― D ドラゴン ―
カン、カン、カン――。
警鐘が街中へ響き渡る。
「怪物だ!」
「全員避難しろ!」
人々は悲鳴を上げながら、
建物の中へ駆け込み、
商人たちは慌てて店じまいを始める。
街の上空には、
一体の巨大な竜が翼を広げていた。
漆黒の鱗。
黄金色の瞳。
その姿だけで圧倒的な威圧感を放っている。
レイカは静かに炎飛へ手を添えた。
「ウインナー。」
「住民の避難を頼む。」
「分かった!」
「ドロップ。」
「西側を。」
「任せて!」
「ケン。」
「子どもたちを連れて逃げろ。」
「了解!」
それぞれが動き始める。
その時だった。
ユリが一歩前へ出る。
「レイカさん。」
「私も戦います。」
レイカは即座に首を横へ振った。
「駄目だ。」
「でも!」
「私も仲間です!」
「怪我人もいる。」
「あなた一人で戦わせるなんて――」
「来るな!」
普段より少しだけ強い口調だった。
ユリは思わず言葉を失う。
レイカは視線を逸らしたまま続ける。
「治療を頼む。」
「それがお前の役目だ。」
「でも……!」
「頼む。」
その一言だけだった。
ユリは納得できない表情を浮かべながらも、
小さく頷く。
「……分かりました。」
レイカはその姿を確認すると、
ゆっくりと歩き出した。
ドラゴンは街の広場へ降り立った。
その衝撃で石畳が砕け散る。
レイカは数メートル手前で立ち止まる。
ドラゴンはゆっくりと笑った。
「……人間ではないな。」
低く響く声だった。
レイカは静かに問い掛ける。
「話せるのか。」
ドラゴンは鼻で笑う。
「雑魚どもと一緒にするな。」
「貴様一人で勝てると思うなよ。」
レイカは炎飛を抜いた。
「お前ごとき、一人で十分だ。」
その言葉と同時に、巨大な翼が大きく広がる。
「なめられたもんだ。」
「……Z様のため。」
「貴様らをここで葬る。」
レイカは小さく息を吐いた。
「なら。」
「止めるだけだ。」
次の瞬間。
ドラゴンが大地を蹴った。
巨体とは思えない速度。
鋭い爪が一直線に迫る。
ガキィィン!!
炎飛が爪を受け止める。
凄まじい衝撃に地面が陥没する。
レイカは力を逃がすように身体を捻り、
そのまま横へ滑る。
ドラゴンの懐へ潜り込む。
「我流・炎飛流。」
赤い炎が刀身を包み込む。
「刹那。」
炎の斬撃が胴体を切り裂く。
しかし。
「……浅い。」
ドラゴンは尾を振り抜いた。
ゴォッ!!
レイカは後方へ跳び、紙一重で回避する。
石畳が粉々に砕け散った。
続けざまに巨大な口が開く。
「焼き尽くせ。」
轟音と共に炎の奔流が放たれた。
街を飲み込むほどの熱量。
レイカは炎飛を構える。
「我流・炎飛流。」
「円。」
円を描いた斬撃の後に、
炎が付いてくる。
ドラゴンの炎と衝突する。
爆風だけが街を吹き抜ける。
その隙だった。
「レイカ!」
風と共にウインナーが飛び込んできた。
白い刀を握り締め、
一直線に空へ舞い上がる。
「僕も戦う!」
ドラゴンが翼を羽ばたかせる。
無数の風刃が降り注ぐ。
ウインナーは風を纏い、それらをかわしていく。
「はぁぁぁっ!!」
白い刀がドラゴンの翼を切り裂いた。
「ぐうぅぅ…!!」
ドラゴンが僅かに目を細める。
「その刀は……!!」
レイカは隙を逃さない。
「ウインナー!」
「今だ!」
「うん!」
風が集まる。
レイカはピアスを外し、地面を蹴った。
一人では届かない高さ。
しかし。
風が背中を押す。
ウインナーの風だった。
レイカは一気に空中へ躍り出る。
「我流・炎飛流―――」
青い炎が刀身を包む。
「―――月詠。」
円を描く炎の斬撃が、ドラゴンを包み込む。
「ぐがぁぁぁっ!!」
ドラゴンが初めて苦痛の声を上げた。
その隙にウインナーが懐へ飛び込む。
「……ここだ!」
白い刀が一直線に走る。
ドラゴンの胸元を深く切り裂いた。
巨体がゆっくりと地面へ落ちる。
土煙が舞う。
ドラゴンは苦しそうに笑った。
「見事だ……。」
レイカは炎飛を納める。
ドラゴンは静かにレイカを見つめた。
「貴様らは……。」
「想像以上だった。」
「だが。」
「奴らには勝てん。」
「……奴ら?」
ウインナーが呟く。
ドラゴンは最後に不敵な笑みを浮かべた。
「いずれ。」
「分かる。」
その身体が光となって崩れていく。
残されたのは、一枚のカードだけだった。
レイカは静かに拾い上げる。
そこには大きく"D"の文字が刻まれていた。
「また一枚……。」
レイカはカードを懐へしまう。
「これで四枚…。」
その視線は、さらに先を見据えていた。