― 隠していた真実 ―
黒炎は完全に消え去っていた。
先ほどまで燃え盛っていた森には、
静かな風だけが吹いている。
レイカはその場へ腰を下ろし、
煙草に火をつけ、
大きく息を吐いた。
「……はぁ……。」
暴走を抑え込まれた反動は大きい。
身体の感覚が思うように戻らない。
ウインナーも近くの木へ背中を預け、
乱れた呼吸を整えていた。
二人とも満身創痍だった。
しばらくの間、言葉はなかった。
風だけが木々を揺らし、静かな時間が流れる。
やがてレイカが口を開く。
「……少し。」
「息が整った。」
「話せる。」
ウインナーは静かに頷いた。
「無理しないでね。」
「……みんなも待ってる。」
「でも。」
「今はレイカの話を聞きたい。」
レイカは苦笑する。
「……長くなるぞ。」
「うん。」
「全部聞く。」
レイカは空を見上げ、小さく息を吐いた。
「まず。」
「俺の炎の加護について話す。」
「……あれは。」
「普通の加護じゃない。」
ウインナーは静かに耳を傾ける。
「あれは炎の加護の神。」
「……いや。」
「正確には。」
「邪神だ。」
「邪神……。」
「昔。」
「父親は全ての神を支配できる存在。」
「神の中の神を作ろうとしていた。」
「その実験で。」
「俺の身体へ炎神が宿った。」
「その時から。」
「俺は普通の人間じゃなくなった。」
ウインナーは拳を握る。
「だから黒炎を……。」
「あぁ。」
「黒炎は炎神の力。」
「使えば使うほど。」
「少しずつ俺の意識を侵食する。」
「それも制御出来るようになっていたんだが。」
「暴走したら。」
「今日みたいになる。」
静かな声だった。
まるで他人事のように話すレイカを見て、
ウインナーは胸が締め付けられる。
「でも。」
「サラミッド以外では暴走してなかった。」
レイカは自分の耳へ触れる。
二つ並んだピアス。
「これだ。」
「封印具。」
「炎神を抑えるためのものだ。」
「全部外せば。」
「炎神の力は解放される。」
「その代わり。」
「侵食も一気に進む。」
ウインナーは目を見開いた。
「じゃあ……。」
「今までの戦いは。」
「あぁ。」
「命懸けだった。」
「負ければ死ぬ。」
「勝っても炎神に飲まれる。」
「そんな綱渡りだった。」
再び沈黙が流れる。
ウインナーは何も言えなかった。
レイカはゆっくり目を閉じる。
「……ユリのことも話そう。」
その一言で空気が変わった。
「ユリは。」
「村を焼いた犯人へ復讐するために旅をしていた。」
ウインナーは静かに頷く。
それは知っている。
「その相手が。」
「俺だった。」
「……。」
「本当のことを知った時。」
「ユリは壊れた。」
「あいつは。」
「復讐したかった相手と。」
「旅をして。」
「笑って。」
「守られていた。」
「全部が否定された。」
レイカは苦しそうに目を伏せる。
「そこへ。」
「ポタージュが現れた。」
「あいつは。」
「心の隙へ入り込んだ。」
「俺が。」
「苦しませた。」
「俺が。」
「壊した。」
ウインナーは何も言わない。
レイカは続ける。
「だから。」
「願った。」
「もう。」
「俺を忘れてほしいと。」
「旅も。」
「全部忘れて。」
「幸せになってほしい。」
「それだけだった。」
ウインナーは静かに口を開く。
「でも。」
「仲間の記憶まで消えてた。」
レイカは苦笑する。
「あぁ。」
「それは俺も驚いた。」
「俺は。」
『俺だけの記憶を消してくれ。』
「そう頼んだ。」
「なのに。」
「お前たちまで忘れていた。」
「恐らく。」
「バンキングのミスだ。」
「俺の望んだ結果じゃない。」
ウインナーは小さく息を吐く。
「……そうだったんだ。」
レイカは静かに頷いた。
「もう一つ。」
「気になることがある。」
懐へ手を入れる。
一枚のカードを取り出した。
少し傷付いた、不思議な紋様のカード。
「これ。」
「知ってるか?」
ウインナーは首を横に振る。
「数年前。」
「頭文字が”C”の奴を倒した。」
「その時。」
「これを落とした。」
「意味は分からなかった。」
レイカはカードを見つめる。
「だが。」
「昨日現れた奴ら。」
「アント。」
「ビー。」
「頭文字は。」
「A。」
「B。」
ウインナーもカードを見る。
「……ABC。」
「あぁ。」
「偶然とは思えない。」
「それに。」
「奴らは。」
『Z様のために。』
それしか言わなかった。
「おそらく。」
「メザンが残した存在だ。」
「そして。」
「このカードは。」
「サラミッドへ戻るための鍵。」
「そう考えるのが自然だ。」
ウインナーは静かに立ち上がる。
「じゃあ。」
「集めよう。」
「Aも。」
「Bも。」
「その先のカードも。」
「全部。」
レイカは少しだけ笑った。
「……そうだな。」
「……ついて来いってことだろ?」
ウインナーは満面の笑みを浮かべる。
「本当に?」
「あぁ。」
「カードを集める。」
「その先で。」
「サラミッドへ向かう。」
レイカはゆっくり立ち上がった。
まだ身体は痛む。
それでも。
もう一人ではなかった。
「待たせ過ぎたな。」
「みんなのところへ戻ろう。」
ウインナーは力強く頷く。
「うん。」
「みんな、きっと驚くよ。」
レイカは苦笑しながら歩き出した。
その背中を追うように、ウインナーも歩き出す。
森の出口には、仲間たちが待っている。
長い時間を経て。
ようやく、一歩前へ進む時が来た。