ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜   作:土瓶サバ

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第40話 威致解鬼

【side:アニ】

 

遠征五日目。

 

侵攻したダンジョンの半ばで、アニは一度だけ周囲を見回した。

 

ここまでは順調だった。

入り口は前回同様、無警戒。

罠も人間を想定しているであろう、簡単なもの。

まばらにモンスターも出てきたが特に問題なく対処できた。

 

とはいえ、前回ほど簡単にいくとも思えなかった。

動きに焦りを感じない。

戦争を知っているか、即座に対応する器があるか。

前回の相手より、確実に強敵だ。

 

『……来るな』

 

そう思った瞬間、通路の奥が揺れた。

出てきたのは一体ではない。

オーガが三。

前回ダンジョンの要であった、オーガ。

それが三体。

 

さらにその背後、鎧を纏った個体。

見た目はオーガのようだが、多分上位種だろう。

本気で潰しに来た、おそらくこのダンジョンの最高戦力。

 

前線が一瞬、ざわつく。

数で押すだけでは絶対に勝てない相手。

 

アニは自然に一歩、前へ出かけ――

そこで、止まった。

 

もう、前に立っている奴がいたからだ。

上半身裸の、赤い背中。

金棒を肩に引っかけ、だらしなく立っている。

 

ラセツだ。

 

『……あ?』

 

いつの間に出た。

命令は出していない。

合図もない。

だが、ラセツは当然のようにそこにいた。

 

オーガが吠える。

アニ隊が、陣形を組もうとする。

 

その前に、ラセツが一歩踏み出した。

 

踏み込みは速くない。

むしろ、雑だ。

 

だが、最初の一撃で先頭のオーガが吹き飛んだ。

衝撃が通路を震わせ、後続が一瞬、足を止める。

 

ラセツは止まらない。

二体目。

横薙ぎ。

防御姿勢に入る前に、折れ曲がり吹き飛ぶ。

 

三体目が吠え、武器を振り上げ、振り下ろす前に地面に叩きつけられる。

 

戦っていない。

 

アニは、そう理解した。

これは戦闘じゃない。

処理だ。

 

ゴブリンから歓声が上がるが、すぐに黙る。

 

鎧をまとった一回り大きなオーガが動いたからだ。

 

アニの足が、反射で動きかける。

止めなきゃいけない。

俺が前に立つべきだ。

 

――だが。

その瞬間、アニは理解した。

ここは俺の場所じゃない。

 

アニは一歩、下がった。

前に出る代わりに、声を張る。

 

『ラセツ!例のやつ、いけるか?』

「おう」

 

ラセツが金棒を構える。

 

『チュウタ、マスターに解放許可を!』

『わかった』

 

一瞬の後。

 

『許可でた』

 

「よし!」

 

ラセツは笑顔で答え、

次の瞬間、金棒を振り下ろす。

 

【悪鬼固有スキル:蓄積解放「威致解鬼(いちげき)」】

 

その瞬間、世界が揺れた。

衝撃が通路を裂き、岩盤ごと消え落ちる。

 

オーガ上位種と見られるモンスターは、はじめから存在しなかったみたいにいなくなっていた。

 

つまり、道が開いた。

 

その隙間を、オト隊が影のように進む。

その後を何でもないように、ラセツが追う。

 

アニは、その背中を見て思った。

こいつはただの兵隊じゃない。

 

兵器だ。

 

前回あれだけ苦戦した、オーガ。

更にそれより格上と見られる上位種。

それが、まるで相手にならなかった。

 

奴はこれまでの常識を覆す、新しいステージのモンスターだ。

 

やがて、奥で何かが終わった気配がし、空気が変わる。

 

勝った。

 

アニは、静かに息を吐く。

 

『……次も、こうなるな』

 

誰に言うでもなく、アニは呟いた。

 

前に立つだけが、俺の役目じゃない。

ラセツとは役割が違う。

あいつには敵わない。

 

それが、悔しくないと言ったら嘘になる。

 

アニは、拳を握った。

それでも、俺は俺の役割を全うする。

ゴブリンの誇りにかけて。

 

通路の奥で、ラセツが笑った。

 

「外、楽しいな」

 

短く、乱暴に。

 

その声を聞いて、アニの口元がわずかに緩む

悪い奴ではない。

 

そして。

この戦争は――

思ったより、早く終わるかもしれない。

 

報告が終わったチュウタから帰還命令が下る。

 

『全員帰還。勝ちすぎだからしばらく休みだって』

 

アニはそれを聞いて、少しだけ笑った。

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