ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜 作:土瓶サバ
「はい。いえ、ですが……実際九体います」
まさかと思いながら俺も数える。
「……増えてるな」
「増えてますね」
しばし沈黙。
もう一度、別角度から確認する。やっぱりどう見ても、九体いる。
「複製バグとかじゃないよな?」
「ぽんこはバグっていません。多分」
「多分をつけるな、いやちがうぽんこじゃない」
視点を、一群のゴブリンに切り替える。
ちょうど分岐が重なってできた、広めの通路にゴブリンたちが群れていた。
粗末な寝床に、石を積んだだけの腰掛け。
棍棒を振り回して遊んでいる個体もいれば、互いに肩を叩き合い、楽しそうに殴り合っている個体もいる。
その中で、二体が特に距離を詰めていた。
肩と肩を寄せ、殴り合うでもなく、じゃれ合うように転がり、体格差のある二体が岩陰に消えていく。
数分後、肩を寄せ合ったまま、少し疲れた様子で戻ってきた。
「……」
「……」
「ぽんこ」
「はい」
「あれは、俺の目がおかしいわけじゃないよな」
「ゴブリンさんの求愛行動ですね」
さらっと言った。
「つまり?」
「繁殖です」
はっきりと言った。
「ゴブリンさんは自然繁殖可能種族です。オスとメスの組み合わせによって、新しい個体が生まれます」
「なんで今まで黙ってた」
「光苔の時に説明しましたよ?自然に増える種類があるって」
ぐうの音も出ない。
「じゃあ、二体死んだのに九体いるのは」
「どこかのタイミングで、自然繁殖分が発生したと推定されます」
「……つまり、生成だけじゃなく、繁殖でも増える、と」
「その通りです」
ぽんこが新しいウィンドウを開く。
【モンスター増加の二系統】
1.DPを消費して、迷宮から生成
2.一部種族は、条件を満たすと自然繁殖
※自然繁殖個体は再生成不可
「条件ってなんだ?」
「詳しい条件は非公開ですが、ゴブリンの場合は個体数、性別比、環境ストレス、空間の広さ、食料、危険度などが絡みます」
「要するに、ちゃんと住める場所があれば勝手に増えると」
「はい。特に、ゴブリンさんは繁殖力が高い種族です」
俺は少し考え込む。
ゴブリン生成には一体100DP、しかし死んでも再生成される。
繁殖で増えた分には生成コストがかからない、しかし死んだら再生成されない。
「……生成ゴブリンを前線に出して、防衛用に繁殖で増やすか」
口に出してから、自分で納得する。
「前線で倒される分は、再生成で補充。万一足りなくなったら繁殖分を投入」
ぽんこがぱっと顔を明るくする。
「はい!ゴブリン繁殖部屋を作れば、防衛戦力の供給元になります!」
「名前はもう少しどうにかならないか」
「ゴブリン居住区・繁殖特化型」
「余計にひどくなった」
ただ、やることは決まった。
「ゴブリンが落ち着いて暮らせる広い部屋を作って、食料と寝床を用意する。あとは環境を整えて、あまり前線に出さないようにする」
「そうすれば、再生成と繁殖で増えた分で回せます」
「DPは、必要なモンスターにまわせばいい」
DPの使い道が、ようやく少し整理された気がした。
「よし。じゃあ、養殖場を作るか」
「はい。メニューを開きます」
一階層の最奥、現時点では到達させる気のないエリア。
そこに支配域を展開する。
「広さはどうする?」
「ゴブリンさんなら一体につき一平方メートルでも生存可能ですが、広い方が、社会行動が安定します、また湿度が高く土のある環境を好みます」
「じゃあ期待を込めて二百平方メートルほど用意するか」
DPの見積もりが出る。
・支配域化(15m×15m×4m):225DP
・地面を土に変更:+10DP
・湿度を少し上げる:+6DP
・岩陰と段差の追加:0DP
【合計:241DP】
「……まあ、今の残高から見れば痛いけど、致命傷ではないな」
一応今も時給6DPがちまちま発生している。貯金も含めれば、まだ余裕はある。
「やるか」
決定をイメージする。
【支配域化:確定】
【残DP:194】
岩壁が消え、内側から土と岩の広間が現れた。
床はやわらかい土、壁にはごつごつした岩。一部には自然な段差と、身を隠せる岩陰。
うっすらと湿り気を含んだ空気で満たされる。
「……ああ、たしかに巣っぽいな」
ぽんこが、ゴブリンたちに誘導命令を送る。
「居心地の良い部屋ができたので、自由行動でどうぞ、っと」
「ゆるい命令だな」
「社内の連絡なんてそんなものです」
数体のゴブリンが、興味津々といった様子で広間に入っていく。
土を踏みしめ、岩陰を覗き、段差を登り降りし、やがて、複数のグループが自然にできた。
棍棒を持ったまま軽く打ち合う組。地面に寝そべってぐったりしている組。
肩を並べて何か喋っている組。
先ほど見た求愛行動と同じ動きも、少しずつ目立ちはじめる。
「どうだ?」
「仲良し指数、上昇中です」
「何その指標」
「ぽんこ内部メモです」
「趣味の悪い解析してるな」
「ダンジョン運営のためです」
とはいえ、見ているだけで分かる。
この部屋は、さっきまでの通路よりもゴブリンたちが落ち着いている。
「前線に出すのは、一部だけにする。基本は、この部屋で生活させる」
「はい。探索者さんに見つかる範囲には、持ち出し用のゴブリンさんだけを配置する運用ですね」
「言い方がひどいが、だいたいそうだ」
探索者が倒すゴブリンは、再生成可能な分。
あとは時間とゴブリン自身が、勝手に戦力を増やしてくれる。
「……ようやく、ダンジョン運営っぽいことになってきたな」
「はい。日中は探索者さんが入ってきて、スライムさんとゴブリンさんを倒し、夜はゴブリンさんが増えます」
「昼に減って夜に増える、か。回転率のいい養殖場だな」
「サステナブル経営です」
「ダンジョンで掲げていいのかそれ」
しかし、悪くない。
一階層は、初心者向けEランクとして稼働する。
その裏で、繁殖したゴブリンを溜め込み、いずれ作る第二階層以降の戦力の核にする。
視界の片隅で、ゴブリンたちが土の上に寝転がり、肩を寄せ合い、時々こそこそと岩陰に消えていく。
「……増えすぎたら、それはそれで頭が痛くなりそうだな」
「そのときは、そのときでまた考えましょう」
ぽんこが言う。
「まずは、自然に成長する形が一つできました。それだけでも、大きな一歩です」
「たしかに」
Eランクの顔は、そのまま。中身は、少しずつEランクらしからぬ方向に育てていく。
「次は、コアの位置をどうにかしないとな」
今もまだ、コア部屋は一階層からすぐだ。誰かがその気になれば、すぐにここまで来られてしまう。
養殖部屋はできた。
次は、第二階層と、コア部屋の移転。
支配域マップを閉じながら、俺は胸の内でひとつ、区切りをつけた。