ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜 作:土瓶サバ
「考える前に動くことが重要です!」
ぽんこが壁の方を向いて、すぐに向き直る。
「おっと、その前に……マスターのこと、教えてください!」
俺か。
俺は……
「俺は……山田悠斗」
「マスターの名前はヤマダユート。はい!続けて年齢とお仕事をどうぞ!」
ぽんこがウィンドウを出してメモをとる。
「27歳。システム管理」
「お、ダンジョンマスター適性高いですね。花丸です。どんなシステムです?」
「小さな会社の社内システムだ。実際は社長の愚痴を聞いたり、お局様の機嫌をとったり、雑用みたいなもんだったけどな」
「なるほどなるほど、苦労されたみたいですね」
なんだこれは、面接か?
「それより、この世界はなんなんだ?」
「はい!マスターの世界とは違うようですね!」
やっぱりか、まあそれはそうだろう。
「どういう世界なんだ?」
「マスターの世界の語彙で言うと『剣と魔法の世界』でしょうか」
剣と魔法、ファンタジーか。
「俺はどうなったんだ?」
「……一般的にダンジョンマスターは、死亡した知性体が再構築されて、任命されます」
うん。
再構築だ、そうじゃないかとは思っていた。
「つまり、俺は死んだってことか」
「マスターの記憶には死亡時の様子はありません。もしかしたら死んでないかもしれません」
「まあいい。家族はいなかった。それなりに未練はあるが、遺した人がいるわけじゃない」
そう言って、話を打ち切る。
ショックじゃないと言ったら嘘になる。
しかし考えたら、きっと動けなくなる。
自己紹介はこれくらいで十分だろう。
それが伝わったのか、ぽんこも次へ進むことにしたようだ。
「はい、それではとりあえず支配域化をやってみましょう」
その言葉と共に、先ほどと同じウィンドウが表示される。
【支配域化】
・選択領域:2m×2m×4m
・状態:未分化(岩盤)
・必要DP:4
「まぁ、やってみなきゃわからないよな」
決定をイメージすると、ウィンドウが確定表示に変わる。
【支配域化:確定】
【残DP:6】
見た目は特に変わらない。
「はい、これで構造をいじれるようになりました。次は空洞にしてみましょう」
【地形変化:基礎整形】
・空洞化:0DP
「空洞化は無料か。試し掘りにはありがたいな」
ここで金を取られたら、本気で泣くところだった。
壁に向けて、通路を作るイメージを押しつける。
壁が消え、荒れた岩肌の通路が現れた。
足を一歩踏み入れる。
「おお、ちゃんと洞窟になってる。石っぽいし、湿り気もあるし」
見た目も感触も、ゲームの安い洞窟テクスチャよりずっとリアルだ。
「よくできました!さて次は光源です!」
「必要か?部屋の明かりで十分じゃないか」
「チュートリアルです!文句言わずにやってください」
意識を向けると、期待通りウィンドウが出た。
【地形変化:補助】
・光苔:1DP
・天然発光鉱石:4DP
・人工照明パネル:10DP(コア部屋限定)
「初心者は
光苔を選ぶ。
「これでどうだ」
決済を意識すると、通路の岩肌に小さな光がじわりと灯った。
緑がかった淡い光が、広がっていく。
「おお。安いのに仕事はちゃんとしてる」
光苔が広がると思った以上に明るくなった。
残DPは5。
ぽんこは視線を通路に向ける。
「支配域No.1、通路生成と光苔設置を確認しました。さっきまで暗すぎ問題でしたが、現在はぎりぎり合格レベルです」
「暗すぎ問題って名前がついていたのか」
「はい。内部メモでそう呼んでいました。既に改善済みです」
「改善後の評価がぎりぎりなのは黙っておけよ」
「正直さは長所だと認識しています」
「そういうところだぞ」
ぽんこは気にせず、別のウィンドウを出した。
【チュートリアル:進行度30%】
推奨:支援ユニットと協力し、ダンジョン運営の基礎を開始してください
「さて、操作体験が終わったところで、これからの流れを説明します」
ぽんこの瞳のリングが、少しだけ明るくなる。
「これから行うべき主な作業は、支配域の拡張、地形の整形、環境生成、モンスターの配置、罠の設置などです」
「多いな」
「多いです。マスター一人だと、かなり大変だと思います」
「素直な評価ありがとう。知ってた」
「そこでぽんこの出番です。情報整理と進行管理と、マスターの精神衛生の補助を担当します」
「最後の項目が一番重要そうだな」
「とても重要です。さっきまでの暗すぎ問題のログを参照すると、マスターの心への負荷は高めでした」
「ログに残ってるのか、それ」
「残っています。個人的には、暗さよりマスターの独り言の量の方が心配でした」
「余計な分析するな」
「了解しました。分析はほどほどにします。ただし心配は続行します」
虹彩のリングが、少しだけ柔らかく光る。
「それではマスター。残DPは5です。非常に厳しいスタート条件ですが、一緒にがんばってダンジョン運営を始めましょう」
「いきなり詰みよりの状態から始まるダンジョン運営ね。はいはい」
自分で選んだ結果だ。
後悔してもDPは戻らない。
「まずは赤字経営からスタートか」
「ぽんこも全力でお手伝いします。倒産しないようにがんばりましょう」
「ダンジョンに倒産って概念があるのかは知らないけどな」
そんなやりとりをしながら、俺は最初の通路の前に立った。
コア部屋の無機質な壁と、光苔に照らされた岩の通路。
「よし。では、新人現場責任者と旧式支援ユニットの二人体制で」
深く息を吸い込む。
「試し運転から始めようか」
「はい、マスター」
ぽんこの返事とともに、俺は一歩、ダンジョンの中へ踏み出した。