-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第十六章

 

 

 

― 氷の加護 再び ―

 

 

 

ドラゴンとの戦いから一夜明けた。

 

 

街には少しずつ活気が戻り始めている。

 

壊れた建物の修復。

 

散らばった瓦礫の片付け。

 

住民たちは互いに声を掛け合いながら、

 

元の暮らしを取り戻そうとしていた。

 

「この木材、こっちに運んでください!」

 

ユリは村人たちと一緒に木材を運んでいた。

 

「ありがとうございます!」

 

「いえ、これくらいなら。」

 

笑顔を浮かべながら答える。

 

その様子を少し離れた場所から、

 

レイカが見つめていた。

 

「……。」

 

ユリが重い木材を持ち上げようとした瞬間。

 

「貸せ。」

 

レイカが片手で軽々と持ち上げる。

 

「あっ。」

 

「レイカさん!」

 

ユリは慌てて手を伸ばす。

 

「私がやります!」

 

「休め。」

 

短く返す。

 

「でも!」

 

「昨日も言った。」

 

「無茶をするな。」

 

ユリは少し頬を膨らませた。

 

「私だって戦えます。」

 

「皆さんに守られてばかりは嫌なんです。」

 

レイカは静かに木材を運びながら答える。

 

「戦うことだけが仲間じゃない。」

 

「でも!」

 

「私は役に立ちたいんです!」

 

レイカは足を止めた。

 

「役に立っている。」

 

「怪我人を助けた。」

 

「昨日も。」

 

「今日も。」

 

「それで十分だ。」

 

ユリは首を横に振る。

 

「違います。」

 

「私も前で戦いたい。」

 

レイカは少しだけ目を伏せる。

 

「……駄目だ。」

 

「どうしてですか。」

 

「理由くらい教えてください。」

 

レイカは答えなかった。

 

答えられなかった。

 

その沈黙が、ユリには少し寂しく映る。

 

「……もういいです。」

 

ユリは小さく息を吐き、

 

再び村人たちの手伝いへ戻っていった。

 

レイカは、

 

その背中を見つめることしかできなかった。

 

 

 

昼過ぎ。

 

街の復旧も一段落し、

 

一行は宿屋へ集まっていた。

 

街の老人が、一枚の古びた地図を広げる。

 

「この近くに遺跡がある。」

 

「昔は神殿だったと言われている場所じゃ。」

 

「神殿?」

 

ウインナーが身を乗り出す。

 

老人は頷く。

 

「昔から誰も近付かん。」

 

「罠が多く、魔物も住み着いておる。」

 

レイカは地図を見つめる。

 

「……行くぞ。」

 

「カードの手掛かりがあるかもしれない。」

 

全員が頷いた。

 

 

 

遺跡の入口は、街外れの森の奥にあった。

 

巨大な石造りの門。

 

長い年月を経ても、

 

崩れることなく立ち続けている。

 

「暗いな……。」

 

ケンが辺りを見回す。

 

「気を付けろ。」

 

レイカが先頭へ立つ。

 

中へ足を踏み入れると、空気が一変した。

 

静かだった。

 

いや。

 

静かすぎた。

 

「止まれ。」

 

レイカの声に全員が足を止める。

 

足元には細い糸。

 

「罠だ。」

 

炎飛で糸を切る。

 

次の瞬間。

 

壁から無数の矢が飛び出した。

 

 

ガガガガガッ!!

 

 

「危なっ!」

 

ケンが飛び退く。

 

「最初からこれかよ!」

 

さらに進む。

 

今度は床が崩れ、

 

大きな落とし穴が現れる。

 

ドロップが素早く飛び越え、

 

反対側へ着地する。

 

「大丈夫!」

 

「渡って!」

 

ウインナーは風を纏い軽く飛び越える。

 

ケンも続く。

 

ユリが飛ぼうとした瞬間。

 

「待て。」

 

レイカが腰へ手を回し、

 

軽々と向こう岸へ運んだ。

 

「えっ!」

 

「……降りろ。」

 

「ありがとう……ございます。」

 

ユリは少し複雑そうな表情を浮かべる。

 

ウインナーとドロップはそれを見ていた。

 

「抱えてあげればいいのに。」

 

「レイカには難しいと思うよ。」

 

「ウインナーは出来るのにねっ。」

 

「……よく覚えてるね。」

 

「ふふっ…。」

 

「レイカ、本当に不器用ね。」

 

「それでも優しいけどね。」

 

聞こえていないのか、

 

レイカは何も言わず先へ進んだ。

 

 

 

遺跡の最深部。

 

巨大な円形の部屋へ辿り着く。

 

壁一面には、

 

いくつもの紋章が刻まれていた。

 

炎。

 

風。

 

雷。

 

水。

 

土。

 

光。

 

闇。

 

そして──

 

氷。

 

「これは……。」

 

ユリの足が止まる。

 

氷の紋章だけが、

 

不思議な青白い光を放っていた。

 

見た瞬間だった。

 

 

 

ズキッ。

 

 

 

激しい頭痛が走る。

 

「っ……!」

 

視界が揺れる。

 

耳鳴りが響く。

 

遠くで誰かの声がする。

 

白い雪。

 

小さな家。

 

壁に刻まれた、同じ氷の紋章。

 

幼い自分。

 

誰かが笑っている。

 

優しい手。

 

そして。

 

暗闇。

 

『思い出したい?』

 

「……え?」

 

『君は。』

 

『まだ忘れたままでいいの?』

 

「誰……?」

 

『私は待っている。』

 

『君が帰って来る日を。』

 

「わ、私は……。」

 

『思い出したい?』

 

頭の中で声が反響する。

 

 

次の瞬間。

 

 

「きゃあっ!」

 

ユリはその場へ倒れ込んだ。

 

「ユリ!」

 

ウインナーたちが駆け寄る。

 

意識はない。

 

レイカは静かに氷の紋章を見つめていた。

 

「……なぜ。」

 

誰にも聞こえない声だった。

 

しばらくして。

 

ユリはゆっくりと目を開ける。

 

「ユリ……!大丈夫?」

 

「ここ……は?」

 

身体を起こした瞬間。

 

 

パキッ。

 

 

小さな音が響く。

 

ユリの手のひらから、

 

一輪の氷の花が咲いていた。

 

 

 

「え……?」

 

 

 

本人も驚いている。

 

部屋の空気が少しずつ冷え始める。

 

レイカは静かにその光景を見つめ、

 

小さく呟いた。

 

「氷の加護が……。」

 

眠っていた力が。

 

今、静かに目を覚ました。

 

 

 

 

 

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