ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜   作:土瓶サバ

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第26話 三ヶ月後

それから三ヶ月が経った。

 

あの日の反省から、ダンジョンの構造は大きく変えた。

 

まず二階層を新設した。

一階層と同じ洞窟型で、ゴブリンが二体ずつ出る配置にした。

一階層は単独、二階層は二体。

探索者にとっては順当に危険度が上がったように見える。

 

階段を見つけたリオン達がギルドに報告した結果、二階層の存在は公式に認識されたが、二階層まで来る連中は多くはない。

 

森は三階層に移した。

『階層を挿入』機能で二階層は三階層へスライド、二階層を追加できた。

エクセルみたいなダンジョンだ。

 

森は、もう最初の頃の植物混じりの通路ではない。

 

歩いてみると東京ドーム一個分くらいの感覚がある。

それ以上に、密度がすさまじい。

木々の影が薄暗く重なり、根は地面の上で複雑に絡み合い、足を踏み出すたびに湿った土が柔らかく沈む。

 

「……もう完全に森だな。今さらだが」

「すごいですねぇ、シルヴァさん」

 

「これ、普通のモンスターだったら何DPくらいの種族の能力だと思う?」

「んー……五十万くらいですかね?まぁ初期DPでは買えないと思いますよ」

 

「はー、五十万。五十万あったらどんなモンスターが生成できるんだ」

「上位幹部の最下位種か、下位幹部の上位種あたりですね!」

「上なのか下なのかよくわからんな」

「上位幹部の最下位種はレッサーデーモン(虚弱)。下位幹部の上位種はストロングベビースライムとかですかね」

「強いのか弱いのかもわからなくなったぞ」

 

シルヴァさんは、俺たちのそんな会話をクスクス笑いながら聞いていた。

 

「でも、ここからは育つ速度が少しずつ落ちていきますわ。植物たちが無理をしなくて済むようになる頃です」

 

シルヴァさんは、細い枝にそっと触れながら言った。

湿った風が通り抜け、葉がかすかに揺れる。

 

「ちゅう!」

「おお、チュウタ」

 

そこへチュウタがやってきた。

 

「……しかし、盲点だったな」

「そうですね……まさか、チュウタが喋れないことをマスターが失念しているとは」

 

そう、チュウタに諜報させることにしたのはいいが、諜報結果を伝える方法がないことに後から気付いたのだ。

 

「まぁいい、念話スキルを取るまでの辛抱だ」

 

一時はチュウタ諜報網の破綻かと思われた欠点だったが、解決策を見いだした。

それが念話スキル。

 

「『念話』があれば、知能のあるモンスターとは会話ができます!世界をつなげるスキルです!」

「DP40,000、今や現実的な数値だな」

 

あれから三カ月、未だ届かないがそれでも貯められる未来は見えてきた。

 

「ちゅう!」

「そうだな、チュウタはそれまで分裂個体の数を増やすのと、諜報網の整備を続けてくれ」

 

森の通路には、ゴブリンが絶え間なく行き交っている。

 

「現在、ゴブリンはおよそ三千体です。毎日十組ほどの探索者さんが来て、百体以上を狩っていきます」

 

「毎日百体以上……そりゃ増えてもすぐ減るわけだ」

 

生成ゴブリンは二十体以降は増やしていない。

ほとんど繁殖ゴブリンで回している形だ、それでも倒された分は翌日には補充される。

 

「ちなみに探索者側の死亡者は月1.5名程度、平均の半分、1/600のペースをキープしています」

「ゴブリン三千体殺されて、探索者は一人か二人死亡。探索者ってのはいい商売だな」

 

言いながらゴブリンを眺める。

三千体規模ともなると、完全に社会だ。

材料を運ぶ者、土を掘る者、植物を採る者、食事の準備をする者までいる。

 

「しかし……なんというか」

 

通路を歩いていた数十体のゴブリンを見つめながら呟く。

 

「やられるのがわかってて増やして、探索者に突っ込ませるのは、ちょっとやるせないな。よくみんな従ってくれるよ」

 

ぽんこが一瞬だけ瞬きをし、不思議そうな顔で言った。

 

「マスター。名付けていないモンスターに、自我はありませんよ」

「……え?」

「知りませんでしたか?名前を持たないモンスターは、個体としての意識を持ちません。行動はすべて種族単位の共有本能です。生成モンスターも、繁殖モンスターも変わりません」

「ちょっと待て。それって……」

 

「倒されても、ダンジョンに還るだけです。また別の個体として生まれます」

 

言葉を失っていると、隣でシルヴァさんが微笑んだ。

 

「そういう仕組みなのですわ。森の子たちは、森に還り、また生まれる。それが自然の巡りというものです」

 

「じゃあ……名前をつけた奴らは?」

「名を持った瞬間、その子はもうただの個体ではなくなりますの。ダンジョンへ還る道は閉じてしまいます」

 

ぽんこが補足する。

 

「命名モンスターは存在が固定されます。自我が生まれ、種族としてのリスポーンもしなくなりますので、再生成枠からも外れます」

「つまりシルヴァさんが死んでも、ドライアドはリスポーンしない」

「はい。ですから名付けはモンスターにとって、特別な儀式なのです!扱いには注意してくださいね。使い捨てるのは絶対にだめです」

「いや、捨てねえよ」

「当然です!」

 

自分たちの話題が出たせいか、ちょうどアニが胸を張って通路を歩いてきた。

オトは影から音もなく出てきて、イモは葉っぱを両手に抱えて追いかけてくる。

 

三ヶ月でこいつらも大きく育った。

アニは前衛部隊の中心らしく背も胸板も厚くなり、声を一つ上げれば周囲のゴブリンが姿勢を正す。

オトはほとんど見失いそうなほど気配を消すようになり、いつの間にか隣にいて、いつの間にか消えている。

イモは植物の成分を嗅ぎ分けるような仕草をするようになり、シルヴァさんの横で根っこを並べている姿をよく見かけた。

 

三人とも、もう立派な班長だ。

 

ダンジョンは軌道に乗ってきた。

一階は初心者向けの洞窟、二階はゴブリンが二体ずつ出る稼ぎやすい洞窟、三階は森。

このままいけば、そこらの探索者には負けないようになるだろう。

 

あとは勇者に目をつけられないこと。

それだけは死守しなきゃならない。

 

などと考えていたのが悪かった。

 

まるでそれがフラグだったかのように、それは突然やってきた。

 

「マスター!ダンジョン入口に生体反応!異常な速度で進行しています!」

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