ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜   作:土瓶サバ

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第25話 見慣れた三人組

入口に、見覚えのある三人組が立っていた。

リオン、エルノ、カークだ。

 

もう初見ではない。

最近は毎日のように潜っているから、入口から一階層の様子は大体つかんでいるはずだ。

 

「今日は空いてるな」

 

リオンが洞窟の中を覗き込みながら言う。

 

「このダンジョンのおかげで探索者になる奴が増えたって話だよ」

 

エルノが気楽に言う。

 

「ゴブリンは単独で湧くことが多いから、初心者の練習にちょうどいいものな」

 

こいつらの会話の通り、うちのダンジョンは、危険すぎず、かといって完全に退屈でもない、初心者向けの稼ぎ場として定着しつつあった。

 

「おい。ゴブリンは元々群れるもんだ。このダンジョンが特殊なんだ。単独でくるもんだと思ってると痛い目見るぞ」

「まぁそうなんだろうけどさ。でもこのダンジョンでは群れは見たことないじゃない」

 

カークがとがめ、エルノが軽く返す。

 

「……この前死んだ奴も、そういう感じだったんだろうな」

 

リオンの一言に、空気が少しだけ静かになる。

 

「運が悪かった、で片づいてる」

「ギルドでもそういう扱い?」

「ああ。ゴブリン狩りで入って、奥で数が重なった。無茶した本人が悪い、ってな」

「Eランクで死ぬ奴は、Eランクをなめた奴だ、だっけ」

 

エルノが肩をすくめる。

 

三人の声は明るい。

だが前みたいな軽さだけではない。

死んだ探索者の話を知っていて、それでも通ってくる。

危険を理解した上で、ここを稼ぎ場だと判断している。

 

「一人死んだ件、問題になってないみたいだな」

「はい。カーク達も言ってましたが、単独ゴブリンが運悪くかち合った事故扱いですね」

「まあ、実際事故だからな。繁殖しすぎて群れになっちまっただけなんだが」

 

そう言ってDPログを開く。

 

「それにしても、探索者一人で1,000DPか……」

「人間さんのDP効率は非常に高いですからね。しかもコストゼロです。ゴブリンさん、今や毎日10匹以上増えますし」

 

「……良いような、悪いような数字だな、時給DPの方がおいしい気もする」

「とはいえ時給DPに頼れるのは初心者のうちだけです!」

「どういうことだ?」

「そのうちわかりますよ、とにかく戦力増強は必須です!そう思っておいてください」

 

一瞬顔がこわばり、すぐにわからない子に諭すような小憎らしい顔に戻る。

 

こうなるとぽんこは何も教えてくれない。

本人の意志なのか、何か制限があるのか、しかしニヤニヤと嬉しそうにこちらを見てくるぽんこからは悪意は感じられない。

 

リオン達は、ダンジョンを順調に、しかし慎重に進む。

いつもの流れのはずだった。

 

 

 

「マスター。リオンさんたち、最深到達記録を更新しています」

 

ぽんこの声に支配域マップを確認すると、三つの光点がいつものあたりを超えて、さらに奥へ進んでいた。

 

「今日はやけに奥まで来てるな」

「リオンさんが鎖帷子を着ています。装備を新調したようですね」

 

なるほど、あの三人の中でもう少し奥に行くという判断が出たということだ。

 

「このペースだと、あと三十分程度で一階層の最奥に到達します」

 

まずい。

 

一階層の最奥には、二階層への階段がある。

そして二階層は森だ。

Eランクダンジョンにはそぐわない森林階層。

 

木が茂り、草が生え、最近じゃ、うさぎまでいる。

あれを見られたら、Eランクの看板は吹っ飛ぶ。

 

「ぽんこ。階段の手前にゴブリンを出す。五体」

「五体……殺しますか?」

 

殺したい訳じゃない。

だが二階層を見せるわけにもいかない。

殺せばランク再評価の材料になるし、カークがギルドに報告すれば中級以上の探索者が来る可能性もある。

 

かといって、このまま階段まで辿り着かれて森を見られたら、もっとまずい。

 

「目的は追い返すことだ。五体で壁を作って、これ以上は危険だと思わせる」

「わかりました。ゴブリンさん五体、配置します」

 

