ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜 作:土瓶サバ
次の日。
俺は地図UIを開く。
アウル村、イース、その周辺。
線と点でようやく形になった盤面。
「チュウタ」
『なに?』
「近場のダンジョン候補、まだ見つかりそうか?」
一瞬の間。
『……たぶんない』
短い返答だったが、それで十分だった。
「だよな」
ぽんこが続ける。
「街や村の話題から拾える範囲では、もうほとんど出てこないようです。候補は、かなり限られています」
見つかったダンジョンは少ない。
俺は地図を拡大する。
唯一確定しているダンジョン。
距離を確認する。
「……往復三十日」
「マスターの足で、ですね」
三十日。
短くはない。
「しかし、それよりも外側となると、遠すぎるな」
「はい。そこまで行くのは現実的に現実的じゃありません」
「なんだそりゃ」
近場は少ない、遠くは無理。
選択肢は、思ったより狭い。
俺は短く息を吐いた。
「このまま守ってるだけだと……」
「先に取られます」
ぽんこが、言葉を継いだ。
「誰かが先に倒せば、その分だけ管理権限とDPが増える。増えた側は、次の戦いでさらに有利になる。雪だるま式だな」
戦争序盤の今、一番怖いのは今強い奴じゃない。
先に勝ち始めた奴だ。
「……初勝利を取れないと、流れに置いていかれる」
「はい。ほぼ取り返せなくなります」
管理権限レベルが一つ違えば、状況はガラッと変わる。
今、管理権限レベルが俺よりも一少ないやつは、戦争がはじまっていることすら知らないのだ。
それを考えたら、後手に回った時の不利が嫌でもわかる。
「次の管理権限レベルアップ条件はダンジョンコア破壊×1。つまりここで、コアを壊した奴と、壊してない奴、それが二分される」
遠征。
その言葉が、自然と浮かぶ。
俺は地図から目を離さなかった。
「遠征は……賭けだ」
「はい」
「でも、勝たないと詰む」
言葉にした瞬間、判断は固まった。
「なら、賭けるしかない」
ぽんこが迷いなく頷く。
「今しかありません」
俺は戦力一覧をUIで確認する。
ここで重要なのは、何を攻めに回して、何を残すかだ。
「守りは、シルヴァさんに任せる」
ぽんこが即座に理解する。
「森での防衛ですね」
「そうだ。罠は露払いでいい。数を減らせれば十分だ」
侵入を完全に止める必要はない。
「シルヴァさんがいるなら、守りは成立する」
あの人が前線に立つ。
それだけで、ダンジョンの耐久は桁違いに強くなる。
「だから——」
俺は戦力一覧を指でなぞる。
「ゴブリン部隊は、全部攻めに回す」
ぽんこが一瞬だけ目を見開き、すぐに頷いた。
「了解です。守りを固定して、攻めに全振りですね」
「そうだ」
守りはシルヴァさん。
攻めはゴブリン部隊。
役割を分ける。
だから、この賭けは成立する。
「アニ隊、集合」
「オト隊、装備点検。軽装、速度優先」
「イモ隊、補給班として三十日想定でリスト作成」
俺の指示を即座にぽんこが通達する。
迷っている暇はない。
「チュウタ」
『なに?』
「分体を敵ダンジョン付近に集めろ。候補域の変化、出入り、全部拾え」
『わかった!群体集合!』
入口側の監視画面を最後に確認する。
今は静かだ。
だが、次は罠対策を持ってくる。
「シャドウのマスター相手は時間稼ぎで構わない」
「その間に、管理権限レベルアップとDPゲットですね!」
「そうだ」
俺は椅子から立ち上がった。
時間は味方じゃない。
「遅ればせながら、シャドウのマスターを見習うとしよう」
ぽんこが短く答える。
「はい!敵に学ぶ!かっこいいです!」
アニ隊の集合率が上がっていく。
オト隊が装備を整え、イモ隊が荷を積む。
チュウタの群体が、外へ散っていく。
「遠征だ」