ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜 作:土瓶サバ
【side:アニ】
遠征五日目。
侵攻したダンジョンの半ばで、アニは一度だけ周囲を見回した。
ここまでは順調だった。
入り口は前回同様、無警戒。
罠も人間を想定しているであろう、簡単なもの。
まばらにモンスターも出てきたが特に問題なく対処できた。
とはいえ、前回ほど簡単にいくとも思えなかった。
動きに焦りを感じない。
戦争を知っているか、即座に対応する器があるか。
前回の相手より、確実に強敵だ。
『……来るな』
そう思った瞬間、通路の奥が揺れた。
出てきたのは一体ではない。
オーガが三。
前回ダンジョンの要であった、オーガ。
それが三体。
さらにその背後、鎧を纏った個体。
見た目はオーガのようだが、多分上位種だろう。
本気で潰しに来た、おそらくこのダンジョンの最高戦力。
前線が一瞬、ざわつく。
数で押すだけでは絶対に勝てない相手。
アニは自然に一歩、前へ出かけ――
そこで、止まった。
もう、前に立っている奴がいたからだ。
上半身裸の、赤い背中。
金棒を肩に引っかけ、だらしなく立っている。
ラセツだ。
『……あ?』
いつの間に出た。
命令は出していない。
合図もない。
だが、ラセツは当然のようにそこにいた。
オーガが吠える。
アニ隊が、陣形を組もうとする。
その前に、ラセツが一歩踏み出した。
踏み込みは速くない。
むしろ、雑だ。
だが、最初の一撃で先頭のオーガが吹き飛んだ。
衝撃が通路を震わせ、後続が一瞬、足を止める。
ラセツは止まらない。
二体目。
横薙ぎ。
防御姿勢に入る前に、折れ曲がり吹き飛ぶ。
三体目が吠え、武器を振り上げ、振り下ろす前に地面に叩きつけられる。
戦っていない。
アニは、そう理解した。
これは戦闘じゃない。
処理だ。
ゴブリンから歓声が上がるが、すぐに黙る。
鎧をまとった一回り大きなオーガが動いたからだ。
アニの足が、反射で動きかける。
止めなきゃいけない。
俺が前に立つべきだ。
――だが。
その瞬間、アニは理解した。
ここは俺の場所じゃない。
アニは一歩、下がった。
前に出る代わりに、声を張る。
『ラセツ!例のやつ、いけるか?』
「おう」
ラセツが金棒を構える。
『チュウタ、マスターに解放許可を!』
『わかった』
一瞬の後。
『許可でた』
「よし!」
ラセツは笑顔で答え、
次の瞬間、金棒を振り下ろす。
【悪鬼固有スキル:蓄積解放「
その瞬間、世界が揺れた。
衝撃が通路を裂き、岩盤ごと消え落ちる。
オーガ上位種と見られるモンスターは、はじめから存在しなかったみたいにいなくなっていた。
つまり、道が開いた。
その隙間を、オト隊が影のように進む。
その後を何でもないように、ラセツが追う。
アニは、その背中を見て思った。
こいつはただの兵隊じゃない。
兵器だ。
前回あれだけ苦戦した、オーガ。
更にそれより格上と見られる上位種。
それが、まるで相手にならなかった。
奴はこれまでの常識を覆す、新しいステージのモンスターだ。
やがて、奥で何かが終わった気配がし、空気が変わる。
勝った。
アニは、静かに息を吐く。
『……次も、こうなるな』
誰に言うでもなく、アニは呟いた。
前に立つだけが、俺の役目じゃない。
ラセツとは役割が違う。
あいつには敵わない。
それが、悔しくないと言ったら嘘になる。
アニは、拳を握った。
それでも、俺は俺の役割を全うする。
ゴブリンの誇りにかけて。
通路の奥で、ラセツが笑った。
「外、楽しいな」
短く、乱暴に。
その声を聞いて、アニの口元がわずかに緩む
悪い奴ではない。
そして。
この戦争は――
思ったより、早く終わるかもしれない。
報告が終わったチュウタから帰還命令が下る。
『全員帰還。勝ちすぎだからしばらく休みだって』
アニはそれを聞いて、少しだけ笑った。