-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第八章

 

 

 

― 届いた想い ―

 

 

 

村中に張り詰めた空気。

 

黒いローブを纏った青年――レイカは、

 

静かにアント(A)とビー(B)を見つめていた。

 

「Z様のために。」

 

二人が同時に呟く。

 

その瞬間、

 

無数の分身が一斉にレイカへ襲い掛かった。

 

「Z様のために。」

 

黒い影が四方八方から迫る。

 

しかし、レイカは動かない。

 

右手をゆっくりと掲げる。

 

次の瞬間。

 

 

――ゴォォォォッ!!

 

 

黒炎が地を這い、一瞬で村中を駆け抜けた。

 

「なっ……!」

 

分身は黒炎に触れた瞬間、跡形もなく消え去る。

 

一体。

 

十体。

 

百体。

 

数え切れないほどの分身が、一瞬で焼き尽くされた。

 

残されたのは、本体のアントとビーだけだった。

 

「……。」

 

「……。」

 

それでも二人の表情は変わらない。

 

「Z様のために。」

 

「Z様のために。」

 

そう呟くと、二人は地面へ溶け込むように姿を消した。

 

「逃げた……。」

 

ケンが呟く。

 

村には静寂が戻る。

 

誰もが安堵した、その時だった。

 

レイカがゆっくりと振り返る。

 

黒い瞳。

 

その視線は、

 

真っ直ぐウインナーたちへ向けられていた。

 

「……レイカ。」

 

返事はない。

 

右手から黒炎が漏れ出す。

 

「下がって!」

 

ウインナーが叫ぶ。

 

黒炎が放たれる。

 

四人は咄嗟に飛び退いた。

 

「レイカ!」

 

「僕だ!」

 

「分かるよね!」

 

答えは返ってこない。

 

次々と黒炎が放たれる。

 

「このままじゃ村が!」

 

ウインナーは風を纏う。

 

「みんな!」

 

「レイカは僕が止める!」

 

「ウインナー!」

 

ドロップが叫ぶ。

 

しかしウインナーは迷わない。

 

「風よ!!」

 

轟音と共に暴風が吹き荒れる。

 

巨大な風がレイカだけを包み込み、

 

その身体を森の奥へ吹き飛ばした。

 

「……レイカ!!!」

 

 

 

森の奥。

 

木々が折れ、地面が抉れている。

 

レイカは静かに立ち上がった。

 

その前へウインナーが降り立つ。

 

「これで……一対一だ。」

 

風が吹く。

 

黒炎が揺れる。

 

互いに構える。

 

「レイカ。」

 

「もうやめよう。」

 

返事はない。

 

レイカが一歩踏み出す。

 

黒炎が剣のように襲い掛かる。

 

ウインナーは風を纏い、

 

真正面から受け止めた。

 

炎と風が激しくぶつかり合う。

 

爆風が森を揺らす。

 

「すごい……。」

 

思わず笑みがこぼれる。

 

「やっと。」

 

「やっと追いつけた。」

 

レイカの拳。

 

ウインナーの風。

 

互角。

 

一歩も譲らない。

 

「僕はずっと。」

 

「レイカの背中を追い掛けてきた。」

 

「強くなるために。」

 

「追い越すためじゃない。」

 

「隣に立つために。」

 

黒炎が一瞬だけ弱まる。

 

レイカの瞳が僅かに揺れた。

 

「……。」

 

「レイカ?」

 

もう一度炎が襲う。

 

ウインナーは風で受け流す。

 

「もう一人で抱え込まなくていい!」

 

「僕たちがいる!」

 

「ドロップも!」

 

「ケンも!」

 

「ユリも!」

 

「みんなレイカを待ってる!」

 

レイカの動きが止まる。

 

風だけが森を吹き抜けた。

 

長い沈黙。

 

やがて、小さな声が漏れる。

 

「……ウインナー。」

 

その一言だけで十分だった。

 

ウインナーの目が大きく見開く。

 

「レイカ!」

 

レイカは苦しそうに顔を伏せる。

 

「……強くなったな。」

 

「うん。」

 

「全部、レイカのおかげだ。」

 

「だから。」

 

「今度は僕たちが支える。」

 

「もう、一人で戦わなくていい。」

 

レイカはゆっくり首を横に振る。

 

「違う……。」

 

「これは……俺が背負う。」

 

「違う!」

 

ウインナーは一歩踏み出した。

 

「レイカは昔からそうだった!」

 

「全部一人で抱え込んで!」

 

「誰にも頼らなくて!」

 

「だから苦しかったんじゃないの!?」

 

レイカは苦しそうに胸を押さえる。

 

黒炎が激しく揺れ始める。

 

「僕一人じゃ無理でも。」

 

「レイカの苦しみを全部じゃなくても!」

 

「少しずつなら!」

 

「一緒に背負える!」

 

レイカの瞳から、

 

ほんの一瞬だけ冷たさが消えた。

 

「あぁ……。」

 

懐かしむような表情。

 

そして、小さく笑った。

 

「……本当に。」

 

「強くなったな。」

 

その笑顔は、昔のレイカだった。

 

ウインナーも笑う。

 

「やっと言ってもらえた。」

 

しかし次の瞬間。

 

レイカの身体が大きく震えた。

 

「っ……!」

 

黒炎が爆発するように噴き出す。

 

「レイカ!?」

 

レイカは頭を押さえ、苦しそうにうめく。

 

「来る……な……。」

 

「レイカ!」

 

「近付くな……!」

 

黒炎が木々を飲み込み始める。

 

地面が黒く焼け焦げる。

 

炎はレイカ自身を中心に渦を巻き始めた。

 

「違う……。」

 

「違う……!」

 

レイカは必死に抗う。

 

まるで身体の中で何かと戦っているようだった。

 

「レイカ!!」

 

ウインナーは思わず駆け出す。

 

 

その瞬間。

 

レイカが顔を上げる。

 

その瞳には、もう先ほどの優しさはなかった。

 

燃え盛る黒炎だけが映っている。

 

 

「来るなぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

轟音。

 

黒炎が爆発した。

 

凄まじい衝撃でウインナーは吹き飛ばされる。

 

視界が黒く染まる。

 

痛みを堪えながら目を開けて見えたのは、

 

黒炎の渦の中で、

 

必死に何かへ抗い続けるレイカの姿だった――。

 

 

 

 

 

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