ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜   作:土瓶サバ

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第23話 三兄妹

ダンジョンの外に、小さな目ができた。ネズミ一匹で世界の見え方が変わる、というのはなかなか面白い話だ。

 

「……チュウタがああなるなら」

 

ふと、別の光景が頭をよぎる。

盗賊を袋叩きにした、あのゴブリンたち。

 

「あの時のゴブリンって今どうしてる?」

 

俺がつぶやくと、ぽんこが瞬きをした。

 

「あの時とは、盗賊さん三名を撃退したゴブリンさんたちのことですね?」

「そう。それ」

「個体IDは残ってますけど、今どこにいるかまでは……ちょっと追ってみます」

 

ぽんこの瞳のリングがくるくる回る。

 

「……あれ?」

 

数秒後、ぽんこが首をかしげた。

 

「マスター、ゴブリン部屋、ちょっと不思議な状態になってます」

「不思議?」

「はい。ゴブリンさんらしからぬ動きです。詳しくは、実際に見たほうが早いかと」

「じゃあ、行ってみるか」

 

俺は立ち上がり、二階層へと降りていった。

 

 

 

二階層のゴブリン部屋前に立った瞬間、違和感がはっきりした。

 

いつもの、あの騒がしさがない。

ケンカの音も、はやし立てる声も、ほとんど聞こえない。

代わりに、土を踏むざくざくという音と、低いざわめきだけ。

 

「……静かだな」

「はい。ストレス値も全体的に低いです。でも、それだけじゃなくて動きのパターンが変なんですよね」

「開けるぞ」

 

扉に手をかけ、ゆっくり押し開ける。

中を見た瞬間、思わず息を止めた。

 

ゴブリンたちが、列になっていた。

前、中、後ろ。ざっくりした三列だが、自然にここまで規則的な動きをしたことはない。

明らかに意図して並んでいる。

そして、その一番前。中央に、三体のゴブリンが立っていた。

 

「……」

 

視界の中で、ぽんこが小さく息を呑む。

 

「マスター。たぶん、あそこです」

 

前列中央の三体だけ、他よりわずかに雰囲気が違った。

 

一体は、肩幅が広く、腕も太い。立っているだけで周りが下がるような、他の者を従える威圧感。

 

もう一体は、対照的に小さく、細い。気配が薄く、視界に入っているのに気付くと別の場所に移動している。

 

三体目は小柄で、手元の根をじっと観察している。土をつまみ、匂いを嗅ぎ、別の場所の根と見比べていた。

 

「……なんか、見覚えがあるな」

「ログ照合します」

 

ぽんこがすばやく支配域ログを引っ張ってくる。

 

「はい、該当しました。盗賊さんを倒した時、一緒に戦った三体です」

「やっぱりか」

 

太い腕のゴブリンが、一歩前に出た。

 

「ゴブ」

 

腹から響く短い声。

その一声だけで、後ろのゴブリンたちが一斉に姿勢を正す。ざわつきは消え、全員の視線が前を向いた。

 

「……すげえな、おい」

「完全に前衛リーダーですね、この子」

 

柱の陰にいた細身のゴブリンが、いつの間にか俺の横の影に移動していた。視線を向けた瞬間、さっと一歩下がる。

足音は、ほとんどない。

 

「こっちは周囲警戒担当っぽいですね。壁際、影、死角ばかりを選んで移動してます」

 

三体目の小柄なゴブリンは、根っこの束を手にしていた。太さ、硬さ、色を一つ一つ確かめるみたいに、真剣に触っている。

 

「この子は……メスですね。観察と道具好き。行動ログを見ても、拾う、比べる、試すが多いです」

「盗賊戦の時も、石置いて邪魔したりしてたよな」

 

役割分担が、完全に機能している。

腕の太い一体が前。

気配の薄い一体が周囲。

観察好きの一体が後ろ。

 

そして、周りのゴブリンたちは当然のようにそれに従っていた。

 

「よし。お前ら」

 

俺が声をかけると、三体が同時にこちらを見る。

 

「盗賊を倒した三人組だよな」

「ゴブッ」

 

三体の返事が重なる。

意味は分からないが、そうだと言っているようにしか聞こえない。

ぽんこが嬉しそうに言う。

 

