ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜 作:土瓶サバ
光苔の淡い光が、試し掘りの通路を照らしていた。
さっきまでのコア部屋よりも暗いが、岩肌の質感が逆に落ち着く。
「ではマスター。基礎の説明を始めてもよろしいでしょうか」
ぽんこが前に立ち、ぱたぱたとスカートの裾を押さえた。
人工物にしては、やけに生活感のある仕草だ。
家電が急に人間くさく動き始めたみたいで、ちょっとだけ怖い。
「基礎って言われても全体像が見えてないんだが」
「大丈夫です、そのうちわかります。ぽんこ保証です」
「その保証、信用していいのか?」
「してほしいです」
微妙に弱気な言い方で返してくる。
不安は増えたが、とりあえず聞くしかない。
説明スキップは見えている地雷だ、わざわざ踏みにいく趣味はない。
視界にウィンドウが開いた。
【チュートリアル:ダンジョンマスターとは】
・ダンジョンコアと連携して、ダンジョンを構築、維持する存在
・支配域の管理権限を持つ
「出た、肩書き説明」
「マスターはダンジョンコアの『管理者』であり、この場所をダンジョンとして育てていく役割があります」
「誰に与えられた役割なんだ、それは」
「非公開です」
「なるほど。裏に誰かがいるのはわかった」
「ひ、ひこうかいです!」
ぽんこがぷるぷる震えている。
このAI、情報漏洩に弱すぎないか?
ごまかすように、ウィンドウが切り替わる。
【重要:コアと
・コアが破壊されると、
・
「さらっと物騒なこと言ったな」
「避けて説明すると余計に危険なので……」
「コアってのはあの部屋の黒い球か?」
「はい!」
部屋の奥にある、黒い球体、なにか重要なものだろうとは思っていたが。
「あれが死守対象ってことか」
「はい。本当に『死』守したらマスターは死にますけどね」
守る対象が増えただけというか、単に逃げ道がないというか。
もうちょっと優しい仕様にしてほしかった。
「で。ダンジョンを作るって話は分かったが、どうやって広げるんだ?」
「そこでDPの出番です」
【
ダンジョンの運営資源。支配域化、環境生成、モンスター関連、マスター強化などに使用する。
「DPがないと、何もできません」
「はい出た、運営コスト。残高5なんだが」
「今は極貧ですが、後で増えます!」
ぽんこが胸を張る。
根拠はないが、勢いだけはある。
バイトリーダーみたいな奴だな。
「早速だが、そのDPってどうやって増えるんだ?財布の中身が一桁の管理職は嫌なんだが」
「はい。そこは安心してください。DPは自動的に増えます」
「自動?」
「はい」
ウィンドウが切り替わる。
【DPの増加条件】
1.時間経過
2.ダンジョン内での死亡
「二番目がいきなり穏やかじゃないんだが」
「時間経過は1時間に1DP。生き物がダンジョン内で死ぬと、強さに応じてDPが入ります。仕組みはシステムの深層なので、詳細非公開です」
「また非公開か」
「はい。ぽんこ仕様です」
そのタイミングで、ウィンドウの端の数字が動いた。
【現在DP:6】
「お、増えてる」
「時間経過分です!1時間に1DP、ちゃんと入ってます!」
時給1DP。
スーパーのポイントカードみたいな速度だが、それでも資金は資金だ。
「ちなみに時間経過DPはダンジョンが大きくなれば増えます。ただし、これだけでやっていけるかと言うと、まず無理です」
「維持費か?」
「維持費はかかりません!ただし、ダンジョンは成長が義務付けられています。現状維持は衰退と同義です」
「なんだそりゃ、株式会社みたいだな。株主がいるわけでも……」
いや、いるのか。
異世界まで連れてきて、俺にダンジョンマスターの役割を与えた誰かが。
ぽんこが満面の笑みを見せる。
その笑顔に裏は見えない、屈託のない表情に毒気が抜かれる。
「はあ。それで、なにをすればいい?」
「はい!最初はとてもシンプルです。支配域を少しずつ広げ、環境を整え、侵入者が来たときに備える。それが今の段階で必要なことです」
侵入者という言葉に、背筋が冷える。
「ではマスター」
ぽんこが指先で通路の先端――岩の壁を示す。
