― 円を描く炎 ―
穏やかな風が、
気球船の帆を大きく膨らませる。
青空の下、
一行を乗せた気球船は、
ゆっくりと街へ向かっていた。
「すごい……。」
船縁から景色を見下ろし、
ユリは目を輝かせる。
「やっぱり、綺麗……。」
「でしょ!」
ドロップが笑顔で答える。
「最初は私も感動したもん!」
「落ちるなよ!」
ケンがからかうように笑う。
「お前も人のこと言えないだろ。」
とレイカが一言。
そのやり取りを見て、
ウインナーも思わず笑みを浮かべた。
レイカは甲板の端に立ち、
静かに景色を眺めている。
風に黒いローブが揺れた。
その時だった。
「ギギギィィッ!!」
甲高い鳴き声が空へ響く。
「……来たか。」
レイカが静かに空を見上げる。
無数の黒い影。
アント。
ビー。
昨日と同じ異形たちが、
気球船を取り囲むように飛来していた。
「Z様のために。」
「Z様のために。」
「Z様のために。」
機械のように同じ言葉だけを繰り返す。
「またあいつら!」
ケンが身構える。
ドロップも拳を握る。
しかしレイカは静かに前へ出た。
「ここで待ってろ。」
「レイカ!」
ウインナーが呼び止める。
レイカは小さく頷くだけだった。
「大丈夫だ。」
「すぐ終わる。」
気球船の縁へ立つ。
ゆっくりと刀――炎飛へ手を添えた。
刀身が静かに抜かれる。
次の瞬間。
赤い炎が刀を包み込んだ。
「我流・炎飛流。」
レイカはゆっくりと身体を回転させる。
炎飛が美しい円を描く。
「――円(まどか)。」
ブォォォォンッ!!
円を描くように放たれた炎の斬撃が、
気球船を中心に大きく広がる。
まるで空へ一輪の花が咲いたようだった。
赤い炎は美しい弧を描きながら飛び、
周囲を埋め尽くしていたアントとビーを、
一瞬で切り裂いていく。
「ギャァァァ!!」
「Z様のため……。」
声は最後まで続かなかった。
数え切れないほどいた群れは、
一瞬で空へ散っていく。
やがて静寂だけが残った。
レイカは静かに刀を納める。
誰も言葉が出ない。
ケンがぽつりと呟く。
「……相変わらず、すげぇ。」
その隣で、
ユリは空を見つめたまま、小さく口を開く。
「……綺麗。」
その一言だけだった。
レイカは聞こえなかったのか、
振り返ることはなかった。
その時。
空から二枚のカードがゆっくり舞い落ちる。
ウインナーが受け止める。
「これは……。」
カードには"A"。
もう一枚には"B"。
レイカは静かに頷いた。
「やはり……。」
二枚のカードを受け取り、懐へしまう。
「これで三枚。」
「少しずつ繋がってきた。」
数時間後。
一行は目的の街へ到着した。
活気ある通りには露店が並び、
人々の笑い声が響いている。
「まずは聞き込みだな。」
レイカが言うと、ドロップが笑う。
「その前に少し休憩!」
「お腹空いた!」
「賛成!」
ケンも元気よく手を挙げる。
レイカは呆れたように笑った。
「好きにしてくれ。」
街を歩きながら、
それぞれ思い思いに店を覗いていく。
ウインナーとレイカは聞き込みへ。
そんな中。
「あっ……。」
ウインナーの足が止まった。
「どうした?」
レイカが振り返る。
武器屋の店先。
一本の刀が静かに飾られていた。
鞘も柄も白。
そして、刀身まで雪のように白い。
「何だろう。」
「すごく……気になる。」
吸い寄せられるように近付く。
店主が笑いながら声を掛けた。
「兄ちゃん。」
「見る目あるな。」
「でもそいつは売れ残りだ。」
「売れ残り?」
「あぁ。」
「誰も抜けねぇんだ。」
店主は肩をすくめる。
「何人も試した。」
「力自慢もいた。」
「でも誰一人抜けなかった。」
「だから安くしとく。」
「飾りみたいなもんだ。」
ウインナーは恐る恐る柄を握る。
「……。」
「抜いてみろ。」
「えっ…うん。」
静かに力を込める。
スッ――。
刀は抵抗することなく抜けた。
「……え?」
店主が固まる。
「ぬ、抜いた……?」
「初めてだ……。」
周囲の客たちも驚きの声を上げる。
ウインナー自身も目を丸くしていた。
「僕が……?」
レイカは刀を見つめ、小さく笑う。
「決まりだな。」
「え?」
店主へ代金を渡す。
「これを貰う。」
「毎度あり!」
レイカは刀をウインナーへ差し出した。
「ほら。」
「気に入ったんだろ。」
「なら使え。」
「レイカ……。」
「礼はいい。」
ウインナーは何度も刀を見つめた。
「……ありがとう。」
その表情は、
少年のように嬉しそうだった。
その時。
街中へ鐘の音が鳴り響く。
カン!カン!カン!
人々が一斉に空を見上げる。
「た、大変だ!」
「竜だ!!」
「ドラゴンが現れたぞ!!」
レイカたちも外へ飛び出す。
街の上空。
巨大な翼を広げた一匹の竜が、
悠然と旋回している。
新たな戦いが、
幕を開けようとしていた――。