ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜 作:土瓶サバ
「さて、マスター。次のチュートリアルに進みましょう!モンスター生成です!」
「来たか」
「来ました!」
「ネズミ戦のために」
「ネズミ戦のためです!」
「どうなんだそれ」
ぽんこは胸に手を当て、少し真剣な顔をして言った。
「きっかけはネズミですが、実際ダンジョンにおけるモンスターは柱です。いなければいないで運営できますが、非常に厳しいです」
「柱、ね」
「はい!ダンジョンの柱と足場と外壁です!」
「多くないか役割」
「多いです!」
「正直だな」
ぽんこは一息つくと、胸の前で両手を揃え、きりっとした顔をしてみせる。
お団子が回転し、白銀の髪が揺れる。
「ではマスター。ここからはモンスター生成についてご説明します」
ぽんこの言葉とともにUIが表示される。
【モンスター生成】
・スライム:5DP
・コウモリ:30DP
・ゴブリン:100DP
・コボルト:200DP
・ゴーレム:400DP
「高いな」
「高いです」
「スライムで5DPってなんだよ。命の価値が重いのか軽いのか分からん」
「軽くはありません。モンスターはダンジョンの維持を助ける存在なので、生成にはどうしてもDPを消費します」
「なるほどな。人件費みたいなもんか」
「人件費です」
「生成って、こいつらを生み出してダンジョンで働かせるってことだよな」
「働かせるという表現は正確ではありません。彼らは迷宮環境に適応した生命存在です。環境を安定させたり、侵入者に反応したり、支配域の自然維持を助ける存在です」
「働いてるようにしか聞こえないんだが」
「そうですね、まず生成したモンスターは死亡しても存在は消えません。ダンジョンに還り、またダンジョンから生まれます。」
「リスポーンか」
「はい、その際にコストはかかりません。自然発生したエーテルを吸収し、再生成されます。」
「なるほど、同じモンスターは複数買えるのか?」
「はい、スライム百体買えば常にスライム百体がいるダンジョンになります。再生成時間を除けばですが。」
「で、どれを選べばいいんだ。スライム以外は論外だろ、この残高じゃ」
「はい!初心者はスライムからです!」
とはいえ、今の残高ではスライムすら買えない。
俺は残りDPを確認する。
【残DP:5】
おっと、話している内にさらに1時間が経過したらしい。
ちょうどいい、これでスライムが生成できる。
「よし、それじゃスライムを生成だな」
生成を意識すると、DPが消える感覚が胸の奥に広がる。
【5DP消費→残DP:0】
貧乏貧乏とは思っていたが
とうとう無一文だ。
「はい!スライム生成完了です!」
通路の中央に、ぷるっとした透明のかたまりが盛り上がった。
瑞々しい半球、内部で光がゆらめき、ゼリーみたいに震えている。
「かわいいな?」
「かわいいです!!」
ぽんこが胸を張る。
スライムはふるふる揺れながら、俺の足元に近づいて――ぴょん、と跳ねて逃げた。
「おい、逃げたぞ?」
「はい!初心者スライムさんは警戒心が強いので、まず逃げます!」
「働かないのか」
「働きます!ただし慣れるまでは逃げます!」
「慣れるまでは、ね……」
スライムは通路の影のほうで、小刻みに震えてこちらを見ていた。完全にビビっている。透明なくせに表情まで読み取れるのはなんなんだ。
「じゃあ、戦力として数えていいのか?」
「ネズミさん相手なら勝てます!」
「それ最低ラインすぎるだろ」
「ですが、スライムさんはダンジョンの維持に重要です。不純物の処理、動物の処理、廃棄物の処理など……」
「処理?」
「食べます!」
「食べるのか」
「はい!ダンジョンにはゴミ捨て場はありませんからね。誰かが処理しないと不衛生です」
うーん、まぁ確かにそうか。
そんな話をしていると、通路の奥で影が動いた。
チョロチョロ。
「あっ。ネズミさんです!」
「お、今日の主役だな」
その姿に即座にスライムが反応した。ぷるん、と身体を震わせ――
逃げた。
「逃げんな」
「いえ!スライムさんは基本、逃げます!ただし、逃げながら弱いものだけ襲うんです!」
「スライムさん、性格悪くない?」
「生存戦略です!」
ネズミが通路を走り抜け、スライムは逆方向にゆっくり後退する。
逃げているようで、じわじわ位置を調整している。
「なんか、狩りの構えに見えてきたぞ」
「はい!これがスライムさんの必殺捕食サークルです!」
スライムは通路の角に追い詰められつつも、ネズミが射程に入ると。
ぱしゅっ。
伸びたスライムの一部が、ネズミの背に張り付いた。
「お、捕まえた」
「はい!スライムさんは吸着が得意です!」
ネズミは暴れたが、スライムの体がじわじわ覆い、やがて動きが止まる。
ウィンドウが浮いた。
【獲得DP:1】
【残DP:1】
「マスター!初殺害DP獲得おめでとうございます!」
「いいのかこれ。ネズミで初DPって」
「初期はみんなそうですよ!健全です!」
「健全の基準が特殊すぎる」
「で、DPは理解した、モンスターは他に何を得る?経験値とかあるのか?」
「あります!モンスターさんが勝利経験を積むと、成長します!」
「レベルアップ的な?」
「レベルという概念はありませんが、強くなると理解して問題ありません!」
「ざっくりしてんな」
「真面目に説明しましょうか?生物が死ぬと空間中に分離化エーテルが放出されます、そのエーテルの一部はエーテル力学第三法則に則り、倒した生き物の体内に定着し、体組成エーテルの――」
「悪かった、やめろ」
スライムは捕食を終えて、満足そうにぷるんと揺れた。
「よし!ネズミ退治はお前の仕事だ、見つけ次第狩れ」
わかったのか、わかってないのか、スライムは相変わらずぷるぷる震えている。
そのときだった。
通路の奥から、乾いたパキッという音が響いた。
何かが割れたような、岩盤が押し広げられたような、不自然に硬い音。
「今の、何だ?」
「環境音ではありません。えっと。ダンジョン外殻に圧がかかっています」
「圧?」
「はい。ダンジョン外に何かが接触したか、中から外へ負荷が向いているか」
ぽんこが耳の横の小さなお団子を揺らしながら、周辺の反応を走査する。
「簡単に言うと――」
「言うと?」
「このダンジョン、入口ができようとしてるかも、しれません」
胸の奥がじわりと冷える。
外の世界なんてまだ知らないし、誰がいるのかも分からない。
ぽんこのお団子がゆっくりと回る。
「マスター。次のチュートリアルは、どうやら外界になるかもしれません」
まるで、世界の方からこちらに迫ってくるみたいに。
壁の奥から、ひび割れのような細い光が滲み始めていた。