ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜 作:土瓶サバ
【side:探索者リオン】
ギルドの掲示板に、その紙が貼られたのは昼前だった。
「お、出たな。北の森」
木の札で仕切られた受付カウンターの前。掲示板の前に集まっていた若い連中の中で、一人が声を上げる。
アウル村の青年、リオンだ。
腰に剣、安物の革の服。
村で一番の腕っぷしの青年は、最近では街のギルドに顔を出すのが日課になっていた。
村に監視隊が立ち寄ったことを聞き、街に降りてダンジョン調査の依頼が出るのを毎日確認していた。
紙にはこう書かれている。
【依頼:北部森林地域新規ダンジョン一次調査】・内容:迷宮入口の確認、内部構造の概略調査、モンスターの確認・報酬:一人あたり銅貨10枚+回収品の買取・危険度:暫定小規模・推奨人数:3〜5名
「小規模だってさ」
隣で紙を覗き込んでいたエルノが、嬉しそうに言う。
「そう書いてあるからって、新人向けかは別問題だろ」
「分かってるって。ちゃんと三人以上で行くし、ちゃんと依頼だし」
エルノは、すぐ後ろに立っている男を親指で指した。
「ほら。リーダーもいるしさ」
「リーダーって言うのやめろ。くすぐったい」
苦笑しながら一歩前に出たのは、ひげ面の男だった。革鎧の上に、使い込まれた鎖帷子。腰には短めの剣。
「カークさん」
「さんはいらん。探索者歴は長いが、ベテランってほどでもない。ダンジョンも浅いところをちょろっと、だ」
彼は掲示板の紙を一読し、鼻を鳴らす。
「ふむ。一次調査。監視隊の連中が穴だけ見つけて、投げてきたってことだな」
「危険度のところ、暫定って書いてありますけど」
エルノの問いに、カークは頷いた。
「まだランクが付いてねえってことだ。監視隊は魔力の強さだけ見てでかいか小さいかは分かるが、中身までは分からねえ」
「じゃあ、俺たちが最初ってことか」
リオンが目を輝かせる。
「そういうことになるな。中で死ななきゃ、最初に攻略する権利はお前らにある」
「よっしゃ」
「ただし」
カークの声だけが低くなった。
「中身次第では、そのまま仕事場になる。街の連中にとっても、お前らみたいな村の若いのにとってもだ。最初に無茶した奴が、だいたい一番最初に死ぬ。覚えとけ」
「……はい」
リオンが真面目に返事をする。
エルノは、少し肩をすくめて笑った。
「分かってますって。それに無茶する前にカークさんが止めてくれるでしょ」
「止めるが、俺も二人同時には抱えて走れねえぞ」
そう言って、男は受付に向き直った。
「この依頼、俺とこいつら二人で受ける。書類、頼む」
【side:ユート】
「マスター。外部生命反応、三つ。今回は、入口からそのまま中に入ってきます」
ぽんこの声が、いつもより少しだけ弾んでいた。
「三つ?」
「はい。村人とも盗賊とも違います。装備重量、金属反応、動きのリズムから――探索者さんと推定!」
「ついに来たか、お客さん」
俺は二階層のコア部屋から、支配域マップを呼び出す。
そう、二階層だ。
管理権限レベルアップで階層管理システムが開放された。
このダンジョンもとうとうメゾネットだ。
開放早々、ぽんこのアドバイスに従って、先にコアだけ移した。
だから二階層といっても、今のところはコア部屋プラス階段だけの、ひどく質素な構造。
階層は地下へ地下へと深くなっていくスタイル、階層の区切りは階段が必要だ。
上に階層を作ることもできるらしいが、いかんせんここは地下だ、上に地面がない。
一階はその間に少しずつ拡張してきた。
通路は入口から奥まで、合計500m近く。
今のダンジョンはタワーディフェンスゲームよろしく、空間にびっしりと狭い通路を敷きつめた迷路になっている。
「ぽんこ、今んとこ俺たちの戦力、ざっくり整理してくれ」
「はい!現在の戦力は――」
ぽんこが指を折る。
「・スライムさん×20体
・ゴブリンさん×10体
・罠×数基
・地形トラップ×多数!」
得たDPを一度に通路延長とゴブリン追加に突っ込んだせいで、口座残高はかなり波打った。
今のDP残高は。
【残DP:294】
「マスター一人+盗賊さん三人+ネズミさん多数で、だいたいここまで増えました!」
「俺を含めるな」
「マスターも草葉の影で見ていてくれています!」
「最前列で見てるわ」
そんな会話をしている間にも、侵入者三人の生命反応は、入口を越えて中へと入ってきた。
「光苔の明るさにびっくりしています。『おお、ちゃんとした迷宮だ』と言っています」
「ちゃんとした、の基準が知りたいな。こっちから見れば、まだ工事中なんだが」
支配域マップの一階通路入口付近。そこに、ゆっくり移動する三つの光点が現れる。
俺は、最前線のスライムに簡単な指示を送る。
「最初の角で、一匹だけ見つかれ。少し逃げるけど、すぐ捕まるくらいの感じで」
「すぐ捕まるくらいの感じはスライムには難しい指示です」
「そこはお前の裁量でうまくやれ」
「了解しました。ぽんこがほどほど変換します!」
……このAIに任せて大丈夫か、という不安は一旦飲み込む。
UIをカメラ表示に変更し、探索者の動きを追うことにした。