― 届いた想い ―
村中に張り詰めた空気。
黒いローブを纏った青年――レイカは、
静かにアント(A)とビー(B)を見つめていた。
「Z様のために。」
二人が同時に呟く。
その瞬間、
無数の分身が一斉にレイカへ襲い掛かった。
「Z様のために。」
黒い影が四方八方から迫る。
しかし、レイカは動かない。
右手をゆっくりと掲げる。
次の瞬間。
――ゴォォォォッ!!
黒炎が地を這い、一瞬で村中を駆け抜けた。
「なっ……!」
分身は黒炎に触れた瞬間、跡形もなく消え去る。
一体。
十体。
百体。
数え切れないほどの分身が、一瞬で焼き尽くされた。
残されたのは、本体のアントとビーだけだった。
「……。」
「……。」
それでも二人の表情は変わらない。
「Z様のために。」
「Z様のために。」
そう呟くと、二人は地面へ溶け込むように姿を消した。
「逃げた……。」
ケンが呟く。
村には静寂が戻る。
誰もが安堵した、その時だった。
レイカがゆっくりと振り返る。
黒い瞳。
その視線は、
真っ直ぐウインナーたちへ向けられていた。
「……レイカ。」
返事はない。
右手から黒炎が漏れ出す。
「下がって!」
ウインナーが叫ぶ。
黒炎が放たれる。
四人は咄嗟に飛び退いた。
「レイカ!」
「僕だ!」
「分かるよね!」
答えは返ってこない。
次々と黒炎が放たれる。
「このままじゃ村が!」
ウインナーは風を纏う。
「みんな!」
「レイカは僕が止める!」
「ウインナー!」
ドロップが叫ぶ。
しかしウインナーは迷わない。
「風よ!!」
轟音と共に暴風が吹き荒れる。
巨大な風がレイカだけを包み込み、
その身体を森の奥へ吹き飛ばした。
「……レイカ!!!」
森の奥。
木々が折れ、地面が抉れている。
レイカは静かに立ち上がった。
その前へウインナーが降り立つ。
「これで……一対一だ。」
風が吹く。
黒炎が揺れる。
互いに構える。
「レイカ。」
「もうやめよう。」
返事はない。
レイカが一歩踏み出す。
黒炎が剣のように襲い掛かる。
ウインナーは風を纏い、
真正面から受け止めた。
炎と風が激しくぶつかり合う。
爆風が森を揺らす。
「すごい……。」
思わず笑みがこぼれる。
「やっと。」
「やっと追いつけた。」
レイカの拳。
ウインナーの風。
互角。
一歩も譲らない。
「僕はずっと。」
「レイカの背中を追い掛けてきた。」
「強くなるために。」
「追い越すためじゃない。」
「隣に立つために。」
黒炎が一瞬だけ弱まる。
レイカの瞳が僅かに揺れた。
「……。」
「レイカ?」
もう一度炎が襲う。
ウインナーは風で受け流す。
「もう一人で抱え込まなくていい!」
「僕たちがいる!」
「ドロップも!」
「ケンも!」
「ユリも!」
「みんなレイカを待ってる!」
レイカの動きが止まる。
風だけが森を吹き抜けた。
長い沈黙。
やがて、小さな声が漏れる。
「……ウインナー。」
その一言だけで十分だった。
ウインナーの目が大きく見開く。
「レイカ!」
レイカは苦しそうに顔を伏せる。
「……強くなったな。」
「うん。」
「全部、レイカのおかげだ。」
「だから。」
「今度は僕たちが支える。」
「もう、一人で戦わなくていい。」
レイカはゆっくり首を横に振る。
「違う……。」
「これは……俺が背負う。」
「違う!」
ウインナーは一歩踏み出した。
「レイカは昔からそうだった!」
「全部一人で抱え込んで!」
「誰にも頼らなくて!」
「だから苦しかったんじゃないの!?」
レイカは苦しそうに胸を押さえる。
黒炎が激しく揺れ始める。
「僕一人じゃ無理でも。」
「レイカの苦しみを全部じゃなくても!」
「少しずつなら!」
「一緒に背負える!」
レイカの瞳から、
ほんの一瞬だけ冷たさが消えた。
「あぁ……。」
懐かしむような表情。
そして、小さく笑った。
「……本当に。」
「強くなったな。」
その笑顔は、昔のレイカだった。
ウインナーも笑う。
「やっと言ってもらえた。」
しかし次の瞬間。
レイカの身体が大きく震えた。
「っ……!」
黒炎が爆発するように噴き出す。
「レイカ!?」
レイカは頭を押さえ、苦しそうにうめく。
「来る……な……。」
「レイカ!」
「近付くな……!」
黒炎が木々を飲み込み始める。
地面が黒く焼け焦げる。
炎はレイカ自身を中心に渦を巻き始めた。
「違う……。」
「違う……!」
レイカは必死に抗う。
まるで身体の中で何かと戦っているようだった。
「レイカ!!」
ウインナーは思わず駆け出す。
その瞬間。
レイカが顔を上げる。
その瞳には、もう先ほどの優しさはなかった。
燃え盛る黒炎だけが映っている。
「来るなぁぁぁぁぁぁっ!!」
轟音。
黒炎が爆発した。
凄まじい衝撃でウインナーは吹き飛ばされる。
視界が黒く染まる。
痛みを堪えながら目を開けて見えたのは、
黒炎の渦の中で、
必死に何かへ抗い続けるレイカの姿だった――。