-キリエ-憐れみの賛歌   作:yasuteru

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第十八章

 

 

 

― それぞれの時間 ―

 

 

 

ドラゴンとの戦いから数日。

 

街はすっかり活気を取り戻していた。

 

壊れていた建物は修復され、

 

露店には再び商品が並び始める。

 

子どもたちの笑い声が、

 

通りを駆け抜け、

 

人々の表情にも、

 

ようやく安堵の色が戻っていた。

 

宿屋を出たレイカは、

 

タバコに火をつけ、

 

ウインナーに問う。

 

「今日はどうするんだ?」

 

ウインナーが頷いた。

 

「僕とレイカとケンで聞き込みだね。」

 

「ドロップ。」

 

「ユリをお願い。」

 

「了解!」

 

ドロップは笑顔でユリの腕を掴む。

 

「さ、買い物行こ!」

 

「えっ?」

 

「せっかく街に来たんだから!」

 

「少しくらい楽しまなきゃ損だよ!」

 

ユリは少し戸惑いながらも笑った。

 

「……はい!」

 

男性陣は優しく微笑む。

 

「気をつけてな!」

 

「はーい!」

 

二組は、それぞれ違う方向へ歩き出した。

 

 

 

「わぁ……!」

 

露店が立ち並ぶ通りを歩きながら、

 

ユリは目を輝かせていた。

 

色鮮やかな布。

 

可愛らしいアクセサリー。

 

焼き立てのパンや甘い菓子の香り。

 

見るもの全てが新鮮だった。

 

「見て見て!」

 

「この髪飾り、可愛くない?」

 

ドロップが一つ手に取り、ユリへ合わせてみる。

 

「うん、可愛い。」

 

「ドロップにも似合うと思いますよ。」

 

「ほんと?」

 

二人は顔を見合わせて笑った。

 

その笑顔を見ていた店主も、

 

思わず笑みを浮かべる。

 

買い物を続ける中、

 

ドロップはふと立ち止まった。

 

「ねぇ、ユリ。」

 

「ん?」

 

「お願いがあるんだけど。」

 

「何でしょう?」

 

「敬語。」

 

「戻ってるよ?」

 

ユリは少し驚いたように瞬きをした。

 

「あっ。」

 

「でも……。」

 

「みんな優しいし。」

 

「私だけため口って、何だか申し訳なくて。」

 

ドロップは優しく首を横へ振る。

 

「そんなことないよ。」

 

「もっと気楽に話してほしい。」

 

「その方が私は嬉しい。」

 

ユリは少しだけ考え込む。

 

そして照れくさそうに笑った。

 

「……じゃあ。」

 

「頑張ってみる。」

 

「うん!」

 

「ありがと!」

 

ユリも笑顔になる。

 

「……ありがと、ドロップ。」

 

「それそれ!」

 

「やっぱりそっちの方が話しやすい!」

 

二人は声を上げて笑った。

 

その笑顔を見つめながら、

 

ドロップは胸の奥が少しだけ熱くなる。

 

 

( 記憶はなくてもいい。 )

 

( またこうして、一緒に笑えるなら。 )

 

( それだけで十分。 )

 

 

そう思えた自分に、少しだけ安心した。

 

 

 

一方その頃。

 

レイカ、ウインナー、ケンの三人は、

 

街中で聞き込みを続けていた。

 

 

酒場。

 

市場。

 

宿屋。

 

 

だが、有力な情報はなかなか見つからない。

 

「収穫なしだね。」

 

ウインナーが苦笑する。

 

ケンは腕を組んだ。

 

「兄ちゃん。」

 

「次どこ行く?」

 

その時だった。

 

道具屋の老人が三人へ声を掛ける。

 

「お前さんら。」

 

「探しものか?」

 

レイカが静かに振り返る。

 

「あぁ。」

 

老人は少し考え込むように髭を撫でた。

 

「数日前にも。」

 

「同じようなことを聞いてきた二人組がおったぞ。」

 

ウインナーが身を乗り出す。

 

「どんな人ですか?」

 

「一人は腕輪を付けた若い男。」

 

「もう一人は、口の悪そうな兄ちゃんじゃ。」

 

その瞬間。

 

ウインナーが嬉しそうに笑った。

 

「ブリトー達だ……。」

 

ケンも拳を握る。

 

「やっぱりあいつらだったか!」

 

レイカも小さく頷いた。

 

「無事だったんだな……。」

 

老人は続ける。

 

「その二人なら。」

 

「西の山にある遺跡へ向かったぞ。」

 

「遺跡……。」

 

ウインナーがレイカを見る。

 

「行ってみよう。」

 

レイカは静かに答えた。

 

「あぁ。」

 

 

 

夕方。

 

宿で全員が合流する。

 

「お待たせ。」

 

ユリが笑顔で駆け寄ってくる。

 

「あれ?」

 

ケンが首を傾げた。

 

「敬語じゃねぇ!」

 

ユリは少し照れながら笑う。

 

「ドロップに言われて。」

 

「ため口にしてみた。」

 

「おー!」

 

「その方がいい!」

 

ケンが満面の笑みを浮かべる。

 

ウインナーも優しく頷いた。

 

「うん。」

 

「その方が自然だよ。」

 

レイカは静かにユリを見つめる。

 

無邪気に笑うその姿は、

 

どこか懐かしくもあった。

 

ほんの少しだけ、口元が緩む。

 

その小さな変化に気付いたのは、

 

隣にいたウインナーだけだった。

 

 

 

翌朝。

 

一行は気球船へ乗り込んだ。

 

目的地は、西の遺跡。

 

風を受けながら、

 

船はゆっくりと空へ浮かび上がる。

 

雲の上を滑るように進む景色に、

 

ユリは思わず身を乗り出した。

 

「きれい……。」

 

その横でケンがレイカの肩を叩く。

 

「兄ちゃん!」

 

「俺さ!」

 

「昔より強くなっただろ!」

 

「あぁ。」

 

「避雷伸だって!」

 

「もっと速くなったし!」

 

「雷も前より操れる!」

 

「そうか。」

 

「えぇ!?」

 

「それだけ!?」

 

ケンが肩を落とす。

 

「相変わらずうるさい。」

 

ドロップとユリが吹き出した。

 

ウインナーも苦笑する。

 

「レイカらしい。」

 

ケンは負けじと胸を張る。

 

「もっと褒めろよ!」

 

レイカは少し考えたあと、

 

小さく口を開いた。

 

「頑張ったな。」

 

その一言だった。

 

ケンの表情がぱっと明るくなる。

 

「へへっ!」

 

「やっと言った!」

 

「もっと強くなって、兄ちゃん追い越してやる!」

 

レイカは少しだけ笑う。

 

「無理だ。」

 

「なっ!」

 

「言ったな!」

 

「絶対追い越すからな!」

 

そのやり取りに、全員が笑った。

 

穏やかな風が気球船を包み込む。

 

 

やがて前方に、巨大な遺跡が姿を現した。

 

長い年月を経ても崩れることなく佇む、

 

巨大な石造りの建造物。

 

その姿を見つめながら、

 

ウインナーだけが僅かに眉をひそめる。

 

 

「……風が泣いてる。」

 

 

誰にも聞こえないほど小さな呟きだった。

 

その違和感の正体を、

 

この時の誰も知る由はなかった――。

 

 

 

 

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