ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜   作:土瓶サバ

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第32話 二度目の影

一階層のマップを眺めながら、俺は椅子の背にもたれた。

 

「今日も平和だな。……平和だといいなぁ」

 

口に出した途端、ぽんこの声が響く。

 

「マスター!警報です!」

 

だろうな。

 

視界の端に赤い表示。

 

探索者なら、警戒するようにじっくりと入ってくる。

でも、今回は違った。

 

「……嫌な感じだな」

「はい!嫌なやつです!」

 

ぽんこがマップを拡大する。

入口から迷わずすごいスピードで進んでくる。

見覚えがある奴だ。

 

「ぽんこ、正体」

「シャドウです!」

 

即答だった。

俺は喉が乾くのを感じつつ、軽く笑ってみせた。

 

「よし。用意したあれが刺さればいいが」

「刺さります!たぶん!」

「たぶんじゃ困るんだよな」

 

言い返したが、内心は不安だらけだ。

 

探索者ならまだ分かりやすい。

怖いのは怖いが、人間だから動きが読める気がする。

 

モンスターは、読みにくい。

 

ぽんこが映像を切り替える。

薄暗い通路、光苔がじんわり照らす床の上に、影が見える。

 

足音はない、息遣いもない、なのに、近づいてくる影だけが増えていく。

 

「数は?」

「ひーふーみー……二十。層が厚いです。間を空けずに来てます」

 

俺は地形を確認する。

一階層には、通路がきゅっと締まる場所とその前に少しだけ広い空間が作ってある。

逃げ道が少なく、自然に密集しやすい。

 

そこに――仕込みがある。

 

「誘導班、出す。見える距離だけ」

「ゴブリンさんたち、泣きそうです」

「ゴブリン、前より感情豊かになってないか」

「モンスターとはそういうものです」

「そういうものか」

 

画面越しに配置を動かし、数体のゴブリンを通路の角へ出す。

怖がりながらも顔を出した、その瞬間。

 

影が、すっと動いた。

水みたいに音もなく前へ滑る。

 

ゴブリンは声にならない悲鳴を漏らして引っ込んだ。

逃げる、逃げる、逃げる。

影が追う。

 

見てると可哀想になってきた。

 

「……釣れたな」

「誘導ライン、入りました!密度、上がってます!」

 

よし。

絞られた通路に、シャドウが押し込まれる。

 

俺は小さく息を吐いた。

 

「……よしよし。まとめて来い」

 

ぽんこが、作戦の号令をかける。

 

「今です!ヨワヨワビリビリゾーンに入りました!」

「よし」

 

俺はぽんこの気の抜ける言葉を無視してトリガーを押した。

 

【範囲雷撃罠(低)……起動】

 

――バチバチバチバチッ!

 

激しい閃光と、空気を切り裂いたみたいな音が細い通路に響きわたる。

天井と床の間を雷みたいな稲光が無数に走る。

 

見た目はとても強そうだ。

しかしこの罠は「低」、実際はスタンガン程度の威力しかない。

 

ちなみに「中」はDPの桁が違った。

 

バチバチバチッ!

 

だが、乾いた破裂が途切れない。

10秒、20秒、シャドウ達は連続でその雷撃をくらい続ける。

 

ぽんこと考えた作戦。

シャドウは回避特化、確実に攻撃を与えられれば、低威力でも倒せる。

だから回避も逃走もさせないために、数で埋め尽くす。

 

ついでに雷撃の光で影に対する属性有利を期待している。

これはシャドウ専用の罠、みるみるうちに数が減る。

 

「ぽんこ、状況!」

「生体反応、減少!効いてます!」

 

ぽんこの声が弾む。

俺はその明るさにつられて、ひとつだけ軽口を返した。

 

「よーし。いい子だ、そのまま消えろ」

「マスター、完全に悪役です!」

「悪役でも勝てば正義だ」

 

閉鎖空間の中で、シャドウが揺らぐ。

逃げようとしている奴もいる。

でも、逃げられない。

 

通路が狭い、後ろも詰まっている、押し返されるように、またまとまる。

 

「……読み通りだな」

 

俺は二段目に指を伸ばす。

最初から、こうなると思って仕込んでいた。

 

「第二陣、行くぞ」

 

【範囲雷撃罠:低】起動

――バチバチバチバチッ!

 

その数、一陣五十、二陣五十、合わせて百連発の範囲雷撃罠。

閃光が細い通路を連続で走り、敵を消していく。

 

シャドウの塊が、目に見えて小さくなる。

まばらになり、稲光の中に見える黒い影が減っていく。

 

「……終わった、か?」

「生命反応、ゼロです!」

 

ぽんこが明るく言う。

俺は肩の力を抜いて、椅子に座り直した。

手のひらが汗ばんでいる。

……かなりビビっていたらしい。

 

「マスター、顔色が悪いです」

「元から悪い。健康的な引きこもりを見たことあるか?」

「ないです!でもマスターはもうちょっと外の空気を――」

「今それ言うのか」

 

言い返した、その瞬間だった。

入口付近の画面が、勝手に切り替わる。

 

「えっ――?」

 

――バチバチバチバチッ!

また炸裂音。今度は俺は押してない。

 

【範囲雷撃罠:低】自動起動

【範囲雷撃罠:低】自動起動

【範囲雷撃罠:低】自動起動

 

入口近くに残しておいた予備が、五十連で勝手に起動する。

まるで、最後の最後に何かがそこを通ったみたいに。

 

「おい、ぽんこ。今の何だ」

「ログ確認します!」

 

ぽんこの瞳のリングが高速で回る。

画面の端に戦闘ログがずらっと流れ始めた。

俺は眉間を押さえる。

終わったと思ったところに、これは心臓に悪い。

 

「……いました!」

 

ぽんこの声が一段落ちる。

 

「シャドウ上位種『ダークミスト』です。存在反応を偽装して――撤退しようとしていたみたいです」

「上位種。漏らしたか」

「はい。最後の最後に、入口で引っかかりました!存在偽装は剥がせましたが、撃破には至っていません!」

 

入口付近の映像に一瞬ノイズが走り、黒い影が突如現れ入口から逃げていくのが見えた。

 

「くそっ。逃げられたか……!」

 

反応を偽装。

俺は乾いた笑いをひとつだけ漏らした。

 

「……ジャミングまで考えなきゃいかんのか」

 

やられた。

またもや、情報を持ち帰られた。

 

「マスター!撃退成功です!敵の目論見ごと叩き潰しました!」

 

ぽんこは嬉しそうにお団子を回す。

 

「そうか、そうだよな」

 

考えることはいくらでもあるが、今回生き残れたことは事実だ。

次に備えられるのも生存者の特権、やってやろうじゃないか。

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