ダンジョンマスターは世界の下請管理職 〜剣と魔法かと思ったら、スペースコロニーとディストピアだったので配下を育てて乗っ取ります〜   作:土瓶サバ

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第42話 食堂

遠征明けのダンジョンは、静かだった。

罠の補修は終わり、通路の掃除も一段落している。

ゴブリン達はそれぞれの持ち場に戻り、騒ぐ声はない。

 

落ち着いた空気だ。

 

俺は森に置いた専用の椅子に腰を掛け、周囲を眺めていた。

 

ゴブリン達が戦闘訓練をしている。

アニは前線寄りの通路に立っている。

だが、先頭ではない。

一歩、後ろ。

全体を見渡せる位置。

 

前回の遠征で、何かあったらしい。

まぁ大体想像はつく。

 

視線の置き方が違う。

敵を見る目じゃない。

全体の動きを追っている。

 

『そっち、間が空きすぎだ』

『詰めろ。焦るな』

『……よし、それでいい』

 

短く、的確。

命令というより、調整だ。

 

ラセツは通路の中央に腰を下ろし、壁に背を預けている。

上半身裸、金棒を横に置いたまま。

落ち着きはないが、苛立ってもいない。

森領域の方をちらりと見て、すぐ視線を戻す。

 

ぽんこが横で作業ウィンドウを閉じた。

 

「一通り、落ち着きましたね」

「ああ」

 

俺は返事をしながら、もう一度アニを見る。

少しだけ、肩に力が入っている。

 

……しょうがない。

俺は椅子から立ち上がった。

 

「アニ」

 

呼ぶと、すぐに振り返る。

反応が早い。

 

「飯でも行こうぜ」

『……は?』

 

完全に虚を突かれた顔だった。

 

「朝からずっとだ、腹減ってるだろ」

 

アニは一瞬、言葉を探す。

通路の奥、ラセツ、ゴブリン達。

それから、俺。

 

『……俺、まだやること――』

「後でいい」

 

被せる。

 

「今じゃなくていい」

 

アニは黙った。

少しだけ視線を落とし、やがて短く頷く。

 

『……行く』

 

ぽんこが、ぱっと顔を上げる。

 

「食堂ですね!」

「そうだ」

 

半年前までゴブリンが雑草を奪い合っていた我がダンジョンだが、今では食堂すら備えている。

 

ダンジョンの食堂は、通路を少し広げただけの簡素な場所。

壁際に長い石の机、等間隔に生えてる石の椅子。

 

今日の飯は、煮込みだった。

根菜と肉の塊を、でかい鍋でぐつぐつ煮ただけのもの。

 

野菜や穀物は森でいくらでも取れる。

肉類はDPで生成している、小動物が生成できるようになったので、肉用に大量に生成したら、肉だけで生成できるようになった。

 

この肉は大変コスパがいい。

小動物は森に離してゴブリン達の狩りの相手とおやつになっている。

 

『お、マスターだ!』

『アニも来たぞ!』

 

ゴブリン達が声を上げるが、すぐに落ち着く。

 

俺とアニは並んで座る。

無言で、器を受け取る。

しばらく、音は食べる音だけだった。

アニが、ぽつりと言う。

 

『……前より、見えるものが多い』

「そうか」

『前に立ってた時は、前しか見てなかった。今は……全体が見える』

 

言葉は少ない。

だが、整理されている。

 

「悪くないだろ」

『……悪くねぇ』

 

少し間を置いて、アニが続ける。

 

『ラセツ、あいつは強い』

「そうだな」

『俺が前に出ても、あいつほどは戦えない。でも……』

 

俺の目を見て言う。

 

『前に出ないやり方もある、それで役に立つ自信もある』

 

そこで、少し言葉が詰まる。

 

『……だがな。マスターから見たら、俺はただのゴブリンだ。だったら、俺を下げて、ラセツに全部任せる判断の方が――普通じゃねぇかって思った』

 

器を持つ手が、わずかに止まる。

 

『次の遠征、俺はどうしたらいい』

 

俺は、すぐには答えなかった。

一口、煮込みを口に運ぶ。

アニの目を見る。

 

熱い目だ。

悪くない。

 

「降ろす気はない」

 

はっきり言う。

 

アニが顔を上げる。

 

「お前は人の上に立つ才能がある。それはラセツにも負けていない」

 

アニは黙って聞いている。

 

「ラセツは強い。だから前に出す。でもそれを扱うのはお前だ」

 

俺は畳み掛ける。

 

「ラセツが好き勝手できるように場を整えろ、でも好き勝手させるな。ゴブリン達の面倒も見ろ。全部できないなら降ろす」

 

少しして、アニが息を吐いた。

 

『……分かった』

 

腹に落ちた声だった。

 

野心に燃えたギラギラとした目、軽く上がった口角。

いつものアニが戻っていた。

 

少し離れた席から、ラセツがこちらを見ている。

口いっぱいに飯を詰め込みながら。

 

「俺の話か」

『お前の話でもある』

 

「ふん」

 

ラセツは鼻を鳴らす。

 

「壊すのは俺、整えるのはお前、分かりやすくていい」

『……当たり前だ』

 

アニの声が、少しだけ柔らいだ。

ぽんこが満足そうに頷く。

 

「いい食卓ですね」

「黙って食え」

 

笑い声は小さい。

だが、空気は軽い。

 

俺は器を置き、立ち上がる。

 

「食ったら休め」

「次も忙しくなる」

『ああ』

 

アニは、しっかり頷いた。

ダンジョンの奥から、森のざわめきが聞こえる。

ゴブリン達の声が、低く混じる。

静かだ。

だが、確実に前に進んでいる。

俺はそう感じながら、食堂を後にした。

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