」

 

「Z様のために。」

 

耳障りな声だけが響き続ける。

 

ウインナーは辺りを見回した。

 

「みんな!」

 

「本体を探して!」

 

「分身を倒しても意味がない!」

 

「分かった!」

 

四人は散開する。

 

しかし。

 

どれも同じ姿。

 

どれも同じ気配。

 

見分けがつかない。

 

「くっ……!」

 

ドロップが村人を庇いながら戦う。

 

「早く逃げて!」

 

子どもを抱えた女性が必死に走る。

 

その背後へ”B”が迫る。

 

「危ない!」

 

ユリが飛び込む。

 

間一髪で女性を突き飛ばす。

 

自分が代わりに攻撃を受ける。

 

「きゃっ!」

 

地面へ転がる。

 

「ユリ!」

 

ドロップが駆け寄ろうとする。

 

しかし、その前にも”A”が立ちはだかる。

 

「邪魔!」

 

拳を叩き込む。

 

また消える。

 

「もう!」

 

「どれが本物なの!」

 

ケンも息を切らしていた。

 

「数が増える一方だぞ!」

 

村人たちは逃げ惑う。

 

四人は守るだけで精一杯だった。

 

「Z様のために。」

 

「Z様のために。」

 

「Z様のために。」

 

無数の声が重なり、村中へ響く。

 

その時だった。

 

 

 

――ゴォォォォッ。

 

 

 

黒い炎が、静かに揺れた。

 

空気が変わる。

 

熱風が吹き抜ける。

 

“A”も”B”も、一斉に動きを止めた。

 

四人も同時に振り返る。

 

村の入口。

 

黒いローブ。

 

長い黒髪。

 

右手から静かに漏れ続ける黒い炎。

 

その青年は、何も言わず立っていた。

 

風がローブを揺らす。

 

その姿を見たユリは、小さく息を呑む。

 

「……あの人。」

 

昨夜、自分を助けた青年。

 

ウインナーの瞳が大きく揺れる。

 

「レイカ……。」

 

ケンは思わず一歩前へ出た。

 

「兄ちゃん……!」

 

ドロップは言葉を失う。

 

黒いローブの青年は、誰の声にも反応しない。

 

ただ静かに。

 

“A”と”B”だけを見つめていた。

 

「…………。」

 

沈黙。

 

次の瞬間。

 

“A”と”B”がゆっくり口を開く。

 

「Z様のために。」

 

無数の分身が、

 

一斉に黒いローブの青年へ向き直る。

 

レイカは、ゆっくりと一歩踏み出した。

 

 

 

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