ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜   作:土瓶サバ

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第39話 悪鬼

宴は、騒がしかった。

 

通路いっぱいに並んだゴブリン達が、好き勝手になにかを叩いて鳴らしている。

鍋もどきの鉄皿、石、骨。

とにかく音が鳴るもの全部だ。

 

酒はない。

あるのは、熱と汗と、土の匂い。

 

『勝ったぞ!』

『還ったぞ!』

『戦果だ!戦果!』

 

死んで還った連中はここにはいない。

だが、その不在ですら、祝いの形に組み込まれている。

生き残った二百が叫び、空の席が誇りとして残る。

 

ぽんこはゴブリンに混じって皿を叩きながら言う。

 

「宴です!宴ですよマスター!やっぱりやるべきでした!」

「お前が言い出したんだろ」

「そうです!先見の明です!」

 

チュウタは机の上で丸くなって、時々だけ『わぁ』と気の抜けた声を出す。

群体の損耗があったせいか、今日は少し大人しい。

 

俺は宴を横目に、通知ログを見ていた。

 

【DP獲得:+200,000】

 

この二十万。

今ここで、何に変えるか。

騒ぎの中で、俺は現実を考える。

 

守りは、形になった。

罠と森とシルヴァさん。

これは堅い守りだ。

 

でも、戦争は守るだけじゃ終わらない。

 

今回勝ったのは、奇策が刺さったからだ。

 

次も同じとは限らない。

戦況は進み、情報は増える。

次は成功しない確率の方が高い。

 

「……結局、戦争を勝ち抜くには攻めの戦力が要るな」

 

ぽんこが、ぱちっと切り替えた目で頷く。

 

「はい。幹部級の戦闘戦力は必須です」

 

宴の喧騒が遠くなる、頭の中でロジックを組み立てていく。

 

「今は攻める局面だ。守りはシルヴァさんがいる。なら、次は攻めの要が欲しい」

 

「マスター、珍しくまともです」

「褒めるな。お前に褒められると自信がなくなる」

 

俺はDP表示をもう一度見た。

 

「ぽんこ。攻め特化で、コスパがいいやつ。いないか。……シルヴァさんみたいな特化型」

 

ぽんこが、にやりとした。

 

「好きですねぇ、マスター……そんなマスターにおすすめな、ロマン兵器がいますよ」

「嫌な予感がする」

「いい予感です!」

 

ぽんこがメニューを開き、いくつかのモンスター候補が流れる。

 

だが、ぽんこは迷わず一つを選んだ。

選んだ瞬間、表示が赤くなる。

 

【生成:悪鬼】

【必要DP:200,000】

 

悪鬼(あっき)、名前もすごいが、DPもすごい。

 

「……全額?」

「全額です!」

 

即答だった。

 

「ちょっと待て。二十万を一体に全部――」

「今、攻めるなら一点突破が一番コスパがいいです。中途半端に分けると、全部が中途半端になります」

 

理屈は分かる、分かるのが腹立つ。

俺は宴を見た。

 

1800のゴブリンを犠牲に勝利を勝ち取った。

ならばこの20万、ゴブリンに委ねるか。

 

「おい、お前ら。お前らが取ってきたこの20万、悪鬼の生成に全部使っていいか?」

 

一瞬の沈黙。その直後、歓声が上がる。

 

『いけいけー!マスター!』

『悪鬼たぁ鬼種(おにしゅ)か!』

『弱かったら殴るぞー!』

『いや、強い方が殴りがいがある!』

『とにかく殴る!』

『俺らの戦果を全部突っ込むとは、さすがマスター!剛毅だぜ!』

 

ゴブリンたちは大盛況だ。

 

「……やるか」

「やりましょう!」

 

ぽんこが嬉しそうに、お団子を回す。

 

【生成:悪鬼】

 

その瞬間、宴の音が一瞬だけ遠のき、空気が変わった。

 

陣が、床に浮かぶ。

赤い光、熱。

 

森の湿り気とは違う、乾いた熱が立ち上る。

 

そこから、影が押し出されるように現れた。

 

薄紅色の肌。

上半身は裸。

線の細い身体にしっかりとついた筋肉、しかし無駄がない。

 

腕には古い傷の跡がいくつも走っている。

 

手には細かく鋭いトゲを持つ細めの金棒――というかあれ釘バットだな。

 

目が開く。

端正な顔立ち、しかし目つきが悪い。

悪すぎる。

 

「……チッ」

 