「まず必要な作業は、支配域の拡張です!」
「つまり、土木作業だな」
「はい!ダンジョンマスターのスタートはいつも土木からです!」
「なんて現実的なんだ」
「はい!まずは、支配域化。整形は無料です!マスターの意識でどうぞ!」
まずは、支配域化。
1m×2m×4mで2DP、これは1DP単位で調節できるらしい。
先ほどと同じ手順で支配域を広げる。
更に意識を向けると、もとの通路と合わせて緩くカーブする形になった。
とはいえ2mしかない通路なので本当に少しだが。
相変わらず振動も音もなく、まるで変更前と後を入れ替えているだけのような感覚だ。
「不思議だな。これは慣れが要る」
「慣れます!マスター適性高いです!」
ぽんこは嬉しそうに頷いた。
ここまで全肯定されると、逆に不安になる。
「次は光源だな」
「いえ!光源は不要です!」
「まぁ、別に2mの通路だ。光源なんてなくても困らないが、いいのか?」
「ふふふ、マスター。光苔を舐めてもらっちゃ困ります!」
光苔。
最初の通路に設置した光源だ。
「光苔は初心者向け最強光源です!安い、丈夫、低燃費、自然、たまに増える!」
「増える?」
「はい!光苔はダンジョン内部で独自の小さな生態系を形成する種類でして、湿気、岩肌の組成、ダンジョンのエーテル濃度などが条件を満たすと、光苔は自然繁殖します。ダンジョンの支配域に合わせて、勝手に広がるんです!」
「へぇ、自然物なんだな」
「そうです!生成ではなく自然生成扱いなので、DPがかかりません!これは色々な生き物に適用されます!」
「便利だな。初心者向けすぎる」
「はい!ぽんこも大好きです!」
その時、ぽんこのお団子がぴくりと動いた。
「生体反応!マスター!侵入者です!」
「侵入者!?」
カサ、カササ
通路の奥から、ネズミが一匹、チョロチョロと入ってきた。
「・・・もしかして、侵入者ってあれか?」
「はい!ダンジョンの魔力って、小動物さんの本能を乱しちゃうので。よく迷い込むんです」
いや、それにしても不思議なことがある。
「あのネズミ、どこから来たんだ?」
ぽんこは、まるで当然のことを説明するように小さく手を挙げた。
「はい。それについてはダンジョンの換気口が原因ですね!」
「換気口?俺、そんなの作った覚えないんだが」
「作ったのではなく、最初からあります!ダンジョン生成時に、最低限の環境維持機能として自動生成される仕様なんです!」
「いやちょっと待て。じゃあその換気口」
「はい!外界とつながってます!」
「出入口あるじゃねぇか」
「いえ!人間さんは通れません!空気と小動物さんだけ通れます!安全のために完全封鎖は窒息リスクがあるということで――」
「その安全基準のせいで侵入されてるんだが?」
「こ、これは想定内です!小動物さんレベルの侵入は環境ノイズとして扱われます!むしろ正常!正常です!」
ぽんこは胸を張る。
「なお、この換気口はダンジョンがある程度広がるまで閉じられません。初期ダンジョンへの小動物さん侵入はほぼ必須イベントですね!」
「ゲームのチュートリアルでスライムに襲われるくらいの勢いで出てくるのか、ネズミ」
「はい!ダンジョンが生きている証拠です!」
思いっきり声が裏返ってる。
「ちなみにマスター、ネズミさんまた来ますよ」
「そんな来るか?」
「ダンジョンの魔力で小動物さんの本能が乱れるので!迷っちゃうんです!」
「ダンジョン、公害じゃない?」
そう言っている間に、奥からまた足音がした。
カサッ、カササッ。
二匹のネズミが、迷うようにふらつきながら入ってくる。
「あ、二匹一緒に来ましたね!仲良し!」
「いや全然嬉しくないぞ」
「どうにか出来ないのか?」
「マスターが素手でネズミを捕獲して、殺害できるならどうにかなります」
無理だ。
「ぽんこにはできないのか」
「ぽんこは支援AIです!戦闘はできません!戦闘にはモンスターが必要です」
「戦闘って……ネズミだぞ」
「じゃあマスター退治してくださいよ」
「無理だ」
「なるほど!それではマスター、次のステップに進むしかありません!」
「次?」
「はい!次はモンスターの生成について学びます!」