-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第十三章

 

 

 

― 新たな旅立ち ―

 

 

 

窓から差し込む朝日が、

 

静かに部屋を照らしていた。

 

レイカはゆっくりと目を開ける。

 

身体を起こそうとすると、

 

脇腹に鈍い痛みが走った。

 

「……っ。」

 

思わず顔をしかめる。

 

今までの戦いで負った傷は、

 

まだ完全には癒えていないようだった。

 

周囲を見渡すと、

 

一脚の椅子に寄り掛かるようにして、

 

眠っているユリの姿が目に入る。

 

その手には、いつの間にか乾いた布が握られていた。

 

一晩中、看病をしていたのだろう。

 

「……。」

 

レイカは静かに立ち上がる。

 

眠りを妨げないよう足音を殺し、ユリの前まで歩いた。

 

「……優しいところは。」

 

小さく苦笑する。

 

「変わらないな。」

 

届くはずのない独り言だった。

 

レイカはそっとユリを抱き上げる。

 

軽い身体だった。

 

起こさないよう慎重にベッドへ寝かせ、

 

乱れた布団を肩まで掛け直す。

 

ユリは少し寝返りを打っただけで、

 

そのまま静かな寝息を立て続けた。

 

レイカはその寝顔を少しだけ見つめる。

 

 

「……ゆっくり休め。」

 

 

そう呟くと、音を立てないよう部屋を後にした。

 

 

 

朝の空気はひんやりとしていた。

 

レイカは懐から煙草を取り出し、

 

火を付けようとする。

 

その時だった。

 

 

ヒュッ、と風を切る音が耳に届く。

 

視線を向けると、

 

広場でウインナーが一人、木刀を振っていた。

 

何度も。

 

何度も。

 

汗を流しながら、

 

一つひとつの動きを確かめるように。

 

レイカは煙草をしまい、静かに近付いた。

 

「剣術に目覚めたのか。」

 

突然の声に、ウインナーは振り返る。

 

「レイカ!」

 

「もう起きても大丈夫なの?」

 

「あぁ。」

 

「傷は痛むが、動けないほどじゃない。」

 

ウインナーは安堵したように笑う。

 

「良かった。」

 

レイカは木刀へ目を向ける。

 

「少し見せろ。」

 

「え?」

 

「構えだ。」

 

ウインナーは言われるまま構える。

 

レイカは腕を組み、しばらく眺めたあと口を開いた。

 

「重心が高い。」

 

「もっと腰を落とせ。」

 

「踏み込みは足からだ。」

 

「上半身だけで振るな。」

 

「……うん!」

 

ウインナーは何度も構え直す。

 

レイカは一歩前へ出た。

 

「来い。」

 

「お願いします!」

 

木刀がぶつかる音が朝の村へ響く。

 

数合。

 

短い手合わせだった。

 

「そこだ。」

 

「力み過ぎだ。」

 

「風は押すものじゃない。」

 

「流すんだ。」

 

「……!」

 

ウインナーは目を輝かせながら頷いた。

 

「まだまだ敵わないな。」

 

「にしても、なぜ剣術を?」

 

ウインナーが木刀を見つめながら話す。

 

「どうしても、レイカに追いつきたくて。」

 

「剣術を学んだら。」

 

「レイカの積み重ねたものを知れる気がして。」

 

レイカは呆れた表情で答える。

 

「俺自身が言うのはなんだが……。」

 

「俺の事、好きすぎるだろ。」

 

「え?そうなのかな……?」

 

「たまに剣術は見てやる。」

 

「それよりも、身体の基礎だ。」

 

「……うん!」

 

 

 

やがて村も賑わい始める。

 

「ふぁぁ……。」

 

寝癖をつけたケンが大きな欠伸をしながら現れた。

 

「兄ちゃん!」

 

「もう起きてたのか!」

 

「おはよう!」

 

「あぁ。」

 

「寝坊助だな。」

 

「うるさいなぁ!」

 

そのやり取りに、ドロップが思わず笑う。

 

少し遅れてユリも部屋から出てきた。

 

「あれ……?」

 

「レイカさん?」

 

「ベッドに運んでくれました?」

 

「寝ていたからな。」

 

「怪我してるのに……申し訳ございません。」

 

「構わない。ゆっくり休めたか?」

 

「ええ、おかげさまで。」

 

「治療助かった。ありがとう。」

 

「どういたしまして。」

 

「とはいえ、絶対安静ですよ?」

 

「……わかった。」

 

レイカが頭を掻くと、

 

皆が小さく笑った。

 

戦い続きだった日々の中で、

 

久しぶりに穏やかな朝だった。

 

 

 

朝食を終え、一同は机を囲む。

 

レイカは懐から一枚のカードを取り出した。

 

「昨日も話したが。」

 

「これは数年前。」

 

「“C”を名乗る奴を倒した時に手に入れたものだ。」

 

机へ置かれたカードを、全員が見つめる。

 

レイカは続けた。

 

「昨日現れた敵は、アントとビーと書いていた。」

 

「頭文字は”A”と”B”。」

 

ドロップが腕を組む。

 

「ABC……。」

 

「そういうこと?」

 

「あくまで推測だ。」

 

レイカは静かに答える。

 

「だが、この”C”だけで終わるとは思えない。」

 

ウインナーがカードを見つめる。

 

「AやBにも、同じようなカードがあった可能性は?」

 

「あるかもしれない。」

 

「だが、昨日の敵は消滅した。」

 

「カードを持っていたのか。」

 

「そもそも存在するのか。」

 

「何一つ分からない。」

 

ケンは首を傾げた。

 

「じゃあ全部予想?」

 

「あぁ。」

 

「確証はない。」

 

「だからこそ情報が欲しい。」

 

その時、ユリが口を開く。

 

「街へ行って聞き込みをしてみませんか?」

 

「同じような敵を見た人がいるかもしれません。」

 

レイカは静かに頷く。

 

「俺もそう考えていた。」

 

「まずは街だ。」

 

「手掛かりを探そう。」

 

誰も異論はなかった。

 

新たな目的が決まった瞬間だった。

 

 

 

支度を終え、五人は村の入口へ向かう。

 

そこには多くの村人たちが集まっていた。

 

「もう出発されるんですね。」

 

「本当にお世話になりました。」

 

レイカは歩みを止める。

 

ゆっくりと村人たちへ向き直ると、深く頭を下げた。

 

「……すまなかった。」

 

突然の謝罪に、村人たちは顔を見合わせる。

 

レイカは静かに続けた。

 

「守り切れなかった。」

 

「怪我人も出た。」

 

「家も壊れた。」

 

「俺がもっと早く来ていれば。」

 

「被害は少なくできたはずだ。」

 

村は静まり返る。

 

すると、一人の老人がゆっくり前へ出た。

 

「何を言うんです。」

 

「あなたが来てくださらなければ。」

 

「私たちは今、生きてはいません。」

 

一人の女性も微笑む。

 

「家ならまた建てられます。」

 

「でも、命は戻りません。」

 

小さな子どもが元気よく叫んだ。

 

「お兄ちゃん!」

 

「助けてくれてありがとう!」

 

その言葉をきっかけに、村人たちが次々と口を開く。

 

「ありがとう。」

 

「本当に助かりました。」

 

「あなたは命の恩人です。」

 

「ありがとう。」

 

「ありがとう。」

 

感謝の言葉が、静かな村へ広がっていく。

 

レイカは少し困ったように笑い、

 

照れ隠しのように頭を掻いた。

 

「……そうか。」

 

それだけ答える。

 

その横顔を見ながら、ウインナーは静かに思った。

 

( やっぱりレイカは。 )

 

( 誰かを守るために戦う人なんだ。 )

 

「行こう。」

 

ウインナーの声に、皆が頷く。

 

「あぁ。」

 

レイカを先頭に、五人は歩き始めた。

 

新たな手掛かりを求めて。

 

まだ見ぬ真実を追いかけるために。

 

一行は、次なる街へ向かって歩みを進めた。

 

 

 

 

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