ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜 作:土瓶サバ
【side:探索者】
ギルドの掲示板に紙が一枚増えたのは、昼前だった。
「お、これじゃないか。噂の北の森ダンジョン」
木札で仕切られた受付の前。張り紙を覗き込んでいた若い探索者の一人が声を上げる。
革鎧に安物の剣。
まだ駆け出しのようだ。
【依頼:北部森林地域新規ダンジョン簡易探索】
・内容:入口付近の再調査、内部構造の補足、モンスター構成の確認
・報酬:情報買取、回収品の買取
・危険度:Eランク・推奨人数:3〜5名
「……よし、行くか。昨日の連中の話が本当なら美味しい仕事だ」
そんな短いやり取りのあと、三人は受付で依頼書に名前を書き、ギルドを出ていった。
森を抜け、監視隊の杭を目印に斜面を登る。
そして、ぽっかりと開いた入口の前で足を止めた。
【side:ユート】
「ここが北の森ダンジョン。ランクE。よかったな、稼ぎ場だ」
「カーク達、生きて帰ってたもんな。スライムと、ゴブリン1匹だけ見たって」
「なら、飯代くらいにはなるか」
そんな会話が行われているところを、俺はコア部屋から眺めていた。
ぽんこが、視界の端に小さなウィンドウを出して書き込む。
【外部情報メモ:危険度Eで確定】
「はい。ギルドの判定、Eランク確定です」
「……本当に初心者向け扱いなんだな」
「はい。今のところ、お小遣い稼ぎにちょうどいい穴ですね」
一階層、通路およそ500メートル。
曲がり角と段差、分岐が多数。
スライム20体、ゴブリン10体。
罠は、落とし穴を数基。
危険度E。
たしかに、ラベル通りと言えばそうだ。
「で、今日も来たな」
「はい。生命反応、三つ。入り口にいます。見た感じ、昨日とは別パーティです」
「ギルド、仕事早いな」
俺は支配域マップを拡大する。
侵入者三つ分の光点が、そこに光っていた。
三人は慎重に通路を進んでくる。今のところ、俺にとってはお客様だ。
丁重に扱って、お帰り願いたい。
「スライム反応、接近中です」
ぽんこが横で報告する。
「昨日と同じ配置です。角を曲がった先、足元注意ゾーン」
「死んだら死んだで構わんが、まだ早いよな」
スライムは20体。
うち一体に「少し前に出て、あっさり倒されろ」と命令を送ってある。
「命令内容がひどいですね」
「こっちは命がかかってるからな」
「まぁモブスライムさんには感情はありませんので、いいとしましょう」
通路の角。ぬるりと、透明な塊が光の中に出てきた。
「お、出た。スライム」
「一体だけか。さっさとやるぞ」
剣が振り下ろされ、ゼリー状の体が真っ二つになる。魔石が転がり、粘液が岩にべったり張り付いた。
その後も、二体目、三体目。いずれも大きな苦戦もなく、魔石を回収している。
「スライム三体で、魔石が三つ。街の買取なら、銅貨何枚くらいですかね」
「お前の飯代くらいだ」
「最高じゃん」
そんな会話を聞きながら、俺の視界には別の数字が浮かんでいる。
【スライム死亡×3】
【スライム:実体×17、再生成中×3】
「スライムさん、いい仕事してますね」
「褒められても嬉しくないだろうけどな」
使えるスライムはあと17体。
「マスター。ゴブリンさん、入口側に一体出ました」
「ああ、見えてる」
通路の先、倒しやすいように単独でけしかける。
「一体だけか。やるぞ」
探索者たちが構える。
短い攻防。棍棒の一撃を一人が受け流し、一人が横合いから腹を斬る。
ゴブリンが倒れ、すぐに静かになった。
【ゴブリン死亡】
【再生成時間:3日】
「んー、3日。十体で持つかなぁ」
声に出すと、改めて心許ない数字だと実感する。
「はい。これ以上倒されるようなら調整が必要ですね」
今さら言っても遅い。ゴブリンは十体。
そのうち一体が、今倒された。
その後も奥まで進み、同じように単独で出したゴブリンをもう一体狩ったところで、探索者たちが立ち止まる。
「探索者さんたち、そろそろ引き返しそうです」
「何メートル進んだ?」
「距離、100メートルです」
「すでに五分の一か……」
ぽんこがモニターを拡大する。
「スライム三匹、ゴブリン二体、洞窟の長さは100メートル以上。浅い範囲で軽く稼げるEランクの新規ダンジョンという評価で帰ります」
「……それ自体は、悪くない」
今後の評判を考えれば、むしろ望ましい。問題は、戦力不足だ。
「一パーティーで簡単にスライム三匹とゴブリン二体お持ち帰りだ。様子見が終わったら、さらにゴブリン数体はやられるだろう」
「ゴブリンさんは再生成に3日かかりますしね」
二階層の増築で時給DPは6まで上がったが、それでも1日144DP。
「ゴブリンの生成枠、増やさないと無理だな」
「ゴブリンさんは100DPですから、毎日一枠増やせますよ」
再生成が回り始めればなんとかなるが、それでもギリギリだな。
「探索者を殺さない限り、しばらく余裕は出来なさそうだな」
「はい。逆に探索者さんを倒せばDPは一気に稼げますが、その場合――」
「危険ダンジョン扱いされる」
「そうです。殺しすぎるとランク再評価、中級以上の探索者さんや、場合によっては勇者さんまで来ます」
「それは全力でお断りしたい」
探索者を殺さないと危険。殺せば格上が来て殺される。
「10回に1人くらいならいけるか?」
「統計上、探索者さんの年間死亡率が20%、ダンジョンに限ると30%、探索者さんの平均年間ダンジョンアタック数が100日なので、一回につき0.357%」
ぽんこのお団子がフル回転する。
チーン!とでもいいそうな光を発して、元気よく言った。
「つまり1回300人殺していい計算です!」
「絶対違うだろポンコツ。えーっと、1/300だとして、3人パーティで100回に1人か、予想以上に厳しいな」
「はい。現在の再生成使い捨て運用は、経営的によろしくないです」
「しかしこれ、普通どうやって稼ぐもんなんだ。無理ゲーじゃねぇか」
「普通は初期DP20万を運用資金として取り崩しながら黒字を目指すんですよ」
「
「はい!
ぽんこは屈託のない笑顔で続ける。
「マスター、ぽんこを選んでくれてありがとうございます」
選んでない、と言いたいところだが、不思議と後悔はないのでいいとしよう。
そうこうしている間に探索者三人は、慎重に引き返しながら通路構造を覚え、無事に穴から出ていった。
三人の後ろ姿が森の方へ離れていくのを確認してから、俺はゴブリンの現在数を確認する。
「さて。ゴブリンは八体になったわけだが」
「はい。ちょっと待ってください。数えます」
支配域マップの、ゴブリン表示を一つずつ数える。ぽんこが指で空中をなぞりながらカウントしていく。
「いち、に、さん……」
途中で、指の動きが止まった。
「……はち……きゅう」
「ぽんこ、さすがに数くらい数えられてくれ」
「はい。いえ、ですが……実際九体います」