ちょうどいい曲がり角で、五体を三人の前に進ませる。

 

「五体!?」

 

エルノが声を上げる。

ゴブリンが五体、通路を塞ぐように並んでいる。

 

「群れだ。構えろ」

 

カークが即座に剣を抜いた。

リオンも前に出て剣を構える。

 

狭い通路で五体が一斉に押し寄せた。

 

リオンが押し返しながら一体の腕を斬り、エルノの魔法が横から来た二体目を吹き飛ばす。

壁に叩きつけられたゴブリンがすぐに起き上がり、カークが首元に剣を叩き込む。

他の一体が飛び退いて距離を取り、また突っ込んでくる。

 

UIで見ていると、三人は強かった。

五体を相手にしても隊形が崩れない。

リオンが前を抑え、エルノが魔法で削り、カークが隙を突いて仕留める。

 

一体、また一体と倒れていく。

最後の一体がリオンの剣で斬り伏せられた時、三人とも肩で息をしていたが、誰も怪我はしていなかった。

 

「……五体か。群れで来やがった」

 

リオンが汗を拭う。

その視線が、通路の奥に向いた。

薄暗い先に、曲がり角がある。

 

「この先に何かあるってことか」

「行ってみようよ。宝箱かも」

 

エルノが身を乗り出す。

リオンも明らかに興味がある顔をしていた。

 

カークは、しばらく黙って曲がり角の方を見ていた。

 

「……帰るぞ」

「え?」

 

リオンとエルノが同時に振り返る。

 

「今まで単独でしか出てこなかったゴブリンが、急に五体で来た」

 

カークは曲がり角から目を離さずに続けた。

 

「こういう変化の先のダンジョンはやっかいだ。変わるのはゴブリンだけか、他のモンスターは出ないか、罠は増えてないか。ゴブリン相手ならそうそう負けないだろうが、他の危険が出てきたらお前たちでは対応できない」

 

リオンが口を開きかけて、閉じた。

 

「今日は十分稼いだ。ここのことはギルドに報告して、次は準備して来ればいい。今日のところは、これでいい」

 

カークが踵を返す。

リオンはもう一度だけ奥の方を見て、それから黙ってついていった。

エルノも何も言わなかった。

 

三つの光点が来た道を引き返し、入口から外へ出ていくのを見届けてから、俺は息を吐いた。

 

「……追い返せたな」

「はい。ここで帰ってくれて助かりましたね!」

 

助かったのは、カークが慎重だったからだ。

あの場でリオンが行こうと言っていたら、カークが折れていたら、そうなれば殺すしかなかった。

殺せば、もっと面倒なことになっていた。

 

「油断してた」

「……はい」

 

ぽんこも否定しなかった。

 

「奴らは日銭を稼いで、満足したら引き返す。それが当たり前だと思っていた」

「はい」

「でもあいつらだって毎日成長してる。成長すれば判断も変わる。その気になったら一階層は簡単に抜けてくる」

 

「群れが出たとギルドに報告が上がれば、探索者たちは警戒します」

「ああ、今となっては好都合だ」

 

俺はUIを開いて、二階層の様子を見た。

シルヴァさんの森が広がっている。

大勢のゴブリンが木々の間を歩き回り、イモが根っこを並べて何かを比較している。

Eランクダンジョンの二階層にあっていい光景じゃない。

 

「Eランクの皮を被り続けるなら、見える場所にEランクじゃないものを置いちゃいけない。今日でそれがよくわかった」

 

今日はカークの慎重さに救われた、だが次もそうとは限らない。

探索者たちが引き返す理由を作る必要がある。

自然に難易度を上げていく構造、それが必要だ。

 

「ぽんこ」

「はい、マスター」

「ダンジョンの再設計、進めるぞ」

「はい!」

 

そう決意したところに、トトトトと走り込んでくる影があった。

チュウタだ。

 

外の偵察をお願いしていた、何か報告があるのだろう。

 

「おお、チュウタ。いいタイミングだ、何かわかったか?教えてくれ」

 

チュウタは誇らしそうに報告をはじめる。

 

「ちゅう!」

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