― それぞれの時間 ―
ドラゴンとの戦いから数日。
街はすっかり活気を取り戻していた。
壊れていた建物は修復され、
露店には再び商品が並び始める。
子どもたちの笑い声が、
通りを駆け抜け、
人々の表情にも、
ようやく安堵の色が戻っていた。
宿屋を出たレイカは、
タバコに火をつけ、
ウインナーに問う。
「今日はどうするんだ?」
ウインナーが頷いた。
「僕とレイカとケンで聞き込みだね。」
「ドロップ。」
「ユリをお願い。」
「了解!」
ドロップは笑顔でユリの腕を掴む。
「さ、買い物行こ!」
「えっ?」
「せっかく街に来たんだから!」
「少しくらい楽しまなきゃ損だよ!」
ユリは少し戸惑いながらも笑った。
「……はい!」
男性陣は優しく微笑む。
「気をつけてな!」
「はーい!」
二組は、それぞれ違う方向へ歩き出した。
「わぁ……!」
露店が立ち並ぶ通りを歩きながら、
ユリは目を輝かせていた。
色鮮やかな布。
可愛らしいアクセサリー。
焼き立てのパンや甘い菓子の香り。
見るもの全てが新鮮だった。
「見て見て!」
「この髪飾り、可愛くない?」
ドロップが一つ手に取り、ユリへ合わせてみる。
「うん、可愛い。」
「ドロップにも似合うと思いますよ。」
「ほんと?」
二人は顔を見合わせて笑った。
その笑顔を見ていた店主も、
思わず笑みを浮かべる。
買い物を続ける中、
ドロップはふと立ち止まった。
「ねぇ、ユリ。」
「ん?」
「お願いがあるんだけど。」
「何でしょう?」
「敬語。」
「戻ってるよ?」
ユリは少し驚いたように瞬きをした。
「あっ。」
「でも……。」
「みんな優しいし。」
「私だけため口って、何だか申し訳なくて。」
ドロップは優しく首を横へ振る。
「そんなことないよ。」
「もっと気楽に話してほしい。」
「その方が私は嬉しい。」
ユリは少しだけ考え込む。
そして照れくさそうに笑った。
「……じゃあ。」
「頑張ってみる。」
「うん!」
「ありがと!」
ユリも笑顔になる。
「……ありがと、ドロップ。」
「それそれ!」
「やっぱりそっちの方が話しやすい!」
二人は声を上げて笑った。
その笑顔を見つめながら、
ドロップは胸の奥が少しだけ熱くなる。
( 記憶はなくてもいい。 )
( またこうして、一緒に笑えるなら。 )
( それだけで十分。 )
そう思えた自分に、少しだけ安心した。
一方その頃。
レイカ、ウインナー、ケンの三人は、
街中で聞き込みを続けていた。
酒場。
市場。
宿屋。
だが、有力な情報はなかなか見つからない。
「収穫なしだね。」
ウインナーが苦笑する。
ケンは腕を組んだ。
「兄ちゃん。」
「次どこ行く?」
その時だった。
道具屋の老人が三人へ声を掛ける。
「お前さんら。」
「探しものか?」
レイカが静かに振り返る。
「あぁ。」
老人は少し考え込むように髭を撫でた。
「数日前にも。」
「同じようなことを聞いてきた二人組がおったぞ。」
ウインナーが身を乗り出す。
「どんな人ですか?」
「一人は腕輪を付けた若い男。」
「もう一人は、口の悪そうな兄ちゃんじゃ。」
その瞬間。
ウインナーが嬉しそうに笑った。
「ブリトー達だ……。」
ケンも拳を握る。
「やっぱりあいつらだったか!」
レイカも小さく頷いた。
「無事だったんだな……。」
老人は続ける。
「その二人なら。」
「西の山にある遺跡へ向かったぞ。」
「遺跡……。」
ウインナーがレイカを見る。
「行ってみよう。」
レイカは静かに答えた。
「あぁ。」
夕方。
宿で全員が合流する。
「お待たせ。」
ユリが笑顔で駆け寄ってくる。
「あれ?」
ケンが首を傾げた。
「敬語じゃねぇ!」
ユリは少し照れながら笑う。
「ドロップに言われて。」
「ため口にしてみた。」
「おー!」
「その方がいい!」
ケンが満面の笑みを浮かべる。
ウインナーも優しく頷いた。
「うん。」
「その方が自然だよ。」
レイカは静かにユリを見つめる。
無邪気に笑うその姿は、
どこか懐かしくもあった。
ほんの少しだけ、口元が緩む。
その小さな変化に気付いたのは、
隣にいたウインナーだけだった。
翌朝。
一行は気球船へ乗り込んだ。
目的地は、西の遺跡。
風を受けながら、
船はゆっくりと空へ浮かび上がる。
雲の上を滑るように進む景色に、
ユリは思わず身を乗り出した。
「きれい……。」
その横でケンがレイカの肩を叩く。
「兄ちゃん!」
「俺さ!」
「昔より強くなっただろ!」
「あぁ。」
「避雷伸だって!」
「もっと速くなったし!」
「雷も前より操れる!」
「そうか。」
「えぇ!?」
「それだけ!?」
ケンが肩を落とす。
「相変わらずうるさい。」
ドロップとユリが吹き出した。
ウインナーも苦笑する。
「レイカらしい。」
ケンは負けじと胸を張る。
「もっと褒めろよ!」
レイカは少し考えたあと、
小さく口を開いた。
「頑張ったな。」
その一言だった。
ケンの表情がぱっと明るくなる。
「へへっ!」
「やっと言った!」
「もっと強くなって、兄ちゃん追い越してやる!」
レイカは少しだけ笑う。
「無理だ。」
「なっ!」
「言ったな!」
「絶対追い越すからな!」
そのやり取りに、全員が笑った。
穏やかな風が気球船を包み込む。
やがて前方に、巨大な遺跡が姿を現した。
長い年月を経ても崩れることなく佇む、
巨大な石造りの建造物。
その姿を見つめながら、
ウインナーだけが僅かに眉をひそめる。
「……風が泣いてる。」
誰にも聞こえないほど小さな呟きだった。
その違和感の正体を、
この時の誰も知る由はなかった――。