-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第十四章

 

 

 

― 円を描く炎 ―

 

 

 

穏やかな風が、

 

気球船の帆を大きく膨らませる。

 

青空の下、

 

一行を乗せた気球船は、

 

ゆっくりと街へ向かっていた。

 

「すごい……。」

 

船縁から景色を見下ろし、

 

ユリは目を輝かせる。

 

「やっぱり、綺麗……。」

 

「でしょ!」

 

ドロップが笑顔で答える。

 

「最初は私も感動したもん!」

 

「落ちるなよ!」

 

ケンがからかうように笑う。

 

「お前も人のこと言えないだろ。」

 

とレイカが一言。

 

そのやり取りを見て、

 

ウインナーも思わず笑みを浮かべた。

 

 

レイカは甲板の端に立ち、

 

静かに景色を眺めている。

 

風に黒いローブが揺れた。

 

その時だった。

 

 

 

「ギギギィィッ!!」

 

 

 

甲高い鳴き声が空へ響く。

 

 

「……来たか。」

 

 

レイカが静かに空を見上げる。

 

無数の黒い影。

 

アント。

 

ビー。

 

昨日と同じ異形たちが、

 

気球船を取り囲むように飛来していた。

 

「Z様のために。」

 

「Z様のために。」

 

「Z様のために。」

 

機械のように同じ言葉だけを繰り返す。

 

「またあいつら!」

 

ケンが身構える。

 

ドロップも拳を握る。

 

しかしレイカは静かに前へ出た。

 

「ここで待ってろ。」

 

「レイカ!」

 

ウインナーが呼び止める。

 

レイカは小さく頷くだけだった。

 

「大丈夫だ。」

 

「すぐ終わる。」

 

気球船の縁へ立つ。

 

 

ゆっくりと刀――炎飛へ手を添えた。

 

刀身が静かに抜かれる。

 

次の瞬間。

 

赤い炎が刀を包み込んだ。

 

 

「我流・炎飛流。」

 

 

レイカはゆっくりと身体を回転させる。

 

炎飛が美しい円を描く。

 

 

 

「――円(まどか)。」

 

 

 

ブォォォォンッ!!

 

 

 

円を描くように放たれた炎の斬撃が、

 

気球船を中心に大きく広がる。

 

まるで空へ一輪の花が咲いたようだった。

 

赤い炎は美しい弧を描きながら飛び、

 

周囲を埋め尽くしていたアントとビーを、

 

一瞬で切り裂いていく。

 

 

「ギャァァァ!!」

 

 

「Z様のため……。」

 

 

声は最後まで続かなかった。

 

数え切れないほどいた群れは、

 

一瞬で空へ散っていく。

 

やがて静寂だけが残った。

 

 

レイカは静かに刀を納める。

 

誰も言葉が出ない。

 

ケンがぽつりと呟く。

 

「……相変わらず、すげぇ。」

 

その隣で、

 

ユリは空を見つめたまま、小さく口を開く。

 

「……綺麗。」

 

その一言だけだった。

 

レイカは聞こえなかったのか、

 

振り返ることはなかった。

 

その時。

 

空から二枚のカードがゆっくり舞い落ちる。

 

ウインナーが受け止める。

 

 

「これは……。」

 

 

カードには"A"。

 

もう一枚には"B"。

 

 

レイカは静かに頷いた。

 

「やはり……。」

 

二枚のカードを受け取り、懐へしまう。

 

「これで三枚。」

 

「少しずつ繋がってきた。」

 

 

 

数時間後。

 

一行は目的の街へ到着した。

 

活気ある通りには露店が並び、

 

人々の笑い声が響いている。

 

「まずは聞き込みだな。」

 

レイカが言うと、ドロップが笑う。

 

「その前に少し休憩!」

 

「お腹空いた!」

 

「賛成!」

 

ケンも元気よく手を挙げる。

 

レイカは呆れたように笑った。

 

「好きにしてくれ。」

 

 

街を歩きながら、

 

それぞれ思い思いに店を覗いていく。

 

ウインナーとレイカは聞き込みへ。

 

そんな中。

 

「あっ……。」

 

ウインナーの足が止まった。

 

「どうした?」

 

レイカが振り返る。

 

武器屋の店先。

 

一本の刀が静かに飾られていた。

 

鞘も柄も白。

 

そして、刀身まで雪のように白い。

 

「何だろう。」

 

「すごく……気になる。」

 

吸い寄せられるように近付く。

 

店主が笑いながら声を掛けた。

 

「兄ちゃん。」

 

「見る目あるな。」

 

「でもそいつは売れ残りだ。」

 

「売れ残り?」

 

「あぁ。」

 

「誰も抜けねぇんだ。」

 

店主は肩をすくめる。

 

「何人も試した。」

 

「力自慢もいた。」

 

「でも誰一人抜けなかった。」

 

「だから安くしとく。」

 

「飾りみたいなもんだ。」

 

ウインナーは恐る恐る柄を握る。

 

「……。」

 

「抜いてみろ。」

 

「えっ…うん。」

 

静かに力を込める。

 

 

スッ――。

 

 

刀は抵抗することなく抜けた。

 

「……え?」

 

店主が固まる。

 

「ぬ、抜いた……?」

 

「初めてだ……。」

 

周囲の客たちも驚きの声を上げる。

 

ウインナー自身も目を丸くしていた。

 

 

「僕が……?」

 

 

レイカは刀を見つめ、小さく笑う。

 

「決まりだな。」

 

「え?」

 

店主へ代金を渡す。

 

「これを貰う。」

 

「毎度あり!」

 

レイカは刀をウインナーへ差し出した。

 

「ほら。」

 

「気に入ったんだろ。」

 

「なら使え。」

 

「レイカ……。」

 

「礼はいい。」

 

ウインナーは何度も刀を見つめた。

 

「……ありがとう。」

 

その表情は、

 

少年のように嬉しそうだった。

 

その時。

 

街中へ鐘の音が鳴り響く。

 

 

 

カン!カン!カン!

 

 

 

人々が一斉に空を見上げる。

 

「た、大変だ!」

 

「竜だ!!」

 

「ドラゴンが現れたぞ!!」

 

レイカたちも外へ飛び出す。

 

街の上空。

 

巨大な翼を広げた一匹の竜が、

 

悠然と旋回している。

 

新たな戦いが、

 

幕を開けようとしていた――。

 

 

 

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