ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜 作:土瓶サバ
それから、十日が過ぎた。
「マスター。定時レポートの時間です!この数日で、探索者三パーティが来訪。いずれも一階層の半ばで撤退しています」
「誰も奥までは来ていない、と」
「はい。トップ記録が入口から300m地点、最初に来た探索者さんたちです!」
支配域マップが展開される。
入口から伸びる通路、緩いカーブ、迷路のような分岐、落とし穴がいくつかに、最奥にゴブリン部屋と階段がある。
その中程に印がつけられている、ここがトップ記録だろう。
「やっぱりこの街の探索者さん、迷宮慣れしてません。進みが遅いです!」
「他の街は、もっと奥まで行くのか?」
「はい!統計上、普通のEランク迷宮は十階層くらいあって、三〜四階層あたりがメインの狩り場になります」
ぽんこが、別ウィンドウに十階層のイメージ図を出す。
三~四階層がピカピカ光っている。
「この街は周りにダンジョンがない、と探索者さんが話していました」
「慣れてないから、攻略が進まない、と」
「はい。今のペースなら、一階層全てを把握するのに一ヶ月はかかりそうです。それ以上は他の街の探索者が来ますので、それ次第ですね」
この十日で一階は全長1km、二階が200mまで伸びた。
探索者は死んでないが、時間経過でDPは稼げている。
このペースなら、こっちが本気出して広げていけば、追いつかれる前に迷宮のほうが広くなる。
ちょうどその時だった。
「マスター。外部生命反応、三つ。接近中です」
「また来たか」
支配域マップに、光点が三つ、入口へ入ってくるのが見えた。
「装備重量、動きのリズムから初級〜中級下位探索者パーティと推定」
「昨日までとは別の連中か?」
「あ、いつもの三人組ですね!どうやらちょっとした小遣い稼ぎスポットとして定着しつつあります」
「いつもの三人。リオン、エルノ、カークか」
UIを切り替えると入口の光苔が、三人の影を浮かび上がらせていた。
「今日もスライムとゴブリン何匹か、軽く狩って終わりかな?そろそろ奥まで行ってみようよ」
「油断するな。Eで死ぬやつは、Eを舐めたやつだ」
相変わらず慎重な奴だ。
攻略速度が遅いのって、ダンジョン慣れしてないからじゃなくてこいつが慎重だからなんじゃないか?
「ぽんこ。いつもと同じパターンで行くぞ」
「了解です。スライム4、ゴブリン4!テンプレートですね!」
「テンプレって言うと急に安っぽく聞こえるな」
スライムには、それぞれ角でぷるぷるして倒される役を割り振る。
ゴブリンは前線担当の個体を四体、順番に出す。
繁殖部屋でぬくぬくしているゴブリンには、今日もお休み命令だ。
通路の角で、スライムが一体、きれいに両断される。
「うーん、カークさん。これ油断するなって言う方が難しいですよ」
三人組の一人、エルノが軽口を叩き、リオンが返す。
「エルノ、お前は後ろで見てるだけだろ」
「しょうがないじゃん、魔法使いなんだから。ゴブリンには魔法使ってるでしょ」
そんなやりとりを見ていたカークが口を挟む。
「エルノ、お前MPが切れたらゴブリンにも殺されるんだぞ」
「はーい。すみません、気をつけます」
そんな軽口を叩きながら、彼らはスライム四匹と、ゴブリン三体だけを狩って引き返していった。
まだまだ余裕はありそうだ、本気になったらゴブリン部屋くらいまでは来れるだろう。
まあ、奥まで来たら増えてきたゴブリンをまとめてけしかけるだけだが。
いずれにせよ、まだ奥まで来る気配がないことには変わりはない。
穴の外へ三つの光点が出ていくのを見届けてから、俺は改めて支配域マップを眺めた。
「悪くない」
「はい。探索者さんの行動範囲は、ここ数日ほとんど変わっていません!数百メートルだけ見て帰る日々です」
「その間に、こっちは奥を伸ばす。ゴブリンは増える」
「じわじわ差が開いていきますね」
ぽんこが、マップの上に薄いグラフを重ねる。
「このペースを続けていけば、見えているダンジョンと本当のダンジョンが、まったく別物になる」
「はい。マスターの理想である、Eランクの皮を被った何かです!」
「何かって」
苦笑しながらも、否定はしない。
俺の迷宮は、まだEランクだ。
浅い、狭い、弱い。
でも、その看板の裏で、少しずつ土台を広げていく。
「さあ、今のところはこんなもんだな。一階はテンプレで回して、二階を広げる。あとはゴブリンたちに働いてもらって、DPを貯めるだけだ」
「はい、マスター。初心者用Eランクダンジョン、順調に運営中です!」
「初心者用って言われると、なんかムズムズするんだよな……」
コア部屋の天井を見上げる。
そのさらに上には、一階の通路があり、光苔の灯りがあり、スライムがぷるぷるしている。
村人たちにとっては、近くにできたやっかいな穴。
ギルドにとっては、待望のダンジョン。
そして俺にとっては――
「長期戦だな」
「はい。追いつかれる前に、追い越しましょう!」
ぽんこの声を聞きながら、俺は再び支配域マップを開いた。