第一声が、それだった。

ぽんこが、平然と言う。

 

「生成成功です。悪鬼、です」

 

悪鬼は周囲を見回し、宴の喧騒に眉をひそめた。

ゴブリン達が歓声を上げる。

新しい強者の匂いを嗅ぎつけたみたいに、前に寄ろうとする。

 

「寄るな。潰すぞ」

 

だが、ゴブリン達は引かない。むしろ盛り上がる。

 

『潰せ!潰せ!』

『いいぞ!強いぞ!』

『殴られたら還れる!』

 

こいつらも大概だ。

悪鬼が舌打ちする。

その視線が、俺に向かう。

 

「……お前が(あるじ)か」

 

言葉が荒い、礼儀があるのか無いのか微妙な線。

ちょっと怖いが、目は逸らさない。

 

「そうだ」

 

俺が答えると、悪鬼は一歩だけ近づく。

 

「名を寄越せ」

 

ぽんこが横で「ほらほら」と催促するように頷いた。

俺は悪鬼を見上げた。

その目は、冷めているようにも、燃えているようにも見える。

 

「ラセツ。お前は、ラセツだ」

「……ラセツ」

「悪鬼ラセツ、安直ですが及第点です!」

 

噛むように繰り返し、悪鬼――ラセツが笑う。

笑い方が、どうにも凶悪だ。

 

「いい。悪くねぇ」

「気に入ったなら働け」

「言われなくても敵がいれば殴る」

「お前も殴りたがりかよ」

 

ぽんこが、淡々と続ける。

 

「では能力説明を――」

 

ラセツが、被せる。

 

「先に言っとく」

 

低く、はっきり。

 

「俺はこのダンジョンの中じゃ本気を出さねぇ」

 

ざわめきが一瞬、静かになる。

 

「昔な。俺ら鬼は、(あるじ)の領域の中で暴れて、守るもんを全部ぶっ壊した……だから決めた。中じゃ抑える。全力は外で出す。それが鬼の掟だ」

 

釘バット、もとい金棒を肩に乗せ直す。

 

「説明しますね。鬼種は自領域では出力制限が掛かります。およそ半分。仕様です」

「仕様じゃねぇ。信念だ」

 

「またの名を調整です。鬼種は非常に強力な能力を持ちますので管理AIによってナーフされました。」

「てめぇ、喧嘩売ってんなら買うぞ?コラ」

 

「鬼種は自領域で溜めたエネルギーを敵領域で一撃に込めて解放します。」

「溜めるのはエネルギーじゃねぇ、覚悟だ」

 

「打てるのは一発だけか?」

「『だけ』じゃねぇ。『一発で終わらせる』んだ」

 

「はは、確かにこりゃロマン兵器だな、気に入った」

 

ラセツが俺を見る。

 

「守りには使うな」

「分かってる」

「守りは守りの連中の仕事だ。俺が出るのは筋が違う」

 

言い切りだった。

 

「攻め専用だな」

「ああ。攻める時だけ呼べ」

「分かった。運用は単純だ。守りはシルヴァさん。攻めはラセツ。役割を混ぜない」

 

ラセツが、少しだけ顎をしゃくる。納得の仕草らしい。

 

「で、ラセツ。お前の一撃はいつ切る?」

(あるじ)が決めろ。俺は殴るだけだ」

「えらく素直だな」

(あるじ)に逆うようなダセぇことはしねぇ」

 

言い方は荒い。

だが、主従はわきまえているようだ。

 

俺はDP表示を見た、そこに二十万はもうない。

だが、外へ出る刃が増えた。

 

ぽんこが、地図UIを開く。

点がいくつも灯り、次の標的が黙って待っている。

 

「次の遠征、いつにします?」

 

宴の喧騒がまた耳に戻る。

ゴブリン達が叫び、叩き、笑っている。

 

いつのまにかラセツが混じって殴りあいになっている。

 

あ、一体ぶっ飛ばされた。

 

あいつらは、遠征なんて何でもないという顔をしていた。

俺は椅子の背を叩いて、立ち上がる。

 

「よし。今は早ければ早いほどいい。二日後には出発にする」

 

ぽんこが、ぱっと笑う。

 

「はい!第二ラウンドですね!」

 

ラセツが遠くから、笑った。

 

「外、行くんだろ!早くしようぜ!」

 

宴の音が一段大きくなる。

世界は点で見えるようになった。

 

なら、次はその点を潰して回るとしよう。

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