ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜   作:土瓶サバ

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第12話 ダンジョンをはじめましょう

刺突。

 

槍先が盗賊の身体に飲み込まれる。

 

「ぐっ……がっ……!」

 

盗賊の喉から息とも悲鳴ともつかない音が漏れる。

嫌な感触。

 

ぽんこが耳元でささやいた。

 

「生体反応あり、致命傷ではありません。まだ動きます」

「……軽く言うな」

 

男は槍に縫いとめられたまま怒鳴ろうとする。

 

「ガ、キ……が……ッ……!」

 

こちらを見る目は、怒りだか恐怖だかわからない感情に覆われている。

 

その瞬間、緑の影が飛び出した。

 

「グギャギャ!!」

 

奥で盗賊の弟分を殴っていたゴブリン三体が、獲物を見つけた犬みたいに一斉に飛びつく。

腕、脚、背中に棍棒と石斧が振り下ろされ、硬い音が通路に響く。

 

「や……やめ、ぎゃあ!!」

 

ぽんこがぽつり。

 

「ゴブリンさん、張り切ってますね。昨日の訓練の成果です」

「嫌な成果だな」

 

俺は槍を置き、少しだけ下がった。

ゴブリンにたかられた盗賊が、やがて動きを失う。

 

ぽんこが静かに告げた。

 

「二名目、死亡を確認。DP540、獲得です」

 

ぽんこが横で、そっと声の温度を落とした。

 

「マスター……深呼吸をどうぞ。呼吸が乱れてます」

「……分かってる」

 

吸って、吐く。

震えが止まらない。

 

ぽんこが通路奥を指差す。

 

「残り一名。現在ゴブリンさんが逃げ場を封鎖しています。マスターの判断を待って、攻撃指示を停止させています」

「気を利かせたのか」

「ぽんこはそのへん高性能なので!」

「いらない高性能なんだよな……」

 

通路の奥から、荒い呼吸音が聞こえる。

 

先ほど置いて行かれた盗賊は、まだ生きている。

 

俺はゆっくりと歩き出し、ぽんこが尋ねる。

 

「どうしますか?このままゴブリンさんに任せても、すぐ終わります」

 

槍を握り直す。

 

「……とどめは、俺が刺す」

 

 

 

 

 

 

【DP獲得:440DP】

 

俺は、ゆっくりと息を吐いた。

 

重い。

でも、もう後戻りはできない。

俺は直接、人を刺した。

 

それでも、生き残った側は次に何をするかを決めなければならない。

 

「……よし」

 

槍を担ぎ直し、通路を見渡す。

 

「ゴブリンたちはよくやった。あとで、なにか褒美でも考えるか」

「殴る相手を増やしてあげましょう!」

「それが褒美なのか?」

「彼らにとっては最高です!」

 

元の世界の普通からは、もうだいぶズレてしまった気がする。

けれど、それがダンジョンマスターとしての俺の立ち位置なんだろう。

血の匂いがまだ強く残る通路で、俺は静かにそう自覚した。

 

 

 

通路の奥に、静寂が戻ってきた。

怒号も、戦いの音も、もうどこにもない。

盗賊の死体はスライムに任せた、ほどなく分解してくれるだろう。

ついさっきまで命があったものの気配は、ほとんど残っていなかった。

 

俺は浅くなっている呼吸に気付き、深く息を吐いた。

 

「……ふう。なんとか、だな」

「初迎撃戦、お疲れ様です。初回にしては十分すぎる成果でした。評価はAです!」

「評価とかいいよ……こっちは必死だったんだぞ」

「必死だったからこそのAです!」

 

強引な基準だが、そこに悪意がないのは分かる。

そのとき、視界にふっとウィンドウが浮かび上がった。

 

【チュートリアル:ダンジョンマスター基礎】

進行度:100%→完了

【報酬】

・階層管理システム解放

・迷宮分析ログ解放

【ログ:管理権限レベルが上がりました。現時点のステータスを表示します。】

 

【ステータス】

・HP:120/120

・MP:0/0

・DP:1490

・管理権限Lv:2(+1)

・総支配指数:105(+105)

・迷宮数:1(+1)

()内は前回表示からの変動値

 

「管理権限レベルが上がった?」

「はい!初迎撃戦をこなしたので管理者としてのレベルが上がりました!管理権限レベルが上がるとできることが増えます」

「はぁ。まあいい、疲れた」

 

少し離れた通路で、ゴブリン三体がまだ落ち着かない様子で石を叩いていた。

獲物の気配が消えたあとの、興奮の余韻だ。

 

「お前らもよくやったよ」

「ゴブ」

「ゴブブッ」

「ゴブー」

 

短い鳴き声は、どういう意味なのか判別しにくいが、三体とも胸を張っているあたり、おそらく満足しているのだろう。

 

「ぽんこ、ゴブリンの負傷状況は?」

「小さな擦り傷が二つ。問題ありません。むしろもっと殴りたいとのことです」

「翻訳しなくていい」

「翻訳は得意です!」

 

本当に得意なのか怪しいが、まあ今はいい。

 

重い疲労がじわじわ広がっていく。緊張の糸が切れた、というやつだろう。

 

「……終わったな」

 

ぽんこは両手を胸の前で組み、こちらを見上げる。

 

「マスター。最初に探索者に殺され、次に盗賊さんが襲来し、そして迎撃に成功しました。迷宮として最低限必要なものは、これで揃いました」

「……最低限?」

 

「はい。外の人間が認識し、侵入し、命を落とし、その結果としてダンジョンが成長する。この一連の流れが完全に形成されました」

 

ぽんこの言葉は丁寧で、感情の起伏は少ない。だからこそ、実感をともなって腑に落ちる。

 

「このダンジョンが、ひとつの世界として動き始めた、ってことか」

「そうなります」

 

ぽんこは軽く頷き、言葉を続けた。

 

「これ以降は、探索者さんが来ます。彼らは、武器と目的を持って迷宮に入り、ダンジョンの構造や魔物を攻略し、時には帰り、時には帰りません」

「……帰らないと?」

「DPになります」

 

変に柔らかい微笑みを浮かべるな。

いや、俺の立場からしても微笑むべきシーンなのかもしれない。

 

俺は通路の奥を一度見渡す。

 

「探索者が来れば……こっちにとっては、ある意味で糧になるわけか」

「はい。彼らが何を持ち、どう動き、どれだけ戻るかで、ダンジョンの未来が変わります。マスターはそれを読み、誘導し、調整しなければなりません」

「うまく利用するってことだな」

「はい。でも利用しようとしすぎると逆に危険です。ダンジョンは欲張るほど死に近づきます」

「それは思い知ったよ」

「いい経験です!」

 

壁にもたれかかったまま、天井を見上げる。

 

「でも……なんとなく分かってきたよ。迷宮ってのは、待ってるだけじゃ駄目なんだな」

「はい。来る者に合わせて形を変え、生かすか、飲みこむか、そのどれもが選択です」

「そして間違えれば死ぬ、と」

「そうです。だからこそ」

 

ぽんこがゆっくりと指をダンジョンの奥へ向けた。

 

「ここからは『運営』です。マスターが生き残るための、本格的な仕事が始まります」

 

俺はしばらく黙ってから、軽く笑った。

 

「……たかだか一週間で、だいぶ世界が変わったな」

「マスターが変えたんですよ」

「そうかもな」

 

この狭い空間は、もうただの洞窟じゃない。

誰かが踏み入り、誰かが帰れない場所。

その意味を、ようやく理解し始めた。

 

「ぽんこ」

「はいっ!」

 

ぽんこがぱっと笑顔を弾けさせた。

侵入者は脅威でもあり、糧でもある。生かすか飲み込むかの境界で、俺はこれから歩き続ける。

 

その現実を、ようやく受け入れられた気がした。

 

「じゃあ、ダンジョン運営を始めるか」

「はい!ダンジョンをはじめましょう!」

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