-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

81 / 90
第十章

 

 

 

― 隠していた真実 ―

 

 

 

黒炎は完全に消え去っていた。

 

先ほどまで燃え盛っていた森には、

 

静かな風だけが吹いている。

 

レイカはその場へ腰を下ろし、

 

煙草に火をつけ、

 

大きく息を吐いた。

 

「……はぁ……。」

 

暴走を抑え込まれた反動は大きい。

 

身体の感覚が思うように戻らない。

 

ウインナーも近くの木へ背中を預け、

 

乱れた呼吸を整えていた。

 

二人とも満身創痍だった。

 

しばらくの間、言葉はなかった。

 

風だけが木々を揺らし、静かな時間が流れる。

 

やがてレイカが口を開く。

 

「……少し。」

 

「息が整った。」

 

「話せる。」

 

ウインナーは静かに頷いた。

 

「無理しないでね。」

 

「……みんなも待ってる。」

 

「でも。」

 

「今はレイカの話を聞きたい。」

 

レイカは苦笑する。

 

「……長くなるぞ。」

 

「うん。」

 

「全部聞く。」

 

 

レイカは空を見上げ、小さく息を吐いた。

 

「まず。」

 

「俺の炎の加護について話す。」

 

「……あれは。」

 

「普通の加護じゃない。」

 

ウインナーは静かに耳を傾ける。

 

「あれは炎の加護の神。」

 

「……いや。」

 

「正確には。」

 

「邪神だ。」

 

「邪神……。」

 

「昔。」

 

「父親は全ての神を支配できる存在。」

 

「神の中の神を作ろうとしていた。」

 

「その実験で。」

 

「俺の身体へ炎神が宿った。」

 

「その時から。」

 

「俺は普通の人間じゃなくなった。」

 

ウインナーは拳を握る。

 

「だから黒炎を……。」

 

「あぁ。」

 

「黒炎は炎神の力。」

 

「使えば使うほど。」

 

「少しずつ俺の意識を侵食する。」

 

「それも制御出来るようになっていたんだが。」

 

「暴走したら。」

 

「今日みたいになる。」

 

静かな声だった。

 

まるで他人事のように話すレイカを見て、

 

ウインナーは胸が締め付けられる。

 

「でも。」

 

「サラミッド以外では暴走してなかった。」

 

レイカは自分の耳へ触れる。

 

二つ並んだピアス。

 

「これだ。」

 

「封印具。」

 

「炎神を抑えるためのものだ。」

 

「全部外せば。」

 

「炎神の力は解放される。」

 

「その代わり。」

 

「侵食も一気に進む。」

 

ウインナーは目を見開いた。

 

「じゃあ……。」

 

「今までの戦いは。」

 

「あぁ。」

 

「命懸けだった。」

 

「負ければ死ぬ。」

 

「勝っても炎神に飲まれる。」

 

「そんな綱渡りだった。」

 

再び沈黙が流れる。

 

ウインナーは何も言えなかった。

 

レイカはゆっくり目を閉じる。

 

「……ユリのことも話そう。」

 

その一言で空気が変わった。

 

「ユリは。」

 

「村を焼いた犯人へ復讐するために旅をしていた。」

 

ウインナーは静かに頷く。

 

それは知っている。

 

「その相手が。」

 

「俺だった。」

 

「……。」

 

「本当のことを知った時。」

 

「ユリは壊れた。」

 

「あいつは。」

 

「復讐したかった相手と。」

 

「旅をして。」

 

「笑って。」

 

「守られていた。」

 

「全部が否定された。」

 

レイカは苦しそうに目を伏せる。

 

「そこへ。」

 

「ポタージュが現れた。」

 

「あいつは。」

 

「心の隙へ入り込んだ。」

 

「俺が。」

 

「苦しませた。」

 

「俺が。」

 

「壊した。」

 

ウインナーは何も言わない。

 

レイカは続ける。

 

「だから。」

 

「願った。」

 

「もう。」

 

「俺を忘れてほしいと。」

 

「旅も。」

 

「全部忘れて。」

 

「幸せになってほしい。」

 

「それだけだった。」

 

ウインナーは静かに口を開く。

 

「でも。」

 

「仲間の記憶まで消えてた。」

 

レイカは苦笑する。

 

「あぁ。」

 

「それは俺も驚いた。」

 

「俺は。」

 

『俺だけの記憶を消してくれ。』

 

「そう頼んだ。」

 

「なのに。」

 

「お前たちまで忘れていた。」

 

「恐らく。」

 

「バンキングのミスだ。」

 

「俺の望んだ結果じゃない。」

 

ウインナーは小さく息を吐く。

 

「……そうだったんだ。」

 

レイカは静かに頷いた。

 

「もう一つ。」

 

「気になることがある。」

 

懐へ手を入れる。

 

一枚のカードを取り出した。

 

少し傷付いた、不思議な紋様のカード。

 

「これ。」

 

「知ってるか?」

 

ウインナーは首を横に振る。

 

「数年前。」

 

「頭文字が”C”の奴を倒した。」

 

「その時。」

 

「これを落とした。」

 

「意味は分からなかった。」

 

レイカはカードを見つめる。

 

「だが。」

 

「昨日現れた奴ら。」

 

「アント。」

 

「ビー。」

 

「頭文字は。」

 

「A。」

 

「B。」

 

ウインナーもカードを見る。

 

「……ABC。」

 

「あぁ。」

 

「偶然とは思えない。」

 

「それに。」

 

「奴らは。」

 

『Z様のために。』

 

それしか言わなかった。

 

「おそらく。」

 

「メザンが残した存在だ。」

 

「そして。」

 

「このカードは。」

 

「サラミッドへ戻るための鍵。」

 

「そう考えるのが自然だ。」

 

ウインナーは静かに立ち上がる。

 

「じゃあ。」

 

「集めよう。」

 

「Aも。」

 

「Bも。」

 

「その先のカードも。」

 

「全部。」

 

レイカは少しだけ笑った。

 

「……そうだな。」

 

「……ついて来いってことだろ?」

 

ウインナーは満面の笑みを浮かべる。

 

「本当に?」

 

「あぁ。」

 

「カードを集める。」

 

「その先で。」

 

「サラミッドへ向かう。」

 

レイカはゆっくり立ち上がった。

 

まだ身体は痛む。

 

それでも。

 

もう一人ではなかった。

 

「待たせ過ぎたな。」

 

「みんなのところへ戻ろう。」

 

ウインナーは力強く頷く。

 

「うん。」

 

「みんな、きっと驚くよ。」

 

レイカは苦笑しながら歩き出した。

 

その背中を追うように、ウインナーも歩き出す。

 

森の出口には、仲間たちが待っている。

 

長い時間を経て。

 

ようやく、一歩前へ進む時が来た。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。