ー出場選手ー
夜。
賑やかだった街も、
今は静寂に包まれている。
一行は、温泉宿でゆっくり休んでいた。
「あー!すっきりした!」
「肌ツルツルになったぞ!」
「君は元からツルツルだろう?」
温泉を堪能した後、
大広間の部屋しか空いていなかったため、
みんなで布団を引いて寝ることになっていた。
寝ようとした直後。
ウインナーがはっとし、口を開く。
「……ねえ。」
「明日、誰が出る?」
一行もつられてはっとする。
「僕は確定なんだけど……あと四人。」
「出たい人いる?」
「俺は出るぞ!」
ダイフクーは率先して名乗り出る。
「ありがとう。後のみんなは?」
「それこそレイカ出てくれよ!」
「断る。」
ダイフクーが言い切ると同時にレイカは答えた。
「面倒臭い。」
「じゃあ、ユリさんは?」
「私もあんまり……。」
ダイフクーは痺れを切らした。
「あー!もう!お前らもっと乗ってこいよ!」
「こうなったらジャンケンで決めようぜ。」
「負けたら試合に出る!勝ったら応援!」
「勝っても負けても恨みっこなし。それでいいだろ?」
レイカは気だるそうに答える。
「はあ……。仕方ない。」
少し周りを見た後、申し訳なさそうに、
「僕、ジャンケンを知らない。」
ブリトーが答えた。
「ジャンケンを知らないのか。」
「ジャンケンはな、これがグーで……。」
ジャンケンをブリトーに教え、
ウインナー以外のメンバーでジャンケンをする。
「最初はグー!」
「ジャンケン……ポン!」
ー試合会場の控室ー
出場する五人が静かに待機していた。
ウインナー。
ダイフクー。
ブリトー。
ユリ。
そしてレイカ。
デンガクから大会ルールの説明を受け終え、
控室には少しだけ緊張感が漂っている。
シャーベットとドロップは観客席で、
仲間たちの出番を待っている。
ブリトーは首を鳴らし、腕を軽く回した。
「面白そうだ。」
その瞳には闘志が宿っている。
隣でダイフクーも豪快に笑った。
「ははっ!」
「久しぶりに暴れられそうだ!」
対照的な二人の様子に、
ウインナーは思わず苦笑する。
「二人とも、あんまり張り切りすぎないでね。」
その空気とは対照的に、
レイカは壁にもたれ、だるそうに煙草をくわえていた。
ゆっくりと煙を吐きながら、気だるそうに呟く。
「はあ……。」
「ジャンケンに負けなければな……。」
「まあ、でも、お前らの出番はないかもな。」
その一言に、全員がレイカを見る。
「俺とユリとウインナーで終わると思うぞ。」
あまりにも当然のように言うものだから、
一瞬静まり返った。
そして次の瞬間。
ダイフクーが豪快に笑う。
「ははは!」
「頼もしいじゃないか!」
レイカは肩をすくめるだけだった。
ユリは隣で小さく笑い、
ウインナーは苦笑しながら頭を掻く。
ブリトーだけは真顔で呟いた。
「……本気で言ってそう。」
ー第一試合ー
司会の声が闘技場へ響き渡る。
「第一試合!」
「カマメシ王国代表――」
「レイカ選手!!」
大歓声が沸き起こる。
レイカは煙草を灰に変え、静かに歩き出した。
対する相手は、
スキヤキ王国代表。
二本のナイフを持つ男――ポテサラ。
ダイフクーが焦燥感を交えて言う。
「あいつ……!」
「昔、殺人鬼で指名手配されていたやつだぞ!?」
「え!?」
「レイカは大丈夫なのか……?」
ただ、冷静にユリが一言。
「大丈夫よ。レイカなら。」
拘束具を外した途端、
ナイフを自在に振り回し、
ニヤリと笑いながら観客席へ向かって叫ぶ。
「街で俺を見かけたら、後悔するがいい!!」
「後悔する前に殺るけどな!!ヒャハハ!!」
不気味な笑い声が闘技場へ響く。
闘技場の、観客も緊張感が伝わっている。
レイカは刀を肩へ担ぎ、欠伸をした。
「眠い。」
その一言だけだった。
「勝敗は、場外or10カウントで決まる!!」
「試合初め!」
開始の合図。
ポテサラは地面を蹴る。
「早いぞ!?」
凄まじい速さで距離を詰め、
二本の刃が連続して襲いかかる。
「シャアアアア!!!」
右。
左。
上段。
下段。
鋭い連撃。
しかし。
レイカに一つも届かない。
身体を少し傾ける。
流す。
かわす。
見切る。
まるで踊るように刃を避けていく。
「うおおおおお!!!」
観客席は大いに盛り上がる。
シャーベットは思わず声が出た。
「……レイカって何者だ。強いってもんじゃないぞ。」
レイカの表情は変わらない。
余裕そのものだった。
二本のナイフを2本指で白刃取りし、
相手を完全に静止させる。
そして片側の口角をあげた。
「今どきの殺人鬼はこんなもんか。」
「見掛け倒しだな。」
その挑発に、ポテサラの顔が怒りで歪む。
「黙れぇぇぇ!!」
静止を振り払い、
理性を失ったように大きく踏み込み、
両手のナイフを振り上げた。
力任せの大振り。
その瞬間だった。
レイカの姿が消えた。
「……え?」
「消えた……?」
観客席が静まり返る。
「後ろにいるぞ!?」
気付けば。
レイカはポテサラの背後へ立っていた。
小声で囁く。
「散れ。」
「……え?」
静かに刀を鞘へ納める。
「我流・炎飛流――」
「刹那。」
キィン――。
遅れて金属音が響く。
ポテサラの身体がゆっくりと崩れ落ちた。
斬られた軌跡から炎が一瞬だけ揺らめき、
静かに消えていく。
勝負は、一瞬だった。
「勝者!」
「レイカ選手ーーー!!」
司会者の声と共に歓声が爆発する。
「……はあ。」
しかしレイカは振り返ることもなく、
煙草の火をつけた後、
そのまま控室へ戻っていった。
ー控室ー
ダイフクーは目を丸くしていた。
「早すぎるだろ……。」
ブリトーも呆然としている。
「何が起きた?」
「刀を抜いたようには見えなかった。」
ユリだけは静かに微笑んでいた。
「ね?心配いらなかったでしょ?」
レイカは椅子へ腰を下ろし、
新しい煙草に火をつける。
一服すると、隣に座るウインナーへ視線を向けた。
「ウインナー。」
「見えたか?」
ウインナーは少し考え込み、照れくさそうに笑う。
「刀を抜くところは……何とかね。」
その返事を聞いたレイカは、小さく微笑んだ。
「そうか。」
それだけ言って煙を吐く。
「あれが見えたのかよ!?」
「俺も修行付けてもらおうかな!?」
「勘弁してくれ。」
その様子を見ていたブリトーは、小さく拳を握った。
( まだまだ遠い……。 )
そして司会者の声が、再び闘技場へ響く。
「続いて第二試合!」
「カマメシ王国代表――」
「ユリ選手!!」
対する相手は、
スキヤキ王国代表――パウンド。
「……ふう。」
「いってきます。」
静かに立ち上がるユリの瞳は、
いつもの穏やかな色とは違い、
冷たい氷のように澄み切っていた。