「マスター、この三体、他個体よりマスター認識が強いです。あの時褒められたって記憶が残ってるみたいですね」

「褒めた記憶はないが……まあ、働きは認める」

 

ゴブリンたちは、人語をしゃべれない。「ゴブ」「ゴブッ」しか言わない。

それでも、表情と動きだけでだいたいの感情は伝わってくる。

 

太腕ゴブリンが胸を叩いた。誇らしげな顔だ。

 

細いゴブリンは、片目だけ細めて周囲を一瞥する。

警戒心が強いタイプらしい。

 

小柄なゴブリンは、根を抱えたまま一歩前に出てきた。

何かを報告したい感じ。

 

「一緒に生成したし、上と真ん中と下って感じもあるし。まとめて三兄妹ってことでいいか」

「いいと思います!ラベル付け、大事です!」

 

「じゃあ、名前をやる」

 

三体が、わずかに身を乗り出した。

 

「一番前のお前は――長男。アニだ」

「ゴブッ!」

 

大きな声が響いた。

 

「影をウロウロしてるお前は次男。オト」

「ゴブ」

 

オトはすっと膝を折り、柱の陰へ戻った。

 

「最後の小さいのは三女だな。イモ」

「ゴブブー!!」

 

腕をばたばた振っている。末っ子感が強い。

 

「役割、決めるぞ」

 

アニが一歩前に出る。

 

「アニ。お前はこのゴブリン部屋のまとめ役だ。列を作る、規律を守らせる、突撃命令を出す。全体を見て動け」

「ゴブッ!」

 

「オト」

 

呼ぶと、物陰からひょいと出てくる。

 

「お前は通路の巡回と警戒だ。怪しい気配を見つけたらすぐ戻れ。まず気付くのが仕事だ」

「ゴブ」

 

「イモ」

 

根を抱えてとことこ歩く。

 

「お前は知恵係。変な石、芽、食べ物になりそうなもの、全部拾ってこい。シルヴァさんが何をしてるかも見ておけ」

「ゴブゴブ!」

 

ここで、俺は三体の前に立ち直した。

 

「それと――」

 

三体が同時に顔を上げる。

 

「お前らの上司はシルヴァさんだ。シルヴァさんの言うことはきちんと聞けよ。

アニ、シルヴァさんは絶対守れ。

オト、シルヴァさんに敵を近づかせるな。

イモ、シルヴァさんの手伝いはお前だ」

 

「ゴブッ!!」

 

三人同時に返事をする。

明らかに理解している反応だった。

 

「あらあら、元気ねぇ」

 

柔らかい声が背後からした。

振り向くと、シルヴァさんが扉のところに立っている。

 

「マスターの気配がしていたので、つい覗いてしまいましたわ」

「ちょうど、現場の班長を決めたところだ」

「まあ、立派。こうして引っ張る子がいると、他のゴブリンさんたちも落ち着きますのよ」

 

シルヴァさんが、アニへ視線を送る。

 

アニが「ゴブッ」と一声あげると、整列していたゴブリンたちが素振りをはじめる。

 

オトはすでに部屋の出口近く、通路との境目にいた。

 

イモは端の方で、小さな芽を三つ並べて見比べ始めている。

 

「……本当に、班長だな。三人とも」

「はい!これで、ゴブリンさんたちを個体じゃなくて部隊として扱えます!」

 

戦闘と、巡回と、訓練と、少なくとも分けて考えられるだけの構造ができた。

 

「進化したスライムと、まとまるゴブリン。だいぶ戦力っぽくなってきたな」

「はい、マスター。そろそろ、Eランクらしからぬ中身に片足突っ込んでますよ」

 

「表の看板はEランクのままだ」

「もちろんです。初心者向けを維持しつつ、裏でどんどん育てましょう」

 

ゴブリン部屋の奥で、ゴブリンたちのかけ声が聞こえる。

その中心には、三つの小さな背中があった。

アニ、オト、イモ。

 

三人がばらばらに動きながら、それぞれのやり方で群れをまとめている。

 

「……いいな。三兄妹」

 

ぽんこがひらめいたという顔をする。

 

「正式名称、ゴブリン三兄隊(さんきょうたい)はどうでしょう!」

「長いからやめろ」

 

ダンジョンの中に、小さな家族みたいな関係が生まれつつある。

それが少しだけ、面白かった。

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