― 氷の加護 再び ―
ドラゴンとの戦いから一夜明けた。
街には少しずつ活気が戻り始めている。
壊れた建物の修復。
散らばった瓦礫の片付け。
住民たちは互いに声を掛け合いながら、
元の暮らしを取り戻そうとしていた。
「この木材、こっちに運んでください!」
ユリは村人たちと一緒に木材を運んでいた。
「ありがとうございます!」
「いえ、これくらいなら。」
笑顔を浮かべながら答える。
その様子を少し離れた場所から、
レイカが見つめていた。
「……。」
ユリが重い木材を持ち上げようとした瞬間。
「貸せ。」
レイカが片手で軽々と持ち上げる。
「あっ。」
「レイカさん!」
ユリは慌てて手を伸ばす。
「私がやります!」
「休め。」
短く返す。
「でも!」
「昨日も言った。」
「無茶をするな。」
ユリは少し頬を膨らませた。
「私だって戦えます。」
「皆さんに守られてばかりは嫌なんです。」
レイカは静かに木材を運びながら答える。
「戦うことだけが仲間じゃない。」
「でも!」
「私は役に立ちたいんです!」
レイカは足を止めた。
「役に立っている。」
「怪我人を助けた。」
「昨日も。」
「今日も。」
「それで十分だ。」
ユリは首を横に振る。
「違います。」
「私も前で戦いたい。」
レイカは少しだけ目を伏せる。
「……駄目だ。」
「どうしてですか。」
「理由くらい教えてください。」
レイカは答えなかった。
答えられなかった。
その沈黙が、ユリには少し寂しく映る。
「……もういいです。」
ユリは小さく息を吐き、
再び村人たちの手伝いへ戻っていった。
レイカは、
その背中を見つめることしかできなかった。
昼過ぎ。
街の復旧も一段落し、
一行は宿屋へ集まっていた。
街の老人が、一枚の古びた地図を広げる。
「この近くに遺跡がある。」
「昔は神殿だったと言われている場所じゃ。」
「神殿?」
ウインナーが身を乗り出す。
老人は頷く。
「昔から誰も近付かん。」
「罠が多く、魔物も住み着いておる。」
レイカは地図を見つめる。
「……行くぞ。」
「カードの手掛かりがあるかもしれない。」
全員が頷いた。
遺跡の入口は、街外れの森の奥にあった。
巨大な石造りの門。
長い年月を経ても、
崩れることなく立ち続けている。
「暗いな……。」
ケンが辺りを見回す。
「気を付けろ。」
レイカが先頭へ立つ。
中へ足を踏み入れると、空気が一変した。
静かだった。
いや。
静かすぎた。
「止まれ。」
レイカの声に全員が足を止める。
足元には細い糸。
「罠だ。」
炎飛で糸を切る。
次の瞬間。
壁から無数の矢が飛び出した。
ガガガガガッ!!
「危なっ!」
ケンが飛び退く。
「最初からこれかよ!」
さらに進む。
今度は床が崩れ、
大きな落とし穴が現れる。
ドロップが素早く飛び越え、
反対側へ着地する。
「大丈夫!」
「渡って!」
ウインナーは風を纏い軽く飛び越える。
ケンも続く。
ユリが飛ぼうとした瞬間。
「待て。」
レイカが腰へ手を回し、
軽々と向こう岸へ運んだ。
「えっ!」
「……降りろ。」
「ありがとう……ございます。」
ユリは少し複雑そうな表情を浮かべる。
ウインナーとドロップはそれを見ていた。
「抱えてあげればいいのに。」
「レイカには難しいと思うよ。」
「ウインナーは出来るのにねっ。」
「……よく覚えてるね。」
「ふふっ…。」
「レイカ、本当に不器用ね。」
「それでも優しいけどね。」
聞こえていないのか、
レイカは何も言わず先へ進んだ。
遺跡の最深部。
巨大な円形の部屋へ辿り着く。
壁一面には、
いくつもの紋章が刻まれていた。
炎。
風。
雷。
水。
土。
光。
闇。
そして──
氷。
「これは……。」
ユリの足が止まる。
氷の紋章だけが、
不思議な青白い光を放っていた。
見た瞬間だった。
ズキッ。
激しい頭痛が走る。
「っ……!」
視界が揺れる。
耳鳴りが響く。
遠くで誰かの声がする。
白い雪。
小さな家。
壁に刻まれた、同じ氷の紋章。
幼い自分。
誰かが笑っている。
優しい手。
そして。
暗闇。
『思い出したい?』
「……え?」
『君は。』
『まだ忘れたままでいいの?』
「誰……?」
『私は待っている。』
『君が帰って来る日を。』
「わ、私は……。」
『思い出したい?』
頭の中で声が反響する。
次の瞬間。
「きゃあっ!」
ユリはその場へ倒れ込んだ。
「ユリ!」
ウインナーたちが駆け寄る。
意識はない。
レイカは静かに氷の紋章を見つめていた。
「……なぜ。」
誰にも聞こえない声だった。
しばらくして。
ユリはゆっくりと目を開ける。
「ユリ……!大丈夫?」
「ここ……は?」
身体を起こした瞬間。
パキッ。
小さな音が響く。
ユリの手のひらから、
一輪の氷の花が咲いていた。
「え……?」
本人も驚いている。
部屋の空気が少しずつ冷え始める。
レイカは静かにその光景を見つめ、
小さく呟いた。
「氷の加護が……。」
眠っていた力が。
今、静かに目を覚ました。