ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜   作:土瓶サバ

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第14話 Eランク

「マスター。外部の生命反応、三つ。接近、からの、離脱を確認しました」

 

ぽんこの声が、コア部屋に響いた。

俺はコアの下で、床に座り込んだまま顔を上げる。

 

「入ってこなかったな」

「はい。装備と動きから、武装兵士クラスと推定」

「探索者か?」

「かもしれません。入口の前でしばらく立ち止まり、何かを確認してから離脱しました」

「……何かって何だ」

「不明です。旧式なので」

「便利な言い訳を覚えたな、お前」

 

とはいえ、外に人間が来たのは間違いない。

 

「監視隊……か」

 

ぽんこから外の世界について聞かされていた内容を、頭の中で思い返す。

 

まず来るのは、迷宮監視隊。

 

こいつらは探索者ギルドが組織した迷宮の見張り番だ。

ダンジョンが発生すると、真理院(しんりいん)とかいう学術機関が魔力の異常を割り出して、探索者ギルドに報告するらしい。

 

監視隊は、その報告を元に迷宮の位置を割り出す。それだけ。

 

「討伐も攻略もしない。見つけるだけの組織。縦割り行政の極みみたいな組織だな」

「予算争いの結果ですかね」

 

「つまり、さっき来た連中は見つけに来ただけ。中に入らないのも、倒しに来ないのもそのためか」

「そう考えるのが妥当でしょうね。マスター、よくできました」

「わかってて試したのか」

 

「では、続けて問題です!次に来るのは誰でしょう?」

 

俺の反応がこいつのプライドをくすぐったらしい。

先生モードに入りやがった。

まあいい、おさらいだ。

 

「次に来るのは、調査依頼を受けた探索者。本登録前に、探索者がダンジョンに来て内実を調査する。それを踏まえて、ギルドがランクを決める。そうしたら一般公開だ、探索者やら村人がやってくる」

 

要するに探索者ギルドってのは、ダンジョンを仕事場に変える連中だ。

監視隊に見つけさせ、ダンジョンの規模や危険度をランク付けして、探索者を送り出す。

 

新人の小遣い稼ぎ用なのか、中堅の鍛錬場なのか、上級者向けの稼ぎ場なのか、それを決めるのがギルドの役目。

平たく言えば、ダンジョンを経済活動に組み込んでいる。

 

危険だろうが死人が出ようが、彼らにとっては産業の一つだ。

そして、ダンジョンマスターにとって最初に相手をするのが、このギルドの探索者たちになる。

 

「よろしい。それでは最後の問題です!逆に最後まで来ないけど来たらおしまいなのは誰でしょう」

「こういう時は本当に嬉しそうだよな、お前」

 

勇者。

 

ぽんこの説明いわく、こいつらはダンジョンの天敵。

この世界最大、というかほとんど唯一の宗教。

『マザーノード信仰』

その教会による対ダンジョン兵器であり、Aランク以上のダンジョンにだけ出てくる災害級人材。

 

迷宮が大きくなりすぎると、世界にとって危険だから、勇者という存在が送り込まれて処理される。

 

ダンジョンマスターがどれだけ頑張ろうが、勇者が本気で来たら大抵は終わる。

だから普通のダンジョンマスターは、ランクを上げすぎないようにわざと弱く見せる。

調子に乗って殺しすぎれば勇者にバレるし、弱すぎてもコアが危険にさらされる。

 

この絶妙なバランス取りが、生き残るダンジョンマスターの基本戦術。

 

「はい!完璧です!これで負けたらマスターのせいです!」

「そんなことはないだろうが、まぁお互いがんばったな」

 

そう、この間探索者に殺されて以降、こうやってこの世界の常識や、ダンジョン運営のポイントを急ピッチで教わってきたのだ。

ものすごい詰め込み教育だったので、正直どこまで覚えているか自分でも曖昧だ。

 

「まあ、とりあえず勇者はまだ気にする必要はないんだろ」

「そうですね!今の戦力で殺し過ぎれば、勇者以前に探索者ギルドに駆逐されます」

「探索者に殺されないだけの戦力を得ることが第一だな」

 

まあ、そのためには探索者を殺さないといけなくて、探索者を殺すと探索者ギルドに駆逐される、という堂々巡りなんだが。

 

「ともかく、これでマスターのダンジョンは公的に認識された状態になりました。調査が済み、ランク登録が行われると、新規ダンジョンとして情報共有されます」

「それっていつ頃だ?」

「早ければ数日以内。遅くとも、一週間もあれば新人探索者さんが来始めると思われます」

「新人探索者」

 

どう感じていいのかわからん。

こっちからすれば、リスクであり、同時に収入源でもある。

 

「で、そのランクとやらが、うちの看板になるわけか」

「はい。ギルド基準による危険度評価です。EからSまであって、Eが最下位、Sが災害級です」

「うちの初期評価は?」

「規模、エーテル濃度、周辺環境から考えて、ほぼ確実にEからスタートです。初心者と、食うに困った村人さんのお小遣い稼ぎ用ですね!」

「最後の説明いらなかったな」

 

ただ、悪い話ではない。

Eランクなら、いきなり勇者や上位探索者が押し寄せてくることもないだろう。

しばらくは、新人や村人が様子見に来る程度で済む。

その間に、こっちはこっちで牙を磨けばいい。

 

「ぽんこ」

「はい、マスター」

「Eランクのまま、裏の戦力だけ肥大化させる、ってできるか?」

 

ぽんこの瞳に走るリングが、一瞬だけきらりと光を増した。

 

「はい。できます。見せる顔と本当の顔を分ければいいだけです」

「具体的には?」

「表層階だけを、初心者ダンジョンらしい構造と戦力に維持します。その奥に、本気の防衛線と戦力を隠しておけば――」

「表はEランク、裏は別物、ってわけか」

 

「そうです。マスターの世界の言葉で言うなら……粉飾決算みたいなものです!」

「どこで覚えたんだその物騒な例え」

「旧式ですが、学習機能はあります!」

 

ぽんこは胸を張る。

俺はしばし黙ってから、天井を見上げた。

 

「……いいじゃないか」

「マスター?」

「Eランク。最下位。その看板のまま、どこまでやれるか試してみよう」

 

ぽんこのお団子が、くるりと回転する。

 

「はい。それでは、表向き初心者用のダンジョン設計を始めましょうか」

「それに裏向き、本気で守る側の設計もな」

「もちろんです、マスター」

 

コアの下で立ち上がる。

この世界で、俺のダンジョンはEランクとラベル付けされた。なら、そのラベルを最大限利用するだけだ。

弱いふりをしている方が、生き残りやすい。

 

「さあ、Eランクのふりをしながら、Eランクじゃない迷宮を作ろうか」

「はい、マスター。初心者用ダンジョン運営、開始です